進藤一生×香坂たまき
![]() 「・・いったい、どうしたのよ・・」 深夜1時過ぎ。 突然、彼が訪ねてきた。 いつものように心置きなく招き入れたのだが、 それから玄関でずっとこの状態だ。 「んんっ・・もうっ、はなして・・」 両腕を捉えられ、壁に身体を押し付けられたまま、 進藤はずっとたまきの唇を貪っている。 少し酔っているようで初めから顔が昂揚していて・・ でも、一言も口を利いてくれない。 「あっ、ちょっとっ・・」 そうしているうちに進藤はたまきのブラウスに手を掛け、 片手で素早くボタンを外していく。 胸の下辺りまでボタンを外したところで、 たまきが自由になった方の手で進藤の手を止めた。 「どうしたのって聞いてるじゃない!!」 進藤は一瞬たまきの表情を見るがまたすぐに視線を落とし、 ブラウスを乱暴に肩まで捲ると再びたまきの手をつかみ壁に押し付けた。 「やっ、痛っ・・」 たまきの小さな悲鳴も無視して、目を合わせようともしてくれない。 はじめて、彼が怖い、と思った。 進藤は露になったたまきの首筋、鎖骨、肩に口付けを落としていく。 「んっ・・やぁ・・・」 たまきが身をよじると更に強く押さえつけ、 無理やり股を割って膝を押し入れ身動きの取れないようにした。 痛いくらいの口付けの跡は赤く内出血を起こしていた。 気づけばたまきの身体には無数のキスマークが付けられていた。 進藤がそこに舌を這わせていく。胸元から鎖骨を通って首筋、耳の後ろに達した時、 たまきがびくりと震えた。 「はぁ、ぁんんっ」 それに気づき、今度は耳の淵に舌を這わす。 「んぁああっ・・はぁ、・・ぁあん・・」 たまきの手にはもう抵抗する力もなく、甘い声をもらしていた。 翻弄されるたまきの姿を、進藤は表情一つ変えずに見つめている。 不意に耳の淵をカリッっと噛んだ。 「くぅんんっ」 膝ガクッっと崩れ、身体を支えようとたまきが必死に進藤の服をつかむ。 そんなたまきを再び壁にもたれさせると、今度はスカートの中に手を差し入れてきた。 「やぁっ・・」 慌ててたまきは脚を閉じようとするが、進藤の脚が挟まれていて拒む事が出来ない。 進藤が奥まで手を入れ下着の上からそこを触ると既に熱く湿っていた。 「ふぁあんっ・・あぁ・・はぁあんんっ」 何度か指を這わせて擦ると、たまきは耐え切れず声を大きくした。 下着も付けたまま、服もほとんど着たまま、たまきは顎を仰け反らせ息を荒げ喘いでいる。 その欲情的な姿に進藤も多少は興奮しているようだったが、 一考に無言で冷たくたまきの身体を見つめている。 「あぁんっ、あっ、ああ・・はぁぁ・・ぅんんっ」 下着の中に指を入れ敏感な所だけを擦り転がすと、 たまきは膝をガクガクと震わせ必死に進藤にしがみ付く。 「・・んんっ、もうっ・・っんぁぁああっ」 耐え切れず、進藤の身体から手を離し体勢を崩したが、 進藤はたまきの身体を支えようとはしなかった。 たまきはそのまま床にペタリとへたり込んだ。 朦朧とした意識の中で、見上げると進藤が冷たく突き放したような目で見下ろしていた。 「・・はぁ、はぁ・・・なんで・・・・・?」 目に涙を溜めてたまきが進藤に尋ねる。 進藤もしゃがみそっと手を伸ばすと、無数の赤い跡ががある首筋に触れた。 「え・・?っきゃぁ!!」 次の瞬間、たまきを押し倒すと床に組み敷き、 覆い被さるように唇を奪うと舌をねじ込んだ。 「んん――っ、ぅんっっ、ぃやぁっ、んふぅ」 たまきの眼から涙が零れこめかみを伝う。 怖い・・まるで別人みたいな彼が、怖い。 「・・んはぁ、ぅぅ・・はぁ・・・こ、怖い・・あなたが怖い・・」 ぽろぽろと涙が肌を伝い髪を濡らす。 「・・何か言ってよ、怒ってるの?・・ねぇ・・」 進藤の瞳が少し揺れる。目を逸らしてばつの悪そうな表情をする。 「・・夕方、エントランスで、おまえが知らない男といた。」 「見てたの・・?」 「お前の腰に手を廻して、そいつの車にのって・・」 「ぁ、あれは・・・」 「他の男が、おまえの体に触れた・・・」 たまきの首筋にある無数の赤い跡の一つに触れた。 「あっ・・・」 「・・・俺は、それを許せない」 今日、正確には昨日の帰り 心臓外科の同僚に食事に誘われた。 仕事の話をしたいと言うから、断りきれなかった。 私も迂闊だったと思う。 食事の帰りに、車の中で・・ あのキスマークはその時付けられたものだ。 もちろん、その後相手の男はぶん殴られたのだけど。 あぁ、まずった・・ 「ごめん・・なさい・・」 それであんなに酔っ払ってて・・ 「・・気づいてたの、だから・・?」 「いや、・・俺もどうかしてる。 ここに来て・・それに気づいたら余計・・・頭に血が上って・・」 「大丈夫よ。何もなかったわ。むしろあの男が被害者よ。」 「え?」 泣き腫らした顔で笑って見せた。 彼もつられて笑みをこぼす。 「ねぇ、もうゆるして」 少し考えて、進藤が不敵に笑った。 「やっぱり、許さない」 「…だって…」 文句を言い返そうと、だが、やはり自分が不利だと気付き言葉を飲み込んで それでも、何か言ってやろうと思ったのだが、後が続かない。 悔しそうに口唇を噛み、拗ねた様に睨み付けてくる眼を正面から捉えて一言、 追い討ちをかける様に言い放つ。 「何だ?」 「だって…。―もういいわ。もう、やめましょう」 悪いのは自分だと分かっていはいるのだから、謝ってしまえば良い。 でも、何だかそれも悔しくて、小さく息をついた。 「お前はまだ、納得していないんだろう?」 わざと面倒そうな顔を作り、低い声で返す。 「―っ、だから・・・もう良いのよ。」 彼の不機嫌そうな様子に少し怯んでしまう。 一昨日の朝、隣で眠る彼女へ声を掛けずに出て行った。 彼女が出勤して来た頃には急患が多く、お互いに処置室やら外来当番、第一外科と すれ違い続けたまま殆ど顔を合わせる事も無かった。 忙しさの合間に休憩へと医局を出て行く彼女と一瞬眼が合い、 屋上で、と無言の会話をし、自分も向かおうと階段を登っていると、 他科のナースから声を掛けられ、その場で少し話し込んでいた。 その時、彼女が呼出し用のPHSを片手に上から駆け降りて来た。 視線をこちらへと一度投げ、そのまま横を通り過ぎてICUへと足早に行ってしまった。 その後も忙しく、漸く家へ帰って来ると、自分より少し先に戻っていた彼女の機嫌が悪かったのだ。 救命のナースとさえ必要以上の会話をしないのに、仕事の時には絶対にしない表情をしていて 親しげに見えたのだと。 自分が上に居るのを知っていたのに、あのナースとは何の話をしていたのかと問われ、 たいした事では無いと軽く流したらそう言われた。 本当は、付き合って下さいなどと言われ、驚きつつも断ったら 「分かってました。香坂先生ですよね?いつも見ていて気が付いちゃいました。 進藤先生、本当に愛おしくってしょうがないって眼で香坂先生の事見てますよ?」 なんてからかわれていたのだが、そんな事は照れ臭くて言えない。 仕事柄すれ違いが多いのは分かっている。少し寂しかったりはするが、 そんな事が不満なのでは無い。彼の言う通り大した話では無かったのだろう。 ただ、病院では見ることの出来ない、それでも私だけには見せてくれるプライベートな表情を、 どういう経緯かは分からないけれど、あのナースが引き出したのは確かだ。 そしてそれは、仕事の話では有り得ないであろう。 ならば、私との時間を優先して欲しかった。 目覚めた時にはもう一人で、次に見たのは仕事の顔。ほんの一瞬で良い、 私だけの優しい目と声で、名前を呼んで欲しかった。詰まる所、私のエゴだ。 どうして、ただ貴方が恋しかっただけだと素直に言えないのだろう。 自分の可愛気の無さと彼の不機嫌そうな態度に、涙が滲んでくる。 押し黙り、今にも泣き出しそうな彼女を、腕の中へと引き寄せた。 「お前が気にする様な事は何も無い。どうしたら納得してくれるんだ? それから、言いたい事があるなら、ちゃんと言え。」 ポンポンと背中を軽く叩きながら、言い聞かせる様にすると彼女も自分へと腕を回してきた。 暫くそうしていると、潤んで真っ赤になった眼で伺う様に顔を上げ、消え入りそうな声で言う。 「名前を呼んで・・・」 そんな彼女にどうしようもない程の愛おしさが込み上げてくる。 濡れた睫毛に、頬に軽くキスをすると、涙を拭ってやる。 髪を梳き、唇が触れるか否かの距離で問う。 「それだけで良いのか?」 すると触れるだけのキスを返して、照れたように上目遣いで甘える。 「もっと、キスして・・・」 「キスだけで良いのか?」 「・・・貴方の全部を頂戴?」 素直に抱いてと言えない、彼女の精一杯のセリフが、自分の理性を突崩す。 一気にソファへと押し倒すと、深く口内へ割り入る。 彼女の息があがったところで一旦解放し、服を脱がしにかかる。 自分もシャツを脱ぎ捨て、もう一度キスをしようとすると、彼女が弱く抵抗する。 「待って、ここじゃ明る過ぎるわ。」 「その方が、良く見える。俺の全部を欲しいんだろう?俺にもお前の全部を見せてくれ。」 リビングのソファの上で事に及ぼうとしている彼に訴えると、サラリとかわされてしまった。 でも恥ずかしいからと、ベッドへ連れて行ってくれる様お願いしたのだが、ダメだと笑う。 「一人で考え過ぎて、突っ掛ってきた罰だ。我慢しろ。」 言いながら、唇を指先ですぅっと縁取ると、先程までよりも熱っぽい視線と声で、 ダメ押しの様に名前を呼ばれた。 「たまき・・・」 ふっと柔らかい微笑で手を伸ばしてくる彼女が嬉しそうに言う。 「3日振り・・・。一生。ね、もう一回呼んで。」 「たまき。」 同時に胸へと触れる。 「あっ・・」 髪をかき上げ、襟足の辺りへ痕が残る様に吸い上げる。 「ちょっ、ダメよ・・・。」 「髪を下ろしてれば、見える事は殆ど無い。」 「やっ・・だからって、んっ!ダメだってば・・・」 痕を付けられる事をあまり好まない彼女は、逃げようともがいているが、 腕の内側に、胸元に、背中にと痕を残してゆく。 同時に体中へ手を這わせ行う愛撫で抵抗が弱くなった頃、その白い肌に散る紅い痕を 上から眺めていると困った様に見上げてくる。 「嫌だって、言ってるのに・・・。」 「服を着れば見えない所にしか付けてない。」 「そういう問題じゃなくて・・・。ぁ・・んっ!」 「じゃあ、構わないだろ。それに罰だって言ったろ?」 「・・はぁっん。――罰って言うのも止めて・・・」 会話をしながらも胸を弄び、肋骨に沿い舌を這わせてゆく。 「ん・・ぅん、あぁ・・・」 ただでさえ、明るい中での行為は恥ずかしいのに 罰なんて言われると、何だかイケナイ事をしている様な気になる。 痕を付けられるのだって、何故と問われれば口籠ってしまうけれど その痕を見る度に思い返しては体が熱を持ち、もどかしい感覚に捕われてしまい どうしようもない羞恥心が込み上げてくるのが堪らないのだ。 そんな事を思っていると、彼の行為はどんどんエスカレートしてくる。 いつの間にか彼に背中を預け凭れる形で左腿の上へ跨る様に座らされ、 支える様に左側の腋の下から回された手は胸の先端を摘む。 首筋に、肩に、こめかみに、小さなキスと舐る行為を繰り返され、顎が上がると 晒された喉元にも舌が這う。 掴まる所が無くて、回された腕に縋り付く。 彼の息遣いが耳を掠める毎にぞくりとし、体の奥から熱いものが零れ落ちては デニムの生地へ染みを作る。濡れて色が濃く変わってゆく部分が広がるのを見たくなくて 眼を硬く閉じると、右手を執られ自分の中心へと導かれた。 「―ひゃあ!?・・ん、ぁあっ!」 彼女の手に自分の手を重ね、意のままにその指を操りながら、 彼女の弱い所をいつもと同じ様に刺激する。 「分かるか?俺はいつもココをこうやってるんだ。」 「やぁ・・んんっ。あ、ぁ・・・っ!」 「こうするのも、弱いんだったな。たまき・・・」 耳の内側を舌でなぞる様にしながら囁くと、自分と彼女の指を重ねて、その奥へと挿し入れた。 「あっんぅ・・・やぁ!やめ・・て。いっ、せい・・。」 彼女自身の指に、教える様に内側を擦る。 軽く掻き混ぜる様にゆっくりと抜き差しさせると、その度に水音が響く。 体を捩りイヤイヤと首を振るが、力がまるで入っていない。 「嫌・・んんっ。ぁっ、あぁ!――い、やぁ。ね・・ぇ、抜い、て・・・?」 「しょうがないな、言っただろう?罰だって。」 低い声で笑いながら言うと、わざと内壁を抉る様にして指を抜いてやった。 自分の指で内側を弄るやり方を教えられ、自慰を手伝われているかの様な状況に 強烈な羞恥を感じているのに、切ない程の疼きは増すばかりで、彼と自分の指を逃すまいときつく締め付ける。 早く抜いて欲しいのに、体は求める反応を示す事が、さらに感覚を鋭く煽る。 「−っんあ、ぁあっっ!」 指が抜かれると同時に強く擦られ、頭の中が白く塗り潰される。 息も整わぬ内に名前を呼ばれて眼を開けると、ニヤリと意地悪そうに笑う。 ソファへ座らされ、彼は床に下りて私の脚の間へ割り入り、正面へ両膝をついて 眼の高さを合わせる。まだ、回らない頭でぼぉっと見ていると、右手を眼の前に 持ち上げられ、自分自身の快楽の印でテラテラと濡れている指を、眼を見つめられたまま 舐め上げられた。 手を引こうとしても強い力には敵わず、視線を逸らす事も何故か出来ない。 口腔内に含まれては丹念に舌で辿られ、指先を甘く噛まれる。それだけで十分に快感が走る。 再び昇り始める体は、彼を求めてやまない。 それなのに今度は開いた下肢の間へ頭を埋め、舌を這わせてはこちらを見上げて眼を捕らえられる。 「一生ぇ・・・。もう、わ、たし・・、ぁっ・・!ね、ぇ、焦らさないでよ・・・。」 溜まってゆくばかりのもどかしい感覚と、激しい羞恥心におかしくなりそうで、懇願する。 彼女が達しそうになると、全ての愛撫を止めた。 急に無くなった刺激に、切なく訴える様に眉を寄せる。 「どうした?言いたい事はちゃんと言え?」 「・・ご、めんなさ、い・・・。」 「何がだ?」 「さっき、変に、文句・・言って、嫌な、気持ちになったでしょう・・・?」 何だってこんな時にと思いながらも、肩で息をしながら叱られた子供みたいに言う彼女の頬を撫で、 気にしてないと告げる。 「でも、いつも、ちゃんと誤らないで、コーヒーで誤魔化したり・・・。ちゃんと、謝らなきゃって、 いつも思うんだけど・・・。だから、ごめんなさい・・・。」 快楽の途中で小刻みに震えながらも詫びる彼女に苦笑が漏れ、頭をくしゃりと撫でてやる。 「まったく、お前は・・・。――あのナースにはな、お前を見る眼が違うって、からかわれてたんだ。 参るだろ?病院じゃ完璧に気持ちを切り替えてるつもりだったのにな・・。お前のせいだ、責任とれよ?」 彼女の口から次の行為を求めさせようとしたのに、自分が煽られる形になってしまった。 それでも、まだ最後まで逝かせてはやらないと、彼女の内腿の付け根近くへと痕を付けてから、深く唇を貪り 胸を捏ね回し、体の中へと指を挿れそれを動かす度に、膨れた先端を掌で覆うようにして同時に擦る。 塞いだ口の中でくぐもった彼女の声が苦しそうに漏れる。 浅い位置でスピードを上げた指に、ビクビクと腰を跳ね、深く侵入させていた舌を強く噛まれた。 くたりと自分の肩に顎を乗せて惚けている彼女を床へ下ろし、組み敷いた。 謝る事が出来たからか、快楽に翻弄され思考を繋ぎ止めようとしても、流されてしまう。 また、一人でイかされてしまった。 けれど、体の奥に空洞が出来た様に、満たされない場所があるのを感じて、心許無さに彼へと縋る。 「――貴方が欲しいのよ。全部くれるって言ったじゃない・・・。ねぇ、一生?」 彼女は気付いていないが、結局彼女には敵わないのだと自覚しながら、そろそろ自分も限界だと 自身を彼女へと埋める。緩やかに中を愉しみながら、蕩ける様な表情と甘い啼き声を晒すのを あと少し見ていたいと思い自分を抑える。 「ぅん・・んっあ、いっせ・・い?もっと、ち・・か、くに来て・・・。あんっぁ!」 哀願するその眼は誘うように艶めいて、やっぱり敵わないと諦めた。 奥深くまで激しく突き上げ、隙間無く体を密着するようにきつく抱き締める。 腕の中で一際高い声を上げ、全身を波の様に震わすのを確認すると同時に、最後の理性を放った。 疲れ果て眠りに落ちた彼女をベッドに連れて行くと、そっと呟く。 「心配しなくても、十分過ぎるくらい惚れてるから、あまり俺を煽るな。お前の体が持たないぞ。」 起きている時には言ってやれないけどなと、自分を哂うとその体を抱き込んで自分も眠りについた。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |