日曜日
秋山深一×神崎直


日曜朝八時。

直に強引に遊園地に誘われた深一は、
欠伸をかみ殺しながら待ち合わせ場所へと向かっていた。

低血圧の上、ここ最近勤め始めた会社で酷使されて疲れていた深一は、
その誘いを断ろうかどうか真剣に迷ったが、
結局、彼女のお願いします!の一言に折れることになってしまった。
別にいいけど、とやんわり了承すると、
心の底から嬉しそうな声で、有難う御座いますと立て続けに二度も礼をされた。
きっとあの性格からして、
電話越しだというのにぺこぺこお辞儀でもしているのだろう。
そんな彼女を想像して無意識に口元が緩んでしまい、深一はぱっと手で口を覆った。
昔の自分からは考えられぬ事だった。
復讐の事しか、考えていなかった自分からは。

待ち合わせのカフェへつくと、直は眠そうに頭をうとうとと揺らしていた。
無防備なその姿に、深一の眉間に皺が寄る。

「おい」

声を掛けると、彼女はびっくりして顔をあげた。
その、鳩が豆鉄砲を食らったような顔に、深一は思わず噴き出してしまう。

「な、なんで笑うんですかっ」
「べっ・・・別に・・・」

肩を震わせながら笑う深一に、頬を膨らませて直が怒る。

「ほら、いかないのか?」

彼女が生きるには少し世知辛い世の中だけれど、自分がそれを支えてやれればいい。
深一はすっと手を差し出した。
彼女の細い指がそれを取るのをみて、深一はにこりと微笑んだ。

「は、反則、ですっ」

直の頬にさっと朱が昇る。
抗議の声が何に向けられたものだったのかなど、簡単に分かった。
あのゲームとは、少し違う駆け引き。

「はー楽しかったですー」

愛らしい顔を更に愛らしくするにこやかな笑みで、
直は深一に買って貰ったやったくまのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめていた。
もふもふする感触が心地良いらしく、直はずっとそれに頬を擦り付けている。
仕方ない奴だなあと思いながら深一が前を歩いていると、
ふいに後ろからちょこちょこ付いて来ていた足音が止んだ。
どうしたのかと振り返ると、直が俯いている。
口を開こうとして、深一はそれを直に遮られた。

「あの、秋山さんは、楽しく・・・無かった、ですよ、ね」
「は?」
「だからっ、私ばかり、楽しかったのかなっ・・・て・・・」

突然なんだ、と深一は深く溜息を付いた。
それに過敏に反応した直の華奢な肩がひくりと震える。

「楽しくなかったわけじゃない」
「でも、」
「俺は、感情とか、そういうのを表に出すのには慣れてないんだ」
「秋山さん・・・・・・」
「好きな人間と一緒にいられるんだから、少なくとも、楽しくないわけはないだろ」
「・・・え?」

きょとんと顔を上げた直が見たのは、随分近くにある深一の顔だった。
あれ、と思う間も無く、彼の整った顔が近すぎて滲んでいく。
唇に優しく温かい感触がしたかと思ったら、それは直ぐにはなれていった。

「答え、まだ言ってなかったよな」

暗闇と、それを照らす光を背にした深一の表情は、
直からはよく見えなかった。
ただ、声だけがその場に響いて。

「俺も、お前の事好きだよ」

直の耳を、深一の深く低い声がゆっくりと浸した。

「・・・おい?」

たっぷり30秒は待っていただろうか。
直が動かない事を不思議に思って、深一がその頬に触れようとする。

「ひゃあうっ」

びくうっと身体をふるわせた直は、そのまま顔を両手で覆った。
何事かと深一は目を見開く。

「あの、あのあの、ご、ごめんなさい〜」
「?・・・何、気が変わったとか、」
「ちっ違います!えと、えと、その、・・・ほんとに、私なんかでいいんですか?」

直は申し訳なさそうに深一をみた。

「ああ」

深一は当然のように言い放った。

「というか、俺がいないとお前、駄目だろ」

直の胸元にぎゅうっと抱かれすぎて苦しそうな熊の額に、
深一は人差し指をとんとんと突きつける。
いつもいつも携帯には友達がどうの先生がどうの軟派されて困ってるだの、
直の日常が一から十まで送られてくるのだ。
元々あまり携帯を使う事のない深一の着信履歴とメールの受信ボックスは、
”神崎直”という三文字で一杯に満たされていた。

「そ、それは・・・」
「だから一緒にいてやるって言ってる」
「う、はい」

有無を言わせない深一の声に、直は頷くしかなかった。
それを満足気に見つめて、深一はさっと身を翻すと何事も無かったように歩き出した。

「あの、秋山さん!」
「・・・何?」
「私、し、幸せです!!」

恥ずかしい奴だなあと思った。
そんな事を惜しげもなく言えるのだから。
そんな彼女に当てられて、幸せだなんて思う自分自身も十分に恥ずかしいけれど。
深一はどうにも悔しくて、手をひらひらと振り替えすだけで終わらせた。

「早くついて来いよ」

深一の仕方なさそうな声に混じった優しさを感じた直は、
元気良くはいと応えて深一の所まで掛けていった。

「で?」

直は電車の時刻表の前で固まっていた。

「はい、あの、無いですね」
「ああ、そうだな」

直のメモしてきた最終電車の時刻が間違っていたらしい。
深一ははあと溜息をついて直を見た。

「どうしましょう」
「どうするもなにも」

「適当にホテル探すか、俺の家に来るか、どっちかしかないだろ」





結局、直は深一の家を選んだ。
曰く、一人でホテルは危ないから、という理由で。

(逆だ、逆)

深一は内心頭を抱えていた。
自分の家に来るなんていう選択肢を与えなければよかったとさえ思ったほどだ。
ここ最近忙しくそちらに構っている暇がなかったからだ。
会社のひとつ上の女に迫られてはいたが、
その化粧の臭いが好きになれなかったためにずっと断っていた。
自分でもしていない。

隣に立つ直を見る。
幼いながらも出るところは出てへこむところはへこんでいる。

「どうかしました?」

もう勘弁してくれと深一は思わずにいられなかった。

「秋山さん、あの、なんでさっきからずっと黙ってるんですか?」

直が沈黙のままの深一を下から伺うように見上げる。
テレビをぼんやりと見つめているその瞳にどこか違和感を覚えて、直は身を乗り出した。

「あきやまさ」

直の言葉は最後まで紡がれる事は無かった。
深一の唇が、直のそれに押し当てられたからだ。
輪郭を確かめるように、深一のそれは縮こまる直の舌に絡みついた。
くちゅ、という音がして唾液を流し込まれる。
一瞬離れたかと思うと、それは再び近づいてきて、直の上唇をぺろりと舐めた。
その後すぐに深いものへと変わる。
十分にそこを蹂躙すると、深一は震える直の腰を右手で抱き寄せた。

「わるい」

耳元で囁かれて、直は真っ赤になった。
ぞくりと、背を何かが駆け抜けていく。
唾液に濡れる唇を拭おうとした手を、今度は深一の左手が阻んだ。
唇に触れるようなキスをして、深一の唇はつうと下に下りていった。
甘やかで熱い吐息を首筋に吹きかけられて、直の背がしなる。

「や、あきやま、さ」

鎖骨の辺りに辿り着くと、深一はそこをきつく吸った。
直の白い肌に、薄く紅い華が散る。

「していいか?」

何をとは言わずに、深一は直の胸元に手を這わせた。
思っていたよりも強い弾力性を持って跳ね返る感触に、深一は口角をあげた。

「あきやまさん、やめ、」
「嫌だって言ったら?」

深一は握り締めた直の手に力が入っていないのを認めて、それを解放した。
案の定直の手はたらんとソファに落ちた。

「わるいな。俺はこういう奴なんだ」

深一は直のキャミソールを捲くりあげた。
直の歳にしては随分と可愛らしいブラが露になる。
深一はわざとそれを外さずに、少し硬い布の上から直の胸を揉み上げた。
直は畏れと不安で深一にしがみ付いていた。
怖いだろうにそれを口にださないのは、自分の事が好きだからなのだろう。
嫌われるとでも思って。
それを利用してしまう自分を、深一は愚かだと思いながら止めることは出来なかった。

直の息が上がる。
ただ胸を揉まれているだけだというのに。

「他人に触らせるのは、初めてか?」
「はあ、あ、あきやまさん・・・」

ぎゅうとしがみ付いて来る力が強くなる。
肯定にとって深一は笑った。
良かったと耳元で囁くと、直は嫌々をするように力なく頭を左右に振った。
直の背を、またあの感覚が走ったのだ。

深一は直の反応を見ながら、胸の先端部へ指を這わせた。
布の上からでも分かった。
そこを深一が抓ったと同時に、かたくつんと尖った事が。

「あっ」
「どうした?」

小さく漏れた直の嬌声に、深一は分かっていて尋ねる。

「そこ、変です・・・やめて、くださ、ぁ」

その言葉は無視して、深一は直の背中を探り、ブラのホックを器用に外した。
光に晒された直の肢体。
桃色の突起は、矢張りつんと快楽を象徴していた。
深一がそこを引っ掻くようにすると、直から泣き声にも似た高い声が上がった。

「あきや、まさ、んっ」

深一はそれだけでは足りないと、直のフリルのスカートを膝の上まで持ち上げた。
黒いニーソックスと白い太股は、直の性格に合わないほど妖艶に深一を誘った。
奥へ手をのばすと、直の手が力なく深一の胸板を押し返した。
一瞬とまったものの、深一の指は欲望に忠実に働いた。
直の下着に隠されたその部分を、下から中指で擦りあげる。
そこはもう布を湿らせていて、深一は昏く笑った。
下着を強引にずらして、深一は直のそこに直接触れた。
瑞々しく濡れた直の秘部が、深一の指に驚いてきゅっと締まるのが分かった。
とろりと愛液を零しているくせに、強情だな、と思いながら、
深一は直の敏感な粒に指を這わせてゆるく擦った。

「な、ああっ」

声を抑えていた直の唇から、耐え切れない快楽が漏れる。






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