言って
進藤一生×香坂たまき


彼女の様子がどこかおかしい、と
そう思った。

気付いたら、たまきはよそを向いてシーツを手繰り寄せている。

未だ背中に愛撫のようなものをしているというのに
突如、どういう訳かその手を払われた。

何かあったのかと問えば、何もないと、返す。

こうなればもう頑なきだんまりを決め込んでしまうのは、目に見えていた。

仕方なく、反応が返ってくるまでと、今し方濡れたばかりのたまきの太腿へ指を這わせる。

すると確かな感触が指先を通して感じられ、ぴくりと、身を縮めたのが判った。

身体は正直なものだと、更に密なる部位に指を忍び込ませようとすると
たまきの妙に苛立った声が進藤を制止させた。

「…もう止めてよ。私寝てしまいたいの」

「眠る?このままでか?」
「そうよ、このまま眠らせて」

「何故だ?」

聞いても、返事は返ってはこない。

いつもなら一度の情事の後でも、気だるそうとはいえ、求めれば応じてくれる。

サラリと垂れたたまきの黒髪を指で流し、間から現れた白いうなじに口付けてみても、彼女の返事は得られなかった。

たまきの背後から腕の間へと手を滑り込ませ、柔らかな乳房をこの掌に感じる。

触れることで得られるこの肌の弾力や、顔を近づけることで気付く髪の香りが、進藤を再び昂ぶらせ
たまきの怒っている理由など、そんな事はもうどうでもよく思ってきた。

彼女の後ろから、その首筋や細い肩、華奢な肩甲骨へと唇を這わせ、舌を滑らせる。

たまきは、自分の目の届かない所が、一番感じると、知っているから

余所目に見ても、明らかにたまきの頬は再び赤く染まり、濡れた唇から出てくる吐息は艶を持ってきている。

少しずつ上がっていく彼女の声のトーンに、熱を持った進藤はそれをそのままたまきに押し付けた。
不自由な体勢に些か難儀するが、シーツの間に滑り込ませた腕でたまきの腿を持ち上げてしまえば問題はなかった。

途端に、甘い声が部屋に響く。

「何も言おうとしないのに、そう云った声は出るのだな」

「んっ…あっ……やめ…はぁぁッ……あ、一生……ッ」

「中は蕩けている。止めろと口では言ってみても、身体は止めたがっていない」

「ひぁっ……ッ…だって……2回、め……ああっ……!」

右腕でたまきの脚を支えたまま、左手の指先で、彼女の一番敏感な部分へと刺激を加えた。

ビクリと身を震わせ、声にならない声を上げながら閉じられた瞳から涙を零す。

がっちりと固められた進藤の腕の中で身体を強張らせ、たまきは達した。

が、ここで止める気など進藤は毛頭無い。

立て続けに大きく、彼女の奥へと打ち付ける。目の端に映ったたまきの右手は、皺がつくほど硬くシーツを握り締めていた。
いつもなら自分に抱き着いているのに…
そんな事を思いながら進藤はたまきをうつ伏せに寝かせ、両手でその細い腰を抱いた。

先程よりも数段強く奥へと差し込み、ぎりぎりまでそれを引き抜いて、また打ち付ける。

まるで気が狂ったように、たまきは首を振り、声を上げた。

兎に角縋れるものには縋らないと耐えられないのか、目の前にあった枕を掴み、襲いくる快楽に耐えている。

何故、耐える必要があるんだ。

腰に添えていた手を、指先を、彼女の背へ滑らせた。それだけで、今のたまきは更に高い声を発する。

「いやっ…いやぁッ!!一生…ッ……やめッ…て……あぁぁ…ッ!」

「誰が…此処で止めるものか……」

「駄目ッ……あぁっ…駄目……あ…あたし…ッ…いやぁぁぁぁ……ッ…!!」

最後の声は枕に押し付けられ、くぐもっていた。

流石に息の上がった進藤も、たまきの上へそのまま折り重なるようして倒れこんだ。

それでもまだ、達した熱は彼女の中で脈打ち、注ぎ込まれていく。

「……お前は一体…何が不満なんだ………」

目を瞑ったまま、彼女にそう問いかけた。

何が彼女に足りないと言うのか、判らなかった。

乱れきった黒髪を指で梳いて暫くその答えを待ってみたが、中々彼女の唇からは聞き出せない。
何度も何度も指を通してみたが、何時までたっても答えは出なかった。

5分経ったか、10分経ったか、進藤が身体を離した時、たまきも自由になった身体を仰向けて天井を見つめた。
それを見つめていると形の良い眉が段々と寄せられ、たまきはその両の瞳を、自身の腕で覆い隠したのだった

「…一生……」

「……何だ…」

「…ねぇ……」

「だから何だ…?」

「……言ってよ…」

「…何を…」

「言ってよ!」

何を言ってもらいたいといっているか、進藤には判らなかった。

彼女の事だ、まさか好きだの愛しているだのという言葉は、決して要していないはず。
だが突然涙を流したたまきの姿に面食らい、進藤は思わず身体を起こした。
声を漏らさぬようにか、終には口元にまで手を当てて泣き続けている。

一体彼女の中に何が起こったのか、進藤には判らない。
しかし判らないままで居るのでは、気が済まなかった。

上を向いたままの顔をこちらへ向けさせ、顔を覆っていた両手も強く掴んで引き剥がした。

「たまき……何をそんなに…」

「もっと…もっと言って………」

「だから何をだ…?」

そこまで口にして、ようやく気付いた。

「たまき」

「もっと…」
― 私の名前を、呼んで。お前ではなく、私の名前で
そう、小さく呟いた。

「悪かった…たまき…………」
泣かせた罪悪感からか、力いっぱい抱きしめた
そして耳元でたまき、と
名前を囁いてやるとたまきはくすぐったそうに笑ったのだった。






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