飼い犬に手を噛まれる
キュゥべえ×佐倉杏子


『まったく、飼い犬に手を噛まれるとは、このことだよ』

青白い月光に照らされた歩道橋の上で、佐倉杏子は動けなかった。
戦闘のプロを自認する彼女は完全武装にも関わらず、目の前の白い獣に気圧されている。
自慢の多節槍を握る手が震えていた。
何故自分がここまで目の前の存在に怯えているのか、杏子は理解できない。

「なに言ってるのさ、キュゥべぇ」
『僕に手を出したよね。魔法少女の分際でさ』
「…………」
『飼い主に噛み付く駄犬は、調教しないといけない。とても、面倒なことだけどね』

キュゥべぇの言葉は、ひどく杏子の神経を逆撫でした。
何を言いたいのか理解できなかったし、タダでさえ杏子はソウルジェムの正体を知って動揺しているというのに。

「いい加減にしな。じゃないと、潰すよ」

槍の切っ先を、キュゥべぇに突きつける。
杏子は本気だった。
更に何か、目の前の獣がナメた事を喋り続けるようであれば、彼女は冗談抜きでキュゥべぇの首を刈り取るつもりでいた。
魔女だろうが魔法少女だろうが、それこそ罪の無い一般人だろうが。
邪魔する存在は全て、杏子は己の槍で排除してきた。
今回もいつもと変わらない。そう彼女は自分に言い聞かせる。
だけど、手の震えは一向に収まらなかった。幾つもの修羅場をくぐり抜けてきた彼女の直感が、ここは危険だと訴えている。

『ふぅ。杏子……いい加減にしなよ』

それは私のセリフだと叫ぼうとした杏子だったが、背筋を今までに感じたことのない悪寒が駆け上がった。
五臓六腑に広がる不快感は、全身の機能不全を誘発する。

「ィ――――ッ!!」

心臓を鷲掴みにされたような――――違う、それどころではない。
それこそ心に、自分の魂に素手で触れられたような、そんな形容することもおぞましい感覚が脳を直撃する。

「い、いやぁ!や、やめてぇぇぇっ!」

地面にしゃがみ込み、自分の肩を抱きながら杏子は懇願する。
涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながらの訴えにも、キュゥべぇは耳をかさなかった。

『さっき言ったよね。ソウルジェムは君たちの魂だって。そのソウルジェムを精製したのは僕だ。
反抗的な態度を取る可能性のある魔法少女に、僕が何か保険をかけておかないとでも思ったのかい?』

得意げに語るキュゥべぇだが、杏子は地面に座り込んで息も絶え絶えの様子だった。不快感は勢いを潜めたが、体は先程の衝撃から完全に回復していない。

『いるんだよね、誰のおかげで生きているのかも忘れて、反抗的な態度を取る子がさ。だから、そういう子には教えてあげなきゃいけない。誰が飼い主なのかを』
「ふざ……けるな」

平然と、自分にとって許容できないことを言ってのけるキュゥべぇに対し、杏子は鋭い眼光を飛ばした。
満足に体を動かせない今の彼女に取って、それが唯一できる、キュゥべぇへの抵抗だった。
だけれど、そんな些細な抵抗をキュゥべぇは嘲笑うかのように杏子へ悠然と近づく。

『許して下さいって素直に謝れば、許してあげッ――――』
「ウゼェ。誰がオマエなんかに頭をさげるかよ!」

杏子の吐き出した唾が、キュゥべぇの顔にかかる。
キュゥべぇは表情を一切変えなかったが、場の空気は明らかに変貌した。

『杏子、キミは優秀な魔法少女なだけに、勿体無いなぁ』

憐憫の情を込めた言葉とともに発せられたキュゥべぇの魔力は、杏子のソウルジェム……魂に直接作用する。
キュゥべぇは肉体をハードウェア。ソウルジェムをOSに例えたりもしたが、その例えだとキュゥべぇはプログラムのソースコードを自在に書き換えることが出来るようなものだった。

「ぇ……な、何で?う、嘘だ」
『嘘じゃないさ。杏子の体は、僕の支配下にある。認めなよ、自分の体に起こってる事を』

じわりと、杏子は自分の体が熱を持っているのを感じていた。
恐る恐るコスチュームの隙間から股間に手を伸ばしてみれば、クチュリとした水音が響く。
杏子の体を、淫熱が支配していた。
それは既に限界近くまで高まっている。
今すぐに絶頂に達したいと、本能が訴えていた。
自制心をわずかでも綻ばせれば、自分の指は、何かを期待するようにヒクついている淫唇を割って深々と膣内に侵入し、快楽を貪るだろう。
そんな快美への期待感に胸が高鳴るが、こんな場所で醜態を晒すことなど、杏子のプライドが断じて許すはずもなかった。

『杏子、だいぶ苦しいんじゃないかい?』
「ハッ――――この程度。潰れなよ!」
『…………』

杏子は限界間近の身体中から掻き集めた微量な魔力を、己の得物に注ぎこむ。
先程から慎重に位置をずらして必中の位置に据えていた多節槍は、杏子の魔力に反応して、その切っ先をもたげる。
まるで獲物へと喰らい付くガラガラヘビのように、杏子の多節槍はキュゥべぇへと迫った。
彼我の距離は一メートル以下。
切っ先がキュゥべぇを貫くまでは、時間にすれば一秒未満で事足りる。

だけれど――――。
槍はキュゥべぇに触れる直前で、その動きを止めた。

「なッ!」
『言ったろう、キミの体は僕が支配してるって。何をしようとしているのかも、手に取るように分かる。魔力の流れを変えることなんて朝メシ前さ。それと、こんなことも出来るんだ』

杏子の意志に反して。まるで醜態を晒す主を見捨てたかのように、多節槍は切っ先を杏子へと向け、急加速した。

「ヒッ――――!あ、あぁぁぁ……」

杏子のこめかみから、ツゥっと血が滴るが、それは数秒で自然に止血した。
顔面手前で急停止した刃は、杏子の額を薄皮一枚を切り裂いていた。

『今のショックでイッちゃたのか。情けないなぁ、杏子は』
「違ッ! 」

口では否定した杏子だったが、心拍数が格段に上昇している。
頭が一瞬呆っとなり、軽いエクスタシーに到達したことは本人も薄々理解していたが、目の前の獣にその事実を知られるくらいなら死んだほうがマシだった。

『だけど杏子、嘘はいけないよ』

キュゥべぇのニヤついた口調。
最初の、魂に触れられる感覚が再び杏子を犯した。

「い、いやぁぁぁぁぁッ!」
『どうだい、イッたんだろう』
「い、イッたから。イッたから、やめて――――はぁ、はぁ……」

身体中に堪え難い不快感がこびり付いていた。
にも関わらず下半身は淫熱を放っている。まだ物足りないと、本能は訴えていた。
熱を治める為には、あの程度では不足していると、指は勝手に下半身へ伸びようとする。
まるで自分の体が自分の物でないような違和感。

「もう、やだよ……」

ギュッと拳を杏子は握りしめた。
そうでもしないと、自分という存在が消えてしまいそうだった。
快感を求める本能と、それを自制する理性。その二つの狭間で、彼女の心は磨耗していく。

『なら素直に快感に身を任せればいい。そうすれば、楽になれるじゃないか』
「誰が……」
『強情だね。また、ソウルジェムに触れてもいいんだけど?』

キュゥべぇの言葉にビクリと杏子が肩を震わせる。
あの感覚はもう二度と味わいたくなかった。

『それに、僕の言うことを素直に聞くのなら、ここから開放してあげられる。僕の目的は杏子を苦しめることじゃないんだ』

そんな言葉に、杏子の心は傾いていく。

明らかに詭弁だ。だが、この場から解放されるにはキュゥべぇに従うしか無いと――――そんな免罪符を杏子は手にしてしまう。

「ん……」

杏子は破滅への片道切符だと理解している筈なのに、それを免罪符と思い込み、秘裂へと自らの細長い指を伸ばした。

「ぁ、ァッ」

ぐしょぐしょになっている下着を脱ぎ捨て、魔法少女のコスチュームにノーパン姿となった杏子は、既に充血しているクリトリスを指でしごく。
両目をぎゅっと閉じ、送られてくる快感を微細も漏らさないように、全神経を下腹部に集中させる。
キュゥべぇの視線を、杏子は秘所に感じていた。
憎い獣に自分の淫行を見られていると思うと、心に息苦しさが広がり、悔しいはずなのに不思議と花蜜が溢れてくる。

「んんッ」

くちゅくちゅと、深夜の歩道橋の上には、魔法少女が響かせる淫らな水音が木霊する。
音の感覚は徐々に早く、大きくなっていた。

「あ、ッゥ……あぁぁぁッ!駄目、見ないでッ!」

頬を真っ赤に染めて、杏子が肩を震わせる。
と同時に、性器から輝く液体が勢い良く迸った。
歩道橋のタイルの上。杏子は失禁していた。
彼女の太股やコスチュームを、黄金色の小水が濡らす。

「う……あぁぁ……」

絶頂に達した直後の姿勢のまま、杏子は放心したように夜空を見上げている。
普段であればこんなことは在り得ないのだが、キュゥべぇが杏子の体に手を加えたことによって、彼女の体は普段の何倍も敏感になっていた。
だが、そんなことを知らない杏子は、自身が失禁したという事実に呆然としていて、上手く現実を理解することが出来なかった。

『さて、そろそろ仕上げかな』

茫然自失の杏子を尻目に、キュゥべぇは自身に魔力を集中させる。
杏子の得物である多節槍も取り込み、キュゥべぇは股間に巨大な剛直を顕現させた。
キュゥべぇの肉体と対比すれば異常なほど巨大であるし、世の成人男性と比べても平均は優に超えている。
そんな剛直を、キュゥべぇは愛液でとろとろに濡れている杏子の秘所にあてがう。

「ぃぅ……」

達したばかりで敏感になっている秘所に刺激を感じ、杏子が肩を震わせた。
彼女の瞳には元来の獅子のような獰猛な光は消え失せ、今は怯え狩られるだけの小動物の瞳をしていた。

「ゃだよぉ……」

目尻に涙を貯めて、イヤイヤと杏子は首を左右に振るが、そんな動作はキュゥべぇを喜ばせるだけだった。
嗜虐心を堪能しながら、キュゥべぇは剛直をずぶりと杏子の秘所に侵入させる。

「ぁッ!いやぁ、だめぇ!!抜いてぇ!!」

ズブズブと侵入する熱い塊は、杏子の敏感な粘膜を容赦なく刺激する。
あまりの刺激に耐え切れず、杏子は体を弓なりにそらしながら、許しを乞うがキュゥべぇは侵略を止める気など無かった。
剛直の先端が処女の証に到達すると、キュゥべぇは進行のスピードを急に緩めた。
まるで杏子が感じる痛みを長引かせるように、ゆっくりと、何度も膣道を浅く出入りする。

「いひぃぃ、痛ぃ、痛いよぉ!」

まるで刃物で膣道を切り裂かれているかのような痛みを感じ、杏子は青くなるほどに拳を握りしめていた。

『そら、いくよッ!』

ブチっという処女膜の破れる音がして、破瓜の痛みが下腹部から脳天に駆け上がる。
キュゥべぇの巨大な肉槍は一切の容赦なく、そのまま一気に杏子の再奥まで突き抜けた。

「かはッ、あぁ」

杏子はあまりの痛みと息苦しさに、口をパクパクと動かして新鮮な空気を得ようとする。

『これで杏子は僕の物だね。ほら、うごくよ』
「ぁッ!いやぁぁ!」

いくら濡れていたと言っても、初めて男を受け入れた膣道がそう簡単に馴染むはずもないのだが、キュゥべぇは抽送を繰り返す。
敏感な粘膜が容赦なく刺激され、焼けるような痛みが杏子の全身を侵していた。

『いい感じで締まってきたね。ぅ……出そうだ』
「ぇ……?」

キュゥべぇが射精の為のラストスパートへと突入する。
杏子はキュゥべぇの言葉の意味をイマイチ理解出来なかったが、時間が経つにつれて徐々に理解していく。

「だ、駄目ぇ!中に出さないで!」
『杏子、今更無理言うなよ』
「い、いやぁぁぁぁぁッ!!」

杏子の懇願も虚しく、熱い塊が子宮口に降り注ぐ。
膣道を逆流する沸騰した精液は、杏子の精神を焼き切っていく。

「あ、あぁぁ……」

口の端から涎をだらりと垂らし、放心状態の杏子にキュゥべぇは語りかけた。

『約束通り、開放してあげるよ。今度もまた、楽しませてね』

キュゥべぇはそれだけ言うと、歩道橋から姿を消す。

一人取り残された杏子は、ジクジクと痛む頭のまま、菓子を口にする。
取り敢えず何かを胃に入れたかった。
そうすれば、少しは思考が落ち着くかもしれない。
だけれど、アレほど執着していた菓子類は、全く彼女に幸福感をもたらさなかった。
彼女は深い溜息をつく。
既に自分は二度と、前のように菓子を美味しいと感じることはないだろう。そう杏子は確信できた。
代わりに、体全体を妖しい疼きが支配している。

「あぁ……」

そうか。
自分は変わってしまったのかと思い、杏子の頬を一筋の涙が伝った。






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