届かない叫び
横谷ノリヒコ×神崎直


(どうして…?)
(どうしてきてくれないんですか…あきやまさん…)

乾いた涙がこびりついたまま、ただ人形のようにベッドに横たわる彼女は
もう二度と顔を合わせられないであろう人を想い、瞳を閉じた。


かかる重みに目を開けると
自分を組み敷くその人は…思い描く人物ではなかった。

「どうかしましたか?」

瞬きもできずに固まっている直ににっこりと微笑む。
反応のない彼女の耳に唇を寄せ、
「カンザキ、ナオさん?」と囁く。
数秒後、ぎこちなく表情が変化するとともに

「な、んで…?」

と苦しそうに声を発した。

事態が飲み込めていないのであろう、組み敷かなくても動けなそうだ。

「休憩の時間帯は暇ですからね。ただの暇つぶしですよ。」

そう言うとひろく開いた襟ぐりをつかみ、そこから衣服を一気に破った。

「っ!!いやぁっ!!!」

さすがに自分が危険な状態にあるということを自覚できたのだろう。
恐怖の色を目に浮かべて力いっぱい抵抗し始めた。

「そうこなくちゃ、ヤリ甲斐がありませんからね」
「やめてください!!なんでっヨコヤさん!!」
「暇つぶしだと言ったでしょう?」

片手でも余る細い両手首を押さえつけ、破いたところから顔をうずめた。

「いやぁ!!助けて!!」
「くくく、いいですねぇ、そそりますよ」

かまわず空いた手で乱暴に体をまさぐり、剥き出しになった胸に噛み付いた。

「キャアッ!!」

ちぎれてしまいそうな痛さと恐怖にどんどん涙が流れる。

「助けて!!助けてっ秋山さん!!」

「来るといいですねぇ、貴女のこんなに淫らな格好を見た彼の反応を見てみたい」

ビクリと彼女の体が大きく震え、目が見開かれる。

「フフ、大丈夫ですよ。ここは壁が厚い。
それに貴女も知ってのとおり各部屋には距離がありますので
彼が貴女の叫びに気づくことはないでしょう。  残念ですがね」

「さぁ、もっと私を楽しませて」

男の手が下に伸びてくる。
何をされるかはっきりとわからないまでも
更なる恐怖に向かっていることを体で感じた。

「やめて!!いやだっいやぁっ!っいたいっ!いたいっ」

「フフフ、もしかして初めてですか?ここを触られるのは」

苦痛の表情を浮かべ下唇をぎゅっと噛む。(秋山さん助けて…秋山さん!!)

「それじゃあ彼に悪いことをしてしまったなぁ」
「うぅ…こんな…こんなこと、…許されません。もうやめてください。
ホントに…助けて…っきゃあぁ!!」

ヨコヤは、微笑みながら彼女の中心に指を無理やり挿し入れた。

「痛そうですねぇ。まぁ、これだけキツければしょうがないですかね」
「助けて…あ、きやま…さん、うぅ…」

「そうですねぇ、そんなに言うなら助けて差し上げましょうか?」
「え…」

「助けて、差し上げましょうか?」
「条件は、“秋山を裏切る”」

「…」
「フフ、できませんか?」
「それでは仕方ないですね」
「やっ、まっ待ってください!!」

「いいんですよ、わかってます」

膝を抱え込む。

「いやっ待って!お願いします!!」


「くくく、貴女は“裏切らない”」

そういうと一気に貫いた。

「きゃあぁぁぁ!!」

体が二つに引き裂かれる。息ができない。

「フフフ、いいですねぇ。その悲痛の表情がたまりません」

構わず腰を動かすヨコヤ。

「うぅ…」

痛みと惨めさでぎゅっと目を瞑る。

(秋山さん、秋山さん、あきやま、さん)

突かれるたびに激痛が走り、うめき声が出る。

(助けて…秋山さん…たすけて…)



しかし…彼女の願いが通じることは最後までなかった。



「なかなかいい暇つぶしになりましたよ」

痣だらけになった体を横たわらせたまま動けない直に向かって
身支度をしながらヨコヤが嘲笑う。

「これで貴女がこれからどのような顔をして彼に会うのか…
それもまた楽しみですよ、くくく」

「では、また」

嘲笑い声が扉の重みとともに消えた。

何ら変わり映えしない部屋。
ただ、自分だけが先程とは全く違う人間になってしまったよう。

(…洗わ…なくちゃ…こんなんじゃ、秋山さんに会えない…)

ギシギシと悲鳴を上げる体をのろのろ起こすと、愕然とした。


ボロボロになったワンピース。
掴まれていたときの手首の痣。
体中にできた抵抗の痕。
そして内股にこびりついた赤と白の跡。


(なに…これ…なんなの?…なんで?)

思考が停止したまま、全身がガクガクと震えだす。
先程の情景が思い浮かんでくる。

(貴女のこんなに淫らな格好を見た彼の反応を見てみたい)
(貴女は“裏切らない”)

下腹部の痛みが神経を刺激する。

(私…会えない)


(もう…会えない…秋山さんに、会えない…)


目の前がチカチカし、唇がブルブルと震える。

「や…だ…い、や…いやぁあぁぁー!!」

届かない叫びの中、耐え切れない精神は現実を拒絶し、彼女を暗闇にいざなった。






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