秋山深一×神崎直 ![]() ゲームの事で頭がいっぱいな直は、どうしても眠れずにただベッドの上で横になっているだけであった。 それもそのはず、無理やり2回目のゲームをしなくちゃいけないのだから。 棄権したくてもお金は全く持っていないし、組織は大きいらしいから逃げる事だって叶わないだろう。 『どんな手段を使ってでも1億円を回収します』 この言葉がいつまでも頭に鳴り響く。 まるで呪いを掛けられたみたいに。 広く薄暗い部屋の中で心細さと不安な面持ちの直はとうとう起き上がり、おぼつかない足取りでとある人物の部屋へ向かった。 「秋山…さん。起きてますか…?」 うるさくない小さな音で部屋のドアをノックしてみる。 しかし出る気配がない。 「……………」 ーー今更自分の部屋に戻るのも嫌だし、このまま秋山さんの部屋のドアの近くで凭(もた)れてても良いかな…? 自分の部屋よりは幾分安心できる。 直は一度だけ辺りを見回すとぺたんと座り込み、体育座りをした。 ーー安心したのか急激に眠気が襲い掛かり、うとうとし始めた時である。 ガチャリ ドアの開く音にびっくりした直はすぐに目が覚めた。意識もはっきりしている。 「…何してるんだ。こんな所で」 お風呂上がりな雰囲気を漂わせる秋山がこちらを見下ろしている。 妙に色っぽくて直はドキッとした。 「あっ…あのっ…秋山さんがノックしても出なかったから待っとこうと思って…っ」 「そこで寝る気満々だったような感じするが。」 「…ちち、違いますっ!」 顔を紅潮させて必死に否定する直の姿を見て秋山は可笑しそうな表情を見せた。 直は頬を膨らますと、少しふらついた様子で立ち上がる。 「用件は何だ?」 「…いえ、ただ部屋に一人で居るのが怖くて…」 「……………」 潮らしい直の様子に秋山はため息を一つ零した。 暫く悩んでは直の顔を見つめ、直は照れくさそうに微笑む。 また二度目のため息を零すと、仕方なく秋山は直を部屋の中へ招き入れた。 後ろからてくてくついて来る直を横目で見、秋山は小動物みたいだなと心中で呟く。 ソファーが目に入ると、直を先に座らせてから続いて秋山もソファーへ座った。 暫くしてから直が口を開く。 「……どんな手段を使ってでも1億円を回収するって言ってたじゃないですか。もしゲームに負けたら、私達はどうなると思いますか?」 「さあな。1億円ができるまで一生働かされるか…」 冷静な秋山の顔を見て、直は血の気の引いた表情に変わる。 「お前は……そうだな、高い値段で売れるかもな」 笑い事じゃない冗談をさらっと言う秋山の姿を見て、直は怖くなったのか突然秋山にしがみ付いてきた。 いきなりしがみ付いてきたのなら驚かずにはいられない。 内心は少し焦りながらも、表では落ち着いた表情で直の顔を伺った。 「…負けるのが怖いです。ゲームをするのが怖いです…。でも、秋山さんが居て本当に良かった。もしも一人だったら私…」 小刻みに震える肩を抱かずにはいられない。 秋山はなるべく優しい手つきで直を抱き寄せると、頭を撫でてやった。 ーー本当ならばこの女にはもう関わらないつもりだったのに、何故こうやって連れ戻しに来たはずが一緒にゲームに参加したり、抱き寄せたり、頭を撫でたりしてるんだ。 何故この女の事が心配になるんだ。 秋山にはこの感情が全く理解出来なかった。 どんなに難しい問題もすぐに閃くのに、これだけは閃かない。 考え事をしていた束の間、直が動かない事に気付いた。 様子を伺って見ると… 「…寝てやがる」 静かな寝息を立てて眠る姿があった。 本日幾度目のため息を吐いては、直を抱き上げてベッドへ運ぶ。 ちゃんと食べてるのか、って思うぐらいに軽い。 「無防備だな…」 秋山は毛布を掛けてやり、暫く直の寝顔を見つめていた。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |