怖くなんかありません
秋山深一×神崎直


「・・・おい」

秋山は、自分の部屋の前にうずくまってる影に声をかける。
割と強く発音したにも関わらず、それは微動だにしなかった。

「何、こんな所で寝てるんだ、よ!」

近づいてその細い身体を思いっきり揺さぶってやると
きゃあと小さく悲鳴を上げて、神崎直は弾かれたように立ち上がった。

「あ・・・秋山さん・・・」

バツが悪いのか、彼女はもじもじとつま先を動かした後
情けない表情でへらっと笑う。

「まったく、何やってるんだ人の家の前で。しかもこんな時間まで」

やや憤慨した声で言ってやれば
ごめんなさい。と、うな垂れて頭を下げた。

「けどけど、これ・・・作ってみたので秋山さんにもあげたくて」

秋山は、差し出された白い紙箱に目を落とす。

「何、これ」
「クッキーです。・・・あ、何ですかその顔は!私こう見えても料理とかは・・・」

尚も言い募ろうとする彼女を尻目に
がちゃがちゃと部屋の鍵を開け、部屋に招き入れた。

「ほら、早く入れよ」

紙箱を両手に抱えたまま、直は秋山に向かって一度微笑み
失礼します。と軽く頭を下げた。

「言っとくけど、緑茶とコーヒーしかないぞ」
「あ、いえ、そんな、お構いなく!」
「どっちが良いかって聞いてんの」
「どっちって・・・」

遠慮しているのだろう。しばらく悩んだ様子を見せ
歯切れの悪い口調で、ではお茶をお願いします。と返事が来た。

薬缶に水を入れ、コンロにかける。
沸騰するまでの間、所在無さげにきょろきょろしている直の話を聞いてやる事にした。

「で、用件は?」
「だからさっきも言ったじゃないですかー。クッキーを焼いてみたので・・・」

ぷぅと頬を膨らませる直を
しかし無言でじっと見つめる。
すると、バカ正直の直はあっさり陥落した。

「う、あの、えっと・・・すみません。クッキーはただの口実なんです・・・」
「何の」
「ええと、その、秋山さんの所に来るため、の」

流石の秋山も、これには目を剥いた。

「は?」
「だだだだだだって!秋山さん最近元気がないから、何かあったのかなぁっ・・・て・・・」

段々尻すぼみになっていく。

それでも懸命に、不器用に、彼女は言葉を続けた。

「私、このライアーゲームに参加した時、誰一人相談できる人がいないって気付いたんです。
私って実は孤独だったんだなって、ふっと思ったんです」

顔を上げ真正面から秋山を直視し、直は僅かに顔を歪める。

「一人って、辛いじゃないですか。悲しいじゃないですか。人だからそれは仕方ないんです
けど秋山さんは、その事で思い悩んでて、だからいつもそんな泣きそうな顔してるんだって
突然気付いたんです。・・・寂しい事は恥ずかしい事じゃないんですっ」

そう言った彼女自身が、今にも泣きそうな顔で笑っている。
真摯な瞳に見つめられて、秋山は指一本動かせなくなった。

「別に俺は、そんなんじゃ」
「そうなんです!だから私が秋山さんを元気付けてあげようって思って、来ちゃいました」

直は膝立ちになり、秋山のそばですとんと腰を下ろす。

「あんたこんな夜中にさ、男の部屋に転がり込んで、身の危険とか感じなかったわけ?」

半ば呆れつつ口に出すと、直はただ無邪気に笑った。

「そこまで考えてませんでした。あ、けど、秋山さんになら別に構わな・・・」

己の発した言葉に自分自身が驚いて、彼女は思わず両手で口を塞ぐ。
色の白い肌が徐々に赤く赤く染まってきた。

「すみません!ああああ私ったら・・・!」

秋山に背を向け、自己嫌悪に陥る直。
対する秋山は、始めは硬直していたものの
やがてにんまりと悪戯っ子の様な笑みを顔中に広げた。

「きゃあ!」
「さっき言った事、信じて良いんだろうな」

突然背後から力強く抱きしめられ、直は文字どおり飛び上がった。

「あ・・・秋山、さん?」

ピーーーーーーーーーーーーーー!

その時、薬缶が高い音を立て
水が沸騰した事を知らせてきた。
秋山は舌打ちをして、だるそうにコンロへと向かって行く。
まだ心臓が落ち着かない直は、そんな彼の後姿をじっと見つめるしかなかった。
火を止め、振り返ると彼女の視線とぶつかる。
完全に戦意喪失した秋山は、申し訳なさそうに薄く笑った。

「悪かったな、あんな事して。怖かったろ?」
「いえ、そんな、私・・・」

恥ずかしさと驚きで胸がいっぱいなのか、直は上手く言葉を発せられない。
しばらくあーとかうーとかひとしきり呻った後

やがて意を決した様に立ち上がって、ずんずんと秋山の傍までやって来た。
直の行動が読めない秋山は、ただ突っ立ったままだ。

「私、怖くなんかありません」

彼の目の前でそう宣言するが
直の唇は小刻みに震え、イマイチ説得力に欠ける。

「ただちょっと脈が速くなって、体がとっても震えて、けどそれだけです」

それを怖いと言うんだよ。と秋山は教えてやりたかった。
しかし同時に彼の心の中で、何かがゴトリと動いた音がした。
試しにその両肩に優しく触れてみると、その瞬間だけ若干体が強張るのが分かったが
それ以上は別段変化は無い。

「ねぇ、意味分かって言ってんの?それ」
「もちろんです」
「本当はすごい怖いんだろ」
「全然そんな事ありません」
「俺なんかで嫌じゃないのか?」
「嫌だなんて!私秋山さんが」

その言葉は最後まで彼女の口から発せられる事は無かった。
突然降ってきた唇に、直はそっと目を閉じる。
優しいキスに意識を朦朧とさせる彼女を連れ、秋山は敷かれたままの布団までやって来た。
カーテンを閉め、無言で電気を指差すと、彼女は恥ずかしそうにこっくりと頷く。

パチ、と安っぽい音と共に、部屋中に闇が広がった。
再度直を腕の中に引き寄せ、秋山はもう一度キスを与える。
今度はさっきの様に優しい啄ばむだけの物では無い。
舌を直の口内へと入れると、彼女は懸命にそれに応えてくれた。

「んっ・・・」

段々激しくなっていくそれに直は息苦しさを覚え、徐々に秋山の腕の中からずり落ちる。
そこには布団があり、彼女は自然な形で白く浮かび上がるシーツの上に倒れこんだ。
唇がやっと離される。
暗闇の中でも分かる、直の澄んだ潤んだ瞳
それが自分だけに向けられていることを感じると、秋山の心臓は高揚に跳ね上がる。
服の上からその胸に触れれば、彼女の体が一瞬ピクリと動いたのが分かった。

「・・・怖いか?」

耳元で囁くと、震えた声でいいえ、と返事が来る。
思っている以上にふくよかなその胸をゆっくりと揉みしだくと
直の唇の端から僅かに息がこぼれた。
同時に白い首筋に軽く吸い付く。

「ぁ・・・んん・・・」

艶っぽいその声をもっと聞きたいと思った秋山は
彼女の上着に手を掛ける。
ボタンを全部外してしまうと、細い肩が露になった。
今までこの両肩に、あの絶えがたいプレッシャーを背負っていたかと思うと信じられない。

「秋山・・・さん・・・?」

力強く掻き抱かれて、彼女は少し戸惑っている。
その体勢のまま後ろに手を回し、ブラのホックを外すと
美しい曲線を描いた乳房が顔を出した。
恥ずかしそうに身をよじる直を再び抱きとめ、秋山は先端を口に含む。

「っ・・・!」

体を這い回る手の感触と相まって
直は思わず息をするのを忘れていた。
スカートのチャックが下ろされ、
するすると足を通って、いとも簡単に脱げてしまう。
いつしか彼女はショーツ一枚という格好になっていた。

「お前、本当高く売れるかもな」
「な・・・何言ってるんですか秋山さん!」

胸を両手で覆いながら、真っ赤になった直は視線を逸らす。
そんな彼女の様子に秋山は一度楽しそうに笑うと
冗談だよ、と優しい手付きで彼女の額に触れた。

そのまま胸元の手を緩慢な動作で掴み、シーツへ縛りつける。
鎖骨から胸へと舌を移動させていく。
生暖かい感触に、直は小さな悲鳴を上げた。
それまで腿に触れていた手が、するすると横に滑り
彼女の中心部をふわりと撫であげる。

「きゃ・・・!はぁっ・・・」

秋山に触れられているという自覚と
今まで感じたことの無い感覚に
直の羞恥心は最高潮に達していた。
思わず枕を引き寄せ、顔にぎゅっと押し付ける。
しかし、いくら待てども先ほどのような感触はやってこなかった。

不審に思い、恐る恐る顔を上げ

「・・・!秋山さん」

再び枕に顔を埋めてしまった。

「今度は何」
「なななんで裸なんですかっ」

ほとんど悲鳴に近い声を出すと
耳まで真っ赤になりながらほんの少し顔を覗かせる。

「・・・俺、こういう場でそういう事言われたの初めてなんだけど」

自分の発言の奇妙さに気付いてない?
ほとんど呆れ返った口調でそう問われて
直は分かってます!と首を振った。

「分かってますけど!けど、恥ずかしいものは恥ずかしいんです!」
「って君も裸じゃない。何を今更」
「それを言わないで下さい!」
「ああもう!」

直の手から枕をもぎ取ると、そのままの勢いで布団へと押し倒す。

「そういう羞恥心とか、感じなくなれば問題ないだろう?」
「・・・あの、秋山さん?・・・ぁうッ、ん・・・」

胸に被せられた右手が、ゆっくりと、大胆に動き始める。
左手が、直の腰や内腿を滑らかに撫で回す。
そしてショーツがぐいっと引っ張られたと感じると同時に
自分を隠すものが一切無くなったのだと直は悟った。

「いけそうか?」
「は・・・はいっ・・・」

麻痺した脳のせいででその質問の意味もよく分からないまま
直はとっさに返事を返す。
その直後襲ってきた痛みに
彼女は体を大きく体を反らせた。

「いっ・・・あああ!・・・は・・・」
「しばらく我慢してくれよ」
「ゃ・・・ん・・・は、ぁ・・・」

涙が滲んでぼやけた視界がさらにぼやけて
気付けば直はストンと意識の海の中に落ちていた。

「あの・・・秋山さん」
「ん?」
「すみません、私・・・途中で寝てしまったみたいで」
「別に気にしてない。こっちこそ悪かったな」
「?どうしてですか?」
「初めてだったんだろ。悪かったな奪って」

にまっと笑って見せる秋山に
直は口をぱくぱくさせた後
顔を両手で覆ってしまった。

「何でそう意地悪言うんですか!・・・でも」
「でも?」
「相手が秋山さんで良かった」

恥ずかしそうな彼女の微笑みに
今度は秋山が動揺するはめになってしまう。
どうして今まで無事だったのだろうか、神崎直は。

「自覚無しだよね、本当」
「え、私悪いこと言いました?」
「何でも無いって」

彼は深い深いため息を溢した。






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ