返事
秋山深一×神崎直


耳に入るのは、風と、時折り通り過ぎる車の音
それから時計の秒針、冷蔵庫・・・
視界は闇の帳によって遮断され
いつもより研ぎ澄まされた聴覚が
それぞれの音の、小さな破片まで拾い集めている。

だが、今の彼女にはそれがひどく騒々しく感じられた。
窓を叩く風に背を向け、神崎直は寝返りをうち
肩まで毛布を引き上げる。
そうしてまだ情事の残り香が漂う白い肢体を隠そうとするが
体のいたる所に刻まれた赤い痣は見えなくなっても
頭の中にはまだ、鮮明に残っているわけで。
先程までの激しすぎる行為を思い出し
直は一人薄紅色に頬を染める。
・・・もう・・・これじゃ眠れない
ただでさえ周囲の音が耳障りだというのに
自分の意思とは無関係に、記憶が勝手に脳内で再生される。
そればかりか、隣では秋山が穏やかな寝息をたてているのだ。
直は心臓と上気する頬をなんとかして宥め様と必死だった。
全部、秋山さんのせいだ・・・
今まで自分の事を好きだと言ってくれた男性は、何人かいた。
しかしいざ身体を求められるとどうしても全身が強張ってしまい
終いには思い切り相手を突き飛ばして、彼らを失望させてきた。

その事について思い出し、直は非常に申し訳無い気持ちになる。
心にわだかまるそれを振り払うかのように
顔を上げれば、そこには秋山の横顔があった。
・・・けど、秋山さんは平気だった。
この人になら、私の全てを委ねても大丈夫。
それは確信に近いものだったから。

実際彼は直の事を、それこそガラス細工に触れるかの様に
丁寧に扱ってくれた。
あの場面で、それはきっと楽じゃなかったずだ。
急速に秋山への愛しさがこみ上げ、直は上半身を起こす。
仰向けになっている秋山の顔を上から見下ろし

「秋山さん、大好きです」

小さく一度口づけた。
それは彼女にとっての初めての試みであり
もし秋山が起きている時に要求されても
恥ずかしさの方が勝ってしまい
きっとそれは果たされなかっただろう。
だから。

「んっ・・・!」

突然頭を押さえ込まれ腕を掴まれ
当然直は困惑した。
薄く開いた口からは、自分の物では無い舌が侵入し
絡め取られ、吸い付かれ、甘噛みされ
しだいに体が芯から痺れてくる。
息が苦しくなって来た頃になって
それを察したのか、名残惜しそうに唇が離された。

「あ・・・秋山、さん・・・」
「上出来」

ぎゅうっと、両腕に包み込まれた状態のままもぞもぞと首だけを動かして
直は少しの恨みを込めながら、秋山の顔を見上げる。
しかし、これ以上無いほどの嬉しそうな笑顔にぶつかると
先程までの勢いは失速して
音にならなかった言葉達は、全て秋山に吸収されてしまった。

「・・・。起きてるなら起きてるって言ってください・・・」
「起きてるって分かってたら、あんな事できないだろう」

あんな事って、と、直は恥ずかしそうに身じろぎをする。
秋山は目を細めると、彼女の身体をベッドの上に押し付け
覆いかぶさる様にして、その白い首筋に顔を埋めた。

「あ、ああ、あの?」

明らかに動揺した直に向け、秋山は薄く笑むと
これ以上何か言い募られる前に、右手で胸を弄った。

「んんっ・・・!あきやま、さんっ」
「君から仕掛けて来たんじゃないか」

否定できず、かといって肯定もできず、直はぐっと押し黙る。

「だって・・・、やっ」

胸の先端を指先で愛撫され、ピクリと一瞬震え上がる。
首筋から鎖骨、鎖骨から胸元へと顔を移動させていけば
肩にかけられた細い指に、ぐっと力が込められたのが分かった。

「あんまりリキむな」
「そんな事言ったって・・・!」

ため息と共に指摘してやるが、直は目を潤ませながら首を振る。
その様子があまりに可愛らしく、秋山は彼女を抱く手に力を込めた。

「んっ・・・はぁ・・・っ」

先端を口に含み、舌で転がしながら
秋山は彼女の内腿へと手を滑り込ませる。
つい数時間前までの行為のせいで敏感になっていたそれは
少しの愛撫だけですでに濡れていた。

同時に二箇所に刺激され、直はシーツをしわくちゃになるまで握りしめる。

「や、あ・・・」

一旦手を休め、堅く閉じた瞼に優しく唇を落とすと
ゆるゆると睫毛が震えて、その双眸に秋山の顔が映りこんだのが分かった。
・・・そんな表情して見つめても、逆効果だって気付かないかな。
拗ねた様にそっぽ向いた直の耳元に、苦笑しながら秋山は口を寄せる。

「悪いとは思ってるけど、正直嬉しかったから」

ああ、ほらほら真っ赤になってる。
予想通りの反応に、秋山は頬が緩むのが押さえきれない。

・・・まったく、天才詐欺師が聞いて呆れる。
たった一人の女に、ここまで心を動かされるなんて。

腰に手を這わせ、再び乳房を口に含む。
ぷっくりとした先端に舌で触れ、軽く吸い上げるたびに
直の唇の端からは細く甘い声が零れ落ちた。

「あ、ぅ・・・んっ」

腰から内腿へ手を這わせ、繊細な手付きで再び秘所に触れる。
指を中心部へと埋めると、くちゅっと音を立てすんなり受け入れられた。

「は・・・ぁ、や・・・」
「締め付けてくる・・・」

直の下腹部の奥がきゅうっと熱くなって、蜜が溢れてくる。
自分の身体が今、何を求めているのかがハッキリと分かった。

「ぁ・・・秋山、さん・・・」

その言葉を合図に、太腿をを抱え上げられ、堅いものが直の内部に侵入してくる。
身体中を電気が駆け巡ったような痛みに、彼女の身体は大きく仰け反った。

「はぁっ、あぁ・・・っ!」

秋山さん、ともう一度名前を呼ぶが、返事は返って来ない。
代わりに秋山の大きな手が、彼女の頬を優しく包み込んだ。
小刻みに震える腕を伸ばし、秋山の背に触れる。
逞しいそれが大きく上下しているのがよく分かった。
奥を突かれる度に、押さえようの無い声が漏れる。
痛みは段々快感へと変化していて、それが直にとって一層恥ずかしい。

「あぁあっ、はぁ、んんっ・・・!」

この時間がすごく愛おしいと思う自分に気付き
直はこんな状況下でありながら、内心驚く。
頭が真っ白になりそうになるのを、なんとか踏み止まろうとするが
そろそろ限界が来た。
せめて、と、秋山の首に手を回し
訝しげな彼の顔を引き寄せ、その唇に一瞬触れる。
ふわりと微笑んだつもりだったが、上手く笑えたかは分からない。
意識が失せる直前に見た、驚いて瞠目するその表情がおかしかった。



「はあ・・・」

少し開けた窓からは、明るみ始めた空が見える。
早朝の空気を全身で感じながら、秋山は煙草に火をつけた。

・・・参ったな
バカ正直な彼女だから、意図的に行ったものではないのだろう。
最初はタヌキ寝入りを決め込んでいた。
しかし突然あんな事言われて、あんな事されて
無視できるわけないだろう、と
誰もいない空間に向かって、小さく吐き出す。
最後の最後には極上の顔で微笑みかけられて。
秋山は、少し離れた所ですやすやと眠る直に視線を向けた。

「はあ・・・」

再びゆるいため息を吐き、短くなった手の中の煙草をもみ消す。
極力音をたてないよう窓を閉じ、布団の中へ潜り込んだ。

「・・・・・・秋山さん?」

しかし気配を察知したのか、直は薄く瞼を開く。
どうしたんですか?と寝惚け眼で問う彼女の髪をなでて
何でも無いと、秋山は薄く微笑んだ。






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