そばにいてくれ
秋山深一×神崎直


5/30 14:09 不在 秋山さん
着信履歴にそう記されているのを見て、直はがっくりと肩を落とす。

「ああーっ!もうっ!
秋山さんからかけてくれるなんて、めったにないのに…」

ちょうど昼寝をしていた直は、
たまたまマナーモードにしていた携帯の着信に気が付かなかったのだ。
秋山から着信があってから1時間ほど経っている。
直は急いで秋山にかけ直す。

プルルルルルルル………
「留守番センターにおつなぎします…」

聞こえてきたのは秋山の声ではなく、機械的な女性の声だった。
「秋山さん………何かあったのかな……」
めったに電話を掛けてこない秋山が掛けてくるのだから、
よほどの事があったのだろうと考えた直は、すぐに家を飛び出した。

30分後、迷いながらもたどり着いた秋山の家。
直はチャイムを鳴らす。

ピンポーン…

…………………

ピンポーン…

2回鳴らしても秋山が出てくる気配はない。
直がおそるおそるドアノブを回すと、鍵は開いている。

「私には鍵閉めろ、ってうるさいくせに……」

つぶやきながら、直は部屋に入る。
電気はついておらず、少し薄暗い。

「秋山さん…?」

部屋の奥に進むと、秋山はベッドの中で静かに寝息を立てていた。

「なーんだ、秋山さんもお昼寝かあ……」

先程までの不安も吹き飛び、直は微笑む。

貴重な秋山の寝顔をよく見ておこうと、直は顔を近付ける。

「あれ……?」

よく見れば、秋山の顔は赤く、額にはうっすらと汗が滲んでいる。
もしかして、と思った直は、とっさに秋山の額に自分の手を当てる。
やはり熱い。

「やだ、どうしよう……っ」

慌てふためく直の声に、秋山は目を覚ました。

「ん……あ、来てくれてたのか」

いつもより掠れた声、熱っぽく潤んだ瞳。
普段とは違う秋山に、直は動揺してしまう。
それをごまかすように、

「あ、あたし、薬買ってきます!」

と言って立ち上がろうとする。

しかし、それは秋山によって制止された。
腕をつかまれ、低く掠れた声で直に言う。

「行くな…」

訴えるような秋山の瞳に、直は大人しくそこに座るしかなかった。

しばらく大人しく座っていた直が、思い出したように言った。

「秋山さん、何か食べたいもの、ありますか?」

ちょうど喉が乾いていた秋山は水、と答えた。
すると直は、笑顔で「はい!」と言うと、
キッチンの方へぱたぱたと走って行った。

直が水をコップに注ぎ、秋山のもとに戻ってくる。

「秋山さん、ちょっと体起こしてください」

あることを思い付いた秋山は、わざと

「起きられない」

と答えた。
直は秋山が考えていることも知らず、
起き上がれない位辛かったんですか、大丈夫ですか、
しきりに心配している。

そんな直をよそに、

「飲ませて。口で。」

ときっぱり言う秋山。

直はその言葉を聞き、一気に顔を真っ赤に火照らせた。
今にもコップを落としてしまいそうな勢いで焦っている。

「ああああきやまさんっ!そんなの無理ですよ!」

必死に抵抗する直に、

「病人の望みは聞いてやるもんだろ?」

と妖しく笑いながら秋山は言う。

でも、と反論しかけた直だったが、秋山さんは辛い思いをしているんだから、
と仕方なく水を口に含み、秋山の口へと運ぶ。
少しずつ秋山の口に流し込む。
全てを秋山の口の中に注ぎ込み、直は唇を離そうとするが、
秋山が直の頭を押さえ込み、口内に舌を差し入れる。

「…んっ……………っふっ」

驚いている直の舌を秋山は絡めとる。
病人とは思えないような激しい秋山のキスに、
直は息をするのも忘れてしまう。
だんだんと苦しくなってきて、
思わず秋山の服をつかむと秋山はようやく直を解放した。

直は何も言えず、真っ赤になってうつむいている。
ようやく呼吸が整ってきた頃、直は小さく抗議した。

「病人はこんなことしちゃ、いけないんですよ…」

まだ火照っている顔を両手で冷やしながら、直は言った。
そしてもっと小さな声で、

「それに…秋山さん、いつもより熱かった…」

とつぶやいた。

顔を赤らめながらそんなことを言う直に、秋山はドキリとしてしまった。

「ナオ」
「は、はいっ…!」
「今日は、そばにいてくれ」
「はいっ!」

熱のせいか、柄にもないようなことを言ってしまう
やけに素直な自分に秋山は苦笑した。


しばらくして眠ってしまった秋山のために、
直はキッチンに立ち、おかゆを作り始める。

格好良くて、頼れる秋山さんも好きだけど、
今日みたいに甘えんぼな秋山さんもかわいいな、
と思いながら、直は小さく微笑んだ。






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