遭難
進藤一生×香坂たまき


「こちら救急指令センター。医師とナースの派遣をお願いできませんか?」

港北医大救命救急センターに、今日もけたたましいホットラインが鳴り響く。

「進藤先生と香坂先生、それから山城君、行って!」

小田切医局長が指示を出す。

この数日、激しい雨が降り続いていた。
水かさの増した河川に沿った道路で事故があり、救助が困難なため先に現場に来て欲しいと要請があった。
幸い、今は雨が止み、進藤達は車に乗って現場へ向かった。

患者は幸い多くはなかった。
だが、場所が悪かった。
幅の狭い道路で乗用車とマイクロバスが衝突し、挟まったまま動けない患者がいたのだ。

「ここで治療をするしかないな」
「そのようね」

進藤の素早い判断にたまきも同意し、その狭い中で治療が開始された。
手早く処置をしていく進藤を、的確にサポートするたまき。
息の合ったふたりの仕事ぶりに、助手をしながら山城は感心していた。

「もう少しで身体が抜けます!」

レスキュー隊員が叫んだ。

「よし、後は病院でオペだ」
「胸部と腹部と、2ヶ所同時にやらなきゃいけないわね」

進藤が言うと、たまきも頷いた。
患者の身体が車の隙間から抜けた。
と、そのとき、その身体がたまきにぶつかり、たまきはバランスを崩した。

「きゃっ…」

はっと進藤が気付いたときには遅かった。
足を滑らせ、転げ落ちていった先はその下の大きな河川。

「香坂!」
「助け…」

水かさの増した河はその流れを激しく速め、うねるようにたまきを飲み込んでいった。


――助けて、進藤先生――


霞む視界にたまきの声と進藤の姿がかき消された。

どれくらい経ったのか。
横たわったたまきがふと目を開けた。
すぐ側に、轟々と河の流れる音。

――助かったの…?

覚醒しない頭と身体に、重みがかかっているのに気がついた。

「…進藤先生!?」

たまきを抱きかかえるようにして重なり、進藤は気を失っていた。
進藤先生が助けてくれたの?
あの激しい流れに躊躇なく飛び込み、必死で泳ぎ、たまきを捕まえ、この河岸へと押し上げてくれたのか。
重なるその身体が、哀しくなるほど冷たくて。
たまきは泣きそうになった。
必死に堪えて辺りを見渡す。

一体どれだけ流されてきたのか。
家の一件もない、人の一人もいない寂びれた田舎の風景だった。
一体此処はどこなのか。
ぽつぽつと、また雨が降ってきた。
考えてる暇はない。
とりあえず、雨を凌げる場所まで。

たまきは進藤の身体から自分の身体を抜くと、気を失った進藤を必死の力で支え、辺りを彷徨った。
古びた小屋を見つけ、中に入って進藤を横たわらせる。

「進藤先生!進藤先生!!」

必死で揺さぶるその身体の冷たさに、ぞくりとした。
顔は完全に血の気が引いて青ざめている。
相当の時間あの冷たい水の中にいたのだ。
ふたりの衣服はその水をこれでもかというほど含み、身体に纏わりついている。
完全に冷え切ったその身体を温めなければ、命に係わる。
辺りには火をおこす場所も道具もなかった。
たまきは素早く自分の服を脱ぎ捨て、そして進藤の服も脱がせた。
生まれたままの姿で進藤に重なる。
その素肌が猶冷たいままだということに、涙が溢れる。
少しだけ触れたことのある彼の手や肩は、いつだって温かかった。
あの熱さを、取り戻してよ。
こんなの、貴方らしくない。
零れる涙が進藤の胸を濡らした。
ぎゅっと強く抱き締め、白い掌が身体中を辿る。
そっと胸に口付け、腕を擦り、背中を擦り、太腿を擦る。

ぴくん。

進藤の身体が少し反応したのが判った。
その反応に泣きそうになりながら、反応した部分を徐々に擦ってゆく。

「…う…ん…」
「っ!進藤先生!」

反応した部分は、徐々に熱を帯びていった。

「進藤先生!ねぇ、起きて!」
「…ん…早…紀…?」

瞬間、ずきっ、と何故か胸が痛んだ。
でもそんなこと考えてる場合じゃない。
誰に間違えられても構わない。
この人を助けなければ。

「早紀……」

そう動く口唇を、そっと塞いだ。
深く口付けし、耳元を撫でながら頬に、喉に、首筋に舌を這わせてゆく。
敏感な部分を中心に、身体は徐々に熱を帯びてきた。
そっと進藤の腕がたまきの身体に纏い付く。

「早紀…すま…ん…」

そう呟くと、抱き締められた腕に力が籠もった。
進藤先生…
顔を見上げると、少しずつ血の気が射している。
その顔に、たまきは心から安堵した。
同時に涙が溢れた。
大丈夫、彼は助かる。
喜びに胸を満たしながらも、たまきは進藤の身体を温め続けた。


「…う…ん…?」

ゆっくり目を開くと、霞んだ視界が徐々に明けていった。
蜘蛛の巣の張った天井が見える。
此処は…?
古びた壁の窓から見える空は、深い藍色に暮れかけている。
胸元にくすぐったさを感じて目を遣ると、同僚である香坂たまきが規則正しい寝息を立てていた。

「っ!!?」

また頭が真っ白になる。
状況を把握しようとまだ鈍い頭を必死に巡らせた。
人気のない古びた夜の小屋、薄い毛布の下には、裸の自分と、そして香坂たまき。
この、ありえない状況は…?

気配を感じたのか、眠っていたたまきが、ゆっくり目を開ける。

「気が付いたのね。良かった」

微笑むその笑顔は、いつもより柔らかい気がした。

「…香坂…?」

ま、まさか俺は、過ちを犯してしまったのか?

必死に思い出そうとしても頭が痛むばかり。
戸惑うばかりの進藤に、たまきは状況を短く説明した。

「ショックで一時的に記憶がとんでるのかしら…。大丈夫よ、すぐに思い出すわ」

自分の胸の上で頬杖を付き、たまきが言った。

「そうか…」

たまきの説明にとりあえずはほっとするも。
微笑むその瞳とその仕草が悪戯な少女のようで、進藤は少し目を逸らした。

「でも良かった…。本当に、すごく冷たかったのよ、この身体…」

そう言うとたまきはまたそっと進藤の胸に両掌を置き、身体を重ねた。
全身に感じる、その柔らかい肌。
初めて触れるその肌が、こんなに白く柔らかいなんて、反則だ、と進藤は思う。

「今はほら、こんなにあったかい…」

そっと目を瞑り、胸の音を聴くように顔を埋める。
その身体の中でも、特に柔らかい部分が、進藤の胸板に押し付けられている。
肌だけなら心地よいだけで済むかもしれないが、その感触は…。
嫌でも其処に神経が集中してしまうのを、必死に防ごうとした。

「どうかした?」

心拍数が上がったのに気付いて、たまきが少し身体を起こす。
と、硬くなったふたつの先端が進藤の胸板を柔らかく擦る。
くすぐったいだけでは済まない刺激が進藤の頭を痺れさせる。
目をぐっと瞑り腕を額に押し当て、必死に我慢した。

「どうしたの?具合が悪いの?」

心配そうな声にどうにかなんでもないと答えようと目を開けると。
まだ僅かに湿った髪を白い肌に纏わり付かせ、あどけない顔で訊いてくるその、全てが妖艶で。
見なければ良かったと後悔した。
ただでさえ、尋常じゃないこの状況なのに。
こう、いつもと違う表情ばかり見せられては。
ましてや、相手はこの女、香坂たまき、なのだ。
理性を保つ自信がない。

「ねぇ…?」

たまきが肩を掴み、進藤の身体を揺さぶる。

「こ、うさか…。すまないが、少し離れてくれないか…?」

目を腕で覆ったまま、どうにか言葉だけを押し出した。

「あ……」

その言葉に、自分の状況に気づいたのか、たまきは近付けていた顔を離した。

「ごめんなさい…っ」

そそくさと進藤の身体から降り、少し離れて毛布でその艶やかな身体を隠す。

ふ―――――っと、押し殺した溜め息をつく進藤。
たまきもさっきまでの自分の行動が急に恥ずかしくなったのか、顔を赤らめている。

息を整え、どうにか気持ちを落ち着かせる。
外は激しい雨の音が続いている。
ぽつんと取り残された静寂に、二人の胸に不安が広がる。
このまま誰にも発見されなければ…
ふっと首を振り、弱気な思考を振り払う。
唯一の救いは、すぐ隣に感じるあどけない温もり。

「あの患者、どうなったかしら…」

たまきがぽつん、と呟いた。

「…後は医局長たちがうまくやってくれただろう。今は考えなくて良い」
「…そうね。それより自分達の心配しなきゃ、ね…」

ふっと悪戯に笑って見せた。
いつもの調子に戻ってくれるのにほっとし、でも心の底では、どこか寂しい気持ちにもなり。
少しだけ触れた肩から、お互いの気持ちが伝わってくるような気がして。

「…そういえば、夢を見ていたな…」

ぼんやりと進藤が呟いた。

「…幸せな、夢?」

天井を見上げたまま、たまきが優しく問う。

「ん?」
「貴方ずっとうわ言言ってたわ。ねぇ、早紀さんて、亡くなった奥さんなんでしょ?」
「…早紀の名前を?」

進藤は思わず驚く。

「きっと、奥さんが助けてくれたのね、貴方のこと」

たまきは微笑んだまま目を閉じた。

「…お前もたまには医者らしくない、感傷的なこと言うんだな?」

珍しいものを見た、とでも言うように進藤が言った。

「…こんなときまで医者やってたくないわよ」

ぷい、と進藤に背を向ける。

「………」

そう、今ふたりは、医者じゃない。
意見をぶつけ合い、助け合い、信頼し合っていたのは、いつも医者として。
病院の外では、会ったこともない。
どんなところに住み、何を食べ、休日には何処へ出かけ、誰に会うのか…
何も知らなかった。
知りたいと思う心を、押し殺していた。

「…早紀の夢じゃない」

ぽつん、と進藤が言った。

「え?」
「早紀じゃないんだ…」

暗く冷たい闇の底で、助けてくれ、と声にならない声で叫んですがり付いたのは、
いつも強気で前ばかりを向いている、危なっかしいその華奢な身体。
危なっかしくて目が放せなくていつも追っていたその後姿に、
いつの間にか救われている自分がいた。
抱き締めたいと願ったその心に、罪悪感を感じて亡き妻に謝った。

今、亡き妻とは少し違う位置で進藤の胸に住んでいるのは。

その、強がりで脆い、確かな温もり。

「…俺を助けたのは、お前だろ」

少し笑って進藤が言う。
その笑顔に、たまきもまた微笑む。

「助けてくれたのは、貴方の方じゃない」

そう、いつも。
誰も気付かない私のSOSに、ひとりだけ気が付いてくれる。
決して言葉に出さない優しさで、私を包み込んでくれる。
見詰めるだけで、心ごと私を抱き締めてくれる。
そんな貴方だから、誰よりも死んで欲しくなかったのよ。
貴方を助けたのは、医者としてじゃない。
こんなに傍にいるのに、声に出せない想いに、たまきの瞳は潤んだ。
ぶるっと、身体が震える。
雨に冷やされた外の冷気が古びた小屋を浸蝕してゆく。
更けてゆく夜にまた身体が冷え、毛布を握る手が震える。

「どうした、寒いのか?」

進藤が問うと、たまきは小さく頷いた。
戸惑いがちに、問う。

「もっと傍に、行っていい?」
「………」

進藤は腕を伸ばし、無言でたまきを抱き寄せた。
肌と肌が重なり、お互いの体温が伝わる。
小さな顔を首と肩の隙間に埋め、柔らかい胸を厚い胸板に押し付け、細い脚を絡ませる。
その冷たさにひやり、とし。
進藤は、強く強くたまきを抱き締める。

「…最期の場所が此処なら、悪くないわね」

進藤の耳元でたまきが囁く。

「何言ってるんだ。お前がこんなボロ小屋で…」

言いかけてその意味に気付く。

「こんな温かい場所、今まで知らなかった」

柔らかい髪を何度も梳き、進藤は囁いた。

「弱気になるな。お前らしくない。必ず助かる」

この温もりを抱くのを、これで最後になんてしたくない。
否、させない。

「…お願いがあるの」

たまきが進藤の瞳を見詰めて呟いた。

「なんだ」
「名前を、呼んで?」

鼻と鼻が触れるほどの位置で見詰めた瞳は、美しく柔らかくゆらゆらと揺れ。
そっと片手を頬に遣り。
初めてその、儚さに触れる。

「たまき」

見詰め返した進藤の瞳は、切なげに、愛しげに光り。
自分の名前が、ふたつとない愛おしい響きを奏でる。
たまきの瞳は涙で潤んだ。

「もっと、もっと呼んで?」
「たまき…」

呼びながら、優しく髪を梳く。

「たまき…たまき…」

溢れた涙がこめかみを伝い、髪を濡らしてゆく。
彼の口から呼ばれると、なんだか、生まれ変わったような気がする。

「何度でも、呼んでやるから。だから、諦めるな。たまき」

頼むからもう二度と俺の前から消えないでくれ、と強く願いを込めて。

「たまき…」

うわ言のように繰り返す進藤の頬をそっと撫で。

「ありがとう…」

濡れた瞳で微笑んだ。
瞳を瞑り、そっと口唇を近付けた。

微かに触れた口唇が、小刻みに震えていて。
その震えが、どうにか繋ぎとめていた理性を、崩した。
震えを止めてやりたくて、再び口唇を塞ぐ。
初めて触れ合ったことに胸が熱くなり、だけどその口唇は何故か、ずっと前から知っているようで。
もっと触れたいと頭を抱き寄せると、苦しそうに口唇を緩めた。
自然に口唇が割れ、重なりが深まってゆく。
そっと舌を差し入れると、柔らかいそれの先端に触れ。
ぞくりと甘い痺れが走る。
戸惑いがちに、ゆっくりと絡めてゆく。
優しく舐め上げるとそっと応えてくれ、その歓びに動きが激しくなってゆく。
絡み合う舌に口内が熱を上げ、熱い吐息が零れる。
震える肩を抱き、柔らかい髪を撫で、細い腰に手を回す。
絡めた脚に力を入れ、そっと口唇を放した。
真っ直ぐな眼差しで、たまきを見詰める。

「今度は俺が、お前を温める。いいか?」

見詰めた瞳は涙で潤んでいた。
その瞳が切なげに光り、こくん、と小さく頷く。
それを合図に、ふたりは再び激しく口付けを交わした。
口付け合いながら耳の辺りを撫でてやると、たまきの身体がぶるると震えたのが判った。
堪らず耳元に口唇を移動させる。
耳朶を甘く噛み、入り口を浅く舐め、耳の後ろを愛撫する。

「…っ…」

甘い吐息と共に、たまきの腕が強く進藤の頭を抱き、細い指がその髪に絡まる。
進藤の長い指はゆっくりと降りてゆく。
口唇を縁取り、細い顎を伝い首筋を撫でる。
たまきの冷たい皮膚に触れてゆくその掌は、驚くほどの熱さ。
その熱に、泣きそうになった。
冷えた肩を何度も擦り、深く口付けたまま柔らかい膨らみを覆った。
どきん、と胸が高鳴る。
尖った先端が彼の手に触れるのが恥ずかしくて、たまきはふと顔を逸らした。
すると進藤の口唇が頬から首筋へと移動し、鎖骨のくぼみに顔を埋める。

「や…っ」

思わず声が漏れる。
先端がみるみる硬くなるのが判った。
五本の指を大きく広げ、掌全体で優しく揉み解してゆく。
その優しさが嬉しくもあり、同時に哀しくもあった。
この男が、たまきを欲して抱くわけがない。
それならいっそ、我を忘れて激しく抱き潰して欲しいのに。
こんなときでも自分を失くさない彼が、恨めしくもあった。
衝動に襲われ、たまきは進藤の頭を強く抱き締めた。
するとその指が、そっと先端に触れ。
ぴくん、と身体が震える。
これ以上ないと思っていたのに、また硬く尖ってゆく。
指と指でそっと挟み、揉みながら転がしてゆく。
やがて揉みあげる手が激しくなり、その柔らかい膨らみは進藤の掌の中で自在に形を変える。
摘まれていた先端を、くいっと引っ張られる。

「んっ!…」

甘い吐息と共に声が漏れ、慌てて口唇を噛み締める。
しかしその声に欲情したのか、進藤の口唇がそこに移動した。
優しく含み、蕾をちろちろと舐める。
目を瞑り眉を歪め、必死に声を押し殺す。
手がたまきの背筋を何度もなぞり、もうひとつの掌はたまきのもう一つの膨らみを愛撫している。
口唇を離し、熱い舌が尖った先端にぺろりと絡みつく。

「っ!」

いろんな角度から、優しく、ねっとりと舐め上げられた。

「…っ…ぁ…ん…」

噛み締める口唇に力が入る。
そっとその口唇にささくれ立った指が触れた。

「…痛いだろ?」
「…べ、つに…」
「無理するな」
「…恥ずかしいのよ。……それに…」
「それに、なんだ」
「…悔しいんだもん…。私ばっかり本気になってるの…」

恨めしそうに進藤を睨むその瞳には、涙が溜まっていた。
僅かに滲んだ瞼の淵にそっと触れ、それを拭いながら進藤は言った。

「どうして自分だけって思うんだ」
「そんなの、判るわよ…」

哀しげな瞳をふっと逸らした。
彼女の心を満たしてやる言葉は、いくらでもあるのだろう。
だけど。
この状況でそれらの言葉を使いたくはなかった。
何を言っても、この場限りの言葉だと彼女は思うだろう。
自分も今はただ、目の前の愛しい女を抱き締め、温め、勇気付けたい。
それしか考えられなかった。

「…俺がボランティアでこんなことをしてると思ってるのか?」

精一杯見詰めたその瞳が、強く、切なげで。
その瞳に触れたいと、そっとたまきは手を伸ばした。
その手を掴み、優しく包む。

「頼む。声、聴かせてくれ…」

艶めいた瞳で熱く見詰める進藤に、たまきは思わず頬を赤らめた。

「…そういうこと、言う?」
「俺も普通の男だからな。幻滅したか?」

悪戯に笑う進藤の顔が、なんだか少年っぽくて。
つられて微笑んだたまきの表情も、いつもとは違う女のものだった。

「たまき…」

額を押し当て、微笑み合う瞳と瞳がそっと近付き、
また口唇が重なり合う。
掌が脇腹を伝って脇の下を撫でる。
もう片方の手が腰骨から臍を辿り、柔らかい茂みをそっと梳いた。
その度にぴくんと跳ねる身体。
その反応に耐えられず、逸る心をすんでで止める。
こんなぼろくて薄い床の上ではかわいそうだし、床が耐えられないかもしれない。
そっとたまきの身体を反転させた。

たまきの脚にそっと手を触れる。
柔らかい肌の上を進藤の掌が滑ってゆく。
膝から腿を何度も撫でながら、白い項に口付ける。
もうひとつの手は柔らかい乳房を弄ぶ。

「っん!ぁっん…」

顔が見えなくなったからか、さっきより大胆に声を漏らす。

「もっと、聴かせてくれ…」

耳元で囁いた。
その吐息にまた身体を震わせる。
そっと指を滑り込ませると、温かく潤んでいた。
指を押し付けると、ぬるっと纏わり付いてくる。

「あ…」

敏感な突起に触れると、ぷっくりと膨れてくる。
優しく擦ってやる。

「ぁ…っ…ぁあ…ん…」

甘い声を漏らし始めた。

「ここが、良いのか?」

耳元を犯す吐息に羞恥を感じ、また蜜が溢れ出る。
そっと、泉に指を沈めた。

「ぁあっ!」

甘く啼く彼女に誘惑され。
何枚もの襞を指でなぞり、丁寧に押し拡げてゆく。
その感触に耐えられず腕の中でたまきは何度も身を捩る。
また指を沈め、ゆっくり掻き回すと。

「あぁん…はっ…」

良いところに触れるたび、たまきは淫らな声を漏らす。
全身を優しく愛撫しながら、指を深いところまで挿し込んだ。

「ん…っ!」

温かな内部が締め付けるのを感じながら、徐々に慣れさせてゆく。
首筋にかかる進藤の吐息が熱く乱れているのを感じ、たまきの心も熱くなった。
そのまま進藤の口唇は降りていき、たまきの背筋を這う。
堪らずたまきは背を弓なりに反らした。
舌と吐息が臀部を柔らかく愛撫すると、身体中を震わせながらたまきは言った。

「ぁ…あぁ…ね、ぇ…もぉ…お願い…」

切なげな懇願を聴き、たまきの顎を掴んで振り向かせると、そっと口付けした。
そして、片脚を大きく上げさせる。
そそり立ったそれを、たまきの泉にあてがうと、
その熱さが愛しくて、たまきは泣きそうになった。
激しい衝動に襲われつつも、たまきを傷つけないようにとゆっくりと沈める。

「ぁああっ…んっ!」

熱く硬いものがたまきの中を貫いてくる。
何もかもが寒く冷たい中で、その感触だけがたまきを安心させた。

「あつい、わ…。生きてるって感じがする…」

涙を零し微笑むたまきに、それは自分も同じだと、
自分を締め付けてくる熱い感触を感じながら。
強くたまきを抱き締めた。

「いくらでも、感じさせてやる…」

囁くと、たまきの中で優しく動き出した。
ゆるくゆるくたまきの中を掻き回し、良いところを探り当て、
指は優しく、胸の突起を弄ぶ。

「ぁん!あっ…はぁん…」

快楽がたまきの頭を支配してゆく。
その声が進藤の頭を浸食し、動きは更に激しくなる。

「っ!…はっ…ひゃっ…」

乱れる嬌声と共に、進藤の思考も乱れ、激しくたまきを突き上げる。

「あ…っ…激し…っ!…」

苦しげな吐息と共に漏らす。
大きな腕でたまきを優しく包み込み、首筋を舌で愛撫する。

「ぁあん…も…好きに…し…て…」

快楽と歓びに蝕まれ、たまきの思考は麻痺した。

「たまき…」

その言葉だけが、たまきの脳裏に届いた。
涙が溢れる。
そっとその涙を拭い、進藤はまたたまきに口付けた。

「っ!」

瞬間、更に深いところを突かれた。
進藤の口唇からはぁはぁと乱れた息遣いが聴こえる。
何度も、何度も突き上げられる。
甘い啼き声が、古びた小屋に響き渡る。
抱き締められた腕も、背中に感じる胸板も、乱れた吐息も。
彼の全てが熱くて。
今まで知らなかった、ずっと知りたいと思っていたその熱さを知れたことが嬉しくて。
彼によって乱され、火照った身体が。
熱くなった心が。
確かに此処に在る。
私は生きている。
そう、気付かせてくれた。
歓びに濡れ、昂ぶらされた身体が、限界を知り。

「ぁあああっっっ…ん…!」

一瞬意識が飛び、体中の力が抜けた。
霞む意識の片隅で、進藤の声を聴いたような気がした。

横たわった身体を、彼が優しく抱き締めてくれる。
何度も頭を撫でてくれるその手の温かさが、愛おしくて堪らない。

「…優しいのね」
「ん?」

全てが、余りに優しくて、辛くなる。
こんなに優しく女を抱くひとだなんて、知りたくなかった。
知ってしまえば、もう自分の気持ちを抑えられなくなる。
声を押し殺して涙を流した。
彼に背を向けているのが救いだった。

「…泣いてるのか?」

震える肩に気付き、進藤が訊いてくる。

「どうして?泣く理由なんてないじゃない」

いつものように強がって笑った。

「…傷付けたかと思ったんだ」

少しくぐもった声に、また彼の優しさを感じ、彼の手にそっと掌を重ねた。

「大丈夫よ。貴方は優しかったわ」
「…誰にでも優しくするわけじゃない」
「…え?」

その言葉の意味を、知りたくて。
たまきは次の言葉を待つが、進藤の口唇はそれ以上何も語ってくれなかった。
責任を取れ、なんて言う気はさらさらないけれど。
期待してしまう気持ちが膨らんだことは、否めない。
切ない気持ちが膨らんで、せめて進藤の気持ちを推し量りたくて表情を見たかった。
だけど同時に怖くもあって、振り向けない。
やるせなさに、俯く。
その顎に長い指が伸び、そっと進藤がたまきの身体を振り向かせた。

「少し眠ろう。朝になったら、外に出てみよう」

進藤はたまきを優しく抱き込み、柔らかい頭を優しく何度も撫でた。

「…そうね」

その優しい感触に包まれながら、今はただ、彼の優しく熱い思い出を抱き締めるだけでいい、と。
その胸にすっぽりと包まれ、眠りに落ちていった。

翌日、雨が止んでいるのを見て、外に出ようと進藤が言った。

「絶対、振り向かないで」

進藤の背中を睨んで念を押す。
昨夜と違い明るい小屋では、たまきの身体は克明に見えてしまう。
一線を越えたというのに照れている自分に妙だとも思いながら、たまきは素早く服を着た。
余り渇いていない衣服は、べたっと身体に纏わり付いて気持ち悪かった。
しばらく辺りを散策したが、延々と同じ風景が続いていて、そのうちにまた、雨が降り始めた。
この場を離れるのは危険と判断し、ふたりは元の小屋に戻った。

また夜が来て、二人の胸には不安が募ってゆく。
壁に凭れ、毛布を掛け並んで床に座っていた。
あの河がどれだけ長いかなんて知らない。
どれだけ捜索隊が捜してくれていたとしても、
この場所を見つけてくれる可能性なんて、限りなく低いのではないか。
思考を悪い考えが支配してゆく。
明日も発見されなかったら、もう3日飲まず喰わずになる。
脱水症状か何かが出るだろう。

そしたら…。
そっと腰に手が回された。

「悪い方に考えるな」
「………」

どうしてこのひとには自分の考えてることが解ってしまうんだろう。
こつん、と、進藤の肩に頭を凭れ掛けた。

「ねぇ、また抱き締めてくれる?」
「…」

そっと腕が回され、その腕の中にすっぽりと収まる。
胸に顔を埋め、進藤の背中に細い腕を回した。

抱き締めあったまま、ふたりは眠りに就いた。
互いの体温と、安らかな鼓動を感じながら。

翌日は晴れ間が見えた。
河川沿いに歩いてみようとの進藤の提案で、ふたりは歩き出した。

「足元に気をつけろ」

弱った身体で足元がふらつく度に、進藤の手が支えてくれた。
たまきは遠慮がちに進藤の青い術着をずっと掴んでいた。

そのまま、何時間も何時間も歩き続けた。
歩き続ける身体は、どんどん体力を消耗してゆく。
それでも流れてくる河だけを道標に、ただ歩き続けるしかなかった。

辺りが暗くなってきた。
憔悴しきった身体に、度々視界が霞む。

「大丈夫か?」

今日何度も聞いたその台詞に、大丈夫よとまた返そうとしたとき、ふっと身体が揺らめいた。

「香坂!」

進藤が手を伸ばすと、その腕に崩れ落ちた。
進藤の胸の中で、はぁはぁと上がった自分の息を聴いた。

「だい…じょうぶ…。少し休めば、また歩けるから…」
「………」
「本当に、大丈夫よ…」

笑って見せたつもりなのに、弱弱しく映ったのか、進藤はたまきを強く抱き締めた。

「香坂!」

抱き締められた胸の中は温かくて。
ふっとこのまま眠りたい衝動に駆られた。

「香坂!しっかりしろ!」

進藤が必死の顔で叫ぶ。
その顔が愛しくて、そっと手を伸ばす。
その手を進藤が掴む。

「香坂!」
「……なまえ…」
「え?」
「何度でも呼んでくれるって、言ったじゃない…」
「…たまき。お願いだから、しっかりしてくれ」

霞む視界の中、進藤の顔が泣き出しそうに見えて。
そんなはずはないと思いながらも、その顔を抱き締めてあげたい衝動に駆られる。

「たまき…!」

愛しい響きを何度も聞きながら、たまきは力なく瞳を閉じた。

「たまき!」

遠のいていく意識の中で何度もその声を聴いた気がした。


かっ――

そのとき。

瞑っていた目にも感じる、激しい閃光が見えた。

「おい、人がいたぞ!」

何人かの人の声が聞こえ、光が近くなってくる。

進藤が何かを叫んでいる。

あぁ、助かったんだ、と気付いたときには、たまきは意識を手放していた。






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ