招かざる客
進藤一生×香坂たまき


進藤は後悔していた。

「ねえ、いつまでもそんな所に立ってないで、早くこっち来てよぉ」

寝室のベッドの上で、若い女が手招きする。
進藤が、たまき以外の女を家に入れたのは今日が初めてである。
勿論、たまきに飽きた訳ではない。
無愛想でも、もって生まれた端正な顔立ちと医療に関しての技術の高さに
進藤に言い寄る女は実は数知れない。
しかし、今やたまき以外に興味のない進藤はことごとく無視し続けたが
それをいいように勘違いした女がマンションにまで押し掛けて来たのだ。
本来なら問答無用で追い返すのだが、たまきから近頃は逆恨みで事件へ発展するが多いから、と
言い寄る女性への対応は気をつけるように、と忠告されたのを進藤は思い出してしまい
これ一度きりで面倒事が回避できるならと、仕方なく部屋へ入れてしまったのが大きな間違いだった。
進藤の行為を脳内で都合よく変換してしまった女は
いくら追い出そうとしても素直に応じず、彼女きどりで部屋を歩き回る。
力づくで追い返す事も考えたが、更に面倒になる可能性が大いにあるので
迂闊に手が出せない。
そしてどうにも出来ぬまま、時間だけが虚しく過ぎてゆく。

「まったく……どうしろって言うんだ・・・」

たまきの言い付けなど無視して、いくら女が泣こうが喚こうが
部屋に入れるべきではなかった・・・
そう後悔しても、全ては後の祭り。
生ぬるい考えで入れてしまった自分に苛立ちつつ進藤は女を追い返す口実に頭を悩ませる。
ふと時計に目をやると、午後9時を少し過ぎている
定時に上がれていれば、そろそろたまきが来てもいい時間だ。

「……邪魔だ、帰れ」

「えぇー。せっかく来てあげたのに、それはないんじゃないのぉ?」

進藤の苛立ちなど全く感知していないのか、ベッドに寝ころんで
離れる気配はない。

「人が来る。これ以上お前の相手はしない」

「人って、もしかして彼女?そうよねぇ、彼女にこんな所見られたら
 大変だもんねぇ。あなたの彼女ってどんな人か気になるなぁ。
 同い年?それとも年上?」

「…………」

進藤の話も聞かず、女は喋り続ける。

「でも、私を家に上げたって事は、彼女に飽きたからじゃないの?」

その時、玄関のドアが開いた。

「一生、そんな所で何してるの?」

寝室の前で立ち尽くしている進藤に、たまきは訝しげに声をかける。
そしてすぐに、自分の足元にある見慣れぬミュールに気づく。

「誰か来てるの?」

たまきは、寝室を覗き込む。

「やだ、プライドの高そうな女。息詰まりそう〜!」

たまきを一目見るなり、女はふっと鼻で笑い出す。
しかし、たまきは眉一つ動かさないで口を開く。

「一生、こんな女で満足できるの?」

「何よ、満足って……!!」

たまきのその様子に余裕を見せていた女の顔が、見る見るうちに醜く歪む。

「ふざけないでよ。
あなたより、私の方が進藤先生も満足出来るに決まってるわ。
ね、そう思うでしょ?」

「無理、だろうな」

低く、重い声が薄暗い寝室に響く。

「お前程度では俺は満足させられない。」

「何で……言い切れるのよ!」

「知りたいか?」

そう言って進藤は初めて、女に笑顔を向ける。
進藤が心の底から怒っている時に見せる笑顔は、残忍で冷酷。
その事を女は知る由もないが、底知れぬ恐怖を秘めた眼差しに貫かれた女は
声にならない悲鳴を上げた。

「も、もういい!あなた達になんか、これ以上付き合ってられないわっ」

顔をひきつらせたまま、女は逃げるようにして部屋から飛び出していった。
女の足音が消えると、たまきも玄関に向かって歩き出す。

「何をしている」

「私も帰るの」

たまきは振り向きもせずに靴を履く。
そしてドアを開ける直前で、進藤はたまきの腕を掴んで引き留める。

「待て!」

「離して」

たまきは掴んだ手を乱暴に振り払る。

「…………私に満足出来なくなったなら、そう言えばいいのに」

ポツリとたまきは呟く。

「は?」

「満足出来ない私と一緒にいる意味なんてないでしょ。だから帰るの」

たまきの顎を掴み、無理矢理顔を上向かせる。

「嫉妬、か」

「…………」

進藤を見つめるたまきの瞳に、薄ら涙が浮かんでいた。

「私だって、嫉妬ぐらいするわよ!
あの女には強がって見せたけど、貴方が私で満足してるのか不安だし
いつか私に飽きて別の人を選ぶんじゃないかって考えたりもする時だって…」

いつも凛とした態度で仕事をこなしている彼女も、病院を出れば
どこにでもいる普通の女性と変わりない。

「強がってたんじゃない……強いさ、お前は」

低く笑いながら、進藤はたまきの身体を壁に押し付ける。

「口ではああ言いながら、その目は俺を捕らえて決して離さなかった。
こんなにも俺を強く縛り付ける女はお前以外いない」

「でも・・・!」

「まだ分からないなら言ってやる……俺を満足させてくれるのはお前だけだ。
 俺という存在を貪欲に求めるお前が、この上なく愛おしい」

物言いたげなたまきの唇を、進藤は強引に口付けて塞ぐ。

「んっ、んん……っ」

強張っていたたまきの身体から、徐々に力が抜けていく。
そして唇が離れると、もたれるようにして進藤の胸に顔を埋めた。

「私だって、貴方じゃなきゃ満足出来ない。
私が初めて、心の底から欲しいと願った人なんだから……」

たまきは両腕を進藤の背に回し、強く抱きしめる。

「……それなら、帰る必要はないな」

「あっ」

進藤はたまきを軽々と抱き上げ、寝室に向かって歩き出す。

「ちょっと、降ろして!」

「何故だ。満足、したいんだろ?」

「……意地悪」

顔を真っ赤に染めて、たまきは進藤にしがみつく。
だが、寝室のドアまで来て急に首を大きく横に振る。

「……嫌」

「この後に及んで、まだ帰る気か」

「そうじゃないわよ。ベッドが」

「ベッド?」

「他の女が触ったベッドは、嫌」

「……ああ、なら明日新しいものに替えておく」

進藤は寝室に入るのを止め、リビングにたまきを運ぶ。
独り暮らしにしては広すぎるリビングには、三人掛けのソファーがある。
だが、進藤はソファーには目もくれず、その前に置かれたセンターテーブルの
上にたまきを降ろした。

「い、一生?」

黒色に塗られた木製の堅い天板の上で、たまきは柔らかそうなソファーと
進藤の顔を交互に見る。

「あの女はソファーにも座ったからな」

そう言って進藤が口付けようとすると、たまきは頬を膨らませて顔を背ける。

「さて、どうすれば機嫌を直してくれる?」

「…………優しくして」

普段から優しいとは程遠い抱き方しかしない進藤に対しての
精一杯の当て付けなのだろう。

「優しく……だな」

天板に広がる長い髪を指に絡めながら、彼女の願い通り進藤は優しく口付ける。

「んっ……ふぁ」

普段の噛みつくような口付けに比べたら、まるで空気のように軽く、
たまきの唇に触れる。

「あ、い……っせい……」

いつもと違う口付けに物足りなくなったのか、たまきから舌を差し入れてくる。
だが進藤は『優しく』という約束を守り、軽く舌を絡ませる程度
たまきの身体に伸ばされた手も、敏感な場所は避けて弄る。

「……機嫌は、直ったか?」

「全然直らないわよっ!」

長い長い口付けから解放されたたまきは、涙目で進藤を睨み付ける。
優しさが足りないからなのか、優しさにかこつけ焦らしているのが
気に入らないのか・・・
答えは間違いなく後者だろう。
だが、自分から言い出し手前、今更いつものようにとは言えないようだ。
このまま焦らして反応を楽しむのもいいが、進藤もさすがに今夜ぐらいは
意地の悪さを半減する事にした。

「ちゃんと、お前の希望は叶えるさ……」

そう言って、進藤はたまきの服に手をかける。
コートを脱がせ、上着とともにブラジャーを上にずらすと
収まっていた形のいい乳房が弾むようにして現れる。
進藤はその乳房の先端を口に含んだ。

「あっ、あんっ!」

痛くならない程度に舌先で乳首を転がし、乳房は手で軽く揉みしだく。

「あうっ、あ……あんっ」

まだ胸だけの愛撫なのに、たまきは甘い声を上げながら太ももを擦りあわせた。

「そんなに焦らなくてもいい。まだ、夜は長い」

胸から離れた進藤は、スカートを捲り上げ、太ももを割り開く
ショーツの上からでも分かるほど、秘所は蜜で潤んでいた。
布越しに指を強く押し付けると、溢れた蜜がショーツの色が変わるほどに染み出てくる。

「こんなに溢れては、もったいないな」

進藤は濡れたショーツを下ろし、蜜が滴る秘所に顔を埋めた。

「はあっ…………んんっ!!」

淡い茂みの奥に隠された熟れた果実にむしゃぶりつく。
果実に傷を付けないよう舌で丁寧に舐めとっても、粘りのある蜜は
後から後から溢れてくる。
進藤は、中に溜まっている蜜を吸い出そうと蜜壺に舌を差し入た。

「やっ……舌、入れた、ら……」

たまきの下半身がビクビクと震え出す。

「はうっ、あっ、んぁっ、や……やあぁっ!」

高い声で叫んだ後、進藤の頭を抱え込んでいたたまきの脚から力が抜け
だらりと開かれる。

「……早いな」

横目でたまきを見ると、恥ずかしいのか視線を避けるように目をぎゅっと瞑る。

「目を開けろ、たまき」

「……」

火照った頬を撫でられ、たまきは目を開く。

「俺はまだ、お前に優しくし足りないんだ。お前だって、足りないだろ?」

たまきは頷き、両腕を伸ばして進藤をきつく抱き締める。

「足りないわよ……もっと沢山、優しくしてくれなきゃ」

「ああ、分かってる」

たまきの片脚を持ち上げ、進藤は濡れそぼった蜜壺に昂りをゆっくりと押し入れた。

「はぁ、あぁ、あ……っ」

激しく突き上げたい衝動を抑えて、感触を楽しむようにじわじわと膣壁を広げていく。
そして最奥に行き当たると、進藤はたまきの胸で深く息をはいた。

「優しく、っていうのもたまにはいいな。お前の中が俺を締め付けてくるのがよく分かる」

「私の方だって、奥まで入ってるのも形もはっきり分かるわよ!」

「でも、あまり締め付けるなよ……すぐに達しては面白くないからな」

持ち上げた脚を肩に乗せ、進藤は腰を打ち付ける。

「あっ!い、っせ……あんっ、あうっ」

緩やかな腰の動きで、たまきの快感を少しずつ高めていく。
進藤も激しく抱いた時のような爆発的な快感は得られないが
長くたまきと繋がっていると自分の身体も心も彼女の一部になった気がして
今までにない充足感を感じていた。
だが、暫く抽挿を繰り返していると、たまきが時折苦しげな表情をするようになった。

「ひあっ、あっ、あんっ、くぅっ……」

進藤が体重をかけると、一瞬辛そうに眉をしかめる。
長いこと固いテーブルの上に乗せられ、かつ進藤の体重もかかってくるので
身体が痛くなっているようだ。

「……交代だ」

「え?」

たまきが驚いている間に、進藤は素早く彼女の身体を抱えて、体位を逆にする。
いきなり進藤の上になったたまきは何が起こったか分かっていなかったが
痛んでいた背中をさすられ、進藤の意図に気づく。

「今日の貴方……優しすぎて、何か、変」

「……我が儘な女だな。優しくしてくれと言ったくせに、したらしたら変呼ばわりか」

「変だけど、優しい貴方も好きよ。獣みたいに激しい貴方も好き。
 全部、全部……一生、貴方の全てが好きで愛しい。」

たまきは進藤の瞳をしっかりと捕らえると、自分から腰を上下に動かし始めた。

「……だから、貴方の全てが欲しいの……っ」

「何度も言ってるだろ……俺は、お前のものだ」

「聞いたけど、まだ、足りないの。もっと貴方が、欲しい……っ」

狭いテーブルから落ちないようにしながら、たまきは進藤の上で淫らに腰を振る。

「はっ、あっ、あん、あうっ!」

限界が近いのか、膣の締め付けはだいぶ強くなっていたが
自分だけ先に達しないよう寸前の所でこらえている。

「俺も……お前が欲しい」

たまきの身体をしっかりと抱き締め、進藤も腰を突き上げる。

「あうっ、あっ、一生……あああっ!!」

「……くぅっ」

先にたまきが高みに達し、すぐ後を追って進藤も膣内に精を放った。
いつもなら一度で満足出来ず何度も求めあうが
不思議と今夜はこの一度だけで進藤もたまきも十分に満たされた。

「…………そういえば、聞いていなかったけど」

狭いテーブルから、あの女が奇跡的に足を踏み入れなかったバスルームに
移動したたまきは、湯船の中で思い出したように進藤に問いかける。

「どうして、あの人を家に入れたのよ?
貴方が私以外の人を家に入れる事なんてなかったのに」

「いきなり俺に会いたいとやって来て、玄関前で騒ぎ立てるから仕方なく入れた」

同じく湯船に入っていた進藤は、思い出すのも嫌だと言わんばかりの顔で答える。

「貴方なら、いくら泣こうが喚こうが絶対に家になんて入れないと思ってた。
 迷惑なら、力ずくで追い返せばよかったのに」

「……お前が、事件になったら困るから対応に気をつけろ、とか言うから入れたんだがな」

進藤の鋭い一言で、たまきは固まる。

「もしかし……なくても、私のせいでも、あったりする?」

「そう言ったつもりだが」

「…………」

進藤らしからぬ行動の原因が自分の忠告だったと知ると、たまきは申し訳なさそうに俯く。

「まぁ、俺の失態でお前が事件に巻き込まれるのは御免だからな。
 これからもお前の忠告は覚えておく。だから、お前も覚えておけ」

俯いたままのたまきの顔を、進藤は指で上向かせる。

「俺を束縛出来るのは、この世でお前だけだ。そしてお前を満足させるのも、
 この俺だけだからな……」

ただ一人の女に再び囚われてしまった事を、進藤が後悔する日は永遠に来ないだろう。
たまきが傍にいる限り、進藤は生きる喜びに満たされるのだから・・・






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