秋山深一×神崎直 3回戦を翌日に控えた夜、人けのない店で向かいあう2人の姿。 「…でっ、今日は何の用で俺を呼び出した?」 食事を終えた秋山が直に問いかける。 「何の用…って事もないですけど」 明日から再び緊張が張り詰めるゲーム会場の場に立たねばならない。 直は、さすがに怖くなったと不安を口にする。 秋山を呼び出したのは不安で落ち着かない気持ちから、それに偽りはない。 が、この数日間、別の事に直の頭が占領されがちでいたのも事実だった。 目の前にいるのは、あの夜、甘いキスを交わした筈の男だった。 しかし秋山の変わらぬ態度は、その事実を夢であったかのように思わせる。 淡々と言葉を発しているかのような秋山も落ち着かないのは同じであった。 胸元の広く開いたワンピースは、殊更、直の体の華奢さを強調している。 秋山の脳裏にも同じ夜の情景が浮かんでいた。 目の前に座る女への特別な感情、それを覆い隠すよう淀みなく喋り続けた。 「そろそろ行くか」 秋山に促され店を出る。外はすっかり闇に覆われていた。 ー秋山さん、いつもスタスタ行っちゃうのに……合わせてくれてる?ー 家まで送ってくれる秋山の、自分より少し前を歩く歩調が心なしか緩やかだ。 そんな些細な事実が直の心を温かくする、一時の穏やかな時間。 やがて束の間の時は終わりを告げ、目的地に到着してしまう。 「あの、秋山さん、コーヒーでも飲んで行って下さい」 「……いや、もう遅いし、早く休んでおけ」 素っ気無く自分を部屋に追いやろうとする秋山の返事に、直は寂しく頷く。 あの夜と同じ場所、そこに立つ秋山の姿に甘美な記憶が心を占領していく。 「夢……だったんですか」 無意識に呟いてしまうその顔は、秋山の目に、どこか儚く映った。 思わず手を伸ばし頬に触れる秋山の指先に、直の体はビクンと反応した。 秋山は少し躊躇うと思い直し、その柔らかな頬をつねりあげた。 「ひゃあっ!いたたぁっ、いたぁい!イタイですって、あきやまさん!」 「はははっ!目が覚めたか?」 情けない顔をする直に気持ちが和み、秋山の口元は緩む。 「ひどいですよ!女の子の顔つねるなんて!やっぱり秋山さんは、えっSです」 じゃれ合うような2人の間に流れる和やかな空気。 それを中断するようかのように携帯の着信音が鳴り響いた。直の方だ。 一瞬、不安げな表情で自分を伺う直に、取れと秋山は軽く顎を上げた。 おどおどと直が携帯を開こうとした時、着信音は止まった。画面を見る。 「あ……エトウさん……あの、メールでした」 「エトウ?」 ーああ、あの気弱そうな豹柄かー 直は真剣な面持ちで携帯の画面を見つめながら、秋山に背を向ける。 立ち去るつもりであった秋山も、直が読み終えるまで待つ事にした。 思ったよりも長い時間、直の目は携帯に釘付けになっている。 直の表情を伺い知る事が出来ず、秋山の顔には次第に怪訝さが浮かんだ。 「えー!!!うそだぁー」 声をかけようとした瞬間、直が感嘆の声を発する。 「おい、どうした?」 堪らず直の肩を掴むと、振り返る直の顔は、ほんのり桜色に染まっていた。 「あ、いえ・・・・・・その、何でもありません」 そう答える表情には、どこか喜びの色が滲んでいる。 「それが何でもないって顔かよ」 「えっ、そ、そうですか?」 思わず自分の顔に手をやり、直はあたふたとしてしまう。 「大方、オーバーな礼でも書いてんだろ」 「すっ、鋭いですね、秋山さん」 「わかりやすいんだよ」 「お礼だけじゃないんですけどね」 直の顔に優しい笑みが溢れる。秋山は酷くそれを不愉快に感じた。 「何だよ?他にあるのか?」 「あっ・・・・・・あの、えっと、内緒?てへっ」 「・・・・・・」 「あー、あの、エトウさんっていい人ですよね」 照れ臭そうに、はにかんだ笑みを浮かべる直の態度は更に秋山を苛立たせる。 「いい人がお前を裏切ったりするのか」 苛立ちから、秋山の口調は意地の悪い響きを帯びてしまう。 「でも……エトウさんだけが私に話しかけてくれました」 「話しかけるだけで結局何もしなかっただろ」 「それでも嬉しかったんです。不安な時、エトウさんだけが」 “はあー”と直の言葉を遮る秋山の深いため息。 「あのままだとお前は敗北していた。それでもエトウを優しいと言えるか?」 「・・・・・・それは・・・・・・わかりませんけど・・・・・・でも」 「他の奴と同じさ。そんな事もわからずお前は馬鹿だ!だから騙されるんだ」 容赦のない秋山の辛辣さに、直は返す言葉を失う。ただ俯くしかなかった。 「もういい、帰る。明日は遅れるな」 冷たく言い放すと、秋山は背を向け歩き出してしまった。 直の心に言いようのない不安が広がる。 何がそこまで秋山を怒らせたのか理解出来ず、ただ途方に暮れかける。 自分が人を信じるのは、いつもの事だが、今、秋山の背は直を拒絶している。 考えて意図的にそうしたわけではない。ただ本能的に直の口は動いていた。 「直ちゃん」 直の声に秋山は振り返る。直は震える手で携帯を持ち、画面を読み始めた。 ********************************* 直ちゃん、明日から3回戦なんだろう?ちゃんと眠れてるんだろうか? 敗者復活戦で直ちゃんが俺を救ってくれた事、本当に本当に感謝してる。 何もしてあげらなくて、本当にごめん。 秋山に言われた言葉はきつかった。俺は本当に卑怯で駄目な男だなって。 直ちゃんの事、はじめは何て馬鹿正直で弱い女の子だろうと思ってたけど。 でもさ、本当に強い人間っていうのは、いつでも心が優しいんだな。 君に出会って、それがわかった。君は誰よりも強い人なんだ。 今は、俺も君のように、もう少し他人に優しい人間になりたいと思ってる。 直ちゃん、君は秋山を助けたくて参加したんだろう? 借金もないのに何で?って最初は思ったけど、今ならわかるよ。 秋山の為に勇気を振り絞って参加をした君の気持ち。怖かったよな。 いつか直ちゃんの気持ちが秋山にも届くといいな。 いや、もう届いてるのかもしれないな。 あの冷徹な秋山が君の事だけは特別に思ってる、あの時そんな気がした。 顔に出る奴じゃないけど、大切に思ってるのは何となく伝わってきたんだ。 単なる勘だけど同じ男の俺が感じた事だし、結構当たってると思うんだ。 3回戦に進む直ちゃんが心配だけど、あの秋山が一緒なんだよな。 きっと直ちゃんを救ってくれるだろう。だから俺は信じる事にした。 直ちゃんは勝つ。勝って、あのゲームを抜ける日が絶対に来る。 その時は、笑って話が出来たらいいな。心からそう思ってる。 だから、その日を楽しみにして君の幸運を祈ってる。頑張れよ。 それから最後に・・・・・・もう一度。ありがとう、直ちゃん。 ********************************** 「嬉しかった・・・・・・感動しました・・・・・・エトウさんの言葉」 静かな直の言葉に、秋山は酷い言葉を浴びせた事へのバツの悪さから天を仰ぐ。 「ああ」 適当な言葉も見つからないまま秋山の手は優しく直の頭をくしゃっと撫でた。 「秋山さんが私を特別大切に思ってるなんて・・・・・・嘘でも嬉しかったんです」 「は?」 思わず秋山の目が点になる。 「おい、感動したのはそこなのか?」 「はい?そうですけど」 ー豹柄・・・・・・何て不憫な奴ー 「くっ・・・・・・あはははっ、はははっ・・・・・・くくくっ」 直に八つ当たりした自分が馬鹿らしくなり、秋山はただ笑うしかない。 急に笑い出した秋山に、呆気に取られた直はキョトンとしていた。 「お茶を飲ませてくれるんだったな?」 「え?はっ、はいっ!」 「一応確認しておくが、ちゃんと意味がわかって言ってるのか?」 その顔を見上げた直は、秋山のいつになく真剣な目に胸がドクンと鳴った。 消え入りそうな小さな声で、直はもう一度返事をした。 部屋に入ると、直は忙しなくコーヒーを入れる準備をしていていた。 バタバタした動作の割には、効率が悪いというか、時間がかかっている。 ベッドに浅く座った秋山も、冷静に見えるが心中は穏やかではなかった。 3回戦を控えた夜に、と自分でも抑えの効かない欲望に戸惑を感じている。 秋山は、その愛らしく落ち着かない仕草で動き回る直に声をかけた。 「直」 「うわっ、は、はい!すいません、今コーヒーを」 ふっと笑うと秋山はひらひらと手招きし自分の両足の間の狭いスペースを指差す。 その意図を理解した直は、耳の先まで赤くなるのを感じた。 「あ、あの・・・・・・恥ずかしいので電気消してもいいですか?」 その言葉に軽く頷く秋山を確かめると、部屋の電気を消した。 壁際チェストの上のルームスタンドの光だけになった部屋は薄い闇に覆われる。 秋山の座るベッドに辿りついた直の体は引き寄せられ、狭いスペースに収まった。 その華奢な輪郭を覆いかぶすように秋山の腕が重なる。背中に感じる男の体温。 秋山に背後から抱きかかえられた直は、自分の心音をひどく大きく感じた。 「あの・・・・・・薄暗いです・・・・・・ね」 どうして良いかわからず直はそのままの姿勢で秋山に間の抜けた言葉をかける。 一方、触れる直の体から伝わる緊張に、秋山は考えあぐねていた。 「ガチガチだな」 「すっ、すいませんっ!」 慌てて謝る声に、その表情は容易に想像出来、思わず秋山は苦笑いしてしまう。 「お客様ぁ、肩がこりまくってますねー」 「ひゃっ?いやっ・・・くっ、くすぐったいですってばあ、ひゃあん」 悪戯っぽく直の肩を揉む秋山の手に、直は体をよじりながら嬌声をあげる。 「いやぁ、これは深刻ですよ。この堅さは尋常じゃない!」 秋山はのたうちまわる直の体をくすぐるように触りながら茶化し捲くし立てる。 「ひゃあ・・・ほ、ほんとうに・・・・・・もう、きゃはははっ、だ、だめですって」 懇願するよう涙目になりながら後ろを見上げると秋山の顔がおぼろげに映った。 「良かったな」 「へ?何がですか?」 「くすぐったい所は全部性感帯になるんだ。つまり神崎直の体は性感帯だらけだ」 真面目くさった顔つきで大げさに言ってのける秋山に直は思わずクスリと笑った。 そっと髪をすきながら直の頬に触れる秋山の手。近づく気配と共に再び訪れる闇。 軽く直の唇に触れた秋山の唇が、別の場所へと移動してゆく。 額、瞼、首筋にゆっくりと行き来をするその感触に直の体は力が抜けてゆく。 「ふっ・・・・・あ、あ・・・・・・」 吐息交じりの声が直の口から漏れ始めると、秋山の手が直の体を弄り始めた。 肩から腕を撫でるようなゆるやかな動き。直の体にゾクリとした感覚が走る。 「あ、あきやまさ」 遮るように秋山の唇で塞がれ、差し込まれた舌の動きに反応して体が微かに震える。 深い角度で入り込んだ舌が口内を動き回り、互いに絡み合う度くちゅくちゅ鳴り響く。 秋山の手は、いつの間にか直の胸のあたりを這うように動きまわり始めた。 軽く両手で揉まれ体の奥がじんとする感覚に、塞がれた直の口元から吐息が漏れる。 「ふぁ・・・・・・はっ・・・」 堪らず秋山は、その体をベッドに押し倒した。とろんとした目の直が横たわる。 その姿を上から見下ろす秋山の視線に直は思わず息を呑んだ。 通った鼻筋の端正な面差し、薄い唇、何か敏捷な動物を思わせる鋭い目。 それは直が初めて目にする男の顔だった。 額にかかる直の髪を掻きあげながら秋山が動きを再開させる。 ゆっくりと頬を伝った手は、首筋から肩、腕に滑りおちワンピースの裾辺りで止まった。 「怖いか?」 何か言葉を発したいが声にならず、直はぷるぷると頭を左右に振る。 秋山の手が裾から差し入れられると一気に身を覆い隠していた布をたくしあげられた。 下着を身に纏っただけの、色白で華奢な体が所在なさげに浮かび上がる。 背中にまわされた手のホックを外す音で、直は急激な羞恥心から両手で顔を覆う。 「直、顔見せて」 秋山の囁くような声に、直はそっと手の隙間から目を覗かせる。 その仕草に、つかれたように秋山の手が露になった胸を軽く弄り始める。 柔らかなで吸い付くような感触が秋山の本能を駆り立てた。 ゆっくりと揉みしだかれ、じんわりとした鈍い快感が直の体に広がり始める。 頭がぼうっとして、直の顔を覆っていた手がするりと耳元の辺りに滑りおちた。 目には自分の胸を転がすように撫で回す秋山の手が映り、火がついたように熱くなる。 その繊細な指先が薄い桜のような先端に触れた瞬間、鋭い快感が直の体を走った。 「…っぁ、ん!」 鼻から抜けるような甘い嬌声に秋山は人差し指と中指で挟むように頂を摘みあげる。 小刻みに揺らすように動かすと、直の嬌声は更に切なさを帯びてゆく。 すっかり硬く尖った頂を秋山の柔らかな唇が鋏んだ。 「っ・・・ふぅん・・・・・・は」 指先とは違う湿り気を帯びた感触に直の体がビクリと震える。 片方をピチャピチャと音を立てながら舌先で転がされ、もう片方を指で捏ねまわされる。 軽く甘噛みされると、一段と深く甘い鳴き声をたてて、直の体は波打った。 片方の胸を愛撫していた秋山の右手が体の線をなぞるように下部へと移動してゆく。 白いレースのショーツにたどり着くと、布越しにさするように上下した。 「あっ・・・えっ、やだぁ・・・・・・」 無意識に拒むような言葉が直の口から発せられるが、その表情はどこか緩んだままだ。 薄い布越しに触れた部分は、指先にほんのりと湿り気を感じさせ、秋山を安堵させた。 隙間から手を差し入れると、ショーツを取り去る。 一糸まとわぬ姿にされ、不安げな直の目が何かを訴えるように秋山を見つめている。 優しく見つめ返し左の腕で抱きかかえると、秋山は右の指先でそっと割れ目に触れた。 「あ・・・・・・ん・・・・・・」 そこは既に潤んでいて、入り口あたりに軽く指を差し入れると、しっとりしていた。 その指先についた僅かな蜜を、割れ目の奥の小さな花芯を探りあて、なすりつける。 何度かそれを繰り返すうち、蜜はねっとりしたものに変わり花芯がぷっくりとしてきた。 秋山は人差し指と薬指で挟み左右に押し開くように芯を露にさせた。 軽く痺れを感じたように直は息を漏らしながら、体をよじらせている。 蜜で充分に潤おいを与えられた丸い突起を秋山の繊細な指先が滑るように振動し始めた。 「あっ?!あああ・・・・・・やっ、やっ・・・・・・あんっっ!!」 電流が走るようなピリピリとした快感が体中を襲い、直は声を抑える事が出来ない。 「ここ、こうされると気持ちいいんだ?」 耳元で囁く秋山の声に、直は恥ずかしさと同時に奇妙な興奮を覚えてしまう。 「やぁ……ん……わっ、わかんな・・・・・・」 円を描くように指で擦ると、奥から溢れる蜜、それを絡めてまた振動する秋山の指先。 「ん、ふ、…あ…あき、やまさ……こわっ・・・・・・こわい・・・・・・やっ、やめ・・・・・て」 秋山に触られている部分が熱を帯び、未知への恐怖から直は膝を閉じようとする。 「大丈夫・・・・・・足、開いて」 自分の手で乱れる直の姿に、高揚から少し掠れ気味な声で囁き、優しく直の膝を割る。 「やだっ、やだっ…んっ、あつ……い、おね……が…、も、やめ…やめっ、こわ…」 直の必死の懇願を無視した秋山の指先は強弱をつけながら動きを速めてゆく。 「ん……怖がらなくて大丈夫だから……直、可愛い」 ふいに体が宙に浮くよな浮遊感が直を襲う。 「っ!・・・・・・きゃぁんっ!!!」 秋山の指の動きが加速を極めた瞬間、大きく鳴いて直の体がびくんと反り返った。 その姿に愛しさから、秋山はぐったりとした直の体を抱く手に力をこめる。 初めての快感の波を彷徨う直にキスをしながら、秋山の中指は入り口を探り当てる。 浅く、秋山は、その中指を中に沈めていった。 「く・・・・・・・!!!い・・・・・・たっ・・・・・・」 鈍い痛みが直を快感から引き戻し、苦痛から目にはわずかに涙が滲む。 「きついか?」 心配そうに自分を覗き込む秋山に、直は弱々しく微笑むが、上手く笑えない。 その表情に秋山の胸が痛む。まだ中指しか入っていない狭い膣内は熱くとろけるようだ。 「少しづつ慣らしていくから」 やっとの思いで直に声をかけると、秋山は少しづつ指を動かし始めた。 ゆっくりと挿入した指を軽く掻き回すように動かす度、直の眉根が歪む。 少しでも痛みを和らげようと、秋山は唇でその体中にキスを降らせてゆく。 ほぐすように挿入を続ける指は再び蜜を絡めて、徐々に動きが滑らかになっていく。 少し直の様子が落ち着いてきたのを見計らい、注意深く2本目の指を浅く進入させる。 秋山は根気強く、直の体が少しでも自分を受け入れやすいよう丹念に繰り返した。 「ふっ・・・・・はっ・・・・・・ん、あぁん」 それまで苦痛だけだった直の声に、わずかだが甘い色味が帯びてきた。 息をつく直の額にキスをすると、そっと体を離し、秋山は自分の衣服を脱ぎ始めた。 ズボンのポケットから取り出したゴムを装着しながら直に視線をやる。 どこか放心した面持ちで自分を見つめる直に、どうしたと声をかける。 「えっ、その・・・・・・綺麗だなと思って」 「バカ・・・・・・それはこっちの台詞だろ」 優しく苦笑いしながら秋山は直の下腹部に移動し、そっと膝を割ると体を滑り込ませた。 少し躊躇するよう自分の手に触れた直に、視線を落すと直はそっと手を離した。 秋山は自身に手を宛てがうと、そっと直の入り口に宛てがい、少しづつ挿し入れた。 「っう・・・・・・!!!」 直の呻くような声に、一瞬たじろぎ秋山は動きを止める。まだ先端部しか入っていない。 「直、少しの間、力抜いて」 直の頭を撫でると、秋山は、ゆっくり押しやるように自身を直の中に沈めてゆく。 「!!!」 白い喉をのけぞらせ、声にならない悲鳴が直の口から漏れる。 絡みつくような感触に刺激され、秋山は一気に貫いてしまいたい激情に襲われる。 かろうじて理性で欲望を思いとどまらせながら、大きく肩で息をついた。 直の肩に顔を落とすと、秋山の手が、その細い両手を自分の肩にまわした。 その顔を伺い見ると、必死に苦痛に耐えるよう涙を滲ませ、ぎゅっと目を瞑っている。 その姿に心をつかれ、この上なく優しいキスをすると、また秋山は少し腰を押し進めた。 「ん・・・・・・あっ・・・ん、ん……」 体を開かれてゆく軋むような痛みに、直の手は秋山の肩を強く掴む。 少しづつ進入してくる秋山の存在の証のような痛み。直はその痛みに必死に耐えた。 秋山は出来る限り直に負担をかけぬよう細心の注意を払いながらゆっくりと沈めていく。 長い時間の果て、ようやく、それは最奥へと到達した。 「直・・・・・・全部入ったぞ」 声をかけられ、目を開いた直の目に映る秋山の顔にはいつもの余裕が感じられなかった。 とろけるようなやわらかさで絡みついてくる感触に快感を押し殺すよう秋山は顔を歪める。 激しく突きたい衝動を抑えながら、ゆっくりと律動させた。 「いっ・・・・・・ふぁっ・・・・・・」 「直・・・・・・」 躊躇うように動きを止める秋山の肩を、どこにそんな力があるのか強く直が引き寄せた。 「だ、だいじょう・・・・・・ぶ、ですよ」 しかし、その顔は苦痛から青白く、秋山は不安を拭い去る事が出来ず黙って見つめる。 「そんな簡単に・・・・・壊れやしませんから」 直は持てる力を振り絞り、きっぱりと言い放った。 ー本当・・・・・・こいつには勝てないなー 意を決すると秋山は、再び腰を押し動かし始めた。ゆっくりと浅く断続的に繰り返す。 「っ・・・・・・、あっ・・・・・・」 時折、肩に食い込む指先から、直の苦痛を肌で感じつつ、もはや制止がきかない。 少しでも気を散らすよう、直の体中に愛撫を与えながら、秋山は唇で直の声を塞いだ。 噛み付くようなキスを受けながら、体を貫く痛みの中で直は男の体の重みを受け止めた。 もはや、どちらのものか判らぬ混ざり合う体温と、吐き出される吐息。 人肌の心地良さに直は、苦痛よりも喜びを感じ、強く秋山の首にその手を巻きつけた。 徐々に激しさを増しグランインドを繰り返すと、やがて限界から秋山は欲望を吐き出した。 腕の中でぐったりする直に口付け、手早く後始末を済ませる。 再び直の横に体を滑り込ませると、秋山はその腕に小さな体を抱き寄せた。 直は秋山の胸に顔を寄せるようにして、耳に響く心音に安堵を感じていた。 「少しでも眠っておけ」 その言葉に安心したように目を伏せると、直は静かに眠りに落ちていった。 外が白んできた気配を感じる頃、直は肌寒さを感じて目を擦りながら隣を見た。 「あっ、あきやまさんっ???」 傍らに横たわる筈の姿がなく、一瞬、血の気が引いたように、その名を呼ぶ。 「何だ、起きたのか?」 キッチンの方で上半身裸のまま秋山がカップを手にして立っていた。 「きゃっ・・・・・・」 上に何も着てない秋山を目にして、直は布団の中に潜り込む。 「何だよ?」 「え、だって・・・・・・上に何も着てないんですもん・・・・・・」 「ふっ・・・・・・今更。散々見ただろ」 モゴモゴと布団の中で恥らう直の様子に、半ば呆れるように言い捨てる。 「シャワーでも浴びて、出かける支度しろ」 「は・・・・・・・い、その、後ろ向いてて下さいね?」 毛布から顔半分顔を出した直の照れくさそうな顔に、やれやれと背を向ける秋山。 ー全く、女って不可解な生き物だよなー バスルームのドアが閉まる音を聞きながら、秋山はこみあげる可笑しさを噛み殺す。 「きゃー!!!」 唐突な直の悲鳴と共にバタンと開くバスルームのドアの音。 ぎょっとして瞬時に振り返る秋山の目に、ショーツだけ身につけた直の姿が映る。 「あ、あの……これ、何でしょう?」 胸元から鎖骨のあたり無数に刻まれた花びらのような跡を指して直がうろたえている。 「キスマークだろ」 「えええ!!!」 答えに顔を赤らめ、見えちゃうかなと困り顔で思い悩む直に、秋山は笑いを堪える。 「襟の詰まった服にすりゃ大丈夫だろ」 「えっ、あ、そうですね」 「それより・・・・・・かなり、いい眺めなんだけど、誘ってんのか?」 ほっとする直に意地悪く秋山が言い放つと、直は再び悲鳴と共にバスルームに消えた。 騒々しい奴と苦笑いしながら秋山は昨晩の冷めたコーヒーを一息に飲み干した。 SS一覧に戻る メインページに戻る |