電車
秋山深一×神崎直


ある日曜日の朝、仕事が休みになった秋山は、直に腕を引っ張られ、出かける事になった。
腕を組んで歩く。今日も気温は30℃を越え、普通はくっつくと暑苦しい筈だが、恋人同士なら気にはならない。

「で、何処に行くんだ?」
「見たい映画が有るんですぅ♪」
「へぇ〜、映画ね」

電車に乗り、他愛も無い会話をする。

「この映画ちょー見たかったんです」

専ら話すのは彼女の方で、彼はほぼ聞き役だ。
そうこうしている内に満員になって来た。

「それでですね…」

直の話を聞きながら、秋山の元犯罪者としての鋭いレーダーに引っ掛かる視線が一つあった。
男が明らかにこっちを、特に直を観察している。
一般人には分からないが、秋山には、挙動不審に見えた。直を狙ってやがる。
秋山は、男を睨み視線を遮るように体勢を変える。
怖気づいたのか、相手は諦めたように別の方向を向いた。

そんな一瞬の攻防には気付くはずも無く、直は鼻唄を歌いながら秋山の胸に身を委ねていた。

「あ、そうだ。飴が有ったっけ」

秋山の家に行く前に、近所のおばちゃんに飴をもらっていた事を思い出した。確か、カバンのポケットに入っていたはずだ。

「秋山さん、飴食べますか?」
「ん、あぁ…」

本当は例の攻防の直後で、おざなりに返事をしただけなのだが、直は「食べる」と思ったようだ。

満員でぎゅうぎゅうなので、あまり下を見る事が出来ない。

「んしょっと」

カバンが二人の体の間に有るので、直は少し力任せに手を突っ込んだ。

「ん〜と…これかなぁ…」

どうやら、それらしき場所を探り当てたらしい。

「あれ?…こんなに柔らかかったかなぁ…」

更に手を動かす直の傍らで、秋山の眉毛がピクピクと動き始めた。

「うっ…おい、直…」
「あ、もうちょっと待って下さい。飴出しますから」

作業を止めさせようとした秋山を制止し、手を動かし続ける直。
直の手は飴らしき棒状の物体を布の上から掴み、形を確認するように上下にしごいていた。

「ぐっ…うぉ…も、もうやめ…」
「う〜んと…あれ?入り口何処だ?…それになんか大きくなってきたような…」

飴を探すのに夢中で、彼女は気付いていなかった。
秋山の顔が少し上気している。少し引きつった表情で上を向き、迫り来る快感にひたすら耐えていた。

その内、液体のような感触が追加されて来た。

「ん?やば、溶けてきたかも」

(おい…それは…)

どうやら切羽詰まってきたようだ。果てるが先か降りるが先か。
予想外の時限爆弾、しかも破壊力は想像出来ない。(色んな意味で)

「お、おい、直…」
「はい?何ですかぁ?」
「いつ、降りるんだ…」

上ずったような声で気を逸らそうとする。

「あ、そっか。次の駅です」

忘れていたらしい。
一瞬イジワルしてやろうかと考えた秋山は、降りた後、中腰でトイレに駆け込んだ。






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