儚(非エロ)
秋山深一×神崎直


薄暗い車内。黴と埃のにおい。

回を重ねる毎に苛酷になるゲーム。
4回戦を終えた参加者達の顔に喜びは無く、
そこにあるのは疲労と次のゲームへの不安。

ゆれるバスの中でエンジンの音だけが響いていた。



秋山は1番後ろの席で煙草に火をつけた。
深く深く吐き出した煙。
静かに、溶けるように消えてゆく。

――…儚いな。

ただなんとなく、そう思った。

そしてなぜか彼女の姿がダブる。
いま、自分の隣の席に座る彼女の姿が。

馬鹿正直なカンザキナオ。
それ故、すぐ騙される。
彼女の泣き顔を何度見ただろう。
今回もまた騙され傷つき精神的に追い詰められた。
やつれた顔。
いつもより一層華奢で弱々しく…
そして儚く見える。

――儚い?…いや、

その、心の中に。真っ直ぐ揺らぎ無い信念。
秋山は知っている。 直の、誰よりも強い眼差しを。


《皆が正直であればいいんです。
 そうすれば皆が救われるんです。》


彼女の言葉が彼の母の言葉と重なる。


《真面目に正直に生きていれば――》


――必ず幸せになれる…か。

備え付けの灰皿に煙草を押し込み、隣を見る。

直はうつらうつら、睡魔と戦っていた。
バスの揺れのせいで今にも前の座席に頭をぶつけそうだ。
それを見て秋山はふっ、と微笑み
直の肩をそっと抱き寄せた。

「…ぁ、あきやまさ…」
「君、危なっかしい」
「……?」
「俺の肩、使いなよ」

睡魔のせいで上手く思考が回っていないのかもしれない。
それとも夢だと思っているのかもしれない。
普段の直なら真っ赤になって離れるのだろうが…

「…うれしい」

そのまま秋山の肩に頭を預ける。
ふわりと微笑み、そうしてそのまま眠ってしまった。

左肩に感じる彼女の体温。
その温かさに秋山は安堵感を抱く。
規則正しく聞こえてくる呼吸。

いま、自分の隣に居る彼女の未来が幸せであるように。
煙のように消えてしまわないように。

祈るように、そっと。彼も静かに瞳を閉じた。






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