可愛らしい宝物
秋山深一×神崎直


読書をしている傍で彼女が熱いミルクを飲みながら微笑っている
そんな空間が好きだ。

「秋山さん」

いつものごとく、ただ呼んだだけ、とは思えない真剣な声だったので

「何」

目を休めて彼女に向き合った。
が、俯いたまま答えない。

「どうした」

顔を上げさせると、目にいっぱいの涙を溜めていた。
半開きの口元が色っぽくて、思わずキスをしてしまった。

「ん?」

そして優しく頭を撫でてやると、ようやく口を開いた。

「あの…あの…、怒らないでくださいね?
あの…私と秋山さんは…、恋人どうし、なんですよね?」

(何を言うかと思ったら…)

半ばあきれつつ、彼女のペースに合わせてやることにした。

「違うの?」
「私が聞いてるんです。どうなんですか?!」

(何考えてんだ…?相変わらず読めないな。)

もう一度キスしてふわりと抱きしめた。

「そうでなければこういうことしないと思うけど?」

彼女は腕の中でしばらく黙っていると、意を決したように顔を上げた。

「それじゃっなんで何もしないんですか?!」
「……どういうことかな」
「だって…恋人どうしだって言うなら、あの…えっと…もっと、その…」

(またどっかで吹き込まれたな…)

「セックスのこと言ってんの?」ニヤリと意地悪く言ってやった。

案の定、一気に彼女の顔が赤くなり何も言えなくなってしまった。

「…したいの?」

今度はできるだけ優しく囁いてやる。

「だって…好きなら当然なんじゃないんですか…?私…私は…秋山さんが、好き…です。」

(まったく…)

「わかってるよ」
「秋山さん…は?私のこと…好きですか?」

直球すぎて逃げようもない。

「秋山さんがそういうの得意じゃないってわかってます。
でも…不安なんです。…私のこと好きなら…お願いします。」
「…途中で嫌って言われてもやめられないと思うけど」
「嫌なんて…言いません。…秋山さん、好き。」

そういうと、彼女はそっと顔を寄せた。
触れるか触れないかぐらいのキス。
きっとこれが今の彼女の精一杯なんだろう。

「俺も…好きだよ」

彼女の精一杯に応えるように、深く、口づけた。

ずっと…こうしたかった。

いつものついばむような軽いキスではなく、じっくり味わうような深いキス。
差し入れた舌に精一杯応えようとする彼女が愛しい。
存分に味わったあと名残惜しく唇を離すと、すっかり女の顔になった彼女がいた。
秋山は、服を脱がしながら首、肩、鎖骨、そして小ぶりながら形の良い蕾に口づけていった。

「…ん…んん…」

目をぎゅっと瞑り、唇を噛み締め必死に声を抑える彼女に

「切れるよ」

と優しく口づけた。

「秋山さん…私…どうしたら良いかわかりません…。」
「なにも。そのまま感じてればいい。」

秋山の細く長い指が直の敏感なところをなぞる。

「あ…っん……ふっ…ぅ。」

突然の刺激で自分の声とは思えない甘い声に驚き、恥ずかしさのあまり手で顔を覆う。

「大丈夫、かわいいよ。」

秋山は真っ赤になった直の耳に唇を寄せ、囁きながら口づける。

「おまえのかわいい声が聞きたい。」
「そんな…」

体中にキスを降らし、蜜が滴った直の中心を、舌で丁寧に味わった。

「あ…やぁ…あ…きや、まさぁん…」

息も絶え絶えに必死な直の声は、腹の奥が熱くなるに充分だった。

「おまえ…それ反則だぞ。」
「え…?」

秋山は口づけ、足を抱えると一気に己を突き立てた。

「きゃぁ…いたっいたいです…ん…うぅ…」

初めて感じる痛み。自身が裂けてしまうかのような衝撃に、
直の目にはみるみる涙が溜まっていった。

「…っ……すまない…」

我に返った秋山は溢れる涙を舌でぬぐいながら、
自分を抑えられなかったことを悔やんだ。

「…いぃんです…。私は、秋山さんのものだから。
うれしい…これで…やっと全部秋山さんのものになれたんですよね…?」

どんな言葉が男をあおるのか、この純粋無垢な心は知らない。

「…あぁ」

またしてもこの可愛らしい宝物をめちゃくちゃに愛してやりたいという衝動をなんとか抑え、
やさしく口づけた。

(この髪1本さえ愛しい…)

潤んだ目でみつめる彼女の髪をなで、額、頬、まぶた…
彼女の苦しみが少しでも和らぐようにゆっくりと、口づけていった。

「秋山さん…?」
「なんだ…?」
「あの…あの…気持ち、いい、ですか?」顔を赤らめながらもまっすぐにこちらをみつめてくる。
「どうかな」今にも泣きだしそうな顔が愛しくてつい意地悪なことを言ってしまう。
「冗談だよ。おまえとこうしていて気持ち悪いわけないだろう?
そういうおまえはどうなの…って痛くて気持ちいいどころじゃないか(笑)ごめんな、余裕なくて」
「そんな…謝らないでください…私、幸せです。あの…私…大丈夫ですから。
秋山さんのものになったってわかるように、ちゃんと…してください…」

理性を失いそうな甘い誘い。

「そんなこと言われると、がまんできないんだけど」
「我慢…しなくていいです。秋山さんが好きです。いっぱい…秋山さんを感じたいんです…」

この可愛らしい宝物。彼女の全てがほしい、

「ごめん、だめだ。優しくしてやれないけど、ごめん」

気持ちのままに自分をぶつけた。

「あっ…きゃぁ…んはぁっ…ん」
「好き…す、き…あっ…大好き」

声も絶え絶えに、必死に応える彼女が愛しくてたまらない。
つい…心の奥底にある本心が口をついて出た。

「なお…愛してる」

こんな自分が愛することは、まるで彼女を汚してしまうかのようで認めたくはなかった。
ただ…一途に自分を想ってくれる心に応えたかった。
それが彼女の幸せであるならば、自分もまた、素直になるしかないじゃないか。

「愛してる」

彼女の心に届くように、もう一度、囁いた。

「秋山さん?」

額にはりついた髪をつまんでやった指に自分の指を絡ませてきた。

「ん?」
「私…こんなに幸せでいいんでしょうか?」
「いいんじゃない?」
「えへへ…秋山さんも…幸せ?」

「…調子にのるな」

額を小突き、背を向けた秋山に
「えーなんでそうなるんですかぁ!」と抗議の声。

(可愛すぎて苛めたくなるなんて…俺は小学生か。)

幸せいっぱいの表情になっているであろう自分の顔だけは見せまいと
覗き込む彼女を自分の腕の中に押し込めた。






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