第二部 戦闘潮流
深夜、アーモンド形の月が世界を照らしている。とっくに人々は寝静まっている時間帯だが、 その部屋からは絶える事無く男女の話し声が聞こえてくる。 「本当にアナタって色んな事を知ってるのねッ!凄いわぁ」 女の賞賛に対し、男は長く生きているからなと言葉を返す。2人は古代の神々が使うような 広々とした寝台に肘をついて寝転がり、時たま口に果物を運びながら言葉を交わした。 「ねぇ、また明日もお話を聞かせてくれる?」 手のひらに乗せた葡萄をくるくると回しながら、女が男に尋ねる。断ってもきっと来るのだろうと思いながら男は答えた。 「喜んで」 その言葉を聞くとスージーQはくるりとした愛らしい瞳を輝かせ、目の前の男エシディシに礼を述べた。 最近ジョセフは面白くない。それは彼の妻スージーに原因がある。ココの所彼女は 毎日の様にエシディシの元へと通っていた。何故この様な事になったのか彼にはわからない。 そもそもスージーはエシディシの事を嫌っていたはずだ。自分の体を乗っ取り、そして 爆発させようとした相手なのだから。だいたい2人で何をしているのか・・・ 気になって気になって精神衛生上よろしくないので、ジョセフは思い切ってスージーに尋ねてみる事にした。 「なぁ、愛しのスージー」 「なぁに、ダーリン?」 「最近お前、鼻ピアスと何をしてるのよッ。教えてくれない?」 出来る限り冷静に、優しくジョセフはスージーに問いかけた。彼の視線の先では、 スージーが忙しそうに洗濯物を畳んでいる。 「あら、言ってなかったかしら?2人でお喋りをしているの。彼って本当に面白い人なのよ! 世界中の不思議なお話や遺跡について教えてくれるの。そうそうそれにねっ、読書家なのよ!」 熱に浮かされた様にスージーが喋りだした。彼女は少々お喋りな方ではあるが、 どんな時でも手を動かし、仕事をこなす人間だ。だが、今はどうだろう。洗濯物を畳む手は止まり エシディシについて熱弁を振るっている。ああ、これは異常事態だとジョセフは感じ、 彼のセクシーな口元は引きつった。 「そーかそーか!楽しそうだな。年寄りだから色んな事を知ってるんだ。若さと格好良さしかないオレも、 お前に色んな話を聞かせてやれるぜッ」 「本当ッ!ありがとう。私、自分から色んな事を話すのも好きだけど、人から楽しいお話を聞く方がもっと好きなの!」 太陽が輝く様にスージーは笑うと、ガバっとジョセフに抱きついた。 「今日の晩、たくさん面白い話を聞かせてやるからな!楽しみにしてろよ」 彼女の額にキスを落としジョセフが言う。なんと自分の妻の愛らしい事か。 これでエシディシのヤツからスージーを引き離せると喜んでいると、申し訳なさそうな声が聞こえてきた。 「あのね・・・JOJO。今晩はもう彼と会うって約束しちゃったの。御免なさい」 軽く眉間に皴を寄せながらスージーが言う。 「だから・・・明日ね」 ジョセフの中で何かが切れた。 「っ!何でだよッ、おかしいぜ!?大体お前はオレの妻なのに、何で男と話すんだッ! ああっ、じゃなくて!男と話すのはいいんだが、夜中に会うなんて普通じゃあないッ! 最近のお前は変だ!」 彼女の両肩を掴みガクガクと揺さぶりながらジョセフが言う。 「トモコ」 「え」 冷たい声が響いた。思考が止まる。 「お仕事終わらせなくっちゃ。じゃあね」 働く事を放棄した頭に、ぱたぱたと走り去る音が進入してきた。 ジョセフは固まった表情のまま頭に手をやり、ストンと椅子に腰掛けた。 「オレって・・・馬鹿だぁ」 1人きりの部屋に虚しく声が吸収された。 ぱらぱらと紙をめくる音が聞こえる。エシディシは2000年の眠りから目覚めてというもの、 暇さえあれば読書をしていた。どうせ日中は活動できない。カーズは怪しい発明をしているか、 『アレ』以来リサリサの玩具になっている。ワムウはジョセフ、シーザーの組み手相手で忙しい。 そして自分は『積極的』に引篭もり、ひたすら本を読む。2000年前も下等生物(にんげん)にしては 面白い考えを持ち、書を記した者がいたが、眠っていた間もなかなか賢い者はいたらしい・・・ ふとページをめくる手を止め、エシディシはスージーの事を考えた。最初は会うたびに強張った 表情を見せ、まるで彼の存在など無かったかの様に振舞った彼女。だがある時、 何となくクレオパトラはどの様な女性だったのかという話を聞かせてやったら、 スージーの態度が変わった。今でもその時の事を覚えている。 『まあ!それなら、よく小説の挿絵にあるような黒髪で東洋的な人ではなかったのね!』 『ああ。実際は亜麻色の髪で、ギリシャ風の女性だったらしい。リアルタイムで聞いたわけではないが』 『充分よっ。今の人達から聞くのと、昔を知る人に聞くのとでは全然正確さが違うわ!』 『そうか・・・』 エシディシの顔に笑みが零れる。あの時のスージーの実に生き生きとしていた事! 目をキラキラと輝かせ、心底興味深そうに自分の話を聞いてくれた。 だから、彼女がまた話を聞かせてくれるかと言ってきた時も、断ろうとは思わなかった。 今ではスージーに世界中の不思議な物語を話して聞かせるのが、彼の密かな楽しみとなっていた。 さて、読書を再開しようかとエシディシが思っていると、コンコンと扉を叩く音がした。 「どうぞ」 ぎぃっと扉が開く。 「今晩はっ」 「今晩は、スージー」 仕事中とは違い、彼女は髪を下ろし、長めのふんわりとした夜着でエシディシの元を訪れる。 ただそれだけの変化なのに、日中とは随分と雰囲気が変わる。すっと彼女が傍らにやって来た。 エシディシは場所を空け、隣に座るようスージーを促す。 「読書中だった?」 「ああ、でも何時も読んでるからな」 スージーが彼の手元を覗いてくる。 「また難しそうなご本を読んでいるのね。コレは何語?」 「難しくはないが・・・梵語だ。昔インドで使われていた言語だ」 ふーんと言いながらスージーがページ上に指を滑らせる。さらりとした金髪がエシディシの肩に触れる。 「どんな内容なの?」 小首を傾げ、相変わらず瞳を輝かせながら訊いてくる。 「性典だ」 事も無げにエシディシは答えた。スージーは彼の言葉を頭の中で反芻し・・・固まった。 そして顔を朱に染め上げると、本当に色んなジャンルを読むのねと言い、ベッドに突っ伏した。 そんな彼女の様子を面白そうに見ながらエシディシはしなくとも良い解説を丁寧にしていった。 「『カーマ・スートラ』と言って、インド3大性典の1つだ」 未だ突っ伏している彼女に彼の声は聞こえているのか。 「・・・とまあ、7章に分かれているのだが、特に2章は先程も言った様に赤裸々な内容で有名だ。 ちなみにお前の場合は『人妻』だから」 「5章なわけね」 突然スージーが口を挟んだ。ちゃんと聞いていたのかと、エシディシは顔がにやけるのを意識した。 「そう、婦女誘惑の方法が載っている章だ。何なら実践してみようか?」 おどけた感じで彼はスージーに言った。 「結構よ」 苦笑しながら答えつつ、彼女は顔を上げた。 「でも・・・それも良いかもね」 夜に咲く花のようだった。 今度はエシディシが驚く番だった。彼女はジョセフ一筋ではなかったのか。 「実践する必要も無いかも・・・私にはその気があるから。後はアナタしだいね」 ふとスージーから視線を外し、エシディシは豪奢な容器の中から赤い実を取り出した。 パリッと外皮を剥き、白色の美しい実を取り出す。 「据え膳食わぬは男の恥・・・か」 果実を口に運ぶ。 「妖しい・・・」 「ん?」 「食べ方が妖しいの」 寝台の上に寝そべりながらスージーが言う。 「美味しい?」 「冷え過ぎて甘みが分かり難い。だから・・・」 エシディシがスージーの上に伸し掛かる。JOJOよりも少し重たいが、心地良いと彼女は感じた。 額に、瞼に、唇にキスを落とされる。何だかそこから毒が回っていく様だった。 「だから?」 「オレは中国の書をよく読む」 「知ってる」 「その中にはこの実、『ライチ』に関するものもあった」 エシディシの手がスージーの衣にかかり、リボンを解いていく。滑らかな肌が夜気に晒される。 「ライチは人肌の温度で最も甘みが引き立つ。故に中国の皇帝達は、踊り子の陰(ほと)に ライチを仕舞わせ、喉が渇くとそれを食した・・・」 彼は容器から実を取り出すと、するすると剥いていった。その後完全にスージーの夜着を取り除くと、 足を開かせた。 「っ!待って・・・恥ずかしいわッ」 「オレしか見ていない。気にするな」 「気にするわよ!・・・ひぁっ」 スージーが声を上げる。エシディシは果汁の付いた指先で彼女の陰部を撫でていた。 そしてゆっくりと秘所へ中指を進入させる。既にそこは潤っていた。 「オレの話を聞いて、興奮したのか?」 クスクスと笑いながらエシディシが尋ねる。いったいどんな反応を見せてくれるのかと楽しみにしていると、 濡れ場には相応しくない、元気な声が聞こえてきた。 「そうよっ、興奮したわよ!悪い?」 膨れっ面になりながらスージーが答える。その様子があまりにも可笑しく、可愛らしいものだったから エシディシは思わず吹き出してしまった。 「くくっ・・・!お前って最高だぜ!」 肩を震わせながら、スージーの秘所から指を抜き取ると、剥いておいたライチを一粒取り、 彼女の膣内へと埋め込んでいった。クプリと音がする。 「はぁん!」 ひんやりとした果実が体内に入っていく。 「まだまだあるぞ」 エシディシはさらに1つ、また1つとライチを彼女の中に入れていく。 「あぁ・・・」 切なげな声を上げ、スージーが身を捩る。彼女の体内が圧迫される・・・ 「これくらいで良いか。出すなよ」 5つほどライチを埋め込むと、彼はスージーから離れ衣を脱ぎだした。普段も露出度は高いが、 今や完璧な肉体が惜し気もなく晒される。スージーはとろんとした顔でエシディシを見つめていた。 ああ、この人は何でこんなに『妖しい』のだろうか。 「アナタって無駄にセクシーだわ・・・」 「そうか?」 再びエシディシが伸し掛かってくる。弾みでライチが飛び出しそうになったが、 スージーは膣口に力を入れ耐えた。しっとりとした唇がスージーの唇を塞ぐ。ライチの味がした。甘い。 「ふぅあ・・・」 エシディシの舌が、軟体動物の様にスージーの口腔を蠢く。ただキスをしているだけなのに気持ちが良く、 自分の秘所から愛液が溢れ出すのを彼女は感じた。堪らずスージーは彼の首に腕を回した。 それを合図にエシディシは右手でスージーの胸を揉みしだき始めた。やんわりと揉み、たまに乳輪をそっと撫でる。 「!!」 突然キスの仕方が変わった。舌先を尖らせ、互いの口腔を行き来するようなキスをしてくる。 これではまるで・・・スージーは恥ずかしさから顔を赤らめ、そしてちょっと小言を言ってやりたかったが、 気持ち良さの方が勝ってしまいその思いは叶わなかった。このままだと本当にキスだけで 達してしまいそうだと考えていると、エシディシがキスを止めそろそろいいかと言った。 「そろそろ・・・?」 呼吸をし易くなった口が寂しい。 「ああ、ライチの事さ」 エシディシが指先を下腹部へと滑らせ、そして秘所で止めた。手を何かを受け止めるような形にする。 「出せ」 「あ、でもっ・・・恥ずかしいわ」 入れられた時は、異物を埋め込まれるという興奮からスージーは羞恥心を感じなかった。 だが『出す』という行為は何故こんなにも恥ずかしいのだろう。 「少し下腹部に力を込めるだけだ。子供を産むのよりも簡単だぜ」 「でもぉ・・・」 やはりスージーは出そうとしなかった。そんな彼女をまあ仕方ないかと考え、エシディシはスージーの胸に手を伸ばし、 強めに乳首へ刺激を与えた。 「あッ!」 初めての強い刺激にスージーは思わず下腹に力を込めてしまった。ピュルリと白色の果実が、 ピンク色の肉壁を割り飛び出す。何処か白っぽい愛液に濡れるそれをエシディシは摘むと、 彼女に見せ付けるように妖しく舌で舐め上げ、口に放り込んだ。シャクリと咀嚼する音が部屋に響く。 「美味い」 種を吐き出し、次の実を出すよう促してくる。 「一度やったんだ。次はもう大丈夫だろう?」 唇を舌なめずりしながらエシディシが言ってくる。あの唇が欲しい・・・スージーはまだ恥ずかしかったが、 エシディシに対する欲求から、彼の要望を叶える事にした。 「あまり・・・見ないでよ」 膣内に圧力をかける。 「1つずつ出せよ」 何処か遠くで彼の声を聞きながら、ポトリと次の果実を出した。 数分もすると、ライチは残り1つとなっていた。その頃には、果実を出す際の刺激さえ、 スージーの快楽を呼び起こす様になっていた。あと1つ・・・目を閉じながら、彼女はライチを出そうとした。 奥にあるからなかなか出ない。 「もっと力を込めるんだ」 優しくエシディシが言う。 「あ・・・あぁ!」 声と共に最後のライチが飛び出した。 「よく出来ました」 笑いながら実を取る。愛液とライチの果汁によって、シーツには染みが出来ていた。 「食べないの・・・?」 エシディシはライチを口に運ぼうとしない。頑張ったのに・・・スージーが奇妙な快感に霞む頭で そんな事を考えていると、エシディシがライチを彼女の口元に持ってきた。 「最後はお前が・・・」 通常の状態ならば、何が何でも拒んだだろう。誰が好き好んで自らの愛液に塗れたものを口にするのか・・・ しかし、この男から与えられる全てが欲しいと感じていたスージーは、無言でそれに噛み付いた。 クチュっと音をさせながら、人肌の温度になったライチを食べていく。 そして最後はエシディシの指に付着した白っぽい液体も舐めとった。 「ねぇ・・・キスをして」 快楽に濡れた瞳で、スージーがエシディシを見つめた。 女は男の毒気に当てられた。彼の与える全てが彼女を変えていく。 男は女の意外な一面を知った。普段は何処か幼いのに、夜は女そのものとなる。 互いに互いを欲して・・・一つになった。 SS一覧に戻る メインページに戻る |