秋山深一×神崎直 ![]() 散々秋山に弾かれた額を撫でつつ、直は眠りについた。 「俺はいいから。ベッド使え」 「え、でも、ここ秋山さんの部屋ですし」 「なら自分の部屋に帰るか、おとなしくベッドで寝るか、二つに一つだ」 きっぱりと言われ、じゃあすみませんが・・・と、ありがたくベッドを使うことにした。 「拝むな。俺は地蔵か」 礼儀正しく、手を合わせて頭を下げると今度は後頭部を軽くはたかれた。 緊張していたはずなのに、今はやけに落ち着いている。 秋山がそばにいるだけで、心の奥から休まってくる。 やっぱり秋山さんは優しいな・・・ とろとろと眠りの世界に誘われながら、直は秋山を思い眠りについた。 キシッ・・・と何か音がした。 普段ならばこんな些細なことには気づかないだろう。 しかし、やはりどこかライアーゲームへの恐怖が神経を過敏にしていた。 ぐっすりと眠り込んでいたはずが、物音で目が覚めた。 いや、目が覚めたとまではいかない。覚醒とまどろみの中間地点のなかで直は不思議そうに声を上げた。 「・・・ん・・・」 重いまぶたを、少しだけ開けてみる。 薄く、ぼんやりと男の影が映る。 あきやまさん・・・? 呼びかけようとしたが、睡魔に邪魔され声は出なかった。 それでもなんとか視界は確保できた。ほとんど目は開いていない状態ではあったが。 どうしたんだろ? 何かあったのかな? 秋山のいつもと違う雰囲気に、不安になったそのとき、直は完全に動けなくなった。 秋山が、救い上げた直の髪に唇を寄せたのだ。 忠誠を誓う騎士のように、恭しく。 嘘!? 秋山さん・・・? ぼやけた思考と視界が、急速に冴えわたった。だが、反して体は動かない。 髪から唇が離れると、今度は頬に触れられた。 長く、細い指。低い体温を感じ、直の背筋に電流が走った。 耳へ、鼻へ、そして唇へ。秋山のやわらかな手つきに硬直しながらも、心地よさを感じていた。 だが、同時に少しだけの怖さもあった。 本当に、どうしたのだろう? もしかして、寝ているフリがばれたのかな。なら、またさっきみたいにいたずらされるだけ? そう思った矢先だった。 「直・・・」 耳元に響く、秋山の声。 彼の吐息が、熱がすぐ近くにあるのを感じる。 いつの間にか秋山にのしかかられるような形になっていたことに気がついた。 あと数センチの距離に、秋山の唇がある。 触れて欲しい。 そう感じ、自分の感情に驚いた。 秋山はあと数ミリの位置だ。 どのくらいそうしていたのだろうか。 体にかかっていた重みが急に去り、同時にぬくもりも消え去った。 直にかぶさっていた秋山が、ソファに戻るのを視界の隅で捕らえる。 溜息が、か細く伝わってきた。 秋山の重みが、熱が、香りが、そして触れられた指先の感触が、体中に残っている。 うずいた胸の痛さは何なのだろう? 自分を見ていた秋山の顔が脳裏に焼きついたまま、直はもう一度眠ろうと必死で目を閉じた。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |