私が愛し、また愛してくれる存在
美樹さやか×佐倉杏子


夕方。
日が沈み、昼と夜が逆転する、魔の時間。とある民家に交わる二つの影があった__

「はっはっ・・・さやかちゃんッ〜〜〜〜!」
「あっ・・・・・あっ・・・・」
「くっ、出る!!くっ、あ!!」

さやかの上で必死に腰をふる上条君が、あわてて彼女の中から「アレ」を取り出した。
ここは彼女の部屋。学校が終わると一緒に遊んで、それからなし崩しにエッチするのが習慣のようになっていた。

「さやかちゃん・・・!」

ビクンッビクンッと大きく痙攣する吐き出される白い欲望が彼女の胸に降りかかる。
ドサッと放心して上条が彼女の横に倒れ込む。

「はあ。はあ、はあ、ど、どうだった・・・かな」

「コト」が終わるといつものように訪ねてくる上条の言葉。
彼女もまたいつものように。

「はあ、はあ、うん・・・気持ちよかった。何回もイッちゃった!」

ズキッ・・・

「そ、そうなんだ。よかったあ。ほら、僕って体力無いだろ?だから自分だけ気持ちよくなってないかなってすごく心配なんだ。」
上条はまたいつものように謙遜しながらもさやかを気遣う。
本当に優しい上条の心遣いにさやかは胸が締め付けられた。


彼女はまだイッたことはない。


「なんだよ。またダメだったのか〜?」

ベッドの上、クッションを抱いた杏子が口にプリッツをくわえながらさやか毒づいた。
日々食べ物を粗末にするなとのたまう彼女に、そのその食べ方はどうなのよとさやかは突っ込みを入れる。。

「せっかく勇んで腰振ってんだからそれに任せればいいじゃん。マッサージチェみたいなもんだろうに」
「そんあ言い方やめてよ。上条君は私に対して真剣になってくれてんの」
「でもイけないんだろ?」

ぐぬぬ、反論できずに黙ってしまう。

「あんたら学生は今日休みなんだろ?ってのになんでそのカミジョークンと一緒にいないんだ?
あたしはまあ、別に・・・かまわないけどさ」

「だって、一日中顔合わせるなんてできないよ。も、ももし、あ、朝からエッチ、とかしちゃったら絶対に気づかれちゃうよ・・・」

今日は土曜日。週休二日ゆとりまっさかりのさやかはお休みなのだ。
「あの件」以来、魔法少女としての役目を終えた彼女らは各々の日常に戻ってい。なかでも同じく元魔法少女の杏子とさやかは腐れ縁のような関係で、定期的に会っていた。
杏子は魔法少でなくなっても社会に溶け込もうとせず、好き勝手に生きていた。幸いご家族が遺した蓄えがそうとうあったらしく、何不自由なく好きなモノを食べて暮らしている。
ぶっちゃけニートだとさやかは思った。

「なんか失礼なこと想像しただろ」

うっ・・・なんて勘が鋭い奴。」



中略(スマン)



杏子が走っていく。さやかは見た。
走り去る直前、振り向いた杏子の目に涙が滲んでいたのを。

「上条君」

さやかは改めて上条を見つめる。

「・・・僕にとってあの日々は忘れてしまいたい思い出のはずなんだ。
動かない腕を一日中眺め、なんとかして動かそうとあがいた。痛いリハビリに耐え、かつての音楽友達が一人また一人来なくなるたびに焦燥感が走った。
あの日、医者からもう腕が治らないことを聞いた時、どうして僕がこんな目に、と周りのもの全てを憎悪した。それでも」

上条が私の目を見つめる。

「僕が最後まで生きる望みを失わなかったのは、さやかちゃんがいたからだ。雨の日も雪の日も、さやかちゃんは僕の側にいてくれた。
悲しい日も、恨んだ日もさやかちゃんは受け止めて一緒に鳴いてくれた。どれだけ救われたか分からない。」

「それは違うよ。上条君は本当に頑張ったんだよ。わたしなんてただ押しかけただけ。
軌跡を掴んだのは、最後まで上条君が希望を捨てなかったからだよ」

「その心遣いに間違いなく僕は救われたんだよ。だからその分まで幸せにしてあげようと努力したんだ。
でも、さやかちゃんはもう次の迷子を見つけたんだね」

「うん、すごく短気で言葉遣いが悪くて食べ物のことしか頭にない奴だけど。あいつは今までも散々傷ついてきたの。だからわたしが守るって決めたんだ。」
「嫉妬するな、その子のこと。でもその子を追いかけることはきっとさやかちゃん自身の幸せでもあると思う。」

上条は一度目を閉じ、そしてあらためてさやかを見つめて、別れを告げた。

「ありがとう。さやかちゃんのこと、大好きだったよ」

「私もありがとう。本当に本当に上条君のこと好きだったよ」

「君は大勢の人を元気にしてくれる。まるで魔法使いだ」

「ぶっぶ〜、外れだよ。私はね、魔法少女なんだよ」

上条に背を向け全速力で杏子の後を追うさやか。
彼女の姿が見えなくなって、上条は昼と夜が混じり合う空を眺めてつぶやいた。

「魔法少女か・・・ありがとう、さやかちゃん」

虚空は時として優しさを併せ持つことがある。
日が落ちようとする最後の暖かみの中、少年はしばらくたたずんでいた。

「はっはっはっ・・・!!」

全速力で人混みを疾走するさやか。場所は既にわかっている。
なんて言葉をかければいいのか、どうすれば杏子が泣き止んでくれるのか。
その答えを考える間もなく、駆ける足は魔法のごとくあの場所へさやかの意識をいざなった。

二人の、始まりの場所へと。


「やっぱりここだったか」

こちらに背を向けてたたずむ背中がぴくっと震える。

「なにしに来たんだよ」

いつもの杏子からは想像もできないほどドスの効いた声が背中から聞こえてくる。
その様子にふっと肩を上げたさやかは歌うように語りかける。

「ここさ、杏子とあたしが初めてあった場所。私が手下を追いかけてたら杏子が「これは魔女じゃないから見逃せ」っていきなり言ってさ。
あのときは私も余裕無かったから対抗しちゃって喧嘩したんだよね。出会って即殺し合いってかなりレアな出会いだよね〜」

「なにが言いたいんだよ」

「印象は最悪だったけどそっから話し合って、それでもまだ杏子が泥棒してた時だからなんか引っかかってさ。
それでもそっからあたし達よく顔合わせるようになったよね。」

「だから何が言いたいんだよ」

「魔女との戦いでさ。本当にどうしようもなかったあたしを助けてくれたし、「あの時」も最後の日も杏子はいつも側にいてくれた。
似てないんだけどさお互い。だから気が合うのかなって思って・・・」

「だから何が言いたいんだよ!いい加減にしろ。彼氏とうまくいったことを自慢しに来たのか?
そりゃあよかったな、あたしも苦労した甲斐があるってもんだ!それで?こんなとこにいていいのかよ。あたしなんてほっとけよ。
家族もいない、友達もいない。あたしのことを知ってる奴なんて元から誰もいないんだ。
いいさ。元に戻るだけさ。
お前はさっさとアイツの家でしけ込めばいいだろ!」

「別れたよ」

こともなげにさやかは事実を告げた。
杏子が驚愕の表情で振り返る。

「えっ」

「振られちゃった。テヘ」

「別れたって、振られたって・・・さやか、お前それでいいのか。
せっかくあたしらで考えた計画だろ?今まで散々あいつに尽くしてそれで愛想尽かされて納得できるかよ。あの野郎、あたしがぶっ殺して」

手を振り回し今にも駆け出しそうな杏子の両腕を掴み、さやかが諭すように声を掛ける。

「違うよ。上条君は何も悪くない。マミさんが言ってたとおり私は自己満足欲しさに彼に奉仕していただけ。
結局自分のために利用していただけなの。
それでもあの人は本当に親切にしてくれた。愛される喜びを教えてくれた。だから私が愛し、また愛してくれる存在に気づくことができた。
ねえ杏子?」

「え?」

「大好きだよ。本当に大好き。」

「えあ、え。えああ、ええええええええええ!!!????」

顔を真っ赤にして取り乱す杏子。
さやかはなんとか抑えつけようと掴んでいた両腕を壁に押しつけて再度問うた。

「杏子はあたしが苦しいときいつも側にいてくれた。だからあたしは杏子の側にいたいの。
見返りなんて要らない。あたしが本当の意味で愛したいのが杏子なの。杏子のためならなんでもできるよ。
杏子?」

「あ・・・」

「あたしのこと嫌い?」

全身全霊をかけて訴えるさやか。キリストにもすがる思いで自由が利かない杏子を見つめる。

「嫌い・・・」

「・・・!」

「・・・なわけないじゃない。さやかの向こう見ずなところが放っておけなくて。でもだんだんと落ち着いてきたら優しくしてくれて。
冗談で抱きついたり顔近づけてくるたんびに心臓が飛び出そうだったんだから。
そんなあたしに男とのデートプラン考えてくれだなんて鬼畜すぎだっての。」

「ご、ごめん」

さやかは苦笑いを浮かべ自分が今までに重ねてきた悪行をちょっぴり後悔した。

「今更いいよ。あ、あらしも、す、好き、だし。
好き。本当は毎日会いたいし、お出かけだってしてみたい。さやかが帰ると寂しいの。怖いのよ。お腹がふくれたって埋まる訳じゃないもの。
ねえ、本当にあたしと一緒にいてくれるの?あたしの側にいてくれるの。
もう一人ぼっちはやだ。寂しいのはやだ。怖いのはやだよ。あたしを一杯にしてよ」

いつのまにか拘束が解けた両手でさやかの上着を握り、必死に訴える杏子。
上目遣いからくるギャップに今すぐ抱きしめてしまいたい衝動にさやかは駆られた。

「大丈夫もう絶対に離さない」

「じゃ、じゃあさっきなんでもするっていったよな。その・・・ス」

「え、なに?聞こえなかった」

「キ、スしてよ・・・」

不安そうな表情でさやかを見上げる杏子。さやかは小さく頷き、顔を杏子の目線に下げる。
二人の顔が近づき杏子が目をつぶった次の瞬間、両者の唇の距離は0になった。

「んっんん」
「ふぁあ、んん」

ゆっくり唇が離れ見つめ合う二人。やがて杏子が目線を下にずらし言った。

「家、きて」






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