番外編
![]() 気持ちよく晴れ渡った空。 多くの学生が笑顔で登校する中、七瀬美雪は一人浮かない顔をしてとぼとぼと歩いている。 心なしか歩幅が小さい。 爽やかな風が緑の木々の間を吹き抜けていく。 美雪の手が、濃紺の制服の裾をいつもうよりもしっかりと押さえる。 美雪の眉間にうすく皺が寄る。 いつも隣を歩いてくれていた金田一が旅に出てから数週間。 しかし、美雪の憂いの表情は、大好きな金田一と会えないことだけがその理由ではなかった。 昨夜、風呂から上がり、下着姿で部屋でくつろいでいた頃、美雪の携帯にかかってきた正体不明の電話。 それは低く、暗い男の声だった。 それほど遠くない過去、どこかで聞いたことがあるような声…。 あの人…? いや、そんなわけはない…。 まさか? いや、ありえない…。 『明日、下着をはかずに登校しろ。さもなければ金田一の命は無いと思え』 最初、何を言っているのかわからなかった。 単なる悪戯かと思った。 中学一年生頃から、毎月のように男性から電話や手紙で告白された。 中には、卑猥な電話や手紙が来たこともあった。 胸を揉ませて下さい…犯してやる…オシッコしている姿を見せてくれ…体操着を下さい…。 しかし、今回のその地獄の底から響いてくるかのような声音には、妙にリアルなのである。 『わかったな、美雪。昼休みまでそのままで過ごせ。昼休み、屋上に一人で来るんだ。携帯を持ってな…』 そしてその電話の直後に送られてきたメール。 そこに貼付されていたのは、暗い地下室のような場所で縛られてうなだれた少年の写真。 はっきりとはわからないのだが、そのシルエットは余りにも金田一に似ていた。 はじめちゃん…。 メールには短い文章も添えられていた。 『わかってるとは思うが、パンストの着用も当然ながら禁止する。もちろん、誰にも相談しないように』 はじめちゃんなの…。うそ…。そんな…。 美雪の豊満な胸がドキドキと脈打つ。 唯の悪戯だろうとは思う。 もしその縛られた少年が金田一であるなら、もっと鮮明にその顔を写して送りつけてくるはずだ。 その方が美雪が要求を呑む可能性が高いではないか。 そうだ。そうに違いない。あれははじめではない…。違う、絶対に違う…。 でも…。 いつの間にか美雪の目にうっすらと涙があふれる。 どうしよう? 剣持警部か明智警視に相談しようか…。 でも…。 大好きなはじめちゃんの身に何かあったら…。 そして、美雪は決心した。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |