傍にいたい
進藤一生×香坂たまき


降り注ぐ雨の中、路肩に車を止め、煙草に火をつけていた。
もう辺りはすっかり暗くなり、闇が全てを覆い隠す。
ここに来て、どのくらいの時間がたったのだろう?
気まぐれにとめたこの場所から、未だ動く事が出来ない。
それが何故なのか、自分でも、よくわからなかった。

すぐ近くに見える、鬱蒼と木が生い茂る公園。
ぼんやりとその入り口を眺めていると、必死で外に向かって走る人影が、目に飛び込んで来た。
闇に溶ける黒い服に意識を奪われる。
咄嗟に後部座席の鍵を開け、中に入った事を確認すると車を発信させた。

「香坂・・・。」

後部座席に乗った彼女の髪から、ぽたぽたと水が垂れ。
乱れた着衣と切れた唇が、状況を物語っていた。

雨に濡れた窓を見つめ横顔は髪で隠れ、表情を伺う事は出来ない。
瞳から微かに流れ出ているものは、雨なのか、・・・それとも。

どう、声をかけたらいいか、戸惑ってしまう。
彼女の揺れる瞳を見つめながら、ただ車を走らせていた。
フロントガラスに次々と落ちてくるはそれは、徐々に多く、激しくなっていく。

「どこに、向かってるの?」

彼女の言葉に、ふと我に返った。
気付くと、ただあてもなく道を走っていた。
混乱する思考は、まだ少しも落ち着いてはいなくて。

「家はどこだ?送る。」

とにかく、彼女を家まで。
そういう結論に達し、出来る限り優しく問いかけた。

先程の公園からさほど遠くないマンション。
車を止めると、彼女は恐る恐るドアを開けた。
いつまでも聞こえてこない足音に、振り返る。
彼女は外に出る為の一歩が踏み出せずに、怯えていた。

「・・・お願い、貴方の部屋まで連れてって。」

恐い。そう言って震える彼女を半ば抱き抱えるように、また車に乗せる。
数十分後、自分の自宅のマンションに彼女を連れて、たどり着いた。
怯える彼女を、どう安心させたらいいのか。
ただ、それだけを考え、部屋に向かった。


彼の腕がふらつく私を支え、歩く。
肩に当たる体温を意識するたびに、体が熱くなる。

どうしよう。

私は、かなり大胆な事を口にしたのかもしれない。

「体を温めて来い。」

そう言って、バスルームに押し込まれた。
不安な気持ちで彼を見上げると、少しだけ微笑んでくれた。

「落ち着くまで、傍にいてやる。」

「ありがとう。」

心底ホッとする。
今までどんな人にも、ここまで心を許した事はなかった。

ああ、私は、彼の事が。

こんな事が、自らの思いを自覚させる羽目になるなんて、思いもよらなかった。

シャワーのお湯が、体を流れていく。
血色がなかった手や唇が赤く染まっていった。
自然と早まる鼓動に気づかない振りをして、バスルームから出た。


リビングに足を踏み入れると、彼は所在なさげにソファーに座っていた。
私の姿を見て、穏やかに声をかけてくる。

「少しは落ち着いたか。」

「ええ。」

努めて冷静に、言葉を発する。
恐怖は、まだ心の中に深く巣食っているのに

「・・・だったら公園で何があったか、聞かせてくれないか。」

その言葉を聞いた瞬間に、自分の意思とは裏腹に震える唇。
先程押さえ込んだ弱音が、口をついて出て来てしまいそうだった。
彼は、受け止めてくれるだろうか?

「貴方が来てくれなかったら、私・・・。あのまま襲われてたわ。」

徐々に零れ落ちていく涙が、握り締めた手を濡らしていく。
怖かった。そう口の中だけで呟く。唇を噛み締め、必死に嗚咽をこらえた。
彼はただ黙って、こちらを見ている。

抱きしめて欲しい。
けれど、そんな事口に出来るわけがなかった。

自分で自分を抱きしめ、こらえ切れない涙を、ただ流し続ける。
ふわりと、何か暖かいものが体に当たった。

目を開けると、すぐ近くに見える逞しい彼の肩。
抱きしめ、られている?

「進藤先生・・・?」

「もう大丈夫だ。・・・心配いらない。」

頭上から降ってくる優しい声に、また涙が溢れる。
子供のように声を上げ、彼にしがみついてただひたすら泣き続けた。

しばらくたった後、やっと落ち着いて背に回した腕を解く。
一体何時間、泣き続けたのだろう?

「あの・・・ごめんなさい。」

彼はその言葉に顔を上げると、まるで小さい子供にするように私の頭を撫でた。

「もう遅い。・・・家まで送ろう。」

その場から立ち上がり、玄関に向かって歩き出そうとする。
私は、ある1つの決心をして、彼に向かって声をかけた。

「ここに、泊まってもいい?」

驚いたように振り向き、目を大きく見開く。
彼と私の視線が、深く絡み合う。

先ほどまでは聞こえて来なかった雨の音が、耳に響いた。
長い沈黙の後、彼が口を開く。

「随分と、俺を信用しているんだな?」

何処か冷めたような、彼の声に思わず顔を上げた。
癇に障る事を、言ってしまっただろうか?

ふと、彼の手が私の髪をかきあげる。
露になった首筋に指を滑らせ、また視線を向けてきた。

強い、熱のこもった視線。
そんな目をした彼を、私は知らなかった。

「俺は男で、お前は女だっていう事、もっと自覚しろ。」

いつもの彼の声よりも、もっとずっと低い声。
何処か艶のこもった声に、体を震わせた。

「わかったら、早く帰れ。」

帰りたくなんかない。
もっと、触れて欲しいのに。
どうしたら、貴方に伝わるのだろう?

「・・・いや。」

ため息をついて、またこちらを振り向く。
その体に腕を回して、しがみついた。

「お願い。」

今だけは、貴方の傍にいたい。
だから、このまま。

「いいんだな?」

確かめるように聞いてくる彼の言葉に、頷く。
彼が私をどう思っているかなんて、何1つわからない。
それでも、彼に抱かれたかった。

それを合図に、彼の手が私の体に這わされる。
その心地よさに、思わず目を閉じた。

何も見えない。貴方の心もこれからの未来も。
不安な思いは、どんどんと侵食していく。
これから先、一体どうなっていくのだろう?

それでも私は、貴方を。

何処か祈るような思いを自覚し、彼の優しい腕に身を委ねた。

時折、足りない酸素を補うように、艶を帯びた吐息がこぼれるぐらい。
仰向けに横たえたたまきの、顔の両脇を腕を置いて、先程から何度も口付けを繰り返している。
縋るように顔の両脇に置いた腕を掴む頼りないその指先が、まだかすかに震えていて、進藤はふと、口唇を離す。
たまきは、唐突に止んだ口付けに、閉じていた瞳を持ち上げる。
息苦しさとどうしようもない熱情に、瞳はすっかりと潤みきっていた。

先ほど強引に組み敷かれたその恐怖を、体はおそらく鮮明に覚えている。
その恐怖を思い出し、体が震えているのだろう。
ならば、今この腕の中に抱くことは、一体陵辱と何が違う。
躊躇って、行為を中断した。

「いや……」

掴んだ腕に額を摺り寄せるようにして、 たまきがこぼした。
その声もどこか、掠れていた。
閉じた瞳から、つ、と涙が落ちる。

「やめないで……」

気遣われているのは分かっていた。
でも、それでも今は。

「……少しだけ、今だけでいいから、何も考えたくない」

恐怖も痛みも、悲しみも悼みも何一つ、考えたくはなかった。
この体のふるえなんて、すべて黙殺してくれて構わない。

「自分が何言ってんのか、分かってるんだろうな」

右手をたまきの髪に差し込んで、それから頬に滑らせた。
涙に濡れた瞳でたまきは進藤を見上げた。
こくりと首を前に倒すようにして、頷いた。

収まらない怒りも、まだ体のうちにある。
そんな状況でたがを外せば、収拾のつかない感情の全てを華奢な体にぶつけてしまうだろう。
だから今、止められるうちにやめておこうと思ったのに。

「泣こうが喚こうが、やめられないかもしれないぞ?」

思い切り、泣かせたい。鳴かせてやりたい。
どこで逃げられたかは知らない。
別の手がこの白い肌を、触れたのかもしれない。
口唇が触れたかもしれない。
そんな名残など、思い出せないぐらいにしてやりたい。
だって彼女は・・・。

「・・しんど・・ぅ・っ?!」

こちらの名前を呼ぼうと開いた口唇を、強引に塞いでやる。
どんな言葉も、今は要らない気がした。
滑り込ませた舌先を絡ませている間に、服の前を開く。
露になった首筋に噛み付くように口唇を押し当てて、そこに舌を這わせた。
別の口唇が残した赤い鬱血の痕に吸い付いて、自分の物に摩り替える。
耳の後ろ側、顎の下。
見つけ出した箇所に吸い付いては甘く噛むのを繰り返すうちに
たまきの口唇からしどけない吐息が落ち始めた。
開いた服の隙間から柔らかな肌に手を滑らせ、やわらかなふくらみをゆるく弄る。
ひくりと小さな体が震えるのは、もう黙殺した。
歯止めを外せと言ったのは、彼女のほうだ。

ふくらみの頂を軽く爪を立てるように引っかく。
嗚咽のような喘ぎがこぼれて落ちる。
その口唇も何もかも、誰にも、何にも譲れなくて、また口付けた。
喘ぎを口の中に封じ込めて、手を下方へと下ろす。
滑らかな脚に掌を滑らせて、内腿を擦るようにした瞬間に、びくりとあからさまにたまきの体が震えた。

舌打ちしたい衝動に駆られる。
ここも、触れられそうになったのだろうか。
そう思うと疎ましくて仕方ない。

「 たまき」

きつく目を閉じて耐えるような たまきの耳元に、口唇を近づけて名を呼んだ。
そのまま、耳に噛み付いて、その内側に舌先を差し込んだ。

「目、開けてちゃんと見ろ。今、誰に抱かれてるのか」

うっすらとたまきが目蓋を開くと、至近距離に進藤が見えた

「余計なこと考えず集中しろ。お前に触れてるのは、誰の手だ」

そんな男の幻影など、さっさと忘れてしまえ。
訳が分からなくなるぐらい、こっちに溺れてしまえ。

「お前は、もう誰のモンだ」

内腿をゆるく撫で擦りながら声をかければ、たまきは震える腕を進藤の首に絡めた。
その肩に額を押し付けるように体を起こす。
進藤は、左腕をその浮いた背に滑り込ませて抱き寄せる。

「……全部、一生のだから」

耳元で、涙に濡れた小さな声が、それだけ。
ようやく聞き取れるか取れないかの。

「だから、離さないで……」

お願い、と縋るような声が言う。

頼まれなくったって。そう心底思い

こめかみや耳朶に口唇を押し当てつつ、下半身に寄せた手を、内腿から奥に滑らせる。
身を硬くする気配も無視して、指先を秘部に滑り込ませた。
指先に触れる、濡れた感触に気を良くして、口唇を貪りながら、その内側にずるりと指先を埋めた。

「ん……!」

合わせた口唇の内側で、耐え切れずにこぼれた喘ぎ。

「あ、や、……やぁっ……!」

声を封じ込めるのが惜しくなって口唇を離せば、離した舌先が糸を引く。
内側に埋めこんだ指先2本で、軽く内側を引っかくように動かしては、何度か抜き差しを繰り返す。
暖房の音だけが聞こえる室内に、濡れた音が響いた。
首にしがみつくように強く抱きついて、たまきは弄ばれるままに声を漏らす。
耳元に掠める、彼女の吐息と声とが情欲をそそる。
いつのまにか、自分の吐息も熱を帯びていた。
首に絡むたまきの腕を左手で引き剥がし、わずかに起こしたその体を再びベッドに沈める。
その間も、内側に差し込んだその指は、巧みに蠢いてはたまきを犯す。

「あ、……や、やだっ、一生っ……!」

唐突に指が抜かれたかと思うと、強引に脚を開かされた。
下方に下りた進藤の口唇が腰骨を軽く噛んでから、濡れたそこに舌を這わせた。

「抵抗するな。ただ俺を感じてればいい」

咄嗟に閉じようとする膝を強い力で開かせて、舌先を軽く、内側に潜らせる。
余裕を何もかも奪ってやりたくて、敏感な突起を舌で何度も擦る。
泣き声のような悲鳴が耳に届いた。
一度抜いた指先を、再びその内側に埋める。
少し乱暴に内側を擦りながら、突起を少し強めに吸い上げた。
閉じさせないように抑える足が、小刻みに震える。
それはもはや恐怖などではなくて。
ただ、こらえきれない快楽にそうなっているだけ。

「もっと、声出せよ」

すっかりと情欲に掠れた声をしていた。
顔を上げて、内側から指を抜き出す。
はらはらと涙をこぼしながらも、懸命に耐えているその顔を見ると、興奮する。
他の誰のものでもなく、自分のものだ。

涙声で、かすかにたまきがキスを強請るので、覆い被さるようにして唇を合わせた。
深く接吻けを繰り返すうちに、ふっとたまきの体からこわばりが抜けたのを見計らって。
熱く濡れたそこに自身を宛がって、何度か焦らすように擦りつけたあと。
軽く先端を埋めこんで、あとは一気に貫いた。
合わせた唇の中で悲鳴が消える。
口唇を離せば、浅く、乱れた吐息が互いの口から落ちた。
前触れも断りもなしに突き込まれて、たまきは少し恨みがましそうに進藤を見上げる。
だが、涙に濡れそぼって、情欲に潤んだ瞳で睨まれたところで、ただ煽られるだけだ。
たまきの顔の両脇に腕を置いて、至近距離で覗き込む。

「いいか、俺だけ見てろ」

今だけは、組み敷かれた恐怖も、これからあとに待ち受ける諸々の処理も。
何一つ考えなくていい。
何もかも忘れさせるぐらいにしてやるから、真っ白になって溺れてしまえ。

こくりと小さく頷くたまきに、かすかに笑って応じる。

「あっ、いやぁっ……!」

それ以上は何も言わずに、初めから乱暴なぐらいに強く抜き差しを繰り返した。
縋るように、たまきの腕が背中に回る。

「ああっ、あ、あ・・・いっせ、いっ……!」

動きに合わせるように零れる吐息と鳴き声。
背中に回った指先が、肩甲骨のあたりを何度か軽く掻いた。
お互いに、服は中途半端に乱したままだ。
ベッドのスプリングが耳障りなほどに軋む。
のけぞって晒される白い咽喉に、煽情的に浮き上がった鎖骨に、何度も甘く噛み付いた。
繰り返し、強く叩きつけて、不意に体を起こす。
背に絡んだたまきの片手を掴んで、おもむろに彼女の下腹部に持っていった。
なだらかに薄いその下腹部の一部。
わずかにふくらんだそこに手を当てさせる。
一瞬にしてたまきの顔がさっと赤くなって、恥ずかしそうにふいっと顔を逸らす。

ここまで入ってる。

そう知らしめる相手の無言の行為に、物凄く、興奮したのは確か。
下腹部に当てさせた手をそのまま上から押さえ込んで、緩やかに何度か腰を揺すると、濡れた音。
腰を揺すられるたびに、痺れるような快楽が突き抜け、触れた下腹部の内側でふくらみが移動する。

「やめっ……はずかしっ……。おかしくなるっ……!」

押さえ込まれた手の下で自分の肌が蠢くように形を変える。
内側に飲んだ熱が移動している証だった。

「今はおかしくなたいんだろう?」

他のことなど何一つ考えたくないといったのは、お前だろ。
たまきの手を押さえ込んだまま、進藤は緩やかだった動きを急に強くする。

気が狂いそう。
乱暴に突き動かされ、奥の奥までを簡単に暴かれる。
突き当りを何度も貫くその快感に、頭がぼおっと霞む。
自分で触れる、自分の下腹部の内側で、乱暴に動かされるのが掌に伝わってきて、泣きそうになった。

スプリングの煩い軋みと、耳を塞ぎたくなるような、自分の喘ぎ声。
卑猥に濡れて、動きに合わせて繰り返す水音。
熱い吐息の合間にこらえきれずに時折落ちる、男の噛み殺したようなうめきと。
何もかも。

「一生、いっせ、いっ……!」

縋るように、たまきは何度もその名を呼ぶ。
ぼろぼろと涙を流して、自分の下で乱れる愛しい女に、どうしようもなくなって乱暴に動いた。
体を倒し、華奢な体を抱き潰すほどに強く抱きこんで、好き勝手に蹂躙する。

「たまき…」

噛み殺せないうめきの合間に、名を呼んだ。
縋りつくように抱きついてくる華奢な体が、その声に反応してぴくりとふるえる。
抱き潰せば折れそうな体が小刻みに痙攣して、ぎゅっと強く内側に飲んだそれを締め付ける。
きつく狭まった道を何度も乱暴に抜き差しを繰り返して、最奥の、弱い部分を容赦なく突き上げた。

「やっ、いっせ……い、も、許し……っ、も……」

たすけて。
掠れた声で、たまきが懇願する。

「達っちまえ」

濡れた声で一言そう促して、二三度強く腰を叩きつけた。

「やっ、あああっ―――!」

悲鳴と共に、がり、と背中に回った指先が爪を立てた。
達して、痙攣を繰り返すその内側を何度も擦るように乱暴に動かしてから、上半身を起こしてぐっと奥まで腰を押し込む。
たまきの腹部に手を押し当てて、そのまま中に注ぎ込んだ。
何度も脈打つように注ぎ込むその熱を、押し当てたたまきの肌越しに感じる。
他の誰のものでもなく、自分のものなのだと、思った。
あ、と注ぎ込まれて内側に広がる熱に、もう掠れた声を漏らしてたまきはふっと、意識を手放した。






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