秋山深一×神崎直 ![]() 「そういえば秋山さんって、私のこと直って呼びませんよね」 突然隣にいた彼女がそんなことを口にした。 まったく彼女の思考は俺の遥か上を行っている。 もちろん彼女の中ではいくつものプロセスを経ての発言なんだろう。 だけどあまりにも突飛過ぎる気がする。 もしかしたらだいぶ前から気になっていたのを、今口にしただけかもしれないが。 「そうだったか?」 「そうですよ!いつも君とかお前とかばっかり…。たまには直って呼んでください!」 わざととぼけて言ったのを、彼女は気付かなかったようだった。 「別に構わないが…」 思わず語尾を濁す。 俺が彼女のことを名前で呼ばないのには理由がある。 だけどそれはあまりにも晴れた真昼の公園と、彼女の満面の笑みに似合わない気がした。 だけどそれも面白いかなって思った。 「じゃあちょっと耳を貸しなさい」 「はい!」 少しは警戒心を持ったらどうだ、と心の中でツッコんだ。 どうして耳を貸さなければいけないんだろうとかは考えないのか? ああ、そっか。 彼女の名前は“直”。バカ正直の“直”だ。 彼女は髪を耳にかけ、俺を待った。 理由を知ると彼女はどんな反応を示すだろう。 一呼吸置いてから、俺はその耳元に向かってひっそりと囁いた。 「俺、ベッドの中以外で女を名前で呼ぶ気ないから」 その発言を受けた彼女は、見事なまでに固まった。 そして駄目押しの一言。 「それでもいいなら、何度でも呼んでやるけど?」 固まったままの彼女の頬が真っ赤に染まった。 彼女はこの後どんな言葉を俺に投げかけるだろう? 思考が俺の遥か上を行っている彼女のことだ。 まったく予想がつかない。 予想してもどうせ当たらないから、予想しない。 でもそれもなんだか楽しくて思わず口元に笑みがこぼれた。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |