我慢(非エロ)
秋山深一×神崎直


カタンッ


極力音をたてない様、気を使ったつもりだったのだが
彼はそのわずかな物音にさえ反応を示した。
震えた睫毛に息を呑むと
神崎直はマグカップを両手で押さえ付け
目の前の人物をじっと凝視する。
たっぷり二十秒間見つめ
それ以上何も反応が無い事を確認すると
彼女はこっそりと胸を撫で下ろした。

・・・秋山さん、最近何だか疲れてるみたい。

ソファの上で眠る秋山の顔を一瞥し
直はマグカップの中のコーヒーを口に含む。
私のせいでこんな事に巻き込んじゃったし、何だか・・・すごく申し訳ない。
ちくりと痛んだ胸を右手できつく握り締める。
そこによぎったのは罪悪感。
彼女は俯き、唇を噛む。

無関係の彼をこのゲームへと引っ張り込んで、きっとすごく迷惑だっただろう。
何だかんだで優しい人だから、文句一つ言わず付き合ってくれているが
私が知らない所でたくさん苦労してるのかもしれない。

床へと向けていた視線を上げ、直はもう一度秋山の表情を確認する。
そして、その異変に気付いた。
顔が、赤い・・・?

「熱、かしら?」

マグカップを机にコトリと置き、心配そうに覗き込む。
やっぱり、いつもより若干顔が火照っている様だ。
・・・。・・私のせい?

最悪の事態が頭を掠める。
待って、落ち着いて。まずは本当に熱があるか確認しやきゃ!
体温計を求めて視線をうろうろさせるが、目の前に広がるのは殺風景。
見張りのためだけに借りて来たこの部屋にそんな物あるはずがない。
当たり前の事実に気付き、直は上げかけた腰をすとんと落とした。

どうしよう・・・

困り果て思案にくれていたが
しばしの時間の後、突然弾かれたように顔を上げた。
なんだ、と呟く。

「そっか・・・。簡単な方法があったんだ」

よいしょ、と秋山の傍で腰を下ろし
何のためらいもなく額をくっつけた。
思い立ったら即行動。それが彼女、神崎直だ。
血も繋がってない、相手はつい最近まで何の面識も無かった
立派な成人男性だという事は、この際どうでもいいのだろう。
しかし、彼はどうでもよくなかった。

「・・・何、してんの」
「あれ、起こしちゃいましたか秋山さん。
んー、熱は無いみたいですね。あぁ良かった」
「いや、そうじゃなくて」

彼女は気付かない。
じっと見つめられてる時、顔が意志とは無関係に熱を持ってしまった事。
自分を気遣って、色々思案を巡らせている姿を可愛いと思ってしまった事。



その肩を引き寄せて
腕の中に閉じ込めてしまいたい衝動に駆られたが
きっと彼女は自分とそういう関係
・・・つまり、男女の関係になる事は全く考えていないだろうし
そんな類の危機感も、全く感じていないだろう。
ここから先、どういう風に事を運んでいくべきか・・・
小さく息を吐くが
直はそんな彼の様子には微塵も気付いていない。
しかし今は、それで良い
その時が来るまでは。

秋山さん、一応氷枕とか用意します?
との問いに、いらないと手のひらをヒラヒラさせると
そうですか?と心配そうな瞳でじっと見つめられる。







・・・その時まで、我慢できるのだろうか。






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ