番外編
![]() 酒浸りの生活を送る父親。病弱で働くこともままならない母親。それと幼い妹。 これが私の家族だった。別に同情を引きたいわけじゃない。けれど、現状の説明はやはり必要だと思う。 母親には薬を買ってやらなければいけないし、幼い妹にはご飯を腹いっぱい食べさせてあげたい。けれど父親にはその能力が無いと来た。 だから私が稼ぐしかなかった。父親が嬉々として私に持ってくる仕事は、正直私のような年頃の女が真っ当に働くよりも遥かに良い稼ぎになる。 まぁ……大半が父親の酒代に消えるのが唯一にして最大の悩みなのだけど。 「杏子ちゃん、お父さんは相変わらず……あの調子なのかい」 「まぁ、ね」 古びたホテルの一室。私はオジサンと隣り合わせで、ベッドに腰掛けていた。彼はかつて私の父親の右腕をやっていた人で、今は私の仕事相手だ。 かつての教祖に対する同情からなのか、それとも私のような年頃を抱きたいって言うそういう気があるのか、彼は私の上得意だった。 しかも代金は相場にある程度の色を付けてくれるので、春をひさぐ側としても非情に良客で私は彼のことを嫌いじゃない。 「お父さんには才能があった。あれほどの人を集めたのだから。けれど……酒に溺れた。全く惜しいことだ。新たな時代を築く人間になれたかもしれないのに」 「それは、私が」 「杏子ちゃんは魔女なんかじゃない。彼がキミのことを魔女だといい、そこから全てが狂い始めたのは確かだ。けれど、キミに責任を問うことは出来ない。 彼が何を持ってキミが魔女だという妄想に取り付かれたのか俺達に知る由はないが、杏子ちゃんが責任を感じる事なんてないよ」 「そう、かな。ありがとう、オジサン」 彼はどこか悲しそうに微笑んで、私の頭を撫でてくれる。それがひどく心地よかった。きっと心の底で求めている父親ってものを、私は彼に見ているのかも知れない。 私の願いで、父親は偉くなった。数多くの信者を集めて世の春を謳歌しているように見えたのだけれど、彼はどこかで真実を知って、そして堕落した。自分の功績が作られた虚影だと知って我慢できなかったんだろう。 そういう真面目な男なのだ。多分、私の父親という奴は。 目の前の彼も、そんな父親の事を嫌ってないで認めてくれている。それは私にとって、この仕事に意義をくれていた。 「んッ――――」 私は彼の唇に、自分の唇を重ねる。仕事半分、好意半分のキス。 触れるだけのキスをしてから、私は自分の服に手をかける。 「そんなに、じっくり見ないでよ」 文句を言いつつも私は下着まで全てを脱ぎ去って、生まれたままの姿になると彼の膝の上にちょこんと座る。 彼の股間から生えているおちんちんは未だ半立というところだったので、私は指先を竿に絡め、上下にしごく。同時に空いている片方の手で袋の部分を揉みしだいた。強すぎず、優しすぎると思うくらいで。 手を上下させる毎に、徐々に竿が硬度を増していくのが分かった。それと同時に、私のやり方で感じてくれてるんだという満足感が心のなかに沸き上がってくる。 「ねぇオジサン。私の指、気持ちいい?」 「ああ。杏子ちゃん、上手になったよ」 「えへへ、ありがとう。オジサンから教えてもらったやり方、他のお客さんにも評判いいんだよね」 「そうか。杏子ちゃんは、昔から物覚えが良かったもんな」 「……昔のことは、言わないで」 声が少し硬くなった。 昔の話をされるのは、嫌だったから。今と同じくらい何もなかったけれど、昔は今とは違っていた。昔の思い出は、辛いこともあるけど楽しいこともあった。だから、この場で昔のことは話して欲しくなかった。 「――――やッ」 彼の指が私の乳首を転がす。脈拍のない所から飛んできた刺激に、私は肩をビクリと震わせた。 「ん、ダメだよ……そんな」 最近気持よさを徐々に覚えてきた乳首の刺激に、私は彼の膝の上で腰をくねらせた。頭がぼうっとしてきて、体の芯が熱を帯びてくるので、どうしても言葉が舌足らずになってしまう。 「初めての頃よりも、随分と杏子ちゃんはエッチになったな」 「んん、そんな……こと」 「だから今のエッチな杏子ちゃんと昔の杏子ちゃんは違う。安心しなさい。誰もキミを責めたりはしないよ。少なくとも、俺は責めない」 「オジサン……」 昔の大切な物と、今の自分は完全に別物だ。だから割り切れと、彼は言っているのだろう。理屈は分かる。箱の中に思い出をしまい込んでしまえばいい。 延長線と考えなければ、いくら今の自分が汚れようとも、昔の思い出が汚れることはない。 けれど――――チラついてしまう。昔の自分の面影が、どこかに。 希望を持っていたあの頃が。奇跡に縋る前の、まだやり直せる位置に居る自分を、私は羨望してしまう。あの頃に戻りたいと、どうしても思ってしまう。 だから私は、昔を割り切ることも出来ずに未練たらしく引きずっているのだろう。ウザイし、面倒くさいだけなのに。 「杏子ちゃんは真面目だな」 彼はそんな風に私を評する。 けど、それはきっと間違ってる。 「真面目なんかじゃないよ。私は、悪い子だし」 そうでも思わないと、私は過去を直視することが出来なかった。 今の私は悪い子だから仕方ないと、そうフィルターを掛けないと私は自分と向き合えない。それは結局、本当の自分と向き合ってないって事になるんだろうけど。 「――――じゃぁ、悪い子にはお仕置きしないとな」 「うん……そうだね」 彼のおちんちんは十分以上の大きさと硬度を保っている。私が相手にして来た男の人の中でも、彼の大きさは群を抜いていた。 私は自分の中に指を浅くいれて濡れ具合を確認すると、向かい合ったまま彼のおちんちんに腰を降ろす。 「ふっ、うぅ……」 奥までは挿入しないで、浅瀬で彼の大きさに自分を慣らしていく。おちんちんが入り口付近の粘膜を擦り上げながら出入りする度に、粘膜を分泌してアソコが濡れそぼっていく。 じわじわと下半身から熱が這い上がってきて、それは私から理性を削り取っていった。口から漏れでた吐息には、驚くほどの熱が宿っている。 「杏子ちゃん――――」 彼と目が合う。おちんちんは苦しそうにピクピクと脈打っていて、その様子はどこか微笑ましいけれど、じっくりと見ている余裕は私にも無かった。 アソコの中が物欲しげに疼いている。目の前の大きな物を求めるように、だらしなく涎を垂らしながら。 「あ、んんんっ」 私は覚悟を決めて、ゆっくりと腰を降ろしていく。大きな熱の塊がズブズブと私の中に入ってきて、アソコの中が火傷しそうに熱を帯びる。壁が強引に押し広げられる息苦しさに歯を食いしばりながら、私はやっとのことで奥まで彼の物を飲み込んだ。 達成感に大きく息を吐いて、彼と視線を絡ませると褒めるように頭を撫でてくれた。 「動くよ」 彼は私の腰に手を回しながら言うと、律動を開始する。 ゆっくりと、けれど力強く突きあげられる衝撃に、私の体はこらえ切れない熱を帯びていく。 「んぁ!ひぁぁッ!」 引き出され、再び打ち込まれる熱に私は我慢できず彼に抱きついていた。粘膜を強引にかき乱され、下腹部で暴れ狂う熱から逃れるようとして、気がつけば八重歯を彼の肩に食い込ませていた。 けれど彼はそれを気にした様子もなく、更に打ち付ける強さを増していく。 室内にはお互いの肉と肉がぶつかる音が響いていた。彼の動きに合わせて私も、奥深くへ導くように腰を動かす。 息の仕方さえ忘れてしまいそうなのに、自然と腰はより大きな快感を得ようと動いている。私の動きのも相まってか、大きなおちんちんは私の中に深く打ち込まれ、中で滅茶苦茶に暴れ回っている。 「オジサン、わたしぃ……」 向かい合った形でギュッと抱きつきながら、息も絶え絶えに言う。腰を使いアソコを彼のおちんちんに擦り付けるたびに電流が駆け抜ける。頭の奥のほうがチリチリと焦げ付いていて、 何かが近いことを私は感じ取っていた。 「イクのかい」 「んっ」 問いかけてきた彼の表情も、どこか苦しそうだった。私は彼の肩から口を離すと、彼とキスをする。 「オジサン。一緒に、ね」 「ああ」 彼がラストスパートをかけるように、抽送の速度を増す。それに合わせて私も腰を擦り付け、今までとは段違いの暴力的で奥に響く快感を得ていく。 それは熱せられた体に対して決定打となるには十分だった。 「あ、あぁっぁぁぁ!!」 背筋を一段と強い衝撃が駆け抜けた。耳鳴りがして、全ての感覚が遠のいていく。アソコの中が脈動して、彼の精液を搾り取ろうとしていく。 「出すぞぉ!」 「ひぇ!?」 何の前触れもなく浴びせられたマグマのような一撃は、快感に翻弄されている私に追い打ちをかけた。 「だめぇぇぇぇぇぇっ!」 まるで火がついてしまいそうな程の熱が奥深くに打ち込まれ、私は許容量を超えた感覚にビクンと体を大きく震わせると、力が抜けて彼へと倒れこんだ。 ホテルからの帰り道で、私は青果店で林檎を買い求めた。 今日はいつも以上に色をつけてくれたので、抱えるほどに林檎を買い込んでも資金には結構な余裕があった。 これを持って帰れば、林檎が好きな妹はきっと喜ぶに違いない。もし食べきれないようだったら、パイにしたりジャムを作ったりしてもいい。 普段であれば嬉々と胸が高鳴るはずなのに、何故だろう。今日は嫌な予感だけが心のなかに積もっていく。 何かに急かされるように、私は家路を急いだ。 馬鹿げてる。こんな不安は気のせいだ。そう思うけど、そうであればいいけれど。 「――――。」 玄関扉を倒れこむように押し開けた時、妙に嗅ぎ慣れた匂いが鼻を付いた。 現実世界ではなく、そことは表裏が逆転した世界で嗅ぎ慣れている、質量を持った血の香り。 それが玄関から漂っている。 ぴちゃりと、靴の先が水たまりに触れる。違う。これは普通の水たまりなんかじゃない。 「ぅ、ぁ――――」 抱えていた林檎がぼとりと、血溜まりの中に落下する。私の視線の先に転がっていたのは、血の海に沈む妹の体だった。 辛い状況の中でも屈託の無い笑顔を浮かべていた顔は、恐怖に凝り固まったまま生き絶えている。 納得できなかった。なんで、こいつが死ななきゃいけないんだ。 うそだ。うそだ。 私は呆然とした足取りで、廊下を進む。 そして両親の寝室で、私は奴と出会った。母さんの死体を見下ろしながら、血の海に君臨している一人の男。 自分の娘と妻を刺し殺したクソッタレは、私へと生気のない瞳を向ける。 「テメェがこれをやったのか」 問いかけたものの、私は奴の答えを聞くつもりなど無かった。奴の妄言を、これ以上聞いてしまえば自分を抑えきれなくなりそうだ。 だから私は瞬間的に着装し、奴の心臓を一撃で貫いた。 私が父親という存在を認めておく為には、あいつに一言でも喋らせてはいけなかった。 私は奴の理想が嫌いじゃなかった。けど決定的に一つ、奴は間違ってた。 世の中は誰しも平等なんかじゃない。そうだ、力の強い奴が弱いヤツを虐げる。そこを奴は取り違えていた。 奴は誰にでも股を開くアバズレみたいに、人類誰しも平等だと宣っていたんだ。 だからこれは、いつか来るであろう理想と現実の齟齬だった。 そうだ。決して酒やドラックの末に狂ったのではなく、私の父親は理想に敗れたのでなければいけない。 そうであるのなら、私はまだ自我を保っていられる。 これをある種の当然な結末と位置づけられる。 「さて、と」 下準備を終えて血に濡れ林檎を拾い上げると、私はマッチを放った。 灯油にまみれた木造建築は、派手に燃え上がる。崩れていく聖堂を背に、私は独りで長い道のりを歩き出した。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |