進藤一生×香坂たまき
![]() どうして私は人に頼ることができないのだろう。 頼り方を知らないのだろう。 本当は、いつも誰かにそばにいてほしいのだ。でも。 淋しいのに、突き放してしまうのは何故だろう。 ああ、どうしてこんな事を考えてしまうのだろう。 仕事をしているときは、こんなこと考えもしないのに。 くだらないわ、と自分を鼻で笑うことができるのに。 香坂は進藤のマンションでそんなことを考えながら、ベッドから起き上がれないでいた。 進藤は仕事だった。香坂を気遣い、黙って出勤したようだった。 しかしそのことが、香坂を一層虚しい気持ちにさせていた。 一言、声をかけてくれてもいいじゃない。 おはようもいってらっしゃいも言えなかった。 昨日の夜、愛し合い、お互いの存在を確かめ合ったことが、なかったことにされたように感じていた。 珍しい休日なのに、香坂はこれといった予定もないのだった。 人を頼ることができない、と考えただけで涙が出てきた。 心が弱っていた。そして、その事は誰にも見せられなかった。 香坂が自ら選択した生き方だったが、 これからもこの選択を続けていけるかどうかは自信が持てないでいた。 ただ、そうかといって他の選択肢を知っている訳ではなかった。 香坂はそのもやもやした気分のまま、無為に一日を過ごしたのだった。 「どうした?」 次に進藤に会ったのは、医局でだった。 進藤は香坂の僅かな変化に気付いて声を掛けたのだが、 その問いかけ方はどうとでも捉えられてしまうものだった。 「どうって、何が?」 香坂は、いつもの調子で――いつもの仕事中の自分を保って―― 進藤の問いかけに応じた。 「いや――」 進藤は目線を下に向けながら答えた。こんなとき、どう言えばいいのか分からないでいた。不器用なのだ。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |