欲しかった
進藤一生×香坂たまき


がちゃん、と玄関のドアを開けると、目に入ってきた壁掛け時計は3時を少し回っていた。
よくあること、急患で人手が足りなかったのだ。
医局に泊まろうかとも思ったが、やはり少しでも自分家の風呂とベッドで休みたい。

ふとソファを見遣ると、見覚えのあるセンスの良い黒いバッグ。

来てたのか。

疲れた身体を引きずって風呂場を覗く。
ちゃんと溜めてある。
追い炊きのボタンを押して、温もるのも待たずに服を脱ぎ捨てる。

短い入浴を済ますと、上着も着ず、冷蔵庫にも向かわず寝室へ足を運ぶ。
深夜までの激務でヘトヘトになった身体は程よく温まり、アルコールの力を借りる必要もなく、すぐに眠れそうだった。

ドアを開けると、広いベッドに少し片寄って、身体を丸めて横たわっている彼女がいた。
ドアから漏れる明りに少し目を開き、おかえり、と掠れた声で呟く。
ただいま、と短く返事をすると、また目を閉じてしまった。
心地良さそうな寝顔。
そっとベッドに入り、丸めた身体に手を伸ばす。
彼女は気だるそうにしながらも身体を浮かせ、進藤の腕を受け入れる。
温かい温もりを抱くと、すぐに眠りに落ちた。

次に気が付いたとき感じたのは、華奢な背中の温もりだった。
外は白みかけている。
触れ合っている温もりが気持ちよくて、その身体を抱き寄せる。
すやすやと寝息を立てている。
柔らかな髪に口唇を寄せ、少し顔を上げて項に口付ける。
女性もののシャンプーの香り。
薄いシャツ一枚の身体の上を、骨ばった掌が這い回る。
柔らかな肌の感触。
余計な肉のない、艶やかな腰のラインをなぞり。
ゆっくりと、その上へ掌を移動させる。
何の異物もなく、柔らかな膨らみへ辿り着いた。
下着は付けていない。
小振りなそれを、そっと揉み始める。
朝の敏感な身体は反応が早く。
すぐに硬くなった蕾がぴんと勃ち、薄いシャツを持ち上げる。
直接触れるより淫靡なその光景を愉しむ。
シャツの上から蕾を弄んでいると、

「…ぅ…ん…?」

ようやくたまきが少し気付いたようだ。
項に遣った口唇を耳元まで滑らせ、耳裏を舐めながらシャツのボタンを外してゆく。

「…もう起きたの?」

甘い吐息を吐いてたまきが呟く。
露になった肌は進藤の掌に吸い付くように滑らかで。
柔らかい胸をぎゅっと掴む。
たまきはそっとその手に自分の手を重ねた。

「夕べも遅かったわね」
「あぁ」
「連絡くらいくれれば良いのに」
「来てるって知らなかったんだ」
「メールしたでしょ」
「………」

またチェックしなかったの?怒った声で呟くたまきの声を遮り。
ぴん、と指先で胸の蕾を弾くと。

「ぁん…」

気だるそうな様子で声を上げた。

蕾を捏ね回しながら、片方の手をゆっくり下げてゆく。
下腹部から腰へと回し、臀部を撫で、腿をゆっくり撫で上げる。
ショーツからそっと滑り込ませると、適度に潤んでいた。

「ん……」

首を仰け反らせ、甘い息を吐く。
逸る思いで泉の中心を探り、くちゅっと指を埋める。
掻き回すと水音が増し、指を増やして奥まで埋めた。

「は…ぁ…ん」

緩やかな快楽を湛えた甘い声に我慢できず、ショーツを剥ぎ落とし、片足を上げさせようとした。

「待って。」

その手を彼女が制し、身体ごと振り返る。
両手を進藤の首に巻き付け、拗ねたように睨み付ける。

「ちゃんとキスして。」
「………」

彼女が怒った理由が余りに可愛くて。
進藤は、そっと口唇を触れる。

「…それだけ?」

眉をしかめ、口唇を尖らせる。
ふっと進藤は笑い、また口唇を近づけた。
触れては離し、啄むようなキスを繰り返す。
尖った胸の蕾を指で転がすと、はぁぁん、と甘い啼き声を響かせる。
その声を奪うように、今度は深く口内に侵入する。
進藤の掌が柔らかな肌の上を這うと、たまきの細い指が進藤の髪を掻き乱す。

「これで、いいか?」

口唇を放すと、たまきの瞳はとろんと濡れていた。
仰向けになったたまきの脚を大きく開かせると、温かく潤んだ其処に自身をあてがった。

「ん…っ!」

性急な進藤を、たまきの其処は熱く受け入れる。

「あぁ…」

漏らした溜息が、幸福そうで。
朝の光に照らされて、白く滑らかな肌のきめ細かさまで良く見える。
悦びを湛えて微笑む瞳は妖艶で。

「…っ…」

己の欲望に、進藤は余裕を失くしていった。

「…っ…ぁ…っ…はっ…」

性急な進藤の動きは緩やかにたまきを悦ばせる。
そっと身体を折り、ぴんと尖った胸の蕾を口唇と指で愛撫した。

「あぁ…っ…ん」

さらに悦びの声を上げる。
たまきの腕が進藤の首に回される。
進藤はそっとたまきの顔に近付き、その瞳を見詰める。
たまきも潤んだ瞳で見詰め返す。
しばらくの間、見詰め合う。

"お前が""貴方が"欲しかった。

そう瞳で伝え合う。
繋がったまま、深く口付け合った。
そっと口唇を放すと、たまきの手がそっと進藤の頬に触れた。

「…もう、いいわよ」

その掌にそっと口付けすると、進藤は再び激しく律動した。

「…っ…んっ…あっ…っ!」

進藤に掴まり、目を瞑って必死に快楽に耐える。
たまきの短い爪が進藤の背中に食い込んだ。
それと同時に進藤をきつく締め上げるたまきの胎内。

「くっ………」

ふたりは同時に限界を迎えた。

抱き合ったまま、息を整える。
はぁはぁ、と息を乱しながらたまきが微笑んで言う。

「こんなのばっかり」
「…不満か?」
「…不満なのは貴方の方じゃないの?」

これくらいじゃ満足できないくせに、と意地悪く微笑む。

「…なら、うちに住め」
「…毎朝こうなの?」

それはちょっとゴメンだわ、とたまきが笑う。

「イけなかったか?」
「…馬鹿。判ってるでしょ」
「判らないときの方が多いんだ、男には」

ごろんと寝転んで息を吐いた。
くすっ、とたまきが笑う。

こんな淫らな朝を迎えるようになってもうどのくらい経つだろう。
ふたりで堕ちてゆくなら悪くはない、とたまきは思った。

「まだ時間あるな」

シャワー浴びるか、と進藤が起き上がる。
んー、と気だるげにたまきは寝返りをうつ。

「…来いよ」

耳元で甘く囁く進藤の吐息に擽られ、たまきはくすくすと妖艶に微笑んだ。






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