進藤一生×香坂たまき
![]() 「ん…ちょっと待って。」 深く口付け、そのまま先へ進もうとしたら止められてしまった。 「何だ?」 とは言いながらも、ブラウスのボタンを外してゆく。 「今日は主導権、私にちょうだい?」 蠱惑的な微笑で、絡み付く様に首に手を回して小さなキスを数回された。 「ねぇ、いいでしょ?」 そう言うと寝室へと手を引かれ、ベッドへ座らされる。 自分の前へ立ち、何だか挑む様な風情の彼女が面白くて、少し笑ってしまう。 それを見て片眉を上げる彼女が文句を言い出す前に、口を開く。 「どうしたんだ?」 「たまには、良いじゃない。貴方は何もしちゃダメよ?」 細い指が髪に差し込まれ、分かった?と念を押す様に上から覗き込んでくる。 「ああ、好きにしろ。」 そう言うと、満足そうな笑みを向け、徐にブラウスを脱ぎ捨てた。 妖しげな眼差しで、ゆっくりと見せ付ける様にスカートも脱ぐと光沢のあるスリップをスルリと落とす。 現れたのは、見慣れた白い肌とディティールの綺麗な下着にガーターベルト。 普段から、パンティストッキングは嫌いなのよと生足でいるかガーターなので それ程珍しい光景では無いが、良く似合っていると言う事も手伝い、やはり扇情的だ。 ストラップの留具を外しベルトを取り去ると、一歩近付いてこめかみの辺りから後ろへ 髪を流す様に頭を撫でられ、触れるだけのキスをされた。 シャツを脱がされ、背中に胸板に掌を這わしては唇が寄せられる。喉仏に甘く噛付かれ、ベルトを外された所で ほんの一瞬、惑う様な眼をしたのを見逃しはしなかったが気付かない振りをしていると、全部脱がされた。 震える指先が自身へと触れ、ゆっくりと撫でる様に辿り、形を確認するかのごとく掌に包まれる。 彼女がこうやって自分へ触れるなんて、思った事も無かった。それだけで、硬さを増す。 そのまま膝の間へしゃがみ込まれ、先端へ軽くキスをされたその唇も、冷たく震えていた。 「たまき、どうしたんだ?お前、何か無理してないか?」 今の状況だけでも、十分に煽られているのに、これ以上続けられたら理性なんて保てそうに無い。 それに、彼女だって無理をしている様にしか見えない。 「無理なんか、してないわ。私がしたくて、してるのよ。」 声までも、微かに震えている。 「でもお前、こんな事した事無いだろう?何だって、急に・・・。」 「こうゆう風にされるの、嫌?」 不安そうな表情で、下から伺う様に訊いてくる。 「俺も男だからな、嫌じゃないが・・・。」 「なら、いいじゃない。――でも、やった事無いのよ。やり方、教えて?」 そう、首を傾げて甘い声で言う。どうしても止める気は無いらしい。 そんな彼女に、いつまで余裕を装っていられるかと内心思いながらも、ニヤリと口の端で笑い答えてやる。 「お前も医者だろ。身体構造は分かってるんだから、好きにやってみろ。」 意を決した様に、唇を寄せては舌先で舐める。指で弄られ、先を口内へ含まれる。 軽く吸われドクリとした感覚がソコヘ集まる。それを感じたのか、上目遣いに視線を寄越す彼女が更に深く咥え込もうとした。 辿辿しい仕草で、懸命に事を続ける彼女はまだ先を目指している。 苦しそうに眉を寄せながら、その細い顎で構成された狭い口内ではもう無理であろうに 深く奥まで舐るのが痛々しい程で、唇を外させる。 「あまり奥まで入れるな。苦しいだろう?もう、いいぞ。もう、十分だ。」 髪を撫でながら優しく微笑んでやる。 「気持ち良く無い?やっぱり、下手よね・・・。」 「上手くても困る。それに、ちゃんと気持ち良い。」 「じゃあ、させて?」 頬を染めているのは恥ずかしさからだけでは無いのだろう。 細く白い肩と骨の浮いた背中は滑らかで誘う様に揺れ、長い睫が瞬くのを上から見下ろすのは酷く良い眺めで 神経に訴え掛ける。自分が発する水音と時折漏れる喘ぐ様な吐息が恥ずかしいのか、極力音を立てずに吸付いている 様だが、それでも響くその音がやけに卑猥に聞える。 「・・・ふ、ぅっ・・。」 熱く重い溜息の様に、自分の呼吸が乱れ始める。 緩く強く吸われ、舐め辿られ、限界が近付いてくる。 軽く歯を立てられ、背筋を痺れる感覚が昇る。マズイと思ったのだが、遅かった。 「くっ・・・ぅうっ!」 達成感が残ったままではあるが、急いで彼女を見ると眉を寄せ、目を閉じてコクリと喉を鳴らしていた。 「・・・飲んだのか?」 涙目のまま頷く彼女の頬は、ほの赤い。濡れた唇の端に白いものが少し付いているのを拭ってやる。 「悪かった。不味いだろ、大丈夫か?」 「大丈夫よ。でも、これって苦いのね。」 微笑みながら掠れた声で言う。 力が抜けた様にまだ膝の間へ座る彼女を引き上げ抱き寄せると、ベッドヘッドへ寄り掛れる様に 枕をクッション代わりにして座らせ、ちょっと待ってろと自分は寝室を出た。 冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出し一口飲むと、ふぅっと息を吐く。 先程までの状況が、未だ信じ難い様な、けれど事実である事が自分の中にいつもとは違う熱を生み出す。 寝室へ戻るとベッドの上の彼女は、どこかとろんとした眼をしている。 「水を飲め。」 そう言うと、自分が一口含みボトルはサイドテーブルに置く。彼女の顎を掬い、親指で唇をなぞると開かせ 口移しで飲ませた。溢れて口の端から一筋、首元を伝い流れ落ちてゆくのを舌で追い、もう一度唇へと戻り小さく触れる。 「まだ、俺からは何もしては駄目なのか?」 「そうね、どうしようかしら?」 そう艶を含む声で微笑を浮かべ、視線を流す。 「さっきのお前も中々良かったが、やっぱり俺に抱かせてくれ。」 苦笑混じりで眼を覗き込むと、彼女も同じ様に笑った。 「私も、やっぱり慣れそうに無いわ。でも、さっきみたいな貴方を見れて、ちょっと嬉しかったのよ。」 「嬉しかった?」 「ええ。だって、いつも貴方の余裕が無くなる頃には、私、訳分かん無くされちゃうから・・・。 貴方のあの時の顔ってちゃんと見れないんだもの。」 普段も完璧ポーカーフェイスだし、と呟く。 「だから、急にあんな事したのか。まったく、お前には参るな・・・。でも、分かってるんだろうな? これだけ俺を煽っておいて、ただで済むとは思うなよ。」 投げ出されている脚を撫で、ゆっくりと慎重に薄いストッキングを脱がしてゆく。その素足の指先へ キスをすると、もう一方も脱がし、また口付ける。そのまま少し高く持ち上げて踵から膝の裏までを丹念に 唇で辿ると、腰を掴み引っ張る様にベッドヘッドから離して仰向けに摺り下ろす。 残りの下着も取り払い、額にキスをすると宣告してやる。 「お前のおかげで、一回分の余裕はあるからな。その分、お前が頑張ってくれよな。」 「えっ、と・・・それは無理だわ。お願い、手加減して?」 「駄目だ。体は一回分の余裕があるってだけで、気持的にはいつもの倍だからな、それこそ余裕なんて無いぞ。」 「倍って・・・。ねぇ、ホントにお願いよ。いつも以上なんて、絶対無理よ。」 これから自分の身に起こる事を想像したのだろうか、肌は赤味を帯び熱を持ち始め、眼を潤ませてたじろく。 自分の体とシーツとの間に閉じ込められ逃げ出す事など出来ない彼女は、おずおずと背中へ手を回してくる。 左腕の肘を顔の横へ付き、右手は耳を包み込み親指で形を確かめる様に弄っては指先で首の後ろを撫でながら 何度もキスを繰り返す。軽く触れ、啄ばみ、舌で縁取る様になぞり、また小さく触れる。 僅かに開いた唇を割る事はせずに、鼻先へ、瞼へ頬へ、こめかみに耳朶に触れ、額を寄せ睫を揺らす様に 息を吹き掛け、唇へ戻ると小さく音を立てて離した。 緩やかに回されていた腕は巻き付く様に力がこもり、触れるだけで離れてゆく唇を名残惜しそうに僅かに首をもたげた。 閉じられていた眼が開かれると、指先で唇をなぞり口内へと侵入させ好きに掻き回す。 「たまき。」 再び閉じられてしまった眼を名前を呼ぶ事で開かせ、強い視線で捕える。 「さっきみたいに、してみろよ。」 瞬間、眼を見開き、指を咥えさせられたままで喋る事も儘ならない彼女は、訴える様に瞳を揺らした。 「出来るだろう?」 上顎を指の腹でゆっくりと擦り上げ、低い声で促すとゆっくりと舌を動かし始めた。 吸付き舌で辿る彼女の口から、わざと指をぎりぎりまで引き抜く。すると顎を上げたり、頭をシーツから浮かせては 追いかけてくるが、それにも限界がある。遣り辛いのであろう、離されるのを厭う様な表情を見せたかと思うと、 背に回されていた腕が解かれ、手首を掴まれもう一方の手で指を伸ばされた。 親指の付根に吸付かれ、そこから掌を唇が辿り、中指の爪を噛まれる。丁寧に隈なく舌を這わせては歯を立てる 彼女は既に朦朧とし始めていて、その行為に耽る。酷く淫猥なその姿をきっと自覚などしていないのだろう。 上体を起こし、少し強めの力で手を引き離すと、執着している物を取り上げられた子供の様な眼を向けられた。 「ぁっ…。」 指が抜かれると同時に小さな声が上がる。唾液に濡れたその手で彼女の中心へと触れると、熱いものが溢れていた。 「今日はまだキス位しかしてないのに…、お前、する方が感じるのか?」 「んっ、やぁ…!」 そこで漸く、夢中になって指をしゃぶっていた事への羞恥が湧き、自分の体がかなり差し迫った感覚を示すまでに なっている事に気付いたのか、真っ赤になった顔を背ける様に体を横へ向け小さく丸まる様にシーツに頬を摺り寄せ握り締めた。 横に向いた事で細い身幅と滑らかな曲線が強調され、シーツを握る手は力が入り過ぎて小刻みに震えているのさえ艶かしい。 腿の間に片膝を入れ閉じられない様にし腰を押さえ付けると、それでも顔をこちらへ向けたく無いのか、上側の脚を曲げ立て 背中を更に丸めてそのままシーツへしがみ付いている。脚の間へ指を滑らせ、肝心な所へは触れずその周辺を弱く弄りながら 背中を撫で舌を這わすと、触れる髪が新たな刺激となるらしく思わぬタイミングで声を上げる。 「…ふ、ぁ…んっ。はぁ‥んぅ、ぁ、あっ…やっ。」 肩を押し仰向けに戻すと脚を大きく開かせ体を入れ、胸の膨らみに沿わせて下から、側面から、上からと口付けてゆく。 そこでも先端には触れずに片方が終わるともう片方へと同じ様に舌を這わせながら、その間も溢れてくるものを指先に確認しては ゆるゆると撫で続けていると、両手で髪を掻き回され、立てられた両脚の内腿を押し当てる様に腰元を挟まれた。 「ん・・ふっ、ぁあ・・んっあ・・・。一生、ぁ・・ねぇっ、んんっ・・・もう、やぁ・・・。」 ならば、と胸の先端を吸い転がす。けれどまだ、緩やかにしか刺激を与えないでいると、肩を、背中を跳ね上げては 吐息を漏らし、声を上げ懇願する様に名前を呼ぶ。 「一生・・・。はぁ、あっ・・・や、んぁ・・・いっせ、い。・・んぅ・・・ぁ、あっ。」 その甘い声で名前を呼ばれると、もっと自分の事を乞い求めさせたいと思わずにはいられない。 だから今日はもっと、呼んで求めさせたいと、いつもならば追い上げてやる所だがそうはいかないと 自分勝手な欲望で彼女へ無茶を強いる。 「煽ったのはお前だ。まだ、駄目だ。」 彼女の中心へ指を一本だけ差し込んでそう耳元に低く囁くと、それだけでヒクリとうねるのを感じた。 挿れられただけのその指がもどかしさに拍車をかけるのか、腰元を挟む腿は震え、つま先には力が入り踵が浮いている。 上腕を撫で、鎖骨を辿り、喉元から真直ぐに臍の上まで唇を落としても尚、その動きに合わせて已むを得ず揺れてしまう以外は 中の指を動かしてはやらないでいると、両耳の辺りを包まれ頭を引き上げられた。 「一生・・・。」 お互いの顔が10cm程度の距離で潤んだ眼に見詰められ、熱く掠れた声で呼ばれ、頭を掻き抱く様にして唇を合わせられた。 軽く口内へ侵入され、極僅か触れない近さで離される。そしてもう一度、深く口付けられ、強請る様に腰を揺らす。 それは今日幾度目かの初めて見る表情で、その妖艶さにクラリとする。 酸素を求めて離された唇を、今度は自分が口内を支配するべく奪うと二本目の指を差し挿れた。 緩やかに抜き差しをしながら、唇を貪り胸を弄り体中を撫で回す。けれども、決定的な刺激にはならない様、十分に気を付けて 高まりが極まりそうになると一旦全ての愛撫を止める。そしてまた、嬲る。何度も、何度もそれを繰り返す。 「あ、ぁんっ!・・・ゃ、あぁ、やっ・・・も、う、やっ、一生。・・んんぅ、ねぇ、一生・・・。」 焦らされ過ぎた彼女は涙を零しては、絶え間なく嬌声を上げて哀願する様に縋り付いてくる。 あと少し、引き伸ばす事でまた、新しい彼女を見られるかもしれない。狂わしい程にもっと、自分だけを欲しがり 続けさせたいと思ってしまう。けれど、その思いが強くなる程に、自分の中に溜まってゆく情欲を放ちたい衝動が募る。 思考は混迷し、力は抜けきり、どこの肌へ触れてもヒクリと鋭敏な反応を示す彼女を正面から抱き起こすと、 首に腕を回させ背中と腰を支えてその体をゆっくりと下ろし、自身へ沈ませる。瞬間、顎を上げ背を反らし細く高い声が響いた。 「――ひゃっ、ぁあ・・・っ!」 カクカクと震えて肩口へ凭れ掛かる。 散々弄ばれた体は、深く侵入しただけで軽く達してしまい、内壁がきゅうっと締め付ける。 それに自分も持って行かれそうになり、まだ早いと眼を閉じ寸時息を止め、深く吸い込み吐き出す事で耐える。 浅い呼吸でしゃくり上げる様に肩を跳ねている彼女の中はひくつき、そこから零れるものは繋がったままの自身を 伝い落ちてゆく。止め処なく溢れるそれは、ほんの少し動いただけで水音をいちいち響かせてはヌルリとした感触を認めさせる。 彼女がいつもしている様に前から髪を掻き揚げてやると、ぼんやりと揺らいでいた眼の焦点を無理矢理に合わせる。 「たまき。まだ、だ。」 ニヤリと哂う自分は酷く加虐的だと、頭の片隅で嘲る。 最奥にまでは届かぬ様に自分を跨がせた体を支えながら、その手前まで突上げては抜け切らない際まで引く事を繰り返す。 胸の先端を強く吸い上げ背筋を指で辿り、唇を奪う。言葉にならない声しか発する事が出来なくなった彼女は、意味を成さない うわ言の様に喘ぐ。聞き取れるのは自分の名前だけで、分かるのはもう限界だという事だけだ。 「ぁ、んぅ‥はっ、あ、あん…一生っ。やぁ、んん、ぁ‥あ、いっせ‥いっせ、い…も、ぅ…あっっ!」 支えていた手を緩めると重力に逆らう事なく、自身を深く呑み込む。全部が彼女の中に納まると、その柔らかく纏わりつく感覚を 楽しむ為に暫くはそのまま動かずにいた。するとそれに焦れたのか、腰を揺らし始めた。 自分の良い処を探しているのか、ゆっくりと円を描く様に揺り回し、腰を浮かせては落とし奥を突く。 混濁した意識の中で実際にどの程度までを認識出来ているのか定かではないが、欲望のままに動く体を止められない自分を 最後の理性が否定したいのか、嬌声を上げながらも頭を左右に振り、眉根を寄せて耐え難い切なさを滲ませる。 「やっ…あっ、ふぅ‥っ。んん、ぅ…あん、ぁ‥い、っせ…い。ひゃ、ぁんっ!一生…。」 彼女が腰を浮かせたのを見計らい、下から突き上げるとまた極みに行き着いた。腕の中でクタリとしている体を組み敷くと 自分の熱を解放するべく激しく突き動かす。 神経が壊れてしまったのではないかという程に鋭敏過ぎる今の彼女は、己の欲を放つまでの間に、何度昇り詰めたのだろうか。 自分がたぎる物を吐き出すと同時に、意識を飛ばしてしまった。 瞑った眼の端から涙を零す彼女は、未だこちら側へ戻っては来ない。少し無理をさせ過ぎたと、 気が付くまで頬を髪を撫で続けていると、薄っすらと眼を開けた。 「たまき?」 「ん…、一生。私…?」 「無理させて悪かったな。このまま、眠って良いぞ。」 そう微笑んでとまらない涙を掬う様に瞼にキスをしてやると、小さくうんと返事をし、すぅっと眠りに堕ちていった。 深い呼吸に変わる頃、涙も止まり安堵する。その寝顔をいつまでも眺めながら、明日の朝の事を思う。 きっと自分と眼を合わせた途端に真っ赤になって逃げ出そうとするに違いない。もし覚えてないのならば思い出させてやる。 どちらにしても、まだ少し足りないと彼女を求める気持ちが収まらない自分に呆れてしまう。けれどやはり、それもお前の 所為だと、その柔らかい体を腕の中に抱き込んだ。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |