レッスン
秋山深一×神崎直


「あのっ、私です。あっ、神崎です。
秋山さんの都合のいい日はいつですか?
ぜひ、お礼させてください。
あ、あの、また連絡します。」

留守電に残された彼女からの伝言。
彼女には彼女の、俺には俺の、それぞれの歩むべき道があるからと言って別れたはず。
なのに彼女ときたら…
俺だって会わないほうがいいと分かっているはず、なのに…
それなのに彼女に連絡をしようしているのは何故なんだ。
……自分のことなのに何故なんだはナイ、か。
この感情、ずうっと前、どこかにしまい込んだと思ってたのに。

都合のいい日か、などと考えながら通話ボタンを押す。
すぐといっても大袈裟じゃないくらいのタイミングで彼女が出た。

「もしもしっ。秋山さん。」

弾んでいるとも思える彼女の声。
連絡します。
とは言ったものの、きっと、いつ来るかも知れない俺からの電話を待ってたんだろう。
まあ、自惚れ過ぎかとは思うけれど、何だか嬉しいものだ。
でも、素直になれない俺は気の利いた事も言えず、用件だけを伝えようとした。

「礼ならいらないと言ったはずなのに。
……でも君がそこまで言うのなら、今度の土曜の午後にでも…」

全てを言う前に、彼女の返事

「はいっ。今度の土曜ですね。
わかりました。ありがとうございます。それで」

余程、興奮しているのか話しの途中で切られてしまった。
事態に気付いてどんな様子なのか、想像して少し笑ってしまった。
今度の土曜か、自分から言ったのに何やら不思議な感じだ。

約束の土曜。
昼過ぎに携帯がなった。
かけてきた相手を確かめて電話に出た。

「向かえにきちゃいました。」

あの後、待ち合わせの時間と場所も決めて約束してあるにもかかわらず。
案外、せっかちなのかもしれないと考えながら、俺は手早く身支度を済ませ、家を出た。

「待たせたね、というか、約束にはまだ早いけど、何かあった?」
「秋山さんに逃げられないようにです。うふっ。
なんてあれですけど、驚かせたくてです。」

その答えに少し間をおいて

「そっか。それじゃ、今日は君に任せるから、よろしく。」
「はい。よろしくお願いします。」

頭をペコッと下げる彼女につられてしまった。
可愛いなと思うのは惚れた弱みなんだろうか。
彼女の後ろを少し離れて歩き出した。

彼女に連れられるままだったけれど、久しぶりに楽しい時間を過ごせた。
彼女を家まで送っていた時、妙なことを言いだした。

「あ、あの、秋山さん。
迷惑じゃなかったら、家でお茶でもどうですか。」

俺だって男だというのを分かって言ってんのかね、こちらのお嬢さんは。
そして、半ば呆れながらも誘いにのってしまう俺。

「どうぞ。」
「……お邪魔します。」

彼女らしい雰囲気の部屋だった。

お茶だけで帰るつもりのはずが、他愛のない話しをしているうちに、気がかわった。
見たことのない彼女を見たくなったから。
並んで座っている距離を縮める。
少しずつ顔が近くなっているのに、彼女は気付かない。

そんな彼女にキスをした。

唇を離し、反応を伺う。
目をまーるくして、声にならない声で、秋山さん、秋山さんと俺を呼ぶ。
そんな彼女を見てたら、ほかの男には触れさせたくないし、独占したいと思った。

「目、まーるくしちゃってるけど、もしかして?
子供の頃にお父さんと、はナシね。」

と、ちょっとだけ意地悪をする。
顔を真っ赤にしている彼女に、俺の本心を見破って欲しくて、自分でも笑ってしまうことを言う。

「俺ひとりで我慢できる?」
「あのぅ、秋山さん?」
「じゃあ、レッスン1。
キスする時は目を閉じて。」
「えっ?」
「お互いのウソがばれないように。」

そう言って再びキスをする。
唇を離すとさっきの時とは違う彼女の表情が。
見たことのない表情が。
それを見たら、まだ冷静な判断ができるうちに帰ったほうが良さそうだ。

「混乱したよね。さっきの返事は、ゆっくり考えて構わないよ。
お茶ご馳走様。」

そう言うと玄関へ向かった。
靴を履き終えた頃に彼女が慌ててやってきた。

「待ってください。
レッスンの復習です。」

と、予想外の彼女からのキス。

「よくできたね。いい子だ。」

俺からは、ご褒美のキス。
やはり、冷静な判断ができるうちに帰るのは賢明らしい。

自宅の最寄り駅より一つ手前で降りた。
夜道を歩けば落ち着くだろう。
そんな時、彼女から電話。

「神崎です。今、平気ですか?」

大丈夫と告げると

「さっきの返事なんですけど…
私、秋山さんがいいです。秋山さんじゃないとダメなんです。
だから、レッスンしてください。」

嬉しくなった俺は

「それじゃ、次のレッスンまでに“深一”と呼べるようになること。
わかった?」
「わかりました。
だったら、秋山さんは“直”ですからね。」
「わかった。
それじゃ、おやすみ。直。」

しかし、彼女はレッスン2は何だと思ってるんだろう。
彼女の反応を見るのは楽しみにしておこう。






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