彼女の本音
秋山深一×神崎直


ことが終わり、やたらと渇いている喉を潤すためにキッチンへ行った。
君がさっきから何か物言いたげな表情で俺を見ていたのにはもちろん気付いている。
だけどそれにはあえて触れないでおこう。
もちろん彼女から何かを言ってくるのであれば答えるつもりでいるけど。

「あの…秋山さん」

しばらくの沈黙の後、か細い声で彼女が俺を呼んだ。

「どうした?」

片手にミネラルウォーターを持ったまま彼女がいるベッドに腰を下ろした。
声でなく身体全体…特に腕が細い。
それがまた彼女の内側から溢れる悲壮感というか、不安を煽っているようで。
なんだか見ていられなくなる。

「変なこと聞いちゃいますけど、秋山さんって、こういうの初めてじゃないんですよね…?」
「…?ああ」
「やっぱり。そうですよね…」

彼女はしばらくジッと見つめていた俺から目をそらした。
そして両手で頬を押さえながらため息にまじった、小さな声で呟いた。

「なんか…や、です」

その一言に俺は驚いた。
彼女はバカ正直なくせに滅多に自分の気持ちを口に出さない。(顔には出るが)
これが彼女の本音なのだろうか。
だとしたら…

こんなに嬉しいことは無い。

彼女のか細い腕を軽く掴んで、彼女の瞳を覗き込んだ。
「もうあんた以外とはしないから」
彼女の柔らかな唇に、この言葉の証明という意味ではないけれど、限りなくそれに近い意味で唇を重ね合わせた。

少し激しいキスから彼女を解放すると、彼女は歯を見せずにニコリと笑った。

「ありがとうございます」

きっとさっきの言葉は嘘になる。
そうとは気付いてほしくないから彼女を思い切り抱きしめた。

あとどれぐらい、彼女をこうやって抱くことが出来るだろう?






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