育ち盛り
葵×わぴこ


田舎ノ中。
いなかのなか、ではありません。いなかのちゅう、と読みましょう。
正式名称は田舎ノ中学校。そのままです。
そして勿論、そこは中学校なのだから、生徒たちがいます。先生たちがいます。
――何より当然、どこの学校にも必ず一人はいる、不良だってちゃんといます。

きーんこーんかーんこーん。
のどかに鳴り響く“始業の”ベルと同時に、がたり、と彼は席を立つ。

「おい、葵」

見咎めた学級委員が声をかける。が、彼はサングラスの奥の目と口元をにんまりと笑みの形につくって、

「サボり♪」

一言おいて、学級委員が制止の声をかける間さえ与えず、すたこらさっさと出て行った。

「あー、葵ちゃん、ちーちゃんが出張してるからってー」
「わぴこちゃんもいないからだぜー」
「ふたりともいないと、好き放題なんだから」
「あ……あのー、君たち。出席をとっていいかなー?」

実は教室を出て行った彼と、すれ違うようにして入ってきた担任の先生が、背中に北風を感じながらお伺いをたてる。
が、あっという間に隣近所と会話し始めたクラスの面々に、そのささやかなお願いは届かない。
やれやれ、と、学級委員は頬杖とため息を同時についた。
それから、姿勢を正して腕を垂直に持ち上げる。

「先生」
「あ、何かな北野くんっ!?」
「あれ?先生いたんだー」
「もう、ちゃんと挨拶してよー」
「……」

さっきからいたよっ!と、叫びたい衝動にかられた先生だったが、気を取り直して、出席簿を教卓の上でトントントン。
そこに、学級委員こと北野くんこと秀ちゃんの声。

「わぴこですけど、少し遅れるそうです」
「え?珍しいね、どうしてだい?」

わぴこちゃん、遅刻――そう出席簿に書き込みながら、首をかしげる先生。
ちなみに、葵ちゃんの欄には、ちょっぴり筆圧のかかりすぎた恨みがましい文字で『サボり』と書かれている。
そうして問われた秀ちゃんは、「はあ」といささか煮え切らない前置きの後、

「近所のスーパーで、ポテチ特売があってるんで。買い溜めしてくるって云ってました」

――――バキィ。

先生の手にした鉛筆の芯が盛大な音をたてて折れ、くるくると宙に舞い上がった。

校舎の裏手にある小ぢんまりした空き地は、日当りも風通しもよく、彼のお気に入りの場所だ。
昼寝するにはもってこい、かつ、人目につきにくい場所でもあるため、未だかつてあの理事長にさえ見つかったことのない穴場である。
彼のほかにここを知っているのは、周囲でぽかぽかと丸まっているみーこたち、彼云うところの秀ボーと、それから――

「ぽーてちぽてち、なーにみーてはーねるっ」
「ポテチは跳ねねーよ」
「あっれー?葵ちゃん何してるのー?」

もう授業始まってるよーっ。そんな、「おまえ人のこと云えねえだろ」的ボケをかましつつやってきた、ピンクの髪した彼女くらいか。
即行入ったツッコミに、彼女はきょとんと首を傾げて、直後、笑う。

「あーそっかー。あははーっ、わぴこはねえ、ほら!」

わぴこは最近のお気に入りらしいバッグパックを背中から外すと、がばーっ、と引っくり返す。

「……おおう」

大量のポテチが、そこから溢れ出てきた。
いったいどうしたら、こんな、山をつくるほどのポテチが、ごくごく一般的な大きさのバッグに入るのだろう。
最後に、申し訳なさそうに出てきた教科書やノートが、ポテチの山を滑り落ちていくのを目で追って、葵はしみじみと考える。
その目の前に、「はい!」とポテチが差し出された。

「ん?」

反射的に受け取って、葵はわぴこに視線を移す。
天真爛漫な笑顔が、そこにあった。

「一緒に食べよ!」
「……おまえ授業は?」
「ポテチのが好き!」
「あーそー」

ポテチと天秤にかけられた挙句に負けたことを知ったら、哀れな担任は涙の海に溺れるだろう。
軽く頷いて、ポテチの袋を破りつつ――そこでやっと、葵はとあることに気がついた。

「おい、わぴこ。ぎょぴはどうした?」

いつも彼女の傍をふよふよ飛んでるピンクの金魚。
元々珍種だったが、最近では水の中にいなくても平気だわ空は飛べるわ海さえ泳ぐわ、と、ますますスーパー化している、田舎ノ中理事長の(という事実は最近忘れられているが)飼い金魚。
問われたわぴこは、「んー」と、芝生の上に投げ出した足をぱたぱた振って、ポテチを一枚口へ運ぶ。

「ちーちゃんが、今日から、全国理事長友の会の慰安旅行でしょ。ぎょぴちゃんも、お伴だって連れて行っちゃった」
「あー……なるほど」

理事長ことちーちゃん、正式名称は藤宮千歳。彼女のことだから、きっと、ぎょぴちゃんを自慢しまくってるに違いない。
例のお嬢笑い(バックにはぱぱらぱー、とBGMかつ紅白ライト)を思い浮かべて、思わず半眼になる葵。
そのまま己もポテチを口に入れようとして、傍らにかかる重みに気づく。

「……どした」
「むにー」
「ぎょぴいなくてつまんねーか?」
「横が寒いよー」

ポテチの袋を脇におき、空けた片手でわぴこの髪をかきまわす。ぐしゃぐしゃ。
見た目どおりのふわふわした手触りは、葵のお気に入りだったりする。

「むにー」

も一度なにやらうめいて、わぴこが、葵の手を押さえようというのか、両手を頭上に持ち上げる。
袋を持っていた手も、ポテチをつまんでいた手も、つまり左右とも両方だ。

「あ、おい、こら」

片方はともかく、もう片方は塩気と油気がついたまま。
慌てた葵は、自分も、さっきは使わなかった腕を持ち上げた。
タイミングはばっちり。
がっしり、わぴこの両手は葵の手によって取り押さえられ、髪に塩と油なすりつけ事件を回避する。

「おまえなー、手が汚れてんだろが。手が」
「あはははははー、ありがと葵ちゃん」

ため息ついて大笑いを聞きながら、ふと、葵は手元を見た。
わぴこの頭に置いたままの片手ではなく、その両手を掴んだままのもう片方。

……なんか。
判っちゃいたけど、改めて思う。

「やっぱ小せえなー」
「む!わぴこ、まだまだ育ち盛りだよっ!」

しみじみ零した一言に、むう、と眉を顰めてわぴこが抗議。
両腕を葵に掴まれたままなものだから、いつもに増して迫力とゆーものが皆無だが。

「ほほーう、育ち盛りねえ?」

それが面白くて、わざと挑発するように云う葵。
当然、わぴこは見事に挑発される。

「そだよー!こないだの身体測定だってね、身長1センチ伸びてたし、体重は」
「いや云わんでいいそれは」
「そう?」
「そう」

いくら気の置けない仲といったって、葵にも気遣いというものはある。
女性の体重なんて、某理事長をからかう以外で訊くもんじゃないとか、そんな感じ。
そっか、と、納得したようにわぴこは頷いて、「あ!そうそうそれからね!」と、会心の笑顔を浮かべてみせた。

「ん?」

まだなんか、身体測定の項目あったっけ?
葵が己の記憶をさらうより、わぴこの口が早かった。

「胸も大きくなってたんだよ!」

「わ――!バカかおまえは!!でかい声で云うなそんなこと!!」

周りでうたた寝していたみーこたちが、わぴこの声で飛び起きて、葵の声で逃げていく。
ダブルアタックの効果は見事なもので、ものの一分もしないうち、その場にいるのは葵とわぴこだけになってしまった。
ひゅう、と吹きぬける風など、だが、わぴこは歯牙にもかけず、葵を見上げる。

「なんでーっ?嘘じゃないよ、ちゃんと測ったんだから!」
「嘘だなんて云ってねえだろ!」

さっきの拍子で自由になった腕を、ばんざーいと持ち上げるわぴこ。その頭をどつく葵。いい音がした。
ちょっと力が入りすぎたらしい。わぴこが「いたぁ〜」と後頭部を押さえて涙目になる。

「あ。ワリ」

謝りつつ、ふと。

――胸。
に、目が行ってしまった。

「……」

頭を押さえた弾みで、前かがみになったわぴこの姿勢。
その頭上から覗き込む形になっている葵の位置からは、わぴこの身体にはまだちょっと大きめのセーラーの――襟の内側が、見てとれる。
かわいらしいシマシマ布地の向こう、今しがたの話題の種は、……まあ、たしかに、その。

「……」

正直、ぺったんこ、とはもう云えないくらいだった。まあ、ふくよかとは遥かに遠いが。
思わず見入った葵の視線に気づいたか、わぴこがふっと目を上げる。

「……」
「……」

げ。

と、口走るのをすんでのところで堪えた葵。そうして、わぴこは、硬直の挙句に固定されたままの葵の視線を追って、つーっ、と、目を上下させた。
出発点は葵の顔。

「……」

終着点はわぴこの胸。

「……」

……やべ。

たらーり、葵の背中に流れる冷や汗一筋。
にこぱっ、わぴこの浮かべる全開笑顔。

「ねーっ」

……っておい。

「おっきくなったでしょ?だからわぴこね、今度ウシ美ちゃんたちと、スポーツじゃないブラジャー買いに行くんだよ!」
「……おいわぴこ」
「んー?」

おまえ、男相手に胸の大きさを嬉々として語るどころか下着の話までするなよ。
といったごくごく一般的なセリフを吐こうとしたかもしれない葵の先手を打って、「あ!」とわぴこが手を打ち合わせた。

「葵ちゃんも一緒に来る!?」
「行くか!!」

そんなもんの買い物に付き合うくらいなら、一日千歳の使いっぱしりをしたほうがマシ――とも一概には云えない。
云えないが、健全な男子中学生として、そんなお誘いにはとても乗れるわけがないのは明白だった。
そう。
葵は健全な男子中学生なのだ。
いくら気心知れた相手とはいえ、こんな人気のないところで、胸だのブラだのそんなんの話をしていたら、神経がナイロンザイルくらいぶっとくても、たぶんもたない。
事実、わぴこの胸を認めたしまったときからすでに、足の間が落ち着かない気分だったりする。

……これはいかん。

葵でなくても、ここはそう思うだろう。

……いや、だが、しかし。

葵でなくても、ここはそう――思う奴もいるかもしれない。

「なあ、わぴこ」
「なーにー?」

にっこにこ。
買い物の誘いを蹴られたことなどどこかに置いて、やっぱり笑顔なわぴこの肩に、葵は、ぽん、と両手を置いた。

「胸、でかくしたいか?」
「うん!」
「そうか」
「ちーちゃんみたいまでいらないんだけどねっ、こう、ふにふにーってくらいは欲しいの!」
「そうかそうか」
「だってねー」
「わぴこ、いい話を教えてやろう」

早口にわぴこのことばを遮った葵は、顔面の筋肉を総動員して、真剣な表情をどーにかこーにか整える。

「いい話?なになに?」
「うむ。それはな」
「それは?」

「胸は揉まれるとでかくなるそうだ」

「そうなの!?じゃあ葵ちゃん揉んで!」

――予想通りの返答を頂戴した葵は、ちょっぴりわぴこの将来が不安になった。
なりつつも、意外そうな表情で、

「俺?」

と、上ずりかける声を修正しつつ、自分を指さす。

「別に俺じゃなくていいだろ、バカ千歳とかウシ美とかに頼めよ。女同士なんだし」
「えー」

不満そうにあがる声は、あからさまにブーイング。

「なんだよ」
「だって、ちーちゃんもウシ美ちゃんも胸おっきーもん。見せるの、なんかやだもん」
「……じゃあなんで俺がいいんだ。男だぞ俺。もっとやじゃねえの?」
「だって葵ちゃんは胸ないでしょ?」
「……」

思わず地面に頭をぶつけたくなる葵だった。
衝動だけは耐えたものの、あまりの衝撃に上半身がぐらりと傾ぐ。
額に手を当てると、いつの間にやら薄く汗をかいていた。……どーやら緊張してるらしい。
つーか、女って、よく判らん。
もとい、わぴこがよく判らん。
葵とわぴこは、秀一も含めて幼馴染み三人組と認識されてるくらいだから、付き合いは当然長い。
それでも、女性と男性の違いもあるんだろうが、葵にとって、わぴこは秀一以上に謎だらけだ。
他人なんて謎だらけでちょうどいいんだろうけれど。

「……ふ」

止まらぬ冷や汗をシカトし、葵は、仕方なさそーに肩をすくめてみせた。

「しょーがねーな、おまえがそこまで云うなら揉んでやらねーこともないが」
「わーい!」

「……」

やっぱり、わぴこの将来について一抹の不安がよぎる葵であった。

が、ここまできてしまうと、もはやそれについての言及や、まして後戻りなんて出来るわけがない。
いそいそと上着をの裾を持ち上げるわぴこから、視線を逸らさずにするので手一杯。胸いっぱい。

「よいしょっ」
「うわ、全部脱ぐな!持ち上げとくだけでいいって!!」

頭からすっぽり脱いでしまおうとしたセーラー服を、葵は思わず掴んで止めた。
陽気はぽかぽか至上とはいえ、風邪ひいたらえらいことである。わぴこだから余計な心配かもしれないが。

「そう?じゃあ、葵ちゃん、ちょっとそのまま持っててー」

え。
問い返す暇もない。
裾を葵に掴ませたまま、わぴこはシマシマの布地に手をかけた。

「!」

ぷるんっ、
けっしてたわわではないものの、平坦ではないかわいらしいふくらみが、布地の束縛を解いてこぼれた。

「――――」

ごくり、

葵は唾を飲み込んだ。

わぴこは器用にブラを巻き上げ、胸の上に固定する。
そして、葵の手から上着の裾を取り返した。するり、と、固い布地が手のひらから抜ける感覚で、葵は我に返る。
改めて見下ろすそこには、

「じゃあ葵ちゃん、お願いー」

にこにこと、上着を持ち、膝を斜めにして座るわぴこの天真爛漫な笑顔と、

「……」

木漏れ日に照らされた、ささやかな乳房があった。

――なんでこーなっちまったかな?

葵は思う。
思うが。

「じゃあ揉むぞ」

どこのオヤジだ俺は。などと、実に今更なことを考えながらも、葵の手は動いていた。

「ん!」

にっこり、応じるわぴこ。

――ああ。

葵は思う。

――こいつ、判ってねえや。

肌をさらす意味も。
触れさせる意味も。

――しょうがねーな。

切り出したのは葵自身だった。悪ふざけのつもりで、少し期待も織り交ぜて。
恥ずかしがって逃げるなら、それはそれでよかったが、そーいうのを超越してるのだ。わぴこは。
わぴこが葵に、いや、皆に向けてるものっていうのは。そーいうの、入り込む隙間もないのだ。

わぴこだもんな。

股間の緊張は、いつの間にか落ち着いていた。
これが終わってトイレに駆け込んだとしても、充分ごまかしきれるだろう。
などと思っているうちにも動いていた葵の手は、そうして、わぴこの胸に行き着いた。

そして。触れた。

――ふに。

うわ。
「……」

――ふにふに。

うわわわ。
「……っ」

そよぐ風が体温を奪っていったのか。
豆粒ほどでしかないわぴこの乳首は少し隆起していて、まず、そこが手のひらに当たった。
わずかに曲げていた指先は、少し遅れて、本命である乳房に触れる。
少し固い。そして、とてもやわらかい。
誰だマシュマロだとか云ったのは。あんなん嘘だ。
云いあらわせぬほど、それは、やわらかく、あたたかかく。きゅうっと手のひらを吸いつけて、離そうとしない。

――ふに。ふにふに。

うわわわわ。

「……、……っ」
「……!」

その感触に我を忘れて、葵は一心に、わぴこの胸に触れ続ける。
揉むというよりは撫でる、または、そっとその存在をたしかめるといったような、微細な動き。
それ以上強い行動なんてしてしまっては、壊れてしまうような気さえしたものだから。

が。

「んっ」
「え!?」

不意に。
こぼしていた吐息を止めて聞こえたわぴこの声は、少し高く、かすれていた。

どきりと心臓が大きく跳ねて、次に、ぎくりと肝が冷えた葵は、あわてて手を引っ込める。
その前で、わぴこが急いた様子でセーラー服をおろしていた。
……ぎゅう。と、葵に比べるとずっと小さな手は、だが、そのしぐさを終えても服の裾を掴んだまま。視線も、そこに落としたまま。

「わぴこ……?」

やわらかく吹き抜けていく風、揺れるピンクの髪に隠れて、葵からだとわぴこの表情は見えない。
覗きこむ気にもなれず、さっきまで覚えていた感情のやましさから、彼女の名を呼ぶ葵の声は、どこか力が減じていた。

「……」

わぴこは黙って、うつむいている。

「……」

葵もまた、何も云えない。

――あー。幼馴染粉砕?

頭のどこか冷めた部分が、葵にそんなことをささやいた。
だけども、

「ごめんね、葵ちゃん」

何故だか、わぴこのほうが申し訳なさそうに、そんなことを云っていた。

「なんで」

思わぬ発言に、早口で問い返す葵。

「だって、せっかく葵ちゃんが協力してくれてたのに」

風が持ち上げたわぴこの前髪の下から、上目遣いにこちらを伺う表情が見えた。下がったまなじりと、どこか潤んだ眼。
きちんとその光景を視認しようと、サングラスにかけた手が止まる。

「――」
「なんか、わぴこ、頭ふわーってなって心臓ぐらぐらーってなって、怖くなって変な声出しちゃった」
「……」
「あ!でももう平気だよ!おさまったみたいっ!!」

ぱっ!と持ち上げられたわぴこの顔は、いつもの笑顔を浮かべていた。
だから、その、頬の赤さが際立つ。
軋みをあげそうな腕を酷使してサングラスをどうにかはずした葵は、空いた側の手で、その頬に触れた。

「葵ちゃん?」

どしたの。と、不思議そうに見上げるまなざし。
天真爛漫純情無垢。普段のわぴこ。

「……」
「葵ちゃん?」
「……」

むに――――っ。

「いひゃひひひゃひいひゃひーっ!!」
「はっはっは、ひっかかったー!」

ぺいっとサングラスを放り投げて両手を自由にした葵は、そのまま、わぴこの頬を左右引き伸ばす。
当然いやがったわぴこは、そもそもそんなに力を入れてなかった葵の手を振り払って逃げる。

「葵ちゃん、ひっどーい!!」
「ふふん、こんな手に引っかかるようじゃあ、まだまだだな!」

何がどうまだまだなのか。ツッコミ役の秀一も千歳もここにはいない。

「むーっ!なによう!いつかわぴこの胸がぼいんぼいんになったって、もう葵ちゃんには触らせてあげないからねっ!!」
「ははははは、来ねーってそんな日。わぴこだし」
「むかー!」

目いっぱい不機嫌な表情になってしまったわぴこが、「葵ちゃんのいじめっ子ー!」と吼えたかと思うと葵めがけて飛びかかる。
もちろん葵は受けて立ち――――


さて。それから数時間後。

「……」

給食の時間になっても戻ってこないふたりを、『さすがにこれはおかしいぞ』と探しに出た秀ちゃんは、地面にべったり大の字になって寝こける姿を発見し、目を閉じて額を押さえていた。
いつの間にか舞い戻り、周囲に散らばって丸まるみーこたちを所在無く見渡し、

「いつまで経っても、子供だよなあ」

と。
同い年の幼馴染を改めて見つめ、苦笑したのでありました。とさ。

でもそれは。
いつまで子供でいれるかな。そんな、ささやかな不安も含みつつ。


今日も、田舎ノ中は、平和です。
きっとね。






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