進藤一生×香坂たまき
![]() 「やっぱ、香坂先生は綺麗だよなぁ!」 「矢部君それ、毎日言ってるじゃん。それに香坂先生が綺麗なのはいちいち言わなくても皆分かってるよ。 でもこの頃、特に綺麗ですよね?」 相変わらずの矢部に呆れながらも、太田川が医局に居る他のメンバーへ話を振ると、珍しく城島先生が話しに乗った。 「確かに。それに最近、なんてゆーか妙に色っぽいよな。矢部じゃなくても眼が行くって言うか。別に変な意味じゃなくて。」 「やっぱり、そう思います?私もこの間、つい見惚れてしまって、不思議そうな顔で見つめ返されちゃいました。 ナースの間でも話題なんですよ!香坂先生、恋人が出来たんじゃないかって。」 そこへ桜井が口を挟むと馬場先生も思い出したかの様に言う。 「そーいや最近、前にもまして本性知らない他の科のドクターだの、患者だのが、結構マジで口説いてるよな。」 「しかも時々、思い詰めた様な切ない表情で溜息吐いてますよ、香坂先生。進藤先生はどう思います?」 城島先生が自分へ話を向けると、そこに居た全員が興味深々といった顔でこちらを見る。 「・・・特に、何も。」 そう言うと医局を後にした。 近頃、彼女に避けられている気がする。 付き合い始めてまだ五ヶ月程度だが、すれ違いが多い仕事の為、出来るだけ二人の時間を持てる様、 病院から比較的近い自分の部屋の合鍵を渡してある。 少し前までは彼女もそれを使い、自分が居なくても、ほぼ家で生活をするようになっていた。 けれどここ最近、わざと自分とすれ違う様に仕事を組んだり、何かと理由を付けては自宅へと戻って行く。 あからさまに逃げる訳でも、自分に対して何か怒っている訳でも無さそうだが、 二人きりになるのを極力避けているといった感じだ。 心当たりは何も無い上、理由を探ろうにも彼女がそうやっている以上難しい。 そうして彼女が家に来なくなって十日が経とうとしている。 彼女が家へと帰って来ても、数時間足らずしか二人で居られない事の方が多く、 不規則なシフトの為に、短い睡眠を取る彼女の寝顔を見るだけの日だって珍しくは無い。 実際、一・二週間彼女を抱く事が出来ない事だってままある。 けれど、避けられていると感じるこの状況に、我慢は限界に近付いてきている。 たかが十日程度で思春期でもあるまいし、と自分を嘲ながらも、どうしたものかと考える。 溜息を吐きながら資料室の扉を開けると、そこには彼女以外誰も居なかった。 幸い今日は患者が少ない上、もうすぐ上がりの時間だ。このチャンスを逃がす訳にはいかない。 自分を見てさり気なく出て行こうとする彼女の進行方向を塞ぐ。 「何だか、久しぶりだな?」 試す様に問いかける。 「そうかしら?殆ど毎日会ってるじゃない・・・。」 少し慌てた様子で、けれど意味が分からないと装っている彼女の肩口を捉え、本棚へ押し付けた。 「ちょっと、何なの?離してよ。」 そう眉を上げるのを無視して更に近付くと、肩から腕の側面を撫で下ろし指を絡めた。 「今日はもう上がりだろ?家で待ってる。」 「でも、今朝運ばれて来た患者が気になるのよ。心疾患だし、私の専門だわ。だから、行けるか分からないわ。」 視線を泳がせ、空いてる方の手で自分を押し退けようとする彼女に、漠然とした怒りに似た感情が湧き上がってくる。 「あの患者ならもう落ち着いた。お前の専門だ、分かってるだろ?」 そう言うと深く口付ける。逃げる舌を追っては吸い上げ、歯列をなぞる。唇を貪りながら、 絡ませた指をそのままに、親指で掌を弄り、もう一方の手は服の上から体中を撫で回す。 彼女の呼吸が上がりきった所で解放してやると、床へと崩れ落ちてゆく。 横座りにへたり込み肩で息をしながら、絡め捕ったまま放してやらなかった手を解こうと 弱い力が掛かるが、意味をなしてはいない。 俯いたままこちらを見ようともしない彼女に、自分もしゃがみ込むと サラサラと流れ落ちて表情を隠す髪を耳に掛け、頬を包むと顔を上げさせる。 「−っ・・・!」 瞬間、小さく息を飲む音が聞こえた。 涙を湛えた眼は赤く、眉は当惑した様に寄せられ、唇は薄く開きわなないている。 情事の最中に見せる表情の様にも、酷く怯えている様にも見える、 その過剰なまでの反応に驚きはしたが、このまま押し切ることにした。 「どうした?」 「−ゃっ、・・・触らないで。お願い、離れて?」 眼を逸らしたまま、小さく掠れた声で言う。 そんな願いは聞いてやれない。何故、自分を避けているのか訊き出さなくては、 治まらないストレスが彼女の拒絶の言葉に募るばかりだ。 頬から指を顎先まで滑らせ、掬い上げると伸びた喉元をそのまま辿り、鎖骨の窪みをなぞると 掌でその細い首の付根辺りから後頭部を包み込む。 もう一方の手は、踝から脚を辿り腰へ回し、ぐっと引き上げ立ち上がらせると、 背にした本棚から一歩引き離す。 「やっ、ねぇ、離して。誰か来たら・・・」 一人で立っていられない彼女は、嫌だと言いながらも、自分の胸元へ凭れ掛り術着をぎゅっと掴む。 「大丈夫だ。」 「何がよ!?−んっ、ぁ!」 スカートの裾から手を侵入させると、下着の中へと指を入れ、トロリとしたそれを絡め取る。 多少煽る様に嬲ったのは自分だが、既に溢れる位に零れ出しているそれに驚き、先程から やたらと過敏な反応をみせる彼女の目の前に、その濡れた指を見せ付けると、 微かに赤味を帯びていた肌が、その色を増す。 「どうしたんだ?そこまでの事はしてないだろ。もう、我慢出来ないんじゃないか?」 「な、そっ、そんな事ある訳無いじゃない!」 「なら、もう少し俺に付き合え。安心しろ、さすがに最後までしようなんて思ってないからな。」 「えっ・・?ちょっと!ねぇ、ダメよ。お願い、離れて。ここ病院っ・・!」 すっかり腰が立たなくなっているにもかかわらず、自分から逃れようとする彼女の耳を 甘く噛むと、息を吹き込む様に低く告げる。 「なら、続きは家でだ。明日は休みだろ。いいな?帰って来い。」 背を本棚に預けられる距離まで戻してやると、少し惚けた眼をして震えた脚で辛うじて 立っている彼女へ、ダメ押しと、どちらかと言えば自分の為の忠告をすると部屋を出て行く。 「帰って来なかったら続きは病院でだ。それから、歩ける様になったら、他のスタッフに あまり会わない様にして直ぐに帰れ。いいな?」 あれから程なくして医局へ戻って来きた彼女は、お先に失礼しますと俯き加減で言い、 足早に病院を出て行った。すれ違いざまに彼女の横顔を見送った婦長が、誰へとも無く溜息と共に言う。 「最近の香坂先生、一段と綺麗よねぇ。」 その言葉に他の者達がさっきもその話をしてたのだと、また盛り上り始めた。 「でも、今の香坂先生、何だか今朝より色っぽかったなぁ!」 矢部が嬉しそうに言っているのを聞いて、そこに居た全員が頷いている。 チリチリとした苛立ちが積もるのを感じて、自分も帰るべく医局を後にした。 家へ戻ると、彼女はまだ帰ってはいなかった。自分より先に出たのに何故と、 また少し憤りを感じる。けれど、もう少し待ってみようと電話を掛ける事はせずに、シャワーを浴びる。 缶ビールを片手にソファで溜まった新聞に目を通していると、インターホンが鳴った。 モニターで確認すると玄関へと向かい扉を開けてやる。 「鍵は持ってるだろう?」 「持ってるわ、でも・・・。」 「まぁ良い。入れ。」 彼女の背を押して、招き入れる。 俯いて立ち尽くしている彼女へコーヒーを入れてやり、座れと促しその隣に腰を下ろす。 「最近、どうしたんだ?」 彼女の髪へ手を差し込み撫でる様にすると、体を強張らせたのが分かった。 それと同時に柔らかい匂いがする。 「どうって、どうもしてないわよ?」 小さな声で答える彼女へ更に近付くと、項の辺りへ鼻を摺り寄せる様にする。 「風呂に入って来たから遅かったのか?わざわざ自分の家に戻る事無いだろう?」 そのまま耳の裏側へと口付けると、後ろから抱き込める様に引き寄せる。 「貴方が、あんな事するから・・・。」 「凄いびしょ濡れだったよな、お前。」 「――っ、貴方の所為じゃない!何であんな事したのよ。」 「お前の所為だ。何で最近家へ帰って来ない?」 「何でって、仕方無いじゃない、仕事よ。知ってるでしょう。」 「避けてるだろ、俺を。何かしたか?」 後ろから抱き締め耳元で会話を続ける間、膝の上でぎゅうっと拳を握り締めていた彼女が 身動ぎをするので、腕を緩めてやると立ち上がり、真剣な顔をしてこちらへ向いた。 「貴方は何もしてないわ。ただ・・・。」 きゅっと微かに唇を窄め、切な気に眉を下げ瞳を揺らす。 その彼女の艶やかさに、医局での皆の会話を思い出す。 ―恋人が出来たのではないか?近頃、避けられている。真剣な面持ちの彼女。 資料室での拒絶。お前と連呼しても怒らない。否、怒れない? 他の誰かへと心変わりしたのか?それを言い出せずに思い悩んでいる? キリキリと胃の奥が痛みだす。ムカムカする。 「ただ、私がーーーっんぅ!」 言葉を続ける事を躊躇い、それでも何か決意した様にもう一度口を開いた彼女の唇を強引に貪る。 必死で逃れようとするのが苛立ちを増幅させる。 華奢な体が砕けてしまいそうな程強く抱き締め、ひたすらに狭い口内を犯し続けながら、 引き裂く様にワンピースのファスナーを下ろしブラジャーのホックも外すと、腕を抜かせて足元へ落とす。 あらわれた素肌に掌を這い回す。 先刻の資料室と同様に、過敏な反応を示す体はビクビクと跳ね 塞いだ唇の隙間からは甘い吐息が漏れる。 膝が折れ崩れゆく彼女を抱え込む様に、自分も床へと座ると唇を解放してやる。 眼には涙が浮び、肩で息をしている彼女を押し倒し組み敷くと、まだ整わぬ呼吸で拒まれた。 「やっ、ちょっと‥待って!お願い、待っててばっ。」 「何でだ!?俺に抱かれるのは、もう嫌なのか?いつからだ!!」 「え?何、言ってるの?一生・・・?いつって、何が?」 「他に男が出来たんだろう?そいつと居る方が、幸せなんだろう?」 「何よ、それ!男って何?居ないわよ、そんなの。貴方と居るより幸せなんて有る訳無いじゃない!!」 ボロボロと涙を零して叫ぶ様に、自分の責め立てた言葉を否定する彼女にハッとする。 「何なのよ、他の男って、酷いじゃない・・・。どうしてそんな事言うの?」 「―お前、最近俺の事避けてるだろ?だから・・・」 「だから、違う男が出来たって言うの?」 「たった十日で、俺と居るより綺麗になった・・・。」 「・・はぃ?何よ、それ…。」 「矢部はともかく、皆が噂する位に急にだ。お前、仕事中でも妙に色っぽい‥。」 「ちょ、ちょっと待ってよ。えっと、皆が噂?て言うか、貴方どうかしちゃった?」 「どうかしたのはお前だろ。皆お前が一段と綺麗になったのは恋人が出来たからじゃないかって、噂してる。」 「――噂をされる程急に変わった覚えは無いわ。けど、その恋人って、貴方じゃないの?」 疑いを掛けられ怒りを含んでいた口調から、きょとんとした表情に変わり、まだ涙で濡れている眼で見詰られる。 どうやら勘違いをしていたらしい事は分かった。ホッとはしたが、まだ釈然とはしない。 身体を起こして、涙を拭ってやる。少しビクリと肩が跳ねたのは気付かない振りをした。 「じゃあ何で、俺を避けてた?」 すると、また少し迷う様にして眼を逸らしながらも小さな声で話し始めた。 「避けてたのはね、当たり。でも、他に好きな人が出来た訳じゃないわ。その逆よ。 一生の事、好きになり過ぎて、私の体おかしくなっちゃったのよ。だから、怖くて。それで逃げてたの。」 彼女の言葉の意味を探る様に、眼で先を促す。 「――だから、ね、貴方に抱かれる度に、もうこれ以上は無いって位に感じるのに、次の時には もっと良くなって、その次はもっと…。次は私どうなっちゃうんだろうって、初めの三日位はそれだけだったの。 でもね、だんだん貴方と眼が合うだけでドキドキして、ちょっと手が触っただけでも、何かもうダメで。 日が経つにつれて、どうしようもなくなって…。」 照れ臭そうに、赤くなりながら消え入りそうな声で説明をした彼女は、はぁと溜息を吐く。 殺し文句だ。 赤く上気した肌に揺れる瞳と震える睫、彼女が思っている以上の意味を持つその言葉に 先程までの苛立ちを含んだ独占欲とは比べ物にならない位の、衝動的なまでの愛おしさが込上げる。 「お前、自分が言ってる意味分かってるのか?」 くっと口元で笑うと頬を包んだ掌を、首筋から肩、腕と滑らせ手を重ねる。 またヒクリと身を竦めるのが欲情を煽る。 「お前はやめて!意味って、言ったままよ?」 これ以上、彼女に惑わされては堪らない。 「欲求不満って事か?なら、直ぐに解消してやる。」 「欲求不満なんて言ってないわよ!っんあ・・ねぇ、だ、から、あんまり激しく・・・ぁっん、しないで?お願いよ・・・。」 鎖骨に口付け片手は胸を柔らかく捏ね、もう一方の手は背骨を辿る。 「もっと良くしてやる。もっと乱れて良いぞ。だから、もう逃げるな。」 胸の下から膨らみに沿って舐め上げ、張詰めている先端を唇で軽く挟むと口内には含まず 舌先でチロチロと刺激を与える。片方はまだ捏ね回したままで、背骨を辿る掌はそのまま下ろし ショーツの上から臀部を撫でる。 「ふぁっ…はぁ、一生、ここはイヤ。んんっ!ベッドに、連れてって・・・。」 「分かった。ほら、しっかり掴まってろ。」 首元へ両腕を回させ、子供を抱き上げる様にしてベッドまで運ぶと、降ろす前にショーツを引き剥がす。 「グショグショだな。張り付いて気持ち悪かっただろ。」 わざと彼女にそれを見せると、ベッドの下へ落とす。 「やっ、そう言う事、言わないでよ。」 そう眉を寄せて下から覗き込む様に言われても、自分を煽るばかりだと思いながらも教えてはやらない。 自分も服を脱ぎ捨てると、彼女の上に覆い被さり深く口付ける。同時に下腹部へと手を伸ばし、 薄く柔らかいそれを梳く様にして、その下の裂け目に指を滑り込ませる。 一番敏感な所には触れない様に気を付けながら何度か擦ると、強請る様に腰が動く。 掠める様に引っ掻くと、もうずっと止めどなく溢れているのに、また零れて指に絡んだ。 一旦そこから手を離し唇も解くと、脇の下から横腹のくびれにかけてを舐め尽しながら、 反対側の同じ場所を掌で強弱をつけ撫で辿る。片膝に手を掛け胸元へ付ける様に曲げさせ、 踝へ脛に腿へと口付けを繰り返しながら、反対の伸ばしたままの脚の内側を付根に向かい何度も摩り上げる。 すると、緩く開く形で膝を立てた。 きっと無意識なのであろう仕草の数々が、彼女の限界が近い事を知らせている。 なのに吐息は漏らせど、声を上げない様にとまだ必死になって理性にしがみ付いている。 時々、我慢しきれずに細く高い声が唇を割るというのに。 この十日溜まりに溜まった鬱屈と、彼女が避けていた理由のあまりの可愛さに 征服欲が増し、いつもより抑えが利かないのを自覚する。余裕なんて無い。 両膝を大きく割ると、自身を断りも無く突き挿した。 「っああ!‥ふぁんぅ、んっ!…あ、あっ‥あぁ、一生…。」 彼女の内側は熱く、奥へ誘い込む様にまとわり付いてくる感触に眩暈がする。 上体を起こしたままで強く打ち込み続ける自分へ、手を伸ばすも仰向けに腰を捕られた彼女の手は届かず 空を掴むばかりで、耐え切れずにシーツへと戻り、それでもまた、何かを探すように持ち上げられる。 「あ・・・くっ、ぅん・・は、ぁあ・・・っ!ゃっ、一生?ん、やぁ・・いっせい・・・ど、こ?」 既に声を堪える事を諦めた彼女が、嬌声の合間に自分を呼び探す。その手を捕まえてやる事も出来なかった。 甘く啼く声と歪む表情に、繋がる自身をきつく締付けては波打つ内側の熱さに、自分の限界を縮められ、 快楽に溺れても尚、自分を求めてくれる心と体を惜しげもなく晒されて、焼付く様に痺れる感覚が昇り欲を放った。 「やっ、ぁ、いっせい‥んっあ、いっせい…あっ、ぅんんっっ!!」 頭の中に閃光が散るのと同時に、彼女も達したのを確認すると傍らへ倒れ込んだ。 自分の頭と体へ冷静さが戻ると、慌てて彼女を見遣る。 意識は未だどこかを漂っているのか脱力し虚ろな眼のままで、時折体を痙攣させる。 腕の中へ引き寄せ背中を擦ってやると暫くして、全身を押付ける様に摺り寄せてきた。 「一生…一生ぇ。もう、逃げたりしないから、だから、離さないでよ。そばにおいていて…。」 胸元に顔を埋めたまま、くぐもった涙声で訴える。 思わず力一杯に華奢な体を抱き締めると、さすがに苦しかったのか身を捩る。 「俺はお前を手放す気なんて無い。悪かったな、疑ったりして。それに、今のも無理させたよな。大丈夫だったか?」 「私こそ、ごめんなさい。貴方に抱かれるのが怖いだなんて言って逃げたりして。でも、あんまり大丈夫じゃないかも…。」 そう上目遣いで拗ねられる。 「欲求不満だったからな、俺は。お前のせいだから、諦めろ。」 「ねぇ、そう言えば、冷静な進藤先生を勘違いさせた皆の噂って結局何なの?」 「お前が最近、綺麗で色っぽいって話だ。」 「あなたもそう思ってくれたから、勘違いしちゃったって訳?それで怒ってたのね。」 「怒ってた訳じゃない。お前に避けられて苛々してる所に、皆でお前を見るから…。」 「妬いてくれたの?それで今日は強引だったの?貴方も可愛いトコあるのね。」 お互いの息が掛かる程の距離で、クスクスと笑い合い、低く囁く様に会話をする。 その間にも極僅かにではあるが、何度か擽ったそうに体を竦めるのが分かった。 「たまき。」 不意に名前を呼ばれて、明らかさまにビクリと反応を示す。 「もう逃げないんだったよな?」 「逃げないわよ…。でも、やっぱり、あんまり大丈夫じゃないのよ。」 「明日は休みだろ。まだ足りないんだ。それに慣れるしか無いからな。」 「…手。」 「て?」 「手、繋いでてくれる?さっきみたいに一人にされるのは、嫌。」 彼女の小さな願いが愛しい。 微笑みと共に、その細い指先にキスをして絡めると、幸せそうな瞳で微笑み返された。 抱く程に殊更美しくなって見えるのは、贔屓目だけでは無い筈だ。 また病院では彼女に魅了される者が増えるであろうと思うと、腕の中に閉じ込めていたくなる。 それが出来ないのならばせめて、どこまでも溺れさせてやる。 「たまき…。夜は長いぞ、覚悟しておけ。」 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |