切り取った日常(非エロ)
秋山深一×神崎直


本当はもうすでに俺と彼女は赤の他人であるはずなんだけれども。
 いつのまにか君は俺の側に当然のようにいてくれていてそれはとても迷惑極まりないはずなんだけれど。
 何故か、本当に自分でも分からないけれど、君といる事を俺は当然のように受け入れていたんだ。
 人を、君を嫌いになる方法を俺は知っていたはずなのに。
 どこを探しても見当たらなくて。
 気がつけばこんな状況。

 どうせならあの日。

 ああでも、確かに。この匂いや音や体温も悪くはない。
 穢れたこの手で掬うにはあまりにも美しすぎるけど(君の事だよ?)それを優しく愛でるのも、うん。
 悪くない。

『結果論』



 触れた指先を逃がさないようにと強く握り締めた。
 何? そう問うたあなたの顔を正面切って見る勇気を持ち得ない私は必死に声を絞り出す。「何でも無い、です」これが精一杯。
 ふうん。それだけ返したあなたの指がゆっくりと私の指の一つ一つと絡まっていく。
 伝わる体温がやけに高くて、溶けてしまいそうになる。
 指先に大好きです、という想いを乗せて、私はあなたの手を強く、強く。

『感情表現』



「秋山さん、コップここでいいですか?」
「んー」
「秋山さん、テレビのチャンネル、ニュース番組に変えてもいいですか?」
「ん」
「コーヒー、アイスでいいですか?」
「んー?」
「……もう! 秋山さんちゃんと返事してください!」
「んー……」
「……秋山さん」
「ん」
「……大、好きです」
「知ってるよ」
「……意地悪」
「知らなかった?」

『You Know?(有能)』



 ああごめんよ君があんまりにも純情無垢で馴れ馴れしく懐いてくるもんだから。
 俺もいつもに増して荒々しく君のその美しい姿態をいただいてしまったよ。
 それでも君は笑って俺を許してくれるんだろう?
 シャワーが吐き出すお湯が君を汚した俺を洗い流す。
 濡れた髪に俺は口付けてわざとらしく言ってみる。「愛してる」ほら、こんなにも簡単に。
 浴槽につかっておいでと呼べば嬉しそうに抱きついてきて。
 ああ可愛い可愛い俺の。

『愛玩遊具』



 あの日確かに壊れて止まった時計がほら、音を立てて動き始めたら。
 続くのはただただ幸せな物語。永遠なお話。
 二人で歩きませんか。たまに触れる手。一瞬伝わる体温。
 たったそれだけの出来事。それだけでも幸せです。
 ああそうだな。
 はいそうです。
 それじゃあ行こうか。
 これからも行きましょう。
 どこへ行く?
 どこへでも。
 君とあなたと二人ならいつまでもどこまでも。

『Wonder Wonder World』



 かしゃり。小さな音に振り向く。
 と、同時にまたかしゃり、と小さな音。
 秋山さんは手に持ったデジカメの画面を見て笑った。「間抜けな顔」

「きゅ、急に撮らないでくださいよ!」
「いいだろ、俺しか見ないし」
「そういう問題じゃないですよ!」

 消してください! と抗議しても秋山さんの手からデジカメを奪う事が出来ず、勢い余って私はシーツに倒れこむ。
 かしゃり。背中から聞こえた音。下着姿なんて撮らないでくださいよ。
 今更ながら恥ずかしさがこみ上げてきて、私はシーツに包まってそう訴えかけたけど。
 秋山さんは笑いながら君の裸は綺麗だからいいんだよ、とすごく恥ずかしい事をさらりと言って。
 本当に秋山さんは何だってこうも私の心臓を高鳴らせるのが上手なのだろう。

「消してあげてもいいけど」
「本当ですか?」
「ただし、一つ条件がある」
「条件? 何ですか?」
「もう一回、いい?」

 俺しか知らない顔をもう一度。

『甘い贅沢』






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