巴マミ×鹿目まどか
![]() 彼女が魔法少女となって早半年。 黄色い先輩との早すぎる別れや同期の青い少女の失踪を乗り越えて、彼女は戦っていた。 もって生まれた才能か、はたまたその願いの強さゆえか鬼神の如き強さを見せて幾多の魔女を討伐し、契約した獣にも褒められるほど。 もっとも、このスコアの伸びは激化する戦いの中で見滝原町周辺の魔法少女が彼女だけになったのもあるのだろうが。 太陽が完全にその身を隠し、おぼろげな残照が世界に降り注ぐ時刻。 学生が家路を急ぎ、主婦が家事に終われる時間の中、彼女は人影のなくなった学校にいた。 ――正確に言えば、学校に出現した魔女の展開した白黒の闇の中。 チェス盤を模した悪趣味な世界の中心で、少女が舞う。 四方八方から一斉に振り下ろされる兵士の剣を遥か上空に飛び跳ねて回避し、同時に手に携えた大弓に見えない矢をつがえて射る。 「――いっけぇ!」 声に反応して瞬間光の雨と化した矢が呆然と立ちすくむ兵士と後ろに控えていた騎士、僧正を纏めて射抜いた。 チェスの駒を模した冗談のようなデザインの体の中心に大穴を穿たれて、数十体がまとめて木っ端微塵になる。 残骸の山の上に着地し、再び矢をつがえて構えるまどか。 そこに背後から急接近する影――辛うじて致命傷を受けず、同胞の残骸を乗り越えて接近してきたナイト―の顔を振り向くと同時の上段蹴りでのけぞらせ、 返す刃で踵を胸部に打ち込んで破砕する。 石膏のような破片がコスチュームの裾を掠めて小さく切り裂くがまどかは気にせず、ナイト、ビショップが存在していたところから更に後方に下がったところにいる二体の ルークと、それに守られるキングに向かって駆けた。 王を守ろうと、ナイトよりも更に一回り大きいルークが拳を振り上げる。 そのまま振り下ろされる巨大な拳を僅差でかわし、がら空きの頭部に収束させた矢を接写で叩き込む。 甲高い音とともに消し飛んだ頭部の根元を踏み台にして更に跳び、綺麗な弧を描いてもう一体のルークの背中に着地。 ルークが反応するよりも早く背中を駆け上がり、首元の装甲の隙間からより収束させた一撃を撃ち込んだ。 機能を停止した二体のルークが、地響きを立てて倒れた。 配下を数分で殲滅され、たった一体になったキングの駒――魔女の本体が蜂の巣にされて沈黙したのは、それから十秒後のことだった。 「……ふう」 埃を払って一息つくまどかは、気がつかなかった。 後ろに倒れた魔女が、本当に小さな声で何かを呟いてから消滅したことに。 『ワタシノ出番ハコレデオ終イ。アトハアンタノ仕事ダヨ』 「あれ?」 それに彼女が気がついたのは、魔女の体が消滅してから数分の後。 いつまでたっても解除されない魔女の結界と、気味の悪い色に変色し始めた世界に違和感を感じてあたりを見渡す。 と。 白黒から黄色と赤のスプラッタなカラーリングに変色した床が、ぐにゃりととろけた。 ズブズブと靴を、足を飲み込み始める。 「え!?」 なにこれ、と悲鳴を上げて暴れるがそれはほとんど意味を成さず、気がついたときには膝の上まで呑み込まれていた。 それと同時に、前方の深くなった闇の中から音が聞こえ始める。 カツカツと硬いヒールの足音。くすくすという少女のような笑い声。 まどかにとって、聞き覚えのある音。 動かない足のことすら忘れて、前を凝視するまどか。 やがて闇の中から、黄色い魔女が現れた。 これまで戦ってきた人外の姿の魔女ではなく、御伽噺に出てくるようなドレスを着た女。 縦にロールした金髪を揺らし、露出した首や手足に赤く縫い目のような光を浮かべ、両手に漆黒のマスケット銃を携えた、魔女。 くすくすと笑いながら身動きできないまどかの眼前で屈みこみ、彼女にしっかりと自分の顔を見せ付けて言った。 「久しぶりねぇ、まどかちゃん」 絶望と恐怖に染まって震えるまどかの顔を見て満足げに頷くその顔は、紛れも無くすでに死んだはずの人のものだった。 まどかの目の前で首を、手足を食いちぎられ咀嚼されぶちまけられた筈の、巴マミのものだった。 「知ってるかしら。魔女に殺されたり篭絡された魔法少女ってねぇ……魔女になるの」 私みたくね、と微笑んで絶望の色を濃くしたまどかの顔を覗き込む。 ミイラ取りがミイラになる。そんな言葉がまどかの脳裏を掠めた。 両足は駄目でも両手はまだ動く。そう判断して再び顕現させた大弓を引き絞り、光の矢を放つ。放とうとするが。 「へえ、私を討てるの?」 くすりと笑って両手を広げるマミ。その表情は余裕そのもの。 討てない。討てる訳が無い。今討てばもう一度殺してしまう。 まどかの頭の中で誰かが叫ぶ。 「あ、あああああああああ!」 違う。目の前のコレは敵だ。振り払うように叫び、限界まで引かれた矢を放った。 まさしく光速で放たれた矢は一瞬でマミの胸を貫き、その存在を先ほどまでの雑兵や魔女のように消し去るはずだった。 消滅する姿を見たくない、と目を強くつぶったまどかの耳に、あきれたようなため息が届く。 嘲りが多分に含まれたその声は、目の前の魔女のもので。 恐怖に震えながら目を開いたまどかの目に、更に恐ろしいものが映った。 「駄目駄目ね。やっぱりこんなところかな」 そういってもう一度ため息をつく魔女の胸元に、確かに矢は到達していた。 正確には、その半分がむき出しになった豊かな胸の一寸ほど先で、硬直していた。 魔女が指を鳴らすと、それは見る間に灰色の石に変わり、スプラッタな地面に落ちて砕ける。 破片がまどかのコスチュームにいくつかのかぎ裂きを作った。 「あ、ああ……」 「わかったでしょ? 魔法少女の力なんて所詮こんなものなのよ」 奇跡も魔法もあったもんじゃない、と嘲る魔女。 より深い絶望に染まった魔法少女は、呆然と立ち尽くしていた。 足元から伸びる黄色い軟体にも気がつかないほどに。 その瞳を覗き込み、まだ幾らかの希望を感じ取ったマミが笑みを深くし、立ち上がる。 「まだ分かってないのなら、もう一回教えてあげる」 ぐぐぐ、と強くたわめられたそれは、マミの言葉に合わせて開放された。 黄色いゴムのような、強靭な一撃。 右肩から袈裟懸けに強烈な衝撃を受けて、まどかは吹き飛んだ。 幾ら足掻いてもびくともしなかった両足がやすやすとすっぽ抜け、持ち主に同調して宙を舞う。 意識を失っての低空飛行の果てに二度三度とバウンドした体が壁に叩き付けられて止まった。 衝撃で意識を失いそれ以上の衝撃で意識を取り戻した魔法少女が、四つんばいになって激しく咳き込む。 「何してるの? さあ立って」 魔女の冷酷な言葉に反応して壁から触手が伸び、まどかの両脇に巻き付いてその体を立たせる。 歯を食い縛って何とか体を支えたまどかの視界に、戦闘体勢を取ったマミの姿が映った。 「さ、掛かってきて。さっきみたいに殺す気でやらないと殺されちゃうわよ?」 反射的に弓を引き絞ったまどかが、目の前に佇む敵に向かって駆け出した。 マミの手のマスケット銃から放たれた初弾をかわして空中に飛び上がり、続けて出現した無数のマスケット銃に立ち向かう。 乱舞し襲い掛かるそれらを打ち払い掻い潜って、マミの死角――背後斜め上に飛び出したまどかが弓を引き絞る。 気配に振り向いた魔女の顔に、焦りが浮かんだ。 「しまった――」 「いっけぇぇぇ!」 魔女の悲鳴と魔法少女の咆哮が重なり、限界まで収束した光の矢が、まさしく流星のように撃ち放たれる。 その寸前。 表情を一瞬で驚愕から嘲笑に切り替えた魔女が、嗤った。 「――なんちゃって♪」 背後から突進してきた二丁のマスケット銃に付いた銃剣が、まどかの両脇腹に深々と突き刺さる。 「が!」 腹の中で交差した銃剣の先端が顔を見せ、完全に空中で動きを止めるまどか。 弓に収束していた魔力が雲散霧消して、まどかの手から弓が落ちる。 「残念だったわね。まどかちゃん――フィナーレ・ストレガ」 くすくすと嗤う魔女が、激痛と衝撃で身動きできないまどかを指差して詠唱する。 百舌の早贄のように空中に浮かぶまどかを、巨大化した数十丁のマスケット銃が取り囲んだ。 顔を引きつらせるまどかの表情を楽しんだ魔女が、とどめの一言を呟く。 「……ゲームオーバー」 圧縮されたエネルギーが巨大な銃身から一斉に撃ち出され、まどかの意識と精神力を根こそぎ刈り取った。 黄色い闇を明るく照らすそれが収まったあと、ボロクズのようになった魔法少女が落下した。 痛みで意識を取り戻したのか呻く彼女の四肢が、泥沼のようになった地面に呑み込まれる。 「……う……あ……」 落下した弓を拾ってまどかの頭の上まで歩いてきた魔女が、もう一度その顔を覗き込む。 「今度こそ分かったでしょ? 魔法少女なんて所詮この程度なの」 言いながら両手につかんだ弓を圧し折り、見せ付けてから背後に放り投げる。 そのまま身動きできないまどかの腹の上に腰掛けると同時にドレスの裾から蠍の尾のようなものが這い出し、焼け焦げたまどかのコスチュームの中にもぐりこむ。 びくりと反応する様子に満足げに頷いて、尾の先端をそこ――秘所に埋め込む。 薄い膜を一瞬で突き破り、あっという間に最奥に到達したそれを、まどかの膣は喜んで迎えた。 四肢を封じられた生贄が、甲高い声を上げて仰け反った。 悲鳴を心地よく聞いていた魔女が、ああ、と何かに気が付いたように声を上げた。 「あの子がどうなったか、見せてあげる」 言ってまどかから視線をはずしたマミが、マスケット銃の先端でまどかの上に円を描く。 その軌跡に沿って紺色の光が浮かび、円の内側をこことは違う空間につなげた。 「……ひあっ、そ、んあああ!?」 『ん、きゅっ、んちゅ、は、んあ……』 呆然としたまどかの嬌声交じりの声と、空間越しにくぐもった悲鳴と言うにはあまりにも色気がある声が響く。 氷のように透き通る結晶体に手足を囚われ、自由な上下の口にどこからか延びた黒い管を差し込まれて何かを注入されている青い少女の姿。 よく見ると、その足元にはズダボロにされた真紅の何かと、それをハイヒールで踏みつけながら青い少女を眺める黒いドレスの女がいた。 窓が開いたことに気がついたのか、その黒い魔女がこちら側を見て、笑った。 「さあ、答えてまどかちゃん。私と一緒になってくれる?」 否定は許さないとばかりに挿入した尾を激しく動かし、快楽を引き出そうとする魔女。 マミの尻の下で腹がボコボコと波うち、先端の針から流し込まれる毒が快楽を数十倍に押し上げる。 たちまちまどかの嬌声が甘くなり、語尾が不明瞭になっていく。 「答えてくれたら、もっと気持ちよくしてあげるわ」 ぐちゅぐちゅと派手に水音を立てる秘所を一撫でして、指に絡みついた粘着質の液体を舐めとるマミ。 そして、まどかは限界を迎えた。 快楽への欲望と好奇心が、理性も矜持も、何もかも押し流して口を付いて出る。 「なるッ! しぇンぱいと同じに、魔女になりましゅぁぁああああああ!?」 絶叫の直後、子宮に突き刺さった触手の先端から、赤黒い液体がぶちまけられた。 激感に脳が限界を超えたのか、あ、と呻いて白目をむいたまどかの頬をマミがそっと撫でて、聞えているかどうかもわからない耳元で囁き、口付ける。 「『こっち側』へようこそ。まどかちゃん」 漆黒のマスケット銃を山と呼び出した魔女が逃げ惑う人間を一人ずつ確実に縊り殺す。 歯車の音を響かせながら青く巨大な魔女が人の消えた建造物を悉く破壊し、瓦礫の廃墟を作り出す。 そしてもう一体の魔女が赤黒い光波を乱射し、すべてを無へと返していく。 魔法少女の全滅、否反転によって魔界と化した見滝原町を見ながら、白い獣が嘆息した。 『残念だなぁ……この世界のまどかならもう少しがんばってくれると思ったのに。まあ、元が同じだから仕方ないか』 次の世界だともう少しがんばってほしいかなーと楽しげに呟いて、猫とも狐ともつかない獣は姿を消そうとした。 直後、巨大な蝙蝠の翼を広げ、刺々しい弓を持った魔女が、赤黒い光で辺り一体を薙ぎ払う。 とてもとても、楽しそうに笑いながら。 首から下が吹っ飛んで宙を舞う白い獣の悲鳴が、続けて掃射された黒いマスケット銃の銃声にかき消された。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |