福永ユウジ×神崎直 あの・・・さ。 さっきの質問だけど。その・・・君の解答・・・・ ちょっとだけバツが悪そうな表情で私を見る秋山さん。 はい。 ・・Noです!。バリバリNoです!!! うそばっかりナオ。バカ正直が聞いてあきれる。 ツカハラさんってば。なんであんな質問なんか出すのよ。 最初にそのクエスチョンを聞いたときから 私の顔はすでにほてっていた。 彼女は顔の前で小さい手をパタパタと仰いでいる。 熱さましのつもりらしいけれど、いぜん顔が赤いところをみると なんの効果もないようだ。 ・クスっ・・バリバリ? No・・・・ねえ。 わざと時間をかけて彼女の頭の先からつま先まで 視線をゆっくりそそいでみる。 そのあとキスするくらい顔を近づけ、そして耳打ちした。 ふうん。そいつは残念。 言い終わると秋山はペロリと舌を出した。 ナオはますますちぢこまり赤くなってしまう。 これ以上やると泣いちゃうかな? ナオがついた小さなウソなんか秋山はとっくに見破っていた。 だけど彼女がなんでそんな痛々しいウソをついているのか 秋山にはわからなかった。 question3 自分は処女(童貞)だ? 参加者が全員、真実の解答を出さなければいけないルールなら ナオのYesの1票で、このゲームはナオの一人勝ちだったろうな。 と。秋山は思った。 もっとも彼女は認めないかもしれないが。 投票は休息をはさんで翌早朝。 前の質問で、すでに自分たちのチームを作り票の流れの調整は済んでいる。 作戦は半分終わったようなものだ。 ひとまず秋山は部屋に戻って仮眠をとることにした。 ナオは参加者の情報収集をする。といい妙に張り切っていたので 秋山は注意事項をメモに書いて彼女に渡し部屋に戻った。 なんだろう。何が書いてあるのかな? ナオは秋山がゆっくりと階段を上がって行くのを 見送ってから、カサカサとメモを開いてみる。 メモには 1.参加者と会話をするときは絶対に個室にいかない。 2.参加者から飲食物をもらっても絶対に口にしない。 3.自分の身の上はなるべく話さない。 4.身の危険を感じたら呼べ。 そしてずっと下の方に 明日に備えて早く寝ろの文字。 それだけだった。 子どもあつかいして。 ナオにはそれが不服でたまらなかった。 どんくさくてガキっぽくて、こんなんじゃ 秋山さんに振り向いてもらえないよナオ。 だからさっきもとっさにあんなウソをついてしまった。 Noだなんて・・・・ ナオも年頃の女の子だ。 そして見た目も性格もかわいい。 だから恋人や男性経験がまったくないわけでもない。 そのうちの何人かと深い仲になったこともあるのだが、 すべてが未遂に終わっている。 性交の途中でナオが泣き出し、 相手がやめる。というパターンを数回繰り返しているうちに 歴代の恋人たちはナオの前から去っていってしまった。 思い出すと少し胸がチクン。とした。 純情ぶったりもったいぶってるわけじゃないの。 だけど、。。。。こわい。。。 SEXができない体というわけでもない。快感も高ぶりもそれなりにちゃんとある。 そして痛いのがこわいというわけではない。 本当の理由は・・・・・・ ・・・・「な〜おちゃん」 ポンっと肩を軽く叩かれる。 秋山さんにもまだ触れられたことないのになあ。と振り向くと 特徴的なヘアスタイルとパツパツパンツの男が立っていた。 ツカハラさん。 秋山以外、誰も知り合いのない会場で、最初から気さくに話しかけてくれる この人をナオは直感的にいい人だな。と思った。 会話をしていてもセクシャルな感じがぜんぜんなくて、 男性と話しをしているはずなのに まるで同性と話しているような錯覚と親しみやすさを覚える。 だから、つい警戒をゆるめてしまったのだろう。 今となっては後の祭りだ。 あっちにビールがあるんだけど、いっしょに飲まない? あの。すいません。 わたし飲めないんです。 え〜。そうなの? じゃあ。オレンジジュースとかは? はい。大丈夫です。いただきます。 思えばこの館に来てから緊張続きでのどがカラカラだった。 ツカハラが差し出すオレンジ色の液体を 疑いもせずにナオは口をつけた。 その様子を、ツカハラは瞬きもせずに見つめていた。 どうナオちゃん、ジュースの味は。 味? 味ですか?普通のオレンジジュースですよね? コクン。と何度目かののどを鳴らしたときに ナオは秋山メモを思い出した。 2.参加者から飲食物をもらっても食べてはいけない。 食べ・・・て・・・は・・・いけ・ ・・な・・・ い・・・・。 その瞬間、ナオの中で警鐘が鳴り響いた。 だけどいつだって気づくのが遅い。 ふらふらとじょじょにナオの世界がせばまっていくのを感じる。 グラグラと揺れているのは自分なのか、建物なのか それすらも判断できなかった。 ツカハラは真顔からニヤっとした笑みを浮かべている。 あのジュースにさあ。ちょっといいクスリ入れたんだよー。 サイインザイっていうの?わかる? それとケタミン。 なおちゃんさあ。さっきからずうっと緊張していたみたいだからさー。 ほぐしてあげようと思ってね。いろいろと。 そう言うと声も出さずに口元をゆがめて笑った。 ナオの意識はすぐにもうろうとしてきた。 小説やテレビではよくこういうシーンを目にするけど まさか自分の身に起こる。とは。 あきらかにふだんとは違う感覚で立っていられなくなり その場で4つんばいにへたりこんでしまった。 はあはあ。呼吸が妙に荒い。そして熱い。 自分の息がすごく熱く感じる。 なに。これ・・・ あき・・や・・ま・・さん。 携帯電話で秋山の助けを呼ぼうとダイヤルを押したところで 参加者の一人につかまり電話を取り上げられてしまった。 あ。。。ん。 あれ〜ナオちゃん。どうしたの? 気分悪いのぉ?介抱してあげようか? 胸のあたりを遠慮もなくまさぐってくる手。 その無骨で無神経な手触りは 秋山とはまったくちがう種類の人間だ。 ナオは嫌悪した。 やめ。。。て。ください。 身をよじって会場の誰かに助けを呼ぼうにも 誰もナオ達のやりとりに注意を向けている者はいなかった。 遠くのような近くのような場所で何人かの男の人の声がする。 まさか、こんなに即効性のあるクスリとはねえ。 きっと、ききやすい体なんだろ。 感じやすいみたいだねナオちゃんは。 意識がとぎれる最後に聞いたのは、かつていい人だと思っていた人の声だった。 ナオが目をさまして最初に目にしたのは 自分の体だった。一糸まとわぬ姿で今までベッドに横たえられていたのだ。 声を出すより何より先に目から涙がボロボロとこぼれ落ちた。 それは自分が置かれている状況の悲しさというよりも、 あまりにもひどい苦痛からくる涙だった。 頭から腰やら体のすべての部分がきしむように痛んだ。 ガンガンともズキズキとも例えようがない。 特に今まで感じたことのない場所の痛みの激しさに おなかをおさえて丸まることしかできなかった。 ナオが目をさまして最初に目にしたのは 自分の体だった。一糸まとわぬ姿で今までベッドに横たえられていたのだ。 声を出すより何より先に目から涙がボロボロとこぼれ落ちた。 それは自分が置かれている状況の悲しさというよりも、 あまりにもひどい苦痛からくる涙だった。 頭から腰やら体のすべての部分がきしむように痛んだ。 ガンガンともズキズキとも例えようがない。 特に今まで感じたことのない場所の痛みの激しさに おなかをおさえて丸まることしかできなかった。 ナオちゃん昨日まではYesだったけど今日から自信をもって Noに票を入れられるね。ツカハラはこともなげに言った。 なんで?。。。こんなひどい・・・こと・・・。 ひどい?ひどいこと? ゆうべはあんなに喜んでくれてたじゃない? たいへんだったんだよ。ほしがりやのナオちゃんは。 ・・・やめてください! 自分でも驚くほど大きな声で叫んだ。 ナオは生まれてはじめて人を憎む気持ちを知った。 相手は意識のない女を卑劣にレイプしただけでなく 輪姦の首謀者でもあった。 キッと強くにらむ。 正直1分1秒でも同じ空気を吸っていたくなかったのだが 体がいうことをきかない。 特に足が上手に動かせないでいる。 早くこの部屋を出て秋山さんに会いたい。 普通におはようのあいさつを交わして・・・声がききたい。。。 考えながら、今度は悲しみで涙がこぼれた。 シーツで裸体を隠し。かわいそうな自分の衣服の一部をまとめながら ナオはなんとか立とうとした。 そのあいだも男は不気味に笑ったままだ。 その手にはビデオテープらしいものが握られていた。 ナオはその目線から逃れるように部屋のすみに行き、 下着を急いで着けようとして、バランスを崩してフラッと倒れそうになった。 男はその瞬間を見逃さず舌をペロリとなめると、 すぐさま倒れたナオにのしかかった。 必死に貞操を守ろうと両手でせいいっぱいの抵抗をするが 彼は力づくでナオの体を何度も何度ももてあそび征服した。 おはようございます。秋山さん。 キラキラとこぼれるような笑顔だった。 ・・おはよう・・・。 秋山はだまってナオの表情を観察する。 いつもの彼女だ。 夕べだけど、どうした? 携帯何度かけてもつながらなかったし部屋にも行ったんだけど? え・・・あの・・・。 ナオの携帯の呼び出しが鳴っていたときは、むじょうにも男達に犯され続けていた時間だった。 連絡が来ないと(秋山は)怪しんで女を探しに来るだろうから 隠ぺい工作にメールを打て。と脅された。。 ふるえる指で、 >頭が痛いのでもう部屋に帰って眠ります。 >おやすみなさい。と打たされた。 あのときの怖さと屈辱がよみがえってきて足が震えた。 手錠のようなもの足かせのようなもの。 見たことのないような器具。そして男の手。 秋山は秋山で、いつもナオからのメールは絵文字やら何やらデコレーションされて 2行ですむ用事もえんえん長く文字が連なっているのに 昨日のメールは簡潔すぎるな。と思っていた。 絵文字を打てないくらい具合が悪く弱っているのか? 心配でナオの部屋の前まで行ったけど、数回ノックしても返事はなく出てくる気配がなかった。。 きっと風呂かもう寝ているのだろうと5分くらいであきらめて部屋に帰ってしまった。 すいません。昨日・・・は、すぐ眠っちゃって・・・ 歯切れが悪い口調だな。と秋山は顔に出さずにじれた。 理由がわからないけれど、何かが心にひっかかる。 何かがちがう。 ナオはいぜん顔色が悪く、歩き方もいつもより力がない。 熱でもあるのかもしれない。 失礼。 秋山は言うと、ナオのオデコに自分の手を当てて熱をはかろうとした。 しかしその手をいきおいよく振り払われてしまった。 いや! 自分に伸びる昨日の男たちの手をフラッシュバックしたのだった。 予想外の強い拒否反応に驚いてしまったのは秋山だけではない ナオも目をぱちくりさせて自分の動きに驚いている様子だった。 ごめん。熱があるのかと思って・・・ いや・・あの・・すいません。ごめんなさい。 秋山さんは悪くないです。 わたし・・・わたしが。。。。 話している最中に言葉がつまり、みるみるうちにナオは泣きじゃくりはじめた。 普通じゃないな。 秋山はふるえるナオの手をさっさと引いて、広間から自分の部屋に連れてきた。 そのあいだもナオの涙は流れつづけ秋山は胸が自分の胸が痛むのを感じた。 時間は少数決投票まであと17分を切っていた。 「何があった?」 「えっ。。うえっ・・ん。別に・・ヒック・・何も・・ないです」 嗚咽のあいだとぎれとぎれ懸命に答えるナオが たまらなく愛しかった。 朝から気になっていた。 態度。そして不自然な昨日のアリバイ いつもの彼女はフワリとかわいらしいワンピースを好んで着ているのに 今日に限ってタートルネックなんか着ている。 秋山はずっと確かめたいと思っていた。 「おまえ。おれに何か隠しごとしてないか?」 問い詰めたい気持ちを隠してできるだけ優しい口調で言ってみた。 彼女は泣きながら力いっぱい首を横にふって否定している。 これじゃあ、いつまでたってもらちが空かないな。 秋山もできればこんなことはやりたくなかったのだが しかたがなかった。 「ちょっとごめん」 「!」 壁際にむりやり彼女を押しやり、強く自分の体を押しつけた。 彼女の体温とやわらさかを直に感じる。 彼女もオレの熱さを感じているのだろうか。 「やめ・・・て・・・」 弱々しい抵抗。 左手でナオの両手を頭の上でギュッとつかみ 空いた右手で彼女のタートルをグイっと引っぱった。 ちょうど強く胸ぐらをつかんだ形だ。 「やめて!見ないで!」 ナオは悲痛に叫んだが、すべてが白日にさらされようとしていた。 「・・・・・・・・・・。」 見られた。いちばん知られたくない人に! ナオはその場でくずおれた。 知られちゃったよぉ。。 タートルをひくと秋山の目に飛びこんできたのは ナオの首や胸元付近に残された無数の内出血のあとだった。 白い肌に痛々しい痕跡。 普通の行為でつくレベルをはるかに超えている。 そっとナオの体から離れるときに 目を合わさずに彼女の頭をポンポンと軽くたたいた。 秋山はナオを直視できない。 気まずい沈黙。 彼女にずっと背中を向けたまま、しばらく立っていた。 ナオはその大きな背中を見つめがら軽蔑された。と改めて絶望した。 秋山の体温は、ナオの体のあざを見た瞬間から 劇的に上がりはじめた。 静まれ! 体中の血液が沸騰しそうだった。 感情よりも先に体の内部が反応していた。 秋山自身も制御できない自分の感情に驚いている。 かわいいけれど、今までの秋山が恋人にしてきたタイプとは まったくちがう人種。 いや。ちがうか。 彼女みたいなタイプからオレは絶対に好かれない自信がある。 嘘つき。詐欺師。刑務所あがり。 オレは正直者とは真逆の裏街道の人間だから・・・・ 最初から負けてんだよな。 自分の中でこれほどカンザキナオが重要な存在だと 嫉妬と憎悪をもってはじめて知ることができた。 そのことには感謝したほうがいいのかもしれない。 怒りにたかぶった自分の姿をナオに見られたくなくて しかたなく背中を向けていたのだった。 いつのまにか強く握られていた手からは血がにじんでいた。 秋山はうぬぼれではなく いつからかナオが自分に好意を抱いていることを知っていた。 そして、知っていて気づかぬふりをしていた。 だから、彼女が合意の上で そういう行為をするということはまず考えられない。 特にこの異常なゲームの最中において 自分以外の男にひかれて一夜を共にするなんて、 まったくありえないことだった。 ナオの今の様子を見ればひをみるより明らかだ。 強姦・・・・。それ以外に考えようがない。 「誰に・・・・・・」 「やられた?」と聞こうか「された?」と聞こうか 直入すぎて、そのあとの言葉が見つからず宙に浮いた。 「・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・」 返事は無言だった。 「オレには言えない?」 ようやく彼女の方を振り向くことができた。 コクンと力なくうなづくナオ。 「・・・・わかった・・・もうこれ以上はきかないから」 どんなふうに接すればいいのか 人の心を読むのが得意な秋山にもまったく計算できなかった。 なぐさめ?あわれみ? どれもこの場にそぐわない。 なんでもいいから一刻も早くこの場の空気を変えたかった。 彼女に笑顔が戻るならどんな犠牲でも はらうつもりでいる。1億の借金だって背負ってみせるだろう。 今は素直にそう思えた。 「おまえさー。おれのこと好きなんだろ?」 ナオは泣きはらした目で秋山を見上げながら 質問の意図を理解できずにいる。 秋山は少し困ったように眉を寄せて 「きらいなの?」と再び彼女に問いかけてみた。 ナオは首をブンブンと横に振った。 こんな今だからこそ大事なことは言わないといけないような気がする。 今さら汚れた体でむしがよすぎるかもしれないけど いま伝えなきゃダメになる。 ナオは葛藤とありったけの勇気をふりしぼって、やっと言った 「・・・・・・・・好き・・・です・・・ずっと秋山さんが好き・でした」 それはずっと受け身で生きてきたナオにとって生まれて初めての告白だった。 過去形にしたのは自分はすでに秋山にふさわしくないと 意識的に出たことばだった。 「マジ?」 「・・・・・・・・・・」 「・・・・カンザキナオ。上出来!」 秋山はいたずらっ子のような笑みをうかべて ナオを強く抱き寄せて何か耳打ちした。 それを聞いたナオの目から さっきよりも大粒の涙があふれてとまらなくなってしまった。 「ごめんな。最初の・・・にはなってやれなかったけど できればお前の最後の男になりたいと思うんだけど・・・・YES?」 「NO?」 こんなことでもなければ、もっと時間をかけて愛してやれたのにな。 少し残念に思っている秋山がいる。 ナオを抱きしめているあいだ。返事をまっているあいだ 幸福の予感と憎悪がひしめきながら秋山を満たしていった。 誰だかわからないが絶対につきとめて堕としてやる。 はいあがれないほどの地獄を見せてやろう・・・と ナオの体温と髪の匂いを感じながら秋山は強く思った。 SS一覧に戻る メインページに戻る |