夜のお仕事
秋山深一×神崎直


夜の7時すぎ。
いつもの服装から淡いピンクキャミソールとシースルーのショール
そして少しスリットの入った短めのタイトスカートに着替える。
暗い室内でも映える様に少しだけ派手めなメイクを施して
私は神崎直から離れて…年齢も名前も全く違う別の女性になる。
夜のお仕事を、する為に………。

直が体験入店も含めて、お店に入ってまだ二ヵ月半。
少しはお酒にも慣れてはきたけれど、ダウンタイムとか…お店のシステムには、まだ慣れないでいた。
しかし学費や父の入院費、家賃とかの生活費を考えると仕事をしない訳にはいかない。
自分で考えぬいた上での事だったが、逃げ出したい気持ちは常にいっぱいだった。

今日も同伴の客と待ち合わせをしている。
直がお店に入ってすぐに指名をした人で、ある企業の役職クラスの人らしい。
ほぼ週に一度は来店して直を指名し、時々はこうして同伴もしてくれるので
今の直の成績には欠かせない相手だった。
お互いに他人に見られる訳には行かない立場だったので待ち合わせは
いつも、お店近くの繁華街に程近い喫茶店が多い。
今日も同じ店で薄い色のサングラスと白い膝丈のコートを羽織ったまま
店内奥にある椅子に座りながら直は相手が来るのを待っていた。

秋山は職場の人達と新たな現場からの仕事帰りだった。
他の人達は飲み屋や夜の店が溢れているこの場に居て、遊ばない訳には行かないと
色々と店を物色しながら歩いていた。
秋山も誘われたが、丁重に断って帰宅する予定だった。
しかし何気なく見た視線の先に白いコートを着たサングラスの女と白髪交じりの初老の男が
腕を組んで歩く姿を捉えた。

「あれは…」

一瞬で、しかもサングラスで顔がハッキリとは分からなかったが、直ではないだろうか?
確認しようとしても二人は人込みに消えてしまい、もう姿を捉える事が出来ない。
明らかに様子のおかしい秋山に仕事仲間が声をかけた。

「どうした?知り合いでも居たのか?」
「いや、気のせい…だと思う。…お先に!」

そう言いながら別れたが、どうにもさっきの光景が焼きついていた。

今、直が何をしているのか。
一人になった途端に、どうしても知りたくて携帯に電話をかけてみる。

トゥルル、トゥルル、トゥルル…

『はい。』
「直?」
『秋山さん、どうしたんですか?』
「えっ、あ…いや、ちょっと…どうしてるかな?と思って。」
『クスッ、変な秋山さん。今日は予定があって出かけてますけど?』
「それは…どこだ?」

確信に迫れる気がして直に聞き返す。

『えっと…今はBIGE〇HOってカラオケで、今からお店に入るんです。あの、人を待たせてるんですが…。』
「何人で行ってるんだ?」
『え〜っと…4人ですね。ごめんなさい、もう失礼します。』

ガチャッ…切られてしまった。
慌てて切られた位で、おかしな様子は無いようだが…何か引っかかる。
もう一度、直らしき人物を見かけた所へ戻ってみようか?
もしコレで人違いだったら余りにも間抜けなのだが、勘というか本能的なものが秋山を突き動かしていた。

「どうしたのかね?」

直の客が少し離れて携帯に出ていた直に問いかける。

「ごめんなさい、お待たせしてしまって。あの、お客様…から電話だったので。」
「予約か何かの?」
「あ、はい…そうです。4人…で来られるようで。」

もう、簡単に嘘がつけるようになってしまった。
汚れていく自分に嫌気が差してくるが、仕事だからと自分を奮い立たせて気持ちを切り替える。

「そうか…君は人気があるねぇ。じゃあ行こうか?」
「……はい。」

客の男に肩を抱き寄せられながら直は店に入っていった。

多くの店が立ち並ぶ繁華街で人ひとり見付けるのは困難だった。
手掛かりは殆ど無いのだが、もし携帯で直が言っていた事が本当ならと
そのカラオケ店を見付けるべきだと思い、探してみる。
直らしき人物が消えたと思われる先に、その店はあった。
これ以上、手掛かりといえるものが無いので、店前のベンチに座ってしばらく様子を見る事にする。

仕事の後に散々歩き回ったせいで、今頃になって溜まった疲労感が秋山を襲ってきた。
もし、直が見つかったとして…俺は何を言うつもりなんだ?
携帯で話していた通りに友達と居たとしても、自分が見かけた男連れであったとしても…だ。
少し冷静になると、そんな事も考えていなかった事に今更ながら気付いた。

何気なく周囲を見渡していた時、近くのキャバクラから客が出てきた。
店の女性に見送られながら上機嫌で帰って行く男を見た後、見送っていた女の姿を見て愕然とした。
今度は見間違えようがない………直だった。

「アイツ、こんな所で…!」

立ち上がって声をかけようとしたが、直は早々に店に戻ってしまった。
やり場の無い、漠然とした怒りと苛立ちが募ってくる。
とにかく、このまま直が店を出てくるまで待つ事だけを決めた。

「お疲れさまぁ〜。」
「あ、お疲れ様です。」

先輩の人から声をかけられる。

「今日もアフター無しなの?」
「はい、ちょっと用事があって…。」
「そう。でも出来るだけアフターも取った方が固定が増えるわよ。じゃあね!」
「はい、お疲れ様でした。」

先輩を見送った後、更衣室で一人になって溜息が出てくる。
成績は欲しいが店に居るだけでも辛いのに、その後もなんて考えられなかった。
でも、必要なら考えないとダメなのかもしれない。
暗い気持ちに包まれたまま、化粧を少し落として着てきたコートを羽織る。
店に残る従業員への挨拶もそこそこに、逃げるように店を出た。

吐く息が少し白くなってきていた。
寒さと共に心まで冷えていく気がする。
とにかく家路に帰ろうと、タクシーの多い通りまで出ようと歩き出した時
通り近くにあるベンチから立ち上がった人影に、直は驚きと絶望感を感じた。

「あき……やま…さん?」

呟くように相手の名を呼ぶ。

「……帰るのか?」

低く、静かに秋山が直に問う。

「え?」
「もう家に帰れるのかって聞いてるんだ。」
「あ…、はい。」

声を荒げるでもなく、静かに問われる言葉が…妙に怖い。
それ以上、何も会話のないまま直の肩に手を回し、秋山が大通りでタクシーを停車させた。

「乗れよ。」

そう促されて直はタクシーの後部座席の奥に座る。
その横に秋山も座り、タクシーのドアが閉じられた。

「どちらまでで?」

タクシーの運転手に問われても、どうしたら良いのか分からない直はそっと秋山の様子を窺う。

「家に帰るんだろ?」

そう秋山に告げられて、慌てて自宅への道を運転手に伝えた。

タクシーの中では会話も全く無く、重苦しいような空気だけが漂っている。
どうしても気になってチラチラと秋山の様子を窺うが秋山は腕を窓辺についたまま
外の景色を見ているようだった。
結局なにも話しかける事すら出来ないまま、直の家近くの通りにたどり着いた。

秋山が料金を支払い、二人ともタクシーを降りる。
足早に直の家に向かう秋山に思わず直が声をかけた。

「あの、秋山さん。」
「……何だ?」
「えっと、家に…来られるんですか?」
「ダメなのか?」
「い、いえ…そんな事は、ないんですが…。」

言葉と共に俯いてしまう。
そんな直を無視するようにくるっと背を向け、直の家に向かってさっさと歩いていく。
直も秋山に遅れないよう急いで追いかけた。

玄関の鍵を開けて扉を開ける。
先に入る直に続くように秋山も靴を脱ぎ捨て部屋へ入った。
秋山は部屋にある椅子に座り、大きく溜息をひとつ漏らした。
直はコートを着たまま台所へ向かい、お茶を入れる為にお湯を沸かし始めた。
部屋には戻りづらくて、そのまま台所に居るといつの間にか秋山が
椅子から立ち上がり直の背後に立っていた。

「コート、脱げば?」

そう言われて…思わず頬が赤くなり、俯いてしまう。
今着ているのは仕事用の服のままだ。
キャミソールにタイトスカート…仕事の時には無理矢理気持ちを割り切っているが、
さすがに知り合いの…しかも秋山の前では恥ずかし過ぎる。
脱ぐのに戸惑っている直に容赦なく秋山がコートのボタンに手をかける。

「イヤッ!」

避けるように直が抵抗するが、秋山はそれを押さえてコートのボタンを全て外し前をはだけせた。

淡いピンクキャミソールにシースルーのショールそして少しスリットの入った短めのタイトスカート。
今までの直では見た事がない、男を誘いそそらせる服装にくらくらする気持ちと
強い怒りと苛立ちとが秋山の中で入り混じっていた。

「……こんな格好で仕事してるのか。」

恥ずかしいのと責める様な秋山の口調がものすごく辛い。
何も答えずに黙っていると、秋山が直のコートを脱がせた。

「この姿で、どんな事をしてるんだ?」

言える筈がない。
お酒を飲むのはもちろん、お店のシステムで男性客の上に跨りながら身体中を触られる事もあるのだ。
唇を噛み締めて黙っていると益々秋山の怒りが高まってきていた。

「答えられないような事をしてるんだな。」

そう言って、直の胸を鷲掴みする。

「やっ…!」

咄嗟に逃げようとした直の腕を捕まえて引き寄せる。
抱きしめるように背後に手を回し、スカート越しにお尻を掴み上げた。

「こういう事をしてる訳か?」

スカートを少しずらし上げるだけでストッキング越しに下着が現れた。
そのままお尻から割れ目に沿って秘部まで指を走らせる。
恥ずかしさと、秋山の怒りに対する恐怖と…指摘されて、より自分への嫌悪感が
溢れてきてしまい直は混乱していた。
どうしたらいいのか、どう答えたらいいのか答えが浮かび上がらない。

すると秋山が直を掴んでいた手を離し、顔を覗き込むように近付けた。

「また俺を騙そうと…誤魔化そうとしてるのか?携帯で話した時みたいに。」

秋山の言葉にハッと直は我にかえった。
そうだった…私は秋山さんを騙してたんだ。
今までも、そして今日も…。
本当に今の自分が嫌になって、酷く後悔していて…今まで無意識に押さえていた涙が溢れ出した。

「本当は…イヤなんです、こんな仕事…。でも、家賃や学費や…父の入院費が必要で…。」

秋山が静かに直を見つめながら言葉を待っている。

「仕方…なかったんです。借金こそ無いものの、お金には困っていたから…。」

直は秋山に静かに頭を下げた。

「騙してしまって…ごめんなさい。もう軽蔑してますよね、きっと。」

そういって直は哀しげに秋山から離れようとした。
しかし、秋山は直の肩を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめる。

「秋…やま……さん?」
「軽蔑なんかしてない。必要だったんだろ?」

秋山に抱きしめられたまま直がコクンと頷く。

「まぁ、確かにいい気はしないがな。……特にお前に触った他の奴らに対しては。」

背中に回されていた秋山の手がゆっくりと直の身体に沿うように降りて
ストッキングの上からお尻の溝に這わせるように軽く指を曲げながら撫でていく。

「あっ…」

少し感じて顔を上げた直に秋山が口付けした。
舌先で直の唇を抉じ開けて口内を蹂躙するように舐め回していると直の舌がそっと秋山のに触れた。
捉えるように絡ませると直もたどたどしいが答えてくる。
息苦しくなるぐらい二人の舌が絡み合った後、はぁ…と吐息共に唇を離した。
直の頬に口付けながら涙の後を唇で拭ってやった。
そして、もう片手を形の良い胸の膨らみをやんわりと揉み上げる。

「やぁ…あ……んっ…」

たわわに実った直の乳房は秋山の掌の中で揉まれる度に柔らかく弾んだ。
秋山が直の耳元へ顔を近付けて囁く。

「直……していい?」

その言葉に真っ赤になりながらも直は眼を閉じて頷いた。

秋山に導かれて、自分のベットの上に静かに横たわる。
ゆっくりと身体を重ね合わせるように秋山が直に覆いかぶさってきた。
直のキャミソールとブラを一緒に摺り上げると白い乳房と淡い桜色の木の実のような乳首が現れた。
わずかにツンと尖った突起が誘うように揺れ、秋山は唇で挟み込みそっと吸い上げた。

「あ、んあっ…やっ…あああ…」

唇で摘み上げたまま舌先で転がすように乳首を弄んでいると直から甘い声が漏れる。

「少し触っただけなのにこの反応か。弄られまくって随分と感度が良くなったみたいだな。」
「そんな事ない…んっ…あ…やぁ…」

反論は許さないとばかりに胸の突起を甘噛みすると直がピクンと小さく震え言葉が途絶える。

頬を赤らめ、自分の指を唇で軽く咥え、身悶えする直を見て、こんな表情を客の男達にも
見せていたかもしれないと思うと腹立たしく嗜虐的な気持ちになってくる。
秋山は身体を起こして両手を直の下半身に添わせ、ストッキングを持ち上げて左右に引き裂いた。

「えっ…あ、いやぁっ!」

薄い肌色のストッキングの裂け目から覗かせる直の白い肌がいやらしく、なまめかしい。
太腿にまで延びた伝線から秘部に向かって舌を這わせる。

「はあぁ……んぅ…やっ…」

部分的に剥き出しになっている下着の上から割れ目に舌を突き入れ唇で軽く吸うと
直はイヤイヤとするように左右に首を振りながら身体をのけ反らせていた。

秋山の唾液と直の淫蜜ですっかりびしょびしょになってしまった下着を指で横にずらす。
ひっそりと息づく様に覗かせる肉の花びらは待ちわびるかのようにヒクヒクと蠢いていた。
指先を少し折り曲げながら直の花唇に沈めていくと熱く蕩けそうな感覚が覆ってくる。

「ひいっ…やあああっん!」

抜き差しする度にぐちゅぐちゅと音を奏でながら締め付けてくる肉壁を前にして
秋山の熱い塊が脈動し狂おしいほど直を求めていた。
ベルトとズボンを素早く外して下着から己自身を曝け出す。
直の下着をさらに横へずらし、露わになった肉唇に亀頭の先を擦り付ける。

「ああ…早く…きてぇ…」

うわ言のようにおねだりをする直に思わず苦笑いをしてしまう。

「お前、やっぱり感じやすくなってるな。」
「そんな…。私、すごく嫌だったんですよ…仕事…。」
「でも、感じてたんだろ?」

フルフルと首を振り、否定をする。

「今は…きっと、秋山さんだから…感じちゃうんです…。」

そういって秋山の首元へ手を伸ばした。

「お願い、続きを…ね。」

引き寄せるように顔を近付けて軽く口付ける。
秋山はそのままゆっくりと直の中に己を挿入した。

「あっ……あああっ!」

一気に奥の壁まで突き進ませてからわざとゆっくりと引き抜く。
これを繰り返すと直の肉唇が道連れとなって捲り戻り淫液を滴らせた。
狭い通路の壁を亀頭のエラで削り取るように荒々しく行き来するたびに
直の全身に快楽の波が強く響き渡る。
貫かれひとつとなった結合部に身体を支配されたように
いつの間にか秋山の動きに合わせて自然と腰をうねらせていた。

「やあ…ん、あっ…いいっ…!」
「気持ちいい?…直。」
「あ…はい、やんっ…秋山さん、ソコは…ああっ!」

秘部の肉芽を指で弄られて、思わず身体を起こしかけたが、快感が支える力を奪っていく。

「こうすれば、より気持ちいいだろ?」
「ああ、ダメ……良すぎて…もう…っ…」
「ダメだ、我慢しろ。」
「そん…なぁ…あああっ!」

より感じるように仕向けておいて我慢しろなんて…と思ってしまう。
でもそんな思考もつかの間で、すぐに悦楽の世界に引き戻されて快感だけが直を包み込んでゆく。
熱く直を支配する秋山の肉棒だけが今は全てだった。

無意識なのか秋山を攻め立てるように直が締め付け、腰を使い爆発を呼び起こさせる。
他の男達への嫉妬心からより長く繋がっていたいのだが、どうやら限界が近い。
もっと俺を直の身体に覚えさせ植えつけておきたい…そう思って激しく突き動かし続けた。

「もう…もう……ダメです、あき…やまさん…!」
「いいよ、イって。俺も、お前の中に出すから。」
「えっ、そんな…やっ…あああ…イク、いっちゃう…んっ!」

更なる絶頂の高みへ一気に導くように直の奥深くまで抽送されて直の肉壁がぎゅっと締まる。
やがて弾けるような快感に飲み込まれながら、熱く注がれる秋山の煮えたぎった欲望を感じた後
身体ごと闇に沈むように直は意識を手放してしまった。

気がつくと、隣でベットの縁に座っている秋山の姿があった。

「大丈夫か?」
「あ…はい。」

そういって身体を起こそうとしたが、まだ力が抜けてしまっているようで上手く起き上がれない。

「もう少し、横になってろ。」

そういって秋山が直の髪をそっと撫でた。
触れられる感覚が心地よくて、うっとりと再び身体をベットに沈めてしまう。
そんな直に秋山が静かに語りかけた。

「とにかく…もう、その仕事はさっさと辞めろ。」
「え、でも…。」
「一つずつ問題を解決していけばいいだろ。」
「それは、そうですけど…。」

自分ではどうしたら良いのか分からない。

困った表情を浮かべる直を横目に秋山はベットから立ち上がり、
脱ぎ捨ててあった服のポケットからタバコとライターを取り出し火をつける。
携帯灰皿を片手にベットの側にある椅子に座りなおしながら、ふうっと煙を吹かした。

「まず家賃の問題は俺の所へ来ればいい。これで一つは解決だろ?」
「ええっ!?それって……。」

思いも寄らない秋山の提案に素直な直はつい、驚いて身を起こした。

「なんだ、イヤなのか?」

怪訝な顔をする秋山に、慌てて直が否定する。

「そうじゃなくって…あの……いいんですか?」
「お前さえ良ければな。」
「あ、ありがとうございます!」

満面の笑みを浮かべながら直が丁寧にお辞儀をした。

「まぁ、他の事も助けてやるから…何とかなるだろう?」
「はい。…でも、秋山さんはどうして、そこまでしてくれるんですか?」

……今更、そんなセリフが出てくるのか…?

こんな関係を持っていても理解されてないのかと思うと少々情けなくなる。
深い溜息と共に、自分で考えてみろ…と突き放してやった。
人の気も知らないで…。
まぁ、一緒になればいい加減、わかってくれるだろう。
そうでなければ、教え込んでやる…と秋山は密かに決意した。






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