確かな崩壊
横谷ノリヒコ×神崎直


白いシャツの下は黒のキャミソールで、
その下にはまた一際白い肌。
一枚の芸術的な絵画みたいで、
その完璧なグラデーションは。

踏みにじってやりたく、なる。
いっそ真っ黒の絵の具で塗りつぶしてやりたく、なる。

「いや、です…!!」

自然と頬が緩んだ私を見て、
彼女が啼いた。

足を、体の横に陣取らせて、彼女の胸だか腹だかに腰を下ろした。
五月蝿い口を塞ぐのは、指。
口の中に無理矢理突っ込んで、落ち着いて色々思案する。

「んんっ、…ん、ぐっ……」
「ねーぇ、どうしたらアナタは大人しく言うこと聞いてくれるんですかぁ?」
「んっ、う、う……」
「質問してるんですよ?こんな時に黙ってどうするんですか?喋るなら今ですよー?」
「んんんっ!!」

狭い狭い咥内に人より長めの私の指を銜え込んで、息苦しさからか彼女はみっとも無く涙を浮かべて。

ね、そうやって私の虐心を煽って。
そのくせ抵抗したりするから。

「全部全部、綺麗に粉々に、壊すんですよ」

私の罪悪を、咎めるように。
実際は私が、黒が彼女を白を染めるように。

汚い床に押し付けられて、白い服が汚れた。

「嫌ですっ…こんなトコ、人、来たら…!」
「来たらどうなんですか?」
「どうって…」

抵抗する手首を押さえつけて、体は私の上半身で抑え付けて。
彼女は、私が眼前で少し暗い顔をして問いかけたら何も返せなくなること、自分で分かってないんでしょうけど。

黙っててくれればいいんですよ。
無駄なお喋りより、今響いてる崩落の音に耳を傾けて。
あなたが手伝うべきは、確かな崩壊なんですから。

「んっ…んぅ、」

本来なら愛情を示すはずの行為にも、篭もる感情なんて微塵もない。
それでもアナタが満足そうに声を上げるのは、私でなく行為に溺れてる何よりの証拠。

「っ…?」

重ね合わせた唇を解いて、しっかりと視線を合わせたまま。
私の唇に、鉄と彼女の匂い。
彼女の唇は、私と血の色。

「言ったでしょう?今から、壊してあげるって」

狂気だってなんだっていい。
始まりには、紅色が相応しいから。

シャツはもともと開きっぱなしだったから、そのまま床と彼女の体の間に挟むように避けて、残ったキャミソールは捲し上げる。
そのまま上に思いっきり引っ張れば、彼女の首辺りに引っ掛かって、息苦しさか痛みだかから逃れるために彼女が自ら脱いでくれる。

やれば出来るんですよ。
手助けも、何もかも。

結局は壊されることを望んでいる、何よりの証拠。

上体が露になったら、後は何の説明もない。
当然のように胸に吸い付いて、それから下への刺激も忘れない。
布越しに、筋を確かめるようやわやわとなぞる。
視線だけ持ち上げて窺った彼女の表情は、声を抑えようとしながらも確かに快楽に染まっていた。

「気持ちイイですか?」
「…」
「ね、ちゃんと壊れられそうですか?」

そうやって、壊れる快楽と壊れた恐怖に震える姿は綺麗だから、崩してあげるんです。

布越しでも分かるほど濡れて、刺激を与える為の動きも幾分滑らかに進むようになった頃。
下着が濡れてしまうだとか、そんな余計なことを考えているのだろう、カンザキさんは口からだらしなく涎を垂れながら、それでも快感に必死に堪えていて。

もういくらかは濡れてしまっているだろうし、口から唾が垂れてるのもよっぽどかっこ悪いというのに。
それでも必死に耐える姿は笑ってしまうくらい滑稽で、何より自ら壊れようとしてくれているような感じがして、可笑しい。

「ん、あ、っ・・や・・・」
「・・・もう、イけばいいじゃないですか」

虐心そそられて、余計に踏みにじってやりたくなってしまう。
体の奥の、ずうっと奥で沸々湧き上がる欲に反応して、私は弄る手の動きを更に激しいモノにした。
布越しでも分かる線をなぞって、その中心と思しき場所に指を伝わせて。

上から下へ、また辿って、上へ。
ゆっくりしたスピードで歩かすように、指を行き来させる。

カンザキさんには、溺れていきそうな目で睨まれたけど、それは分かりきって逆効果。

「お願いっ、やめ…」

言い切る前に、彼女は小さく呻いて一回目の絶頂を迎えた。

勿論、一回目。
まだまだこんなもんで終わらせてやる気はありませんから。
無造作に伸びて眉にかかった前髪を掴んで無理やり持ち上げた彼女の紅潮した顔に、微笑んだ。






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