タバコの匂い(非エロ)
秋山深一×神崎直


俺の指示したとおり、神崎直はフクナガ以外の全員と契約を成立させて戻ってきた。

「上出来」

そう褒めてやると彼女はとてもうれしそうに微笑む。
不覚にも一瞬息が止まった。

そんな俺をよそに、彼女は俺のすぐ横に座ってみんなとの会話を一気に吐き出すように説明する。
慣れない嘘をついたことを、一人で抱え込みたくないのだろうと感じ
たまに相槌をつきながら彼女が納得するまで聞いてやることにした。

「それでやっと三名の契約が成功して・・・」

・・・ん?なんかいつもの彼女とは違う匂いはする。これは・・・

「・・・お前、タバコ吸うんだっけ?」
「へ?すっ吸いませんよ〜〜〜!!そんな体に悪いことしません!」

手を大げさに振りながら力強く否定する。まあそうだろうなと思ったけれども。

「タバコの匂いしてんだけど?」

そう言った俺の顔をきょとんと見つめていたが数秒後、

「あー!!わかりました!これミウラさんの匂いですよぉ!」

・・・なんでミウラの匂いがお前に付くわけ?
とは聞けないが、聞かなくても彼女がまたもや説明してくれる。

「話してるところが薄暗い廊下だったんですよ。それで私がくしゃみすると
ミウラさんが『寒いの?』って言ってジャケット掛けてくれたんです。」

やさしいですよね〜ミウラさん。などと言ってニコニコしている彼女とは対照的に
俺の眉間に皺がよっていく。

ミウラの下心は明らかにミエミエで。
彼女はそんなことにも気づかずそれを優しさだと考えそのうえ好印象を持って。
いつも石鹸か何かよくわからない彼女の甘い香りは男の苦い香りに変わっていて。
しかもそれは俺のタバコとは違う匂いで。
っていうか、まずなんでそんな薄暗い場所で会ってんだよ。

無言で眉をしかめている俺を彼女は無垢な目で見つめてくる。

「?あの〜秋山さん?どうしました?・・・あっもしかしてこの匂い臭いですか?
あ〜ファ○リーズ持ってくるの忘れてた〜!」

いや、そういうんじゃなくてさ。
俺は一つ大きなため息をつくと、自分のタバコを取り出した。
火を点け、ふーっと彼女に向かって煙を吐き出すと、

「わっひどーい秋山さ・・ゴホゴホ」

と少し苦しそうに咳き込む。そんな彼女を見て薄く笑ってしまった俺に

「なんで笑ってるんですかぁ。もうっ。」

と膨れる彼女。

「あー・・・悪い。俺ミウラのタバコの匂い嫌いなんだよ」

とうそぶいて、後何本吸えば俺の匂いになるかな、などと
くだらないことを考える自分に嫌気がさす。

「あっ、私も秋山さんのタバコの匂いのほうが好きです!」

満面の笑顔でこちらを向く。
しばらくはタバコの銘柄を変えられそうにない。
でもそれもなんだか楽しくて思わず口元に笑みがこぼれた。






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