アナザヘヴンネタ2
番外編




「私ね、珈琲の匂いって大好きなの」

ソファに座って、キッチンに向かって嬉しそうに珈琲をいれる笹本の背を見て、早瀬は警戒していた。
しかし、ナニカを誘い出すための質問をしても、笹本は自分がバツイチで慰謝料代わりに家を貰ったと言う話しをし始め、悲しそうに目を伏せて笑うだけだった。

「不器用なんだよね。いつになったらちゃんとした恋愛ができるのかな」

もしかしたら、笹本は何も関係ないのかもしれないと思う自分がいた。

考えを巡らせていると、笹本が隣に座って、頬杖をつく。

「家なんか欲しくなかった…それより、もっと他のものが欲しい」

笹本は警察病院の美人医師として、同僚の刑事の中ではかなりの評判だった。
その彼女が隣に居ることすら不思議なのに。
そんな顔をされては、どうしようもない。
思わず、その瞳に吸い込まれそうになる。

「…俺じゃ役不足じゃないかな」

動揺を隠すかのように、視線を逸らすと珈琲を啜った。
笹本は首を横に降ると、更に肩を密着させてくる。
目があった瞬間、早瀬は答えを出そうと口を開いた。
しかし、かさついた唇に、そっと白い指が添えられる。

「今すぐ、決めないで。どっちに言われても信用できないから…」

甘え声でそう言うと、笹本は早瀬のシャツの胸元に手を差し入れようとした。
いきなりの行動に、少し驚き身を引くと、彼女も手を引いて小さく謝る。

「…笹本先生」
「先生は止めてって言ったよね?」

肩や髪に細い指が絡んで、固まったまま居ると、ゆっくりと唇を塞がれた。
理性が飛んでいきそうになったが何とか押さえ込む。
マンションの外で飛鷹が盗聴しているということを思い出すと、思わず笹本の細い身体を引き離す。

「…私じゃ駄目だよね」
「先生と俺は、そういう関係じゃないですから」

早瀬の真面目な答えに笹本はくすりと笑うと、そうねと言い、立ち上がる。

「今日は帰るね。また包帯かえに、また来るから…。」

玄関に向かう笹本の背を追い掛け、立ち上がろうとした拍子にテーブルに脚をぶつけてしまった。

「…っ…」

その途端にコーヒーカップがひっくり返り、早瀬のズボンが茶色く染まっていく。

「大丈夫!?」

鞄から白いハンカチを取り出し、慌てて拭ってくれている。

「これくらいたいしたことありませんよ」
「駄目よ、冷やさないと。」

そう言って冷蔵庫から氷を持って来てズボンの上から冷やす。ひんやりとした冷たい感触とピリピリとした痛みに、自然と眉間に皺が寄る。
笹本は自分の鞄から消毒や包帯を取り出す。
下を脱いで欲しいと言われて躊躇したが、笹本は腕組みをして、早瀬を睨み付ける。

「医者の言うことはちゃんと聴いてくれないと困るわ。患者さん?」

笹本に促され、ベルトを外し、珈琲塗れのズボンを脱ぐ。

「これ、クリーニング出しといてあげる。例の事件で忙しいでしょう?」

悪いからいいと言ったが、笹本は珈琲で染まったズボンを丁寧に畳んで紙袋にいれ、慣れた手つきでソファに座ったままの早瀬の軽火傷した脚に治療を施していく。
時刻は夜11時を過ぎている。薬品の臭いが鼻に衝く。
早瀬は徐に目を開け、笹本を見た。笹本もまた、早瀬を見つめている。
ソファに座ったままのこの位置だと、笹本を見下ろすような形になる。
僅かに潤んだ瞳に惑わされ、心臓が高鳴る。

「やっぱり、次まで…答えを待てないかも」

そう静かに笑って言うと笹本は這い上がり、至近距離まで顔を近づける。
ゆっくりと早瀬のワイシャツに手をかけ、ボタンを丁寧に外していく。
包帯の上から、つーっと細い指でなぞられ、身が固くなる。

「反応してるの?…可愛い」

その笑いが艶めかしくて、見惚れてしまう。
笹本は大きく骨張った早瀬の手を取ると、自らの胸に押し当てた。

「…女にここまでさせないで」

彼女に誘われた。
数日前に、朝子に犯された時とは違った大きな感情が心の中でうごめいて爆発し、ソファに笹本を押し倒す。
早瀬は完全に罠に堕ちた。

夢中で唇を奪う。
しきりに啄むようにキスをすると、彼女が衿を引っ張り、深く舌を絡めてきた。お互いの絡め合うキスの音と荒い息遣いが部屋に響き渡る。

ふと、盗聴器の存在を思い出した。完全に忘れていた。
盗聴器は、胸ポケットのタバコの中に隠していた。
今、ここで盗聴器を壊してしまえば、飛鷹が突入しかねない。
そんなことを冷静に考える余裕が自分自身にまだあったことに、驚いた。

「ちょっと待ってくれないか」

微笑み頷く笹本に笑顔を向けると、着ていたシャツ脱ぎ、丸めて、隣の部屋に放り込んだ。
これで事態はバレてはいるだろうが、飛鷹に行為の最中を聴かれることはないだろう。
ソファに戻ると、また深く口付けをされる。
白い肌が映える赤いブラウスに手をかけて、器用にボタンを外す。
隙間から、黒いレースのブラが見え、フロントホックを外そうとした時。

「まだ駄目。お預け。」

笹本に止められた。
お預けされた犬の気持ちが解る。

「そんな顔しないで」

笹本は早瀬に横になるように言った。皴の入った肋骨を気遣かってのことだった。

「怪我してるんだから、じっとしてて」

そう言うと、いつの間にかスーツのポケット中に入れていた手錠を抜き取り早瀬の手に素早くかけた。

「一体、何のつもりで…」その時、一瞬ナニカの存在が頭に過ぎった。
騙されたのかという不安が渦巻く。
しかし、笹本は早瀬に妖艶に微笑むだけ。

「せっかく良くなってるのに、怪我が酷くなったら困るの。だからあなたは動いちゃ駄目よ」

それは随分酷な話しだと早瀬は思った。
こんな美しい女に触れられないなんて。
早瀬自身を下着の上から優しく摩り、僅かに震える反応を見て、笹本は妖しく笑った。
不意を突かれて、下着をずらされると、一瞬遅れて空気に晒されるのが分かる。
笹本が白魚のような細い指で、愛撫し始めた。
少し硬くなり始めると、口に含まれた。先端、裏筋、袋と丁寧にゆっくりと舐められ、深くくわえ込む。
その温かい舌の感触に息を乱し、声が出てしまう。
熱が集中し、熱くなる。白い欲望が出口を求める。

「……く……っ…」

何度も何度も刺激され、小さく呻くと、笹本の口の中で脈打ち、達してしまった。
喉を鳴らしながら、全て飲み込むと、色っぽい仕草で唇の縁に付いた精液を舐めた。

「すまない…我慢出来なかった…」

息を整えながら謝ると、笹本は早瀬のものを撫でながら、また首筋にキスや胸に手を這わせ始めた。
完全に焦らされている状態で、我慢出来なくなった。
ブラウスを開けさせたままの笹本に触れたい衝動に駆られた。

しかし、手にかかっている手錠のせいで笹本に触れることが出来ない。

「鍵、外してくれないか。」
「激しくしないって約束出来る?」

少しの沈黙の後、早瀬が答える。

「…ああ、約束するよ」

そう早瀬が言うと、笹本は手錠の鍵を外す。

肩にかかっている赤いブラウスを落とすと、白くきめ細やかな肌が見えた。
笹本の身体を撫で回してから、フロントホックを外す。
形の良い胸が露になり、その美しさに見惚れてしまう。

「やっぱり、加減が出来るかわからないな」

そう小さく呟くと胸に触れ、舌や手で愛撫していく。

「…あ…ん…っ、あ 」

笹本の潤んだ瞳と甘い喘ぎが早瀬を煽る。
細い腕が早瀬の首に絡まる。鼻が当たる距離まで顔を近づけ、微笑み、また舌を絡めてくる。
笹本の積極性に少し戸惑いながらも、また熱が移動し、自身が硬くなっていくのがわかる。
タイトスカートを少しめくって、ストッキングを爪に引っ掛けて、引き裂く。
僅かに湿ったショーツを脱がすと、秘所を軽くなぞり、節くれた指を埋めた。

「あ…っ…ん…だめ…」

身をよじると、腰を浮かした。その光景は、堪らなく淫らに見えた。
指を動かすと、笹本の身体が震え、指を締め付ける。同時に蜜が溢れ出し、早瀬の手を濡らす。
奥を突く度に、温かいものが溢れ出す。眉間に皺をよせ、シーツを握りながら、彼女が感じてくれてることに嬉しく思う。

「…だめ…っ、もう我慢できない…あなたが欲しい」

早瀬の大きな身体を押し倒し、体重を感じさせない動作で、上に乗る。
濡れそぼった秘所に早瀬自身を擦り付け、腰を落としていく。

「…あ…んっ、…あ…っ」

温かく狭い胎内と腰遣いに、達しそうになり、堪える。
腰を大きく動かしている笹本の姿は淫ら過ぎた。
怪我をしている身体は、まだ自由に動けず、下から秘所の上の突起を摩ったり、胸を弄った。
甘い声が部屋中に響き渡る。
堪らなくなり、大きく突き上げる。

「あっ、あっ、ん…!」

突き上げる度に口から漏れる喘ぎと同時に膣が締まった。早瀬の胸に、笹本が倒れ込むと、びくびくと震える。

「……う…っ…」

笹本の中で、早瀬が脈打つ。二人同時に達したのだった。

息を切らしながら広い胸に凭れ、笹本が妖しい笑みを浮かべたことに、早瀬は気付かなかった。

あれから激しく抱き合い、疲れて眠っていた。
今日、飛鷹に会ったら間違いなく怒鳴られるだろう。覚悟しなければと思った。
彼女の体重を腕に感じ、愛しさが込み上げ、白い顔に触れる。
すると、ゆっくりと美しい目が開いた。

「おはよう」

微笑んで言う彼女に、自分も微笑んで挨拶した。
ゆっくり起きて、下着とブラウスとスカートを付けていく。
帰るのか?と尋ねると、彼女は寂しそうに微笑んで、俺を見る。

「今日も仕事なの…また明日ね」

玄関先まで送ると、顔に触れ、見つめながら言われる。

「私、こんなに誰かに愛されたの初めてなの」

それだけ言って、彼女は去って行った。
何故だろうか。男なら言われて嬉しい言葉な筈なのに、何か引っ掛かる。
さっきの言葉を含め、抱いていた時の彼女の言葉に、どこかデジャヴを感じるのだ。
スポーツカーのエンジンと発進音がした。

必死に記憶を辿る。

木村の部屋を捜索した時のビデオだ。
木村は恋愛物のビデオが好きだったらしく、ラブストーリー物を集めていた。
そのビデオに出てくる台詞や行動、男の喜びそうな表情など昨日の笹本と全て一致したのだ。

「畜生!やられた!」

記憶の糸が繋がった。
急いで、スーツを着ると、拳銃だけを持ち、鍵も閉めずに部屋を出て、車を飛ばした。


(おまけ)

以後、飛鷹と赤城(会話だけ)

「あの野郎…こんな時期にあのいい女とヤリやがったな」
「マナブも男だったんだな、据え膳食わぬは男の恥。」
「黙れよ、ジイさん」
「とにかく、この賭けは俺の勝ちだな」
「あんた医者だから、金持ってるんだろ」
「まあ、刑事よりかは持ってるな」
「早く墓に行けよ、ジジイ」






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