番外編
![]() 「ついてこないで!!」 私はついてこようとしたまどかを怒りに任せて突き放して、走り去った。 「もう、救いようがないよ…」 一番の親友すら傷つけた。そんな自分がもういやだった。 ソウルジェムが黒く濁っていくのが見なくても分かった。 前髪から雨が滴ってくるのを手で払いながら、いく当てもなく走った。 「美樹さん?」 雨が地面を打ちつけ、私がぬれた地面を走る音にまぎれて私を呼ぶ声がした。 私は足を止め振り返った。 「あんた誰よ?何の用?」 「やっぱり美樹さんか…。どうしたのこんな時間に」 するとそいつは顔の緊張が解けたように見えた。 中沢はビニール傘をさしてこっちを見ていた。 「そんなのあたしの勝手でしょ?だいたいあんたもこんな時間にうろついてるんだし、 人の事言えないじゃない。あんたこそ何してんのよ?」 私は中沢を睨みつけて言った。心配するクラスメイトにいきなり敵意を向ける。 そんな私に以前の幸せな日常に戻る資格なんてない。恭介を好きでいる資格なんてない。 「ごっ、ごめん。おせっかいだったかな?俺は夜飯を買いに来ただけだけど、美樹さんは様子違ったから…。 雨の中傘もささないで…。」 中沢はコンビニ袋を持ち上げて、へらっと笑った。 「それじゃ、さっさと帰って寝なさいよ。たいした用もないくせに話しかけないで!!」 私は中沢の好意を無碍にして、またどこかへ走り去ろうとした。すると、 ぐきゅるるるるるる おなかが……鳴った。 そういえば今日いろいろあったからほとんど何にも食べてないや…。 それにしても、恥ずかしい。頬が赤くなるのが分かった。 「くっ…」 顔を隠すように踵を返して、中沢に背を向け走り出すと、 「待って!!」 中沢が今の会話で一番大きな声で叫んだ。 「あの、よかったらこれどうぞ。あと、そこの八百屋のひさしに隠れて、雨宿りしながら食べて」 中沢は袋からおにぎりをひとつ取り出すと、私に渡して一緒にひさしへと移動した。 私はひさしの下のぬれてない部分に座ると、夢中でビニールをはがし、食らいついた。 「じゃ、俺はこれで。気をつけて帰ってね、美樹さん」 中沢の足音がどんどん遠ざかっていった。 私は何も言わず、おにぎりにかぶりついていた。 不覚にも…、涙が出そうだった。夢も希望も友人も、そして、恋人も失った私に染み渡るようなおにぎりだった。 いつものありふれたおにぎりだけど、今回ばかりは特別においしかった。 食べ終わって一息ついて帰ろうとすると、私のすぐそばにビニール傘が置いてあった。 「バカだ、あいつ…」 私は、袖で目元を拭って、手で軽く髪をしぼり、その傘をさして、家に歩いて帰る事にした。 つづく… ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |