暴走
秋山深一×神崎直


「今度もやっぱり負けてんのかよ」
「秋山さん・・・!」

窓から身軽に飛び降りた秋山の姿をみた瞬間ナオは弾かれた様に立ち上がる。
無意識に駆け寄り秋山の胸に額を当てるとナオの双眸から安堵の涙が零れた。

「やれやれ・・・」

秋山は一つ溜息をつくと、幼い子供の様に泣きじゃくるナオの背中に手を回し髪を撫でる。
まだ絶望的な状態に変わりは無いのに秋山が居るだけで不安は僅かなものになっているのが不思議だった。

「あまり時間が無い。ちゃんと俺の指示通りに動けるか?」
「はい・・・」

──もしかして・・・走ってきてくれたのかな・・・

秋山の意外に早い心拍数と微かな汗の香りにそんな事を考える。
自分のために秋山が駆けつけてくれた事が嬉しくて胸に額を押し当てると、
それを不安から来る行動と考えたのか秋山はナオの背中をあやすようにさする。

「もう、大丈夫だからな・・・」
「・・・はい・・・ありがとうございます・・・」

「送ってもらっちゃってすいません・・・」
「別に良いよ」
「お茶だけでも飲んでいって下さい」
「・・・じゃあ、ご馳走になろうかな」

敗者復活戦終了後おずおずと切り出したナオの予想とは反して
秋山はあっさりとその提案を受け入れる。

「で、お前はどうしてあんな事をしたんだ?」
「・・・?」
「敗者復活戦の事だよ」
「負けたらどうなるかは解ってたハズだろ」

長い前髪の奥から覗く薄茶色の瞳に射抜かれナオは思わず身体をすくめる。

「それは・・・」
「ハナから抜けたがっていたゲームから無事に抜けられ、賞金も手にした」
「それを何でまた自分から危険なところに向かうんだ?」

秋山の口調は静かだがそこからははっきりと苛立ちと怒りが感じられた。
今までにこんなに怒っている秋山は見たことが無い。

「たまたま俺が今日気づいたから良かったものの、事務局に確認するのが明日だったらどうなっていたか
はわかるだろ」
「・・・はい」

秋山の顔をまともに見られない。

「あの・・・ごめんなさい・・・」

沈黙に耐えられずナオはうなだれる。

「ただ・・・秋山さんのお役に立ちたかっただけなんです」
「・・・ごめんなさい」

つかの間の沈黙を破り、切り出したのは秋山の方だった。

「お前一人であれだけの男たちの前に出て、危険だとかは考えなかったのか」
「あのっ・・・」
「負けたらどこかに売り飛ばされていたかもしれないんだ」
「はい・・・」
「例えばこうやって組み伏せられたらお前は抵抗できるのか?」
「えっ!?」

秋山はナオの正面に回ると強引に肩をつかんで床へと押し倒す。
フローリングの冷たく固い感触が呆然としているナオを現実へと引き戻す。
焦って身を捩るが秋山の腕の力は意外な程強くびくともしない。

「あ・・・あのっ・・・秋山さん」
「抵抗してみせろよ」

抱き上げられ乱暴にベッドの上に落とされる。

「や・・・っ!」

「もっと本気で抵抗しろ」

「あっ・・・・」

もともと華奢な体格のナオが動転している状態で秋山の力に勝てるはずも無く、ベッドの上で簡単に組み
伏せられてしまった。

「秋山さん・・・も・・・許して・・・下さい」
「駄目」
「・・・・んっ・・・・」

自分の中の暗い感情が暴走しているのが分かる。
こんなに苛立っているのはナオの警戒心の無さに対してなのか。
先程の敗者復活戦でも、自分を落としいれようとしたヤツに平気でマネーを返し笑いかける。

――そんな事だから何度でも騙されるんだ・・・。あんな奴等に囲まれて、打ちとけて・・・。

嫉妬。

ふいに思い浮かんだ単語の意味をそれ以上追求しないことにして、秋山はナオの肌に指を滑らせた。

秋山の手で十分に愛撫を与えられたナオは、もう抵抗するどころでは無くただ襲い掛かる快楽に必死で耐えている。
髪から肩、胸を執拗に愛撫され、たくし上げられたニットからは形の良い双房が剥き出しにされている。

秋山の指が器用にナオの脚をなぞり上げ下着の上から敏感な箇所を柔らかく揉みしだく。

くちゅ・・・
湿った音がして下着の上からでもそこが十分に潤っていることが分かった。

「・・・ふぅん・・・濡れてるよ」

秋山の囁きにナオは耳まで真っ赤になる。

「・・・・っ!」

するりと下着が剥ぎ取られた。

「やっ・・・!」

ひんやりとした空気に触れる事で自分がどんな姿なのかを否応無く自覚させられる。

慎ましく閉じられていた柔らかな双璧からは透明な蜜が滲み、秋山が指を滑らせると花のように開き鮮や
かな内壁が露わになった。

とろりと溢れた果蜜でふっくらとした花弁は珊瑚色に輝いている。
肩で大きく息をする度に奥園がひくりと蠢く。

「んっ・・・」

温かいうるみで満たされたそこは指先を柔らかく包み込む。
全く摩擦を感じさせない肉襞の潤んだ感触が心地良く何度も果蜜で潤った花裂をなぞり上げる。

「ふぅ・・・・っ」

必死で耐えているナオの息遣いが次第に荒くなる。

「ここ、感じるんだ」
「・・・ちがっ・・・あっ・・・ん!」
「じゃあ、ここは?」

秋山は花裂の先端の一番敏感な箇所へ指を滑らせる。

「・・・っ!」
「ここの方が弱いんだ」

身体の中心から甘い痺れが全身に広がる。

「ふ・・・あ・・・」

精一杯身を捩っても力の入らない身体では、秋山の束縛から逃れられない。

「あっ・・・あぁっ・・・」

ナオは首筋をそらし間断なく襲い掛かってくる快楽に必死で抵抗している。
真っ白な首筋から大きく開いた胸元までが蛍光灯の明かりの下でやけにまぶしく見えた。

秋山は衝動的にその首筋に唇を寄せて強く吸う。
薄紅色の花片の様な跡が痛々しいほどくっきりと白い肌に浮かび上がった。
自分の中から抑え様の無い嗜虐心が湧き上がってくるのを感じながら秋山は何度も首筋への口付けを繰り返す。

「・・・っふぅ・・・」
「んっ」

快感に不慣れなナオは首筋と身体の中心から与えられる刺激に意識をそらすことも出来ず、ただ堅く瞼を閉
じて耐えている。

身体の中を真っ白な電流が駆け抜けていくような感覚。

「あっ・・・・ぅ」

やけに甘い自分の声がどこか遠くから聞こえてくるようだ。

秋山の指の動きに合わせて瞼の裏に白い光が弾ける。
一番敏感な花芯を執拗になぞり上げられ、摘まれただ声をあげる事しか出来ない。
つま先の感覚がなくなるほど甘い痺れは全身を蝕んでいる。

「・・・ふぁっ・・・ん!・・・」
「も・・・だめぇっ」
「何が駄目なんだ?」
「だって・・・だ・・・って・・・も・・・」

必死の哀願も意地悪な指先には勝てず、言葉は途中で途切れてしまう。

「あっ・・・も・・許して・・・下さい・・・」

絶え間ない愛撫に敏感になっているのか幾つかの箇所に指が触れるとぴくりと身体が跳ね上げる。

「イキそう?」
「・・・や・・・そ、んなの・・・わからな・・・」

的確に弱い箇所を探り出してはさらに刺激を与え続ける。

「あっ!・・・・やぁ」

押さえつけた少女の身体が弓なりに反り、びくんっと大きく震える。

「ーーっ!」

無理矢理に絶頂まで押し上げられ華奢な身体が痙攣する。
とくん、と震えが伝わり奥園から果蜜が零れた。

「・・・・ぁ」

小さく息を吐いてナオの身体から力が抜ける。

ナオはぐったりと横たわり肩で大きく息をしている。
スカートは脚の付根近くまで捲れ上がりすらりと伸びた白い脚には膝近くまで果蜜が伝っている。
痛々しい程か弱げな上半身とその様子は対照的で、ぞくぞくする程妖艶だった。

「・・・あきやまさん・・・」

ナオは弱々しく秋山の服の裾を掴んだ。

「もう・・・怒って、ないですか・・・?」

「・・・・・・」

自己嫌悪で秋山の胸がキリキリと痛む。

途方に暮れた秋山を現実に引き戻したのはやけに規則正しい吐息だった。
緊張から開放された事と疲れからか、ナオはいつの間にか寝付いてしまったようだ。

このまま帰る訳にもいかず秋山はナオが目を覚ますのを待つことにする。

ベッドライトの柔らかな灯りが淡く辺りを照らしている。

「悪い・・・」
「え・・・?」
「やり過ぎた・・・」

ベッドサイドに腰掛けた秋山は程無くして目を覚ましたナオの髪を優しく撫でる。
乱れた衣服は整えられて身体には毛布が掛けられている。
今まで見たことも無い秋山の落ち込んだ表情に胸が痛んだ。

「私・・・あの・・・・」
「恥ずかしかったし、ちょっと怖かったけど・・・全然イヤじゃないです・・・」
「その・・・秋山さんに・・・触れてもらえたのが・・・嬉しいです」

ナオは上半身を起こすとおずおずと秋山の隣に寄り添う。
暗い表情の秋山を気遣うようにナオはポツリポツリと言葉を続ける。

「秋山さんはすごく優しい人ですもん」
「そんなんじゃない」
「俺がどのくらい我慢してたか知ってるか?」
「えっと・・・?」
「怒りたいのを・・・ですか?」
「・・・・・・お前に聞いた俺がバカだったよ」

あくまで明後日の方向を向いたナオの発言に思わず脱力してしまう。

「だって・・・さっき、すごく意地悪されましたもん」
「・・・・・・。」

秋山の表情が曇る。

「・・・悪かった」
「えっ・・・あ・・・そんなつもりで言ったんじゃっ・・・」
「それに、そしたら・・・だって・・・」

ナオ言いにくそうに口ごもる。

「私の方が先に秋山さんの事、好きでしたもん」

自分で言ってナオの頬がみるみる内に赤く染まる。

「だから・・・最後までして下さい・・・」

そっと、秋山の袖を掴む。

「好きです・・・」

少女の震えながら俯いての精一杯の告白に秋山の胸が熱くなる。

「君が欲しい・・・」
「はい・・・・」

はにかんだ微笑に気持ちが抑えられず秋山はナオに覆い被さると唇を重ねた。
ナオは相変わらず緊張はしているがもう怯えてはいないようだ。

「・・・ん・・・秋山さん・・・」

密着した体温に安心したのか少女は為されるがまま秋山に身を任せる。
くちゅり・・・
先程までの行為でそこは十分過ぎるほどに潤んでいる。

「・・・っぁ・・・やぁ・・・」

快感を引き出すというよりも労わる様な優しい指使いでゆっくりと花唇をなぞりあげる。

「あっ・・・・」
「いい?」

秋山の声にナオはこくりと頷いた。

――熱い
ぴたりとそれは当てられた。
指とは比べようも無い質量にナオの胸が早鐘を打つ。
思わず腰が引けてしまう。

「逃げるな」

苦笑した秋山は片手でナオの腰を固定する。
その感触に今更ながら自分が何をしようとしているのかを思い知らされ、ナオの頬は赤く染まる。

「後悔してるか?」

軽口を叩く様な口調だが、その言葉に込められた労わりを感じてナオは大丈夫です・・・と小さく呟いた。

つぷ・・・微かな音と共にそれはナオの内部へ埋入された
あてがわれたものがゆっくり奥へと進んでくる。
十分に潤ったそこは柔らかく綻び秋山を受け入れる。

「ーーーっ!」

身体の芯が熱い。

痛みなのか熱さなのかすら解らない絶対的な質量に涙がぽろぽろと零れる。
貫かれて身体を硬くすると余計に痛みが中心に広がる。
堅く堅く瞳を閉じる。

「・・・っう」

自分の内部が無理やりにこじ開けられる痛みを必死にシーツにしがみ付く事で耐える。
じりじりと増していく圧迫感に息が詰まる。

――後どのくらい・・・あるんだろ・・・?
この瞬間が永遠に続いたらどうしよう・・・そんな怖い想像をしていると不意に声を掛けられる。

「辛くないか?」
「・・・あ・・・」
「落ち着いて・・・目、開けて」
「・・・・・は・・い」

恐る恐る目を開けると心配そうな秋山の視線とぶつかる。

「深呼吸、出来るか?」

ナオはふるふると首を横に振る。

「もう全部入った・・・頑張ったな」
「・・・・はい」

返事をするだけで精一杯のナオを優しく抱きしめる。

「まだ動かないから、力抜いてろ」
「力の抜き方が・・・わからなくなっちゃったんです」
「なんだそれ・・・」

思わず苦笑してナオの額に口付ける。

「いいか?大丈夫だからな」
「いつもみたいにぼんやりしてろ」
「・・・ん」

固くシーツを握ったままのナオの手を自分の首に回して抱き寄せ顔、首、肩への口付けを繰り返す。

「秋山さん、大好き・・・」

私、もう大丈夫ですから。
涙の滲んだぎこちない笑み。
辛くない筈は無いのに、それでも健気に振舞おうとする様子に愛しさが込み上げる。

「・・・俺も・・・好きだ」

こんなストレートなセリフは自分らしくない。
そう思いながらもつい心情そのままの言葉が秋山の口を吐いた。

だいぶ緊張が解けたナオの身体をもう一度抱きしめる。

「もう動いて大丈夫そうか?」
「はい・・・」

秋山はナオの背に腕を差し入れ身体を固定する。
ほんの少しずつ注意深く引き抜いては元の場所へと戻す動作を繰り返す。

「う・・・あぁ」

ちゅく、ちゅくと粘度の高い水音と涙交じりのナオの喘ぎが室内に小さく響く。
蕩けそうなほど柔らかいのに固くきつく自分を締め上げてくる矛盾した感触に秋山の呼吸は荒くなる。

「辛くないか?」
「ぁ・・・は・・い・・・」

秋山は徐々にストロークを大きくしていく。

「っ・・・」

どの位そうしていたのだろうか。

「ふぁ・・・っ」

痛みはもうほとんど感じなくなっていた。
固く弾力のある感触と身体の奥に伝わる熱。違和感はまだ消えはしないが不快ではない。
なるべく身体の力を抜くようにして秋山のリズムに身を任せる。

ふいに秋山は動きを止めた。

「今日のところはここまでだな」
「・・・?」
「秋山さん?」
「あ・・・あの、私何かしちゃいましたか」

不安なのかナオは今にも泣き出しそうな表情だ。

「俺が限界」
「え?」
「優しく出来なくなる」
「あ、えっと?」

すがる様なナオの瞳に秋山は悪戯っぽく笑いかける。

「もう我慢が出来ないって事」
「あ・・・」

秋山の言葉にナオは安堵した表情を浮かべる。

「あの・・・」

意を決したように真っ直ぐに秋山を見つめる。

「秋山さんの好きな様にして下さい」
「・・・・・・・・」
「最後までちゃんと・・・私を秋山さんのモノにして下さい・・・」

自分の発言にナオは耳まで真っ赤に染める。

「自分で何言ってるかわかってる?」

からかうような少し意地悪な表情と、それとは対照的な優しい瞳にナオの鼓動が早まる。

「ちゃんと・・・分かってますっ・・・」
「ふぅん」

――ありがとう。
耳元で微かに聞こえた囁きに応える様にナオは秋山の背中に腕を回した。

「きゃっ!・・・ぁあ・・・」

先程までとは比べ物にならない激しさにナオはただ必死に秋山にしがみつく。
先程言われた通りに深呼吸をして全身で秋山を受け入れることに集中する。

「くぅっ・・・ん」

最奥を突かれるたびに熱い痺れが体中にじんわりと染み渡る。

「あっ・・・あぁ・・・」

これが快感なのかは今の未成熟のナオには解りようが無い。
大きな黒い瞳は熱を持って潤んでいる。

「・・・すき・・・」
「っ・・・あ・・・秋山さ・・・ん・・・・す、き・・・」

身体の全てを秋山に預けるようにしてうわ言の様に繰り返す。

「あっ・・・」

一際激しく貫かれてナオが身体びくりと身体を痙攣させる。

「壊れ・・・そうだな・・・」
「ん・・・壊して・・・もいいで・・す」

思わず口を吐いた呟きにさえ必死で少女は応える。

「ナオ・・・」

荒い息遣いから感じられる秋山の昂りが嬉しい。

「っく・・・!」

程なくして引き抜かれたそれはどくんと脈打ち、熱い液体がナオの腹部に放たれた。

「あ・・・・・」
「・・・あったかい・・・です・・・」

なだらかな曲線を描いた腹部から形の良い胸にかけて乳白色の液体がとろりと伝う。
熱がじわりと体温に馴染んでいくのがやけ心地よく感じた。
初めて見るそれが気になるのか、ナオは胸元を伝う半透明の液体を不思議そうにすくい上げぺろりと舐め取る。

伏せた目の先には長い睫。桃色の唇に赤い舌。
白い指とその先を伝う液体。
そのあどけない表情は思わず秋山がどきりとするほど艶かしい。

「っ!」

「うー、苦いです・・・」
動揺を隠せないでいる秋山をよそに、次の瞬間には年齢よりも幼く見えるいつものカンザキナオに戻っている。

はぁ・・・秋山は大きく溜息つく。

「当たり前だ・・・バカ」

動揺していた事を悟られないように秋山はナオを腕の中へ抱き寄せた。

「私、もっと賢くならなきゃいけないんですよね・・・」
「だろうな」
「じゃないと・・・秋山さんに迷惑をかけちゃいますもん」

何かを決意しているのかナオは眉間に皺を寄せ固い表情をしている。
その様子がやけに可愛くておかしくて秋山は思わず小さく吹き出す。

「もうっ・・・!笑わないで下さい!」

キッとした表情でナオは秋山を睨むがそれもやけに可愛らしい。
あぁ・・・と秋山は本日何回目かの溜息をついた。

「やっぱりお前は今のままでいればいい・・・」
「え?」

きょとんとした表情でナオは小首を傾げる。

「ずっと俺が守ってやるから」
「お前が誰の事でも信じていられるように、絶対に守りきってやる」
「ずっと・・・ですか?」
「ああ・・・」

「・・・秋山さん」

ナオの頬を大粒の涙がぽろぽろと伝う。

「あれ?・・・ごめんなさい・・・なんだか安心しちゃったら」

ごめんなさい・・・もう一度呟くとナオはごしごしと目を擦るが涙が止まる様子は無い。

「寂しかったこと・・・思い出しちゃって」
「ごめんなさい」

ナオは泣き顔を見られたくないのか秋山の胸へ顔を埋めた。

「泣くな・・・」

胸が痛くて強く抱きしめる。

「だって・・・ずっと、ずっと・・・連絡も取れなくって・・・もう会えなかったらどうしようって・・・」
「俺が悪かったから・・・」

巻き込みたくなかったのなら無視を決め込むよりも、初めから説明をすれば良かった。
自分の行動がナオを傷つけてしまった事への後悔で秋山の頭は一杯になる。

「あんなふうに連絡が取れないなんてイヤです・・・」
「ごめんな・・・」
「もう一人にしないで・・・・」
「約束するよ・・・」

今まで一週間の孤独と不安を思い出したのかナオは細い肩を震わせてしゃくり上げる。
何とかナオを安心させてやりたくて秋山はナオの言葉に約束するから・・・と繰り返し背中を優しく擦る。




「じゃあ・・・明日、デートしてくれますか?」
「約束する」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・え?」

ナオを安心させることに必死で、正直なところ最後の一言は良く聞いていなかった。
呆然っといった表情の秋山の頬につん、とナオは人差し指を当てる。

「約束ですよ」
「・・・・・・」

一瞬理解できない秋山と悪戯が成功した子供のように会心の笑みを浮かべるナオ。

「ごめんなさい」
「途中から嘘泣きしちゃいました」

潤んだ瞳のままえへへ、と微笑むとナオはぺロリと赤い舌を覗かせる。

なんだそれは・・・眩暈がしてその直後笑いがこみ上げる。
──やられた。完全に。

「あの・・・やっぱり駄目ですか?」

無言のままのの秋山の様子を不機嫌と勘違いしたのか
上目遣いの瞳が先ほどとは一転して不安げに秋山を見つめる。
まるで助けを求める小動物の様だ。出会ってまだ2ヶ月足らずでこの瞳に何度面倒な目に会わされたか・・・
分かっているのについ負けてしまう。

「・・・いいよ」

少し気だるげに答えるのが秋山に出来る精一杯の抵抗だった。

「ホントですか?」
「どこに連れて行って欲しいのか考えとくんだな」
「はいっ!」

心底嬉しそうな表情で瞳を輝かせるとナオは満足げに秋山の腕の中で瞳を閉じた。

「えへへ、秋山さんを騙せたら私だって役に立てるパートナーだって証明できるかと思って」
「はいはい。せいぜい頼りにさせてもらうよ・・・」

はぁ・・・・とこれ見よがし溜息をつきながらもつい自然と笑みがこぼれてしまう。

バカ正直のカンザキナオが初めて自分から嘘をつく相手が散々助けてきた自分。
釈然としない気もするが気分は悪くない。

秋山はもう一度ナオを抱きしめる腕に力を込めた。






SS一覧に戻る
メインページに戻る

各作品の著作権は執筆者に属します。
エロパロ&文章創作板まとめモバイル
花よりエロパロ