赤ちゃんの作り方
葵×わぴこ


「葵ちゃん葵ちゃん」
「ん?」
「今日の体育の時間でね、女子ね、保健だったの!」
「ほー、そうか。オレらはバスケだったな。姿見えないって思ったら、そんなんしてたのか」

「で、何習ったんだ?人工呼吸?」
「それは、また今度!今日はね、赤ちゃんの作り方を習ったんだよ!」

ぶふふぉー。

「葵ちゃんどしたの?コーラ噴水してクジラさんの真似?」
「真似違ーーーー!!てか、んなことでかい声で云うなあぁぁぁ!!」
「えー?だって、別にほかに人いないよ?」
「いなくても云うなッ!」
「ぶー。せっかく面白いこと教えてあげよって思ったのにー」

…………

「わぴこ。おまえ、まさか今まで知らなかったのか?小学校でもあったよな!?(男子と女子は別々にやったので確証はない)何聞いてた!?」
「えー?えへー。たぶん寝てたー」

がっくり。

「……わぴこ。何を面白がってるか知らないけどな、それは云わない方がいい。オレの第六感がひしひしとそう云ってる」
「ええー?でもでも、ほんとうにすごいんだよ!」
「だから……!」
「赤ちゃんはコウノトリさんじゃなくて、男の人の「だわーーーー!!」を、女の人の「やめーーーー!!」に入れたら生まれるんだって!」

ぜーはーぜーはー。

「葵ちゃん、急に叫んだりしちゃ喉痛めるよ?のど飴食べる?」
「おまえがぽてち以外持ち歩いてるのも珍しいな……っつか、そんなん、常識だっての」

……

「えええぇっ!?そうなの!?だって秀ちゃん云ってたよ!?」
「秀ボーかよ!!」
「じゃあ、じゃあ、たとえばわぴこが葵ちゃんの」
「やめろマジで云うなそれ以上」
「むごむご」

…………

「ふう」
「むごー」
「もう云わないか?」
「むぐむぐ」
「よし」

ぷはー。

「まったく。おまえな、そういうこと、往来で云うな。ていうか、人と大声で話すことじゃねーよ」
「……そなの?」
「そなの」

うーん。

「やっぱり、おしっこに関係あるトコだから恥ずかしいのかなあ」
「……関係あるよーなないよーな……、いや、そうじゃなくてだな?」
「なくてだな?」

そう。そうじゃなくてね。

「……。なあわぴこ。うち今日誰もいねえんだわ。たまにはゲームしにくっか?」
「行くー!!」

こういうことに、なっちゃうからさ。


「ゲームおもしろかったー!葵ちゃん、今度はみんなでやろうね!」
「そだな。マルチタップ使えばいいし、ひとまず秀ボーあたりから誘ってみっか」
「ん。今日わぴこつれてきたのって、もしかして、テストプレイだったりした?」
「そそ。おまえが面白いって云えば、たいてい、クラスの奴にはウケっから」
「えへへー。わぴこすごーい」
「自分で云うなよ」

ごくごく。

「ジュースおいしーね。これ、田舎ノスーパーで昨日特売だったやつだ」
「ふっ。特売品ゲットなら任せろ。……と、もうすぐ日ぃ暮れるな」
「葵ちゃん、今日は夜まで誰もいないの?」
「まーな。あさってまで忙しいんだとさ。だから一人寂しくお留守番――と、なあ、わぴこ。おまえ泊まってく?」
「……」
「いや深い意味はないぞ。ちょっと小学校ん頃のこと思い出したd「うん!泊まる!」――躊躇なしかよ」
「わーいわーい、お泊まりお泊まりー!家に電話してくるね!」
「電話の場所判ってるなー?」
「もっちろん!」

がちゃん。ぱたん。ぱたたたた……

「……ふ。ちょろい」

深い意味はない。だが下心はあるのであった。

「というわけで、食事も風呂もすんだ。さてわぴこ」
「はーい」
「さっき話したとおりにだ、おまえが気にしてた赤んぼの作り方の話をしよう」
「はーい、葵ちゃん先生!」

ぱらぱら。

「葵ちゃんの体も、この絵みたいなんだよね?わぴこ、小学校の時お泊りしてから全然見てないからわかんなくなっちゃった」
「はっはっは。オレだっていつまでもポークウインナー状態じゃないぞ」
「葵ちゃんのおちんちんは、ウインナーだったの?」
「食っときゃよかったとか云うなよ」

ぱらぱら。

「わぴこはね、絵みたく、胸はおっきくないけど、ほかはおんなじ」
「だろうな」
「男の人のおちんちんを、女の人のおちんちんに入れるんだよね。うまく出来てるんだねー」
「まあ、入れただけじゃダメだけどな」

「アレ?そうなの?」
「おしべとめしべも、花粉がつかなきゃダメだろ。精子と卵子の話なかったか?」
「あ!あったあった!男の人の精子を、女の人の卵子につけるんだ!」

……

「入れるだけじゃくっつかないの?」
「そう。女のここ、子宮な。でも、男のちんちんて、入れても、これ以上先にはいかねえの」
「それで卵子がここまで来てて……あれれ、そうだね。精子と卵子、逢えないね。先生そこまで教えてくれなかったよー?」
「こればっかりは教わるもんじゃねえしなー」
「自分で見つけるの?」
「男と女が一緒に見つけるの」

ぽん。

「葵ちゃんとわぴこ、男子と女子だよ!」
「せいかーい。んじゃ見つけるか」
「はーい!」

脱ぎ脱ぎ。

「……っとーに、恥ずかしがらねーなおまえ」
「だって、ちっちゃい頃お風呂いっしょに入ったじゃない」
「そりゃそーだけど」

正直云いますとですね。結構やばいんです、男の子。

「あー……じゃ、まず自分で見てみ。ほれ鏡。足開いた方が見やすいぞ。オレは後ろ向いてるから――」

「うわー。変!」
「ためらわないおまえが変」
「え?なーに?あ!葵ちゃんも見る?って、見なくちゃ探せないよね」
「あー、まあ、そうだな」
「うーんうーん、でも、おしっこの場所はいくら葵ちゃんでも恥ずかしいなあ」
「あ、そうなん?」
「でもでも、男子と女子じゃないとわからないんだよね。うーん」
「……」
「うん!葵ちゃんと探すって決めたもんね!でも、今日のはぎょぴちゃんにもちーちゃんにも秀ちゃんにも内緒だよ!」
「うわー。振り返るの怖ー」
「なんで?」
「いや。……オレどこまでもつかな……」
「???」

「……あれ?わぴこ、そういや、おまえ生理は?」
「まだだよー。わぴこねえ、たぶんみんなよりちょっと遅いの。ちーちゃんや保健の先生に相談に乗ってもらったけど、個人差だから大丈夫だって」
「ふーん……」
「男子は生理みたいなのってないの?」
「似たようなのは……あるような、ないような」
「見たい!」
「また今度な。今日はとりあえず、と……」

よいしょ。

「わー、ベッドふかふか♪」
「じゃ、わぴこ。覚悟はいいかー?」
「はーい!」
「まあ、あんま痛いこたあないだろ」
「うん!」

さわ。

「うひゃっ、ね、葵ちゃん、そこ、触るの汚くない?へーき?」
「風呂入ったから平気」
「そ、そうなの?」
「そうなの。……よし、気になるなら、こっちからいくか」
「え?」

さわさわ。

「あ、あはは、くすぐったいよー!」
「……やっぱ男とは違うなー」

するり。さらり。ふにゅり。

「……やわっけー」
「んん、んー。こそばい……」

さわさわさわ。きゅ。

「んや!?や、つねるの変!」
「だって出っ張ってるしー?つねってくれってばかりじゃん?」
「そーゆー意味で出っ張ってるんじゃないもんー!いつか赤ちゃんにおっぱいあげるためだもん!」
「あ。そ?じゃあオレも」

ちゅ。

「やあ!?や、きゃ、あ、葵ちゃん……!!」
「……」

ちゅー。

「葵ちゃん、わぴこの赤ちゃんじゃな……!」
「ん」
「いっ、きゃ、あ」
「くすぐったい?」
「変!」
「顔真っ赤だぜ」
「変な感じなの!きゅうきゅうするんだもん!」
「……ええい、正直者め」

さわ。

「んっ」
「……うわ」
「や、葵ちゃ、だから、そこは」
「小便すっとこじゃないから」
「え」
「見る?」
「……」
「オベンキョすんだよな?」

こくん。

「ほい、鏡」
「て、手に力入らないよー」
「じゃあオレが持つ。見えるか?」
「……ん」

さわ。

「んっ」
「こら目ぇ閉じない。小便出るのここ」
「……うん」
「で、その下。ここ」

つつっ。ちりっ。

「ひゃ!」
「どした?」
「ゆ、指こすれたとこ、変」
「……あ、ワリ。当たった?」
「そ、そこってなあに?赤ちゃん出るとこじゃないよね?」
「んー。まあ何つか。気持ちいいとこ?」

つい。

「ゃ……!」
「こんな感じ」
「や、やー!やだやだ、変、変ー!」
「わ、バカ、足動かすな蹴るなっ、て、――いてっ!」
「あ」
「ってー」
「ご、ごめんね葵ちゃん!痛かった!?」
「……いてて」
「ごめんね……」
「……いや、オレも。悪ノリしすぎたかもしんね」

…………

「もうやめとくか?」
「……」

ふるふる。

「が。がんばる」
「おま、そこまで一生懸命になんなくてもな。いつかそのうち知る機会ならいくらでもあんだぞ?」
「やだ。がんばる」
「なんで?」
「だって、わぴこ、葵ちゃんと見つけたいよ」

……
…………

「葵ちゃん?どしたの?こっち向いて?」
「ちょーっと待て。今のすっげーキた。十数えるまで待て」
「?――いーち、にーい、さーん」
「しーい、ごーお、ろーく」、
「しーち、はーち、くーう」、
「「じゅう」」

ぽむぽむ。

「ん」
「じゃ、オレもがんばるな」
「はーい!」

ぽす。

「寝てていいの?」
「その方が楽だと思う。もう場所は判ったろ?」
「そだね。えっと、さっきのところに男の人の――葵ちゃんのおちんちん入れたら、わぴこ子供出来るの?」
「おまえまだ生理来てないから、無理。それに子供なんて今つくってもどっちのためにもなんねーぞ」
「うん……そだね。まだ子供だもんね、わぴこたち」
「そ。だから、まあ、どんな感じかは手――つか、指」
「うん」
「いくぞ?」
「うんっ!」

ついー。

「ん」
「……へー……、っと、痛くねーか?」
「んん。へーき」
「……じゃ、ちょっと入れてみるな」
「……んっ」
「痛い?どんな感じ?」
「へーき。……さっき、葵ちゃんが触ったとこの変なのが、弱い感じ。ぎゅーっ、じゃなくて、ふやーって感じ」
「そっか」
「……葵ちゃんどしたの?笑ってる。葵ちゃんも気持ちいいの?」

「かもしんね」

つぷ。

「ん――」
「セックスにのめり込む男ってこんな感じかもしれねーな」
「え?……葵ちゃん、なんて?」
「なんでもねーよ」

つぷ。くちゅ。

「っ、あっ」
「オレが気持ちよくしてんだなって思うと、なんかすげえ、ぞくぞくする」
「あ、葵ちゃ――?」
「はは、ぬるぬるになってんぞ。気持ちい?」
「ん、う」
「わぴこ、葵センセにお返事は?」

つぷっ。ちゅくちゅくっ。

「あ、や、ぅん、ん、気持ちい、みたいっ」
「よーし、よくできました。――痛かったら云えよ」
「ふえ?――ひゃ、あっ!?やっ、葵ちゃん、待って、そんないっぱい動かすの、あっ、ん……っ!」
「痛い?」
「はっ、あ――い、痛い、ない、けどっ!や、葵ちゃん、わぴこ、なんかぐるぐる、なの――……あ、あっ!」
「……やべ」
「あっ、ぁ、あ――」
「すっげかわい――」

夜の帳、下りた外からカーテン越し。
締め切られた窓ガラス。越えて小さく漏れる声。
四角く切り取られた明かりの下方から、影絵のように腕が一本、天井向けて突き出される。
まるで何かをねだるように。

「――――」
「――――」

まるで誰かを呼ぶような声。
そして応えるような声。
ガラスと壁に遮られ、夜のしじまを揺らがすまでには至らない。

ぎしり。

重ねて響いた、何かが小さく軋む音。

ゆっくり起き上がった人影ひとつ。
それは何かに吸い込まれるようにして、――覆いかぶさるようにして。
最初に伸ばされた腕といっしょに、四角く輝く明かりの下に消えてった。

「いいかすぐ戻るからな絶対部屋から出るんじゃねーぞ!」

どたばたどたばたどたばたどたばた!!

「……ふやぁ」
ぽふり。ころころ。
「出たくても、わぴこ、動けないよう――」

ばたん!
じゃー、ごぼごぼー。

「……葵ちゃん、おトイレずっとガマンしてたのかな」
ちくたくちくたく。
「オベンキョ、時間かかったもんね」
ちくたくちくたく。
ぺらり。
「わぴこが女子であんな感じで、じゃあ男子も――そっか。おちんちん、気持ちよくなったら、入れたとこに、精子来るんだね、きっと」
ちくたく。
ぱったん。
「……ふゃ」
ちく、
「疲れたー」
たく――

ばん!
ばったんどったん!
どたばたどたばたどたばた!
ばたーん!

「あ、葵ちゃんおかえ――」

ばふっ

「わぷ!?」
「ほれほれ尋常にくるまれわぴこ!ミノムシの刑だ!」
「きゃー、あはははは、葵ちゃん急に何するのー!」
「もっかい風呂!」
「ええ!?わぴこ疲れたよー!」
「あほ。汗かいたろ。寝るのは身体、と、……オレが指入れちまったとことかも洗ってきれいにしてから」
「あ・そっか」

とんとんとんとんとん。
ぱたん。ぽーん。ばたん。

「タオルと着替えおいとくぞ。下着は――まあ汚してはねーけど。いいか?」
「うん、さっき替えたばっかだからいいよ」
「よし。じゃあちゃんと洗えよ。特にオレが触ったとこはきれいにすんだぞ」
「むー。葵ちゃんの手が汚いみたいじゃない。このぬるぬるって、わぴこが出したんでしょ?」
「……あーいやまあ。たしかに気持ちいいのが頂点いくとそうなるみたいだけどな」
「あははぬるぬるー。なめくじー」
「違ぇッ!!おまえさっきの今で切り替え早いなほんとにっ!」
「あははははは」
「……。オレ部屋に戻ってるからな」

「あ、待って葵ちゃん」
「ん?」
「あのね、これね、自分でさわってもさっきみたく気持ちよいのこないね」
「何やってんだおまえは――!」

「やっぱり、男の人と女の人じゃないと、ああならなくって、赤ちゃんもつくれないんだねー」

「……あー……ま、な」

「あのねあのね葵ちゃん」
「……はいはい?」
「わぴこ、大人になったら、いつか、ちゃんと本当をするよね」
「だろーな」

「あのね」
「ん」

「そのときは、わぴこ、葵ちゃんといっしょにあんな感じになりたいな」
「――――」
「えへへー」
「…………」

そうっと手のひら押し当てた。
そうっと指がなぞってみた。

浴室のガラス一枚隔てた二人は、片や笑顔で片や動揺。
だのにまだあったかさの残ってる気がする、自分の唇に触れたのは、ふたりまったく同時だった。






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