千秋真一×野田恵
![]() なんで、こんなことになったんだ……。 突き抜けるような青空の下で、千秋は一人肩を落とした。 新婚さんいらっしゃ〜い♪ 成田空港からひどく青ざめて足取りもおぼつかないような様子で出てきた男が一人。 千秋真一である。彼は未だ飛行機が苦手なようで、日本のじめじめとした気候が、 さらに彼の身体に追い討ちをかけていた。 千秋は早々とタクシーに乗り込み、行き先であるあるマンションの住所を告げて、 そのままシートに深く沈みこんだ。車の中は空調が効いており、幾分か彼の気分も 落ち着きを取り戻す。 ――久しぶりの日本だ。とにかくゆっくりと休みたい。 しばらくして、タクシーは千秋の行き先であるマンションの前に停まった。旅行鞄 としては少し小さめのものを運転手から受け取り、礼を言う。 タクシーは走り去り、千秋はマンションの一室を見上げてわずかに微笑んだ。 一年のほとんどをヨーロッパで過ごす彼がこのマンションの503号室を買ったのには 理由がある。そのひとつは、彼自身が創立者の一人であるR☆Sオケから客員として 呼ばれることが年に1〜2回あり、その時に腰を落ち着ける場所が欲しかったという こと。もちろん他にも日本で指揮棒を振る機会はあるが。 もうひとつは、彼が3ヶ月前に結婚したことであった。 千秋は、自分より2週間前に着いているであろう妻のいる部屋へと足を進めた。 503と書かれたドアの前に立つと、中からわずかにピアノの音が聴こえた。 これは気づかないかもしれないな、と思いながらも、千秋はとりあえず呼び鈴を鳴らす。 ピンポーン、ピンポーン……。 するとピアノの音は止み、パタパタとスリッパの音が近づいてきた。千秋は一歩後ろに 下がって身構える。 彼の思案したとおり、「バターンッ!」ととてつもない勢いでドアが開いたかと思うと、 柔らかな身体が千秋の胸に飛び込んできた。 「おかえりなさーいっ!ア・ナ・タ♪」 「お前俺を殺す気か!?ドアは確認してからもうちょっと静かに開けろよ。」 それから、「アナタ」はよせ、と千秋は頬を少し赤らめて言う。 「えぇ〜?せっかくの新婚サン☆なのにぃ」 じゃあしんいちくんで、と笑うのは野田(旧姓)恵。 二人は6月にフランスで式を挙げ、仕事の都合がついた彼女の方が一足先に 日本へ帰っていたのだった。新婚旅行の名目で約3ヶ月間の休暇を取ることが 出来た二人は、仕事でいつも忙しく飛び回っているヨーロッパではなく、次の 仕事先である日本でゆっくりと羽を伸ばすことに決めていた。 「ところでしんいちくん♪お風呂にしマス?ごはんにしマス?それとも あ・た・し?」 「ばーか」 ポカリとのだめの頭にお見舞いして、「風呂ー」と部屋の中に入っていく。 ムキー、とのだめも後に続いた。 タオルで濡れた髪を拭きながら、千秋がバスルームから出てくると、テーブルの上には もう夕食の準備が整っていた。 「これ……、お前が作ったのか?」 台所でまだなにやらやっているのだめに向かって尋ねると、 「そですよ〜♪なんてったって妻デスから〜」 お料理上手な妻を持って、しんいちくんは幸せものデスね〜と笑う。 ――料理上手って……これカレーじゃねーか。 千秋は心の中でツッコミを入れながら、ふと疑問に思ったことを言う。 「で、飯は出来てるのに、お前はそこで何をしてるんだ?」 「い、いえぇ〜、なんでもアリマセン」 あわてた様子でガサゴソとしているのをいぶかしげに思い、千秋は台所を 覗き込んだ。そこには―― 「何でカレー作っただけでこんなグチャグチャになるんだーっ!!!」 「ギャボ――!」 地獄絵図と化した台所があった。 「……もういーから、後の片付けは俺がやるからさっさと飯食うぞ」 力なくつぶやくように言う千秋に 「えへー、スミマセン」 と悪びれた様子はあまりないのだめ。 これからはコイツに料理させないようにしよう、と堅く誓う千秋であった。 先ほどからもくもくと無言でカレーを食べ続ける千秋に。 「あのぅ。お味のほうは……どデスカ?」 と、おそるおそる顔色をうかがうのだめ。 「んー。ふつうにカレーの味」 「ムキー!!カレーがカレー味なのは当たり前デスヨ!そじゃなくて、愛妻の 手料理なんデスから、愛がこもってておいしーとかなんとか……」 「イヤ、ふつうにカレー味でこれでも驚いてんだけど」 のだめの料理の手腕を熟知している千秋は、たとえ野菜を煮込んだなべにルーを 入れるだけのカレーであっても、どこか違う星の未知なる味になっていないことが 奇跡的だ、と思う。 どういう意味ですかー!?と叫ぶのだめと、あははははと笑う千秋の声がマンションの 一角で響き渡った。 片づけをどうにか終わらせ、ふう、とリビングのソファーに座る千秋の前に、コトリ、と コーヒーの入ったマグカップを置く。 「お疲れサマでした♪はい、ドウゾ」 「ん、サンキュ」 千秋が台所で格闘している間にお風呂を済ませたのだめの髪はまだ濡れているようで、 照明から届く光をキラキラと反射させている。 「髪乾かせよ。風邪ひくぞー」 はーい、と返事をしながらも、のだめの足はピアノに向かう。 溢れる音は、シューベルトの子守唄。 初めのうちは、その調べにうっとり耳を傾けていた千秋だったが、心地よい眠りに 沈み込みそうになり、あわてて残ったコーヒーを飲み干す。 千秋がそっとのだめに寄り添ったとき、ピアノは最後の一音を静かに鳴らし終えた。 肩を抱き寄せ、頬に手を添えてこちらを向かせて。 恵、と彼女の名前をささやく。 すると彼女は頬を赤らめながらも、慣れた様子で目を閉じた。それを合図にして重なる 唇。時折、切なげに眉をしかめながら、んん、と息を漏らす。 千秋はその柔らかな感触をしばらく味わっていたが、彼女の苦しそうな様子に気づいて、 名残惜しそうに唇を離した。 とたんに、ぷはー、と息を吐き出すのだめ。 「お前って、息継ぎヘタだよなー」 笑いをこらえながら、千秋はのだめの髪をなでる。 「ち、しんいちくんが、熱烈すぎるんデス!オマケに絶倫だし」 ちょっとムッとしたのだめが言い返すと。 「そーいうこと言うか。じゃ、風呂も飯も終わったし、「ア・タ・シ」とやらを いただくことにしよう♪」 えぇ!?ちょっと!とあわてるのだめを抱き上げて、千秋は寝室のドアを開けた。 「疲れてるんじゃないんですか?」 と少し不安そうにしているのだめをベッドに下ろし。 「なんてったって新婚サン☆なんだろ?おまけに絶倫だしー」 クツクツ笑って、左手で彼女の両手を拘束し、右手でパジャマのボタンを外す。 「んもう、ムードがなさす……ぎ、っん……」 のだめの文句は千秋によってもたらされる快楽の波に打ち消され。 二人は白いシーツの海に沈みこんだ。 素肌に伝わる唇は、まるで乾いた地面を潤す優しい雨のようで。 その感触にうっとりしていると、身体のそこここに触れる指に翻弄され。 そして、熱を帯びたその黒い瞳に見つめられたら、もう、どうしようもない。 それなのに。 身体の中で激しくリズムを打ち続ける彼を。恵、と優しく呼ぶ彼の声を。 感じていると「どうしようもない」上に、さらに真っ白になって。シーツを掴んで いた手を彼の首に絡める。 あとは、遠くの方から聴こえる自分の悲鳴に似た声。彼の吐息。 そして、――残るのは、心音。 色素の薄い濡れた瞳は、まるで誘っているようで。 それを受けて本能のままに唇と指で身体をなぞると、耳元でささやかれる甘い吐息。 そして身体の中の熱と振動を感じると、もう、どうしようもない。 それなのに。 しがみついてくる彼女の腕が。大好き、と言う彼女のかすれた声が。 さらに理性を飲み込んでいく。 あとは、遠くの方から聴こえる彼女の悲鳴に似た声。自分の吐息。 そして、――残るのは、心音。 二人は腕を絡めたまま、幸せな夢に落ちていった。 「こしょこしょこしょー」 「うわこらばかやめろってぶっわははは……クッこのやろ」 「あっそれ反則デスそんなギャハハもうダメ……んっ……」 せっかくの休暇だからと、朝寝坊を決め込んだ二人は、時計の針が十時半を指す までベッドの中で新婚サン☆ビームを撒き散らしていた。 バカップル二人を現実世界に呼び戻したのは、一本の電話であった。 RRRRR……と鳴る呼び出し音に、これからいいトコだったのに、と千秋は舌打ちしながら 受話器を取った。 「はい。もしもし?」 「おおー!千秋か?帰ってたんだな。俺だよ俺」 電話の主は、二人の大学時代からの友達、峰龍太郎だった。彼は今、R☆Sオケの事務所を 構え、その代表責任者になっている。 「おう。久しぶりだな」 「……なんか、機嫌悪いな?のだめもいるんだろ?あ、もしかして邪魔した?」 「イ、イヤ。それよりなんか用か?」 図星を指されてあせった千秋は、あわてて話題をずらす。 「んー、ちょっと仕事の話でよ。お前ら、昼空いてるか?」 「仕事って……今度の公演は12月だろ?打ち合わせは9月の半ばからで」 千秋とのだめは、休暇の後日本でR☆Sオケと競演することになっており、そのために 日本でバカンスを過ごす予定を立てたのだ。 「そーなんだけど。ま、詳しいことは裏軒で話すから。じゃ、待ってるぞ」 ガチャン、とこちらの返事も聞かずに一方的に電話を切ってしまった。 峰の奴、と千秋は内心面白くなかったが、仕事の話と言われて無視するわけにもいかない。 「誰からですか〜?」 「ん、峰。なんか仕事の話があるから来いって。裏軒行くから用意しろー」 でもなんで裏軒?事務所があるのに……と少し嫌な予感がした千秋だったが、 わほー裏軒〜♪と喜ぶのだめを見て、ま、いいか、と自分も出かける用意をする。 この新婚ボケが、あとで自分を地獄に突き落とすとも知らずに。 「ふわあ〜、なつかしいデスね」 かつて共に学んだ桃ヶ丘音楽大学の校門前にタクシーを停め、千秋とのだめはしばし その校舎を眺めた。今は夏休み中だが、それでもさまざまな楽器の音が聴こえる。 「変な学校だったけどな……」 過去のさまざまな出来事を思い出し微かに眉をひそめる千秋だったが、その表情は穏やかだ。 がんばれよ、と自分たちの後輩に当たる学生たちへ心の中でエールを送り、のだめに左手を 差し出す。 「そろそろ行くぞ」 二人手をつないで、秋の気配を感じさせる涼しい風の中を歩いた。 ガラガラと営業中の札が掛かった扉を開けると、中から「いらっしゃい!」と いう陽気な声が響いた。 「峰くんパパ〜!お久しぶりデス」 「のだめちゃん!?それに千秋先生も!」 「どうも」 のだめと裏軒のマスターが再会の喜びに盛り上がる横で、千秋は一言挨拶すると 学生時代の指定席だったテーブルに着く。 龍〜、千秋先生とのだめちゃん来たよ〜、とマスターは二階に向かって声を上げ、 「二人ともお昼まだでしょ?なんでも作るから言ってよ」 とにこにこ笑いながら言った。 「のだめ、マーボーにごはん!」 「俺はクラブハウスサンドとエスプレッソ」 はいよー、と厨房に入っていくマスターにお願いしマースと声をかけてから、のだめは 千秋の隣に腰掛けた。 すると、トントントン、と階段から下りてくる足音が聞こえ、奥から峰が顔を出した。 「おお、悪かったな呼び出して」 せっかくの新婚☆バカンス中に、とにやにやしながら千秋の前に座る。 「新婚、は余計だ!」 「いーじゃんほんとのことなんだしー、なぁのだめ?」 「しんいちくんは照れ屋サンなんですヨ。それより峰くん、清良サンは?」 千秋の反応を横目にプププ、と笑いながら、のだめは尋ねた。 「いま子供寝かしつけてるトコ。すぐ来るよ」 今や世界的に有名なヴァイオリニスト、三木清良。彼女は1年ほど前まで千秋たちと 同じようにヨーロッパを中心に活動をしていたが、妊娠が発覚し、結婚。 現在は子育てに専念して休業中である。この、峰の妻となった女性とのだめは、留学中に 千秋の紹介を通じて知り合い、以来仲のよい友達だ。 「そっか。沙良ちゃんもう5ヶ月でしたっけ?あとで会わせてクダサイね♪」 「おう、かわいいぞ〜」 デレデレと親バカぶりを発揮する峰に、お前に似なくてよかったよな、と憎まれ口をたたく 千秋だったが、その眼差しは暖かいものであった。 「で、話ってなんだ?」 「ん?ま、まぁ、先に飯でも食えよ。そのうち清良も来るから、話はそん時にでも」 少し焦り気味の峰にあやしい、と危険な香りを察知した千秋だが、ちょうど頼んだものが マスターによってテーブルに運ばれてきたので言葉に従うことにする。 千秋の心の中の不安が大きくなっていることをよそに、のだめは 「ムッキャーッ!!マーボー最高デス!!!」 はうはうと目の前の昼食に夢中になった。 「二人とも久しぶりね〜」 昼食を食べ終わり一息ついている二人に向かって、清良は鮮やかな笑顔を見せた。 沙良は?今よーやく眠ってくれたわ、という子持ちらしい会話を交わしつつ、 峰の隣に座る。 「ごめんね〜、結婚式に出られなくて」 「いいんですよーそんなこと。清良サンはママになるためにがんばってたんですカラ」 出産予定日に近かったため出席できなかったことを謝ると、のだめは今度写真でも見て くだサイね、と微笑む。 見る見る〜♪と盛り上がる女性陣の会話には加わらず、 「じゃ、話とやらを聞かせてもらおうか」 と千秋は言った。 「断るっっ!絶対に!断固として!断る!!!」 拳を握り締めて立ち上がり怒りをあらわにする千秋に、峰はなおも食い下がった。 「そんなこと言わずに〜。親友☆だろ、俺達」 峰の話というのは、テレビ出演の依頼だった。R☆Sオケは今や固定客が多数いる 人気の高いオーケストラであり、宣伝などしなくてもチケットはほぼ売り切れ状態。 しかし峰の野望はここで満足するものではなく、未だお堅いというイメージを 払拭できずにいる日本のクラシック界に旋風を巻き起こしたいと考えていた。 そこに友人である指揮者とピアニストの結婚というニュースが飛び込んできたのだ。 二人は日本でも有名であり、現実にそのニュースは世間を騒がせた。当然、すでに 出演が決まっていたR☆Sの事務所にも取材依頼が舞い込んでくる。これを使わない 手はない、と峰は頭の中で計画を練った。 その考えに反論はない、と千秋は思う。彼とて、日本でももう少し気軽にオケを楽しめる 雰囲気があればと考える一人である。そのための協力は惜しまないつもりだ。 しかし……。 「だからって何で『今夜は新婚さん』なんだ――っっっ!!!」 『今夜は新婚さん』というのは、有名人の新婚夫婦をゲストに迎えて、トークを繰り広げる 人気の番組である。 「だってお前らの結婚って、結構ビッグニュースだったしよぉ。俺あの番組好きなんだよ」 ざけんなー!!!と千秋は峰の襟元を掴んで強く揺する。 「お前らが出て宣伝すればいいじゃねーか!」 「俺らもう新婚じゃねーもん」 ハートはまだまだ新婚ラブだけど♪と言う峰に、千秋は鉄拳を食らわせた。 ひ、ひどい、と涙ぐむ峰を見下ろし、まだ怒り覚めやらぬ様子の千秋。 「だいたいなー!俺の事務所は――」 「エリーゼならO.Kくれたぞ」 出演料の3割入れるって言ったら「よろぴくー」って、と言って峰は不敵の笑みを 見せる。千秋は脱力した。 ――エリーゼェェ!あの女自分のバカンスのために、この金フトコロにしまい込む つもりだなぁっ!! ブルブルと打ち震える千秋は、ゆっくりと清良の方に顔を向けた。 「……清良、お前はどう思ってんだ?」 そのオーラに、かつての鬼千秋を思い出した清良は後ずさりながらも。 「わ、私が龍のやるコトに反対するわけないじゃな〜い♪今度の公演は 私の復帰戦でもあるんだしぃ……」 そう、清良は長かった休業期間を、今回の公演で終わらせる予定である。 盛り上げていきましょうよ〜と言う清良を前にして、千秋は改めてこの二人が 夫婦だということを思い知らされた。 「……とにかく、この話は無しだ。行くぞ恵!」 いままでの会話の中で、ただオロオロしていたのだめの腕を掴み、足早に外へ 出ようとする千秋。彼の前に立ちはだかったのは、峰パパであった。 「せんせぇ〜、……食い逃げですか」 キラリと光る包丁に、千秋は最後の頼みの綱とのだめに尋ねる。 「……お前は、どう思うんだ?」 「え、えと。のだめは別にかまわない、ていうか〜、むしろ出たい、みたいな♪」 がっくりと肩を落とす千秋であった。 えへ〜、『新婚さん』に出るの夢だったんデスと言うのだめと。 楽しみね〜とにやりとする清良。 お土産持ってってよといきなり上機嫌になる裏軒おやじに。 んじゃ、事前に連絡行くと思うけどよろしくと肩を叩く峰。 ――何故、こんなことに!!! この四人に囲まれて、激しくブルーになる千秋がいた。 その時、上の階から赤ん坊の泣き声が聞こえ、「あ、いけない」と清良があわてて 2階に駆け上がっていった。 「あ、そだ!帰る前に沙良ちゃんに挨拶しなきゃ」 のだめが言うと、清良が赤ちゃんを抱いて下りてきた。母親のぬくもりに安心したのか 目じりに涙をためながらもニコニコと微笑んでいる。 「ほわぁ、かわいいデスね〜」 「だろ〜?」 ウチの娘は世界一、と峰は満足げにうなずく。 抱っこしてみる?と言う清良に、いいんですか〜?とのだめはおずおず赤ちゃんに 向かって手を伸ばした。初めはキョトン、としていた沙良だったが 「のだめデスよ〜。よろしくね♪」 と笑いかけると、しっかりとしがみついて 笑い声を上げる。そんなのだめの様子をまだショックの抜けきらない顔で見つめていた 千秋だったが、赤ちゃんとのだめという構図になんとなく気恥ずかしくなり。 「この場にいる人間で心が黒くないのは、俺とお前だけだな」 沙良を覗き込むようにして言った。そして何の気なしに、ふわふわのほっぺたに 軽くキスを送る。千秋のこの行動に、一人固まった男がいたことを誰も気づくことは なかった。そして千秋とのだめは自分たちの家に帰っていった。 ――千秋真一、許すまじ。 沙良のファーストキスを奪いやがってぇぇぇ!!!俺でさえまだしたことなかったのにっ! 怒りの炎を燃やしながら、紙に向かってなにやら書いている峰の様子に清良はただならぬもの を感じたが、触らぬ神に祟り無しと知らぬ振りを決め込んだ。 峰は出来上がったものを、不気味な笑い声を挙げる中メールやファックスで知人に送りつけた。 通知 この度、今月15日放送の『今夜は新婚さん』にて千秋夫妻出演決定。 千秋に恨みを持つ者、からかいたい者、その他なんでもO.K 番組の「視聴者からの質問」コーナーにキミの気持ちをぶつけよう! ユーモアあふれるダークな質問、待ってるゼ。 峰☆ 送り先は、そのほとんどが千秋とのだめも面識のある音楽仲間だったため、本気で 千秋を敵視する人間はいなかった。だが、こんな面白いことを見逃す人間もまた、 一人もいなかったのである。 「へっくしゅっ」 背中に悪寒を感じた千秋は、傍らにあるぬくもりを引き寄せて、再び眠りについた。 運命の15日は、あっという間にやってきた。事前の打ち合わせでは、学生時代の ことや、留学中、そしてヨーロッパでの活動を中心とするエピソードについて、 司会者と対話形式で話をして欲しいということだったので、普段から受けている インタビューとそれほど変わらない。念のため番組を一度見てみたが、バーカウンター 風のセットの中で、司会者である女優と気軽に酒を飲みながら語り合うという、ごく 普通の内容だったため、千秋は少し安心していた。 ――生放送ってところがひっかかるけど……。 ピアノの演奏も頼まれていたので、モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ」を 数回合わせて、二人はテレビ局入りした。 一方その頃。裏軒の2階では……。 部屋の掃除をしていた清良は、ファックスの横に丸められた一枚の紙を発見した。 「なに、コレ?」 愛娘のかわいい寝顔にデレデレしながら見入っていた峰に問い詰める。 「あっ!それは……」 清良の手にある紙の、通知……と書かれた文字を見て、峰は青ざめる。 「龍、あんた千秋君に恨みでもあるワケ?」 「だってよー……」 と峰は目をそらしながら事の顛末を妻に話し始めた。 ――沙良のファーストキスは、ヴァージンロードまで取っておきたかったんだ。 花嫁の父として赤い絨毯の上を娘と腕を組んで歩き、にっくき男の前で 最初で最後のキスを「幸せになれよ……」という言葉とともに……。 気の早すぎる妄想により、峰の頬には涙が伝っている。 「そんな俺の願望を、千秋の奴――」 「っかっわいい〜!!」 言葉を最後まで聞かずに、清良は夫に抱きついた。 「なんで早く言わないのよ〜。こんな面白そうなこと!」」 私にもいろいろネタはあるんだから、と言う清良に、さすが俺の真っ赤なルビーだと 峰は惚れ直すのであった。 「筒井かをりサン、すっごいキレイでしたね〜」 さすが女優さんデス、とのだめは興奮気味に話す。先ほどプロデューサーの人によって 千秋とのだめは番組の司会者である筒井かをりと引き会わされ、挨拶を済ませた。 彼女は気さくな感じで 「今日はよろしくね。私こういう口調で馴れ馴れしく感じるかもしれないけど、気にしないで」 と笑った。よろしくおねがいしますと頭を下げると、「気楽にいきまショー」と手を振って 自分の控え室に戻っていく。少し変わった人だな、という印象を千秋は持った。 「お前、ピアノしくじんなよ?」 「しんいちくんこそ、久々のピアノで恥かかないでくだサイね」 二人が軽口をたたいていると、ドアのノックとともに「そろそろお願いします」という声が かかった。 皆さんこんばんは〜。『今夜は新婚さん』の時間です。司会はいつもと同じく、私筒井かをり。 今日のゲストは、今のクラシック界を担う若手指揮者の千秋真一さんと、その奥様でピアニストの 恵さん。私も一度お二人の演奏を聴きにいったことがあるんだけど、とっても素敵な音楽だったわ。 なんていうのかしらー、ほら、スウィートでムンムン?思わず頬を染めちゃったくらいよ。 そんな音楽を紡ぎだすお二人から、今夜はどんな話が聞けるのか、私も楽しみだわ。 あ、こちらに来て座って。 独特の語尾をのばす口調でおなじみの番組挨拶を終えた筒井かをりは、セットのソデから 顔を出した千秋とのだめをカウンターの椅子に座るよう促す。並んで腰掛けた二人の前に カクテルが置かれて、打ち合わせどおりにトークが始まった。 「二人は、大学で知り合ったのよね?」 「ええ。彼女は同じピアノ科の後輩で」 「ピアノ科?千秋君は指揮科じゃなかったの?」 「あー、指揮の勉強は独学で、大学ではピアノを練習したかったので」 「すごく上手なんデスよ〜指揮者希望のくせに。嫌味な男デスよね〜」 「へえ〜。それで、二人の出会いは?」 「う、部屋が同じアパートの隣同士で。その時たまたま……」 「酔っ払ってウチの部屋の前に――」 「(ゴスッ)ま、まあ顔を合わせたんですよ!」 「じゃ、その時にお互い一目ボレってワケ?」 「まさか!第一印象は最悪でしたよ。その時に見たコイツの部屋のありさまは――」 「(ムギュッ)し、しんいちくんは照れ屋サンなんですヨ!え、えとその後二人で 連弾やることになってー」 「ぷっ。面白いわね〜二人とも。カウンターの下で攻防戦?とにかく音から二人の 関係は始まったってことでいいのかしら?」 「……まあ、彼女のピアノを聴いたときは、すごく面白い演奏をするなーと」 「恵ちゃんの演奏に惚れ込んだ、と」 「……ええ、まあ」 「のだ、私は連弾の時からフォーリンラブ♪だったんですケド。長いこと片思い だったんデスよー」 「そうなの?その割にはずいぶん仲良く学生生活を送ってたみたいだけど。ご飯 作って一緒に食べたり……」 「ど、どこからそんな情報をっ!?……そのマル秘☆メモってなんですか!?」 「ま、いいからいいから♪」 「それでは、CMのあとでお二人に思い出の連弾の曲を弾いてもらいましょー」 あの後のトークでも千秋とのだめの二人はお互いに墓穴を掘りながら、普段のインタビューでは 絶対に見せない素顔をさらけ出していた。その要因のひとつは筒井の手にするマル秘☆メモ だったが……。 「アレ、絶対に峰の策略だよな……?」 あの野郎!と千秋は恥ずかしさに赤くなりながら握りこぶしを震わせる。 「お前もっ!もっとまともな会話をしろ!」 「しんいちくんこそ、余計なことは言わないでクダサイよっ!」 二人顔を合わせると、はあぁ、とため息をついた。 そう、この二人がいつも言わないようなことまで話してしまうのは……。 ――筒井かをり、侮り難し。 彼女の持つ独特な雰囲気の魔力であった。 二人の演奏が終わって、もう一度CMをはさんだ後、トークが再開された。 「で、二人の夢だったピアノコンチェルトを成功させたあと、すぐに結婚したワケよね?」 「まあ、そうです」 「その頃はもうお互いに名の知れた音楽家だったわけだし、生活もすれ違いが多かった でしょー?そこらへんの葛藤はなかったの?」 「なかった、と言えば嘘になりますけど……。すれ違いが多い分、一緒にいられる時間を 大切にしたかったし」 「音楽と家庭、両方のパートナーになれば、お互いもっとがんばれると思ったんデスよ〜」 二人はいつになく饒舌であった。筒井マジックにまんまと乗せられた上に、番組の前半で さらした恥にヤケになって出されたカクテルをぐいぐいと空けてしまい、その酔いがまわって きたのである。 その様子に初めはハラハラしていた番組プロデューサーであったが、結構面白かったので そのまま筒井かをりにまかせることにした。 「それで、プロポーズの言葉は〜?」 「……そんなことこの場で言えるわけないでしょう!」 「も〜、しんいちくんたらいいじゃないデスかこの際白状しちゃっても〜」 「お、お前酔って……!?」 「なになに?すんごいロマンチックなのを期待してるんだけど」 「それが聞いてくだサイよ〜かをりサン。たった一言『結婚してやる』デスよ。 ムードのかけらもないったら黒王子のくせに〜」 言うなーっ!という千秋の叫びとあははははっというかをりの笑い声がこだまする。 ここまでくるともう、いつもの夫婦漫才でしかなかった。 「ぷくくっ。さて、二人の楽しいお話をもっと聞いていたいけれど、ここでビデオレター を紹介するわね。びっくりするわよ〜」 その言葉にえっ?そんなの聞いてない、と二人があわてて目の前に置かれたモニターに 目を向けると、よく知っている男が映し出された。 「あ、ミルヒー」 つぶやくのだめの横で、顔色を失くす千秋。ビデオレターの主は、フランツ・フォン・ シュトレーゼマンその人であった。 やあ、チアキ、のだめちゃん。ミルヒーデス。こんな楽しい企画を私に知らせてくれナイ なんて、ヒドイですネ。デモ私の情報網をあなどってはイケマセンヨ。ムフフ♪ 最近、のだめちゃんが色っぽくなってきたナー、と思っていタラ、結婚だもン。 ミルヒーはビックリですヨ。ヤルね〜チアキ。こんど会ったらいぢめマス。覚悟してネ。 のだめちゃんも、そんな無愛想なオトコほうっておいて、私ともっと楽しい時間を 過ごしまショウ。のだめちゃんの胸をチアキに独占させておくのはもったいない ですからネ。私がイロイロ教えてあげマス。それじゃあ、またネ♪ あなたのミルヒーより。 「この、エロジジイーッ!!!」 「ムキャー!セクハラデスッッ!!!」 顔を真っ赤にさせて絶叫する二人に、筒井かをりの爆笑はとまらない。 しばらく笑い続けた彼女だったが、次のコーナーへと指示が書かれたカンペを見ると、 番組をまとめにかかった。このあたりはさすが女優、である。 「えー、では時間も迫ってきたので、最後のコーナーに。二人は3月にR☆Sオケで 演奏する予定なのよね?」 「あ、ハイそうです」 「その予定デス」 ミルヒーのビデオレターにすっかり逆上していた千秋とのだめは、我に返って うつむきながら頷いた。 「がんばってね。私もぜひ聴きに行くわ」 ニッコリと笑ってから、かをりはカメラ目線になっていつもの台詞を続けた。 「さて、そんな今日のゲストのお二人に、視聴者の方からのメッセージを届けます。 質問・疑問、なんでもO.K.画面に映っている番号まで、どしどしファックスで 送ってね」 いったんCMが入り、千秋とのだめは脱力した。次々と送られてくるメッセージに 書かれた内容を想像する気力も、もはやなかった。 「たくさんのメッセージ、ありがとうございました。時間も少なくなってきたので、 ここで締め切らせてくださいね〜」 CMが終わり、筒井かをりのアップから番組は再開。その手にはすでに幾人かの悪意ある 質問が握られていた。 「それでは、紹介していきます。二人とも、いいかしら?」 「……はい」 どうぞもうお好きにしてください、と言わんばかりの気の抜けた返事をする千秋とのだめ。 「まず、ペンネーム『死んじゃえ委員会』さんからのメッセージ」 愛しの千秋様。あたしはいつも陰ながら貴方のことを応援している、キュートな女の子♪ あたしの王子様だった貴方が、まさかあのひょっとこ馬鹿娘とケッコンするなんて!!! そうよ。これは夢。悪い夢に決まってるわ。貴方があたしよりあんなメクソを選ぶなんて。 それとも、やっぱりDカップが決め手だったの?答えて千秋様! のだめ、あんた調子にのるんじゃないわよ?覚えてらっしゃい!!! 読み上げるかをりの声が震えている。それでもこらえ切れない笑い声がところどころに 漏れるのであった。 「ぶっ、ず、ずいぶん具体的な内よ……くくっ、の質問だけどっ、知り合い?」 もう耐えられない、とお腹を抱えて苦しそうにしている筒井かをり。 「……ええ、音楽仲間です」 「しかも、男デスヨ」 一見、冷静に答えているかのように見える二人の後ろには、静かな怒りの炎が 燃えていた。 「おいモジャモジャ、いっぺん死ね」 「という、千秋君からの回答でした〜」 「さて次は、P.N.『花言葉は清らかな愛』さんからのメッセージ」 カウンターに寄りかかるようにして頭を抱える千秋とのだめを無視して、筒井かをりはなおも ノリノリである。 やあ、千秋君、恵ちゃん。君たちがこの番組に出るなんて驚いたけど、恵ちゃんの元気な姿を 見ることが出来て嬉しいよ。 それにしても千秋君。君がさんざん「変態」だの「地球外生物」だのと言っていた恵ちゃんと 結婚するなんて……。あの言葉は僕を気遣うものだったんじゃなくて、ライバルを蹴散らす 君の策だったというワケか。……人間不信に陥りそうだよ。 ところで、この間君の楽屋を訪ねた時のことなんだけど。ノックしても返事がないし、でも 中からは微かに泣き声のようなものが聞こえてきたからそっとドアを開けて覗いてみたんだ。 そしたら……、僕はこの世で一番見たくないものを見てしまったよ。 もう二度とこんなことは御免なんだ。千秋君、僕はああいった場面でどういう対応をすれば いいのかな。教えてくれないか? なぜか赤面するのだめの横で、うつむいたままの千秋は押し殺したような声で言葉を発した。 「正直すまなかった。でもお前までこんなものよこすなんて俺はショックだよ。そーいう時 はな黒木!ドアを閉めて何事もなかったように立ち去ってくれ頼むから!!!」 「ということです。『花言葉は清らかな愛』さん、わかりましたか〜?」 教育おねえさんのようなにこやかな顔をカメラに向けた後、かをりはクルリと振り返り、 真剣な面持ちで千秋の肩を掴む。 「で、彼が見たものって何なのかおねーさんツッコンでもい〜い?」 「……次、いってください」 ケチーと残念そうな顔を一瞬見せたあと、彼女は手元の紙に目を移した。 「えーと、『飲むチーズケーキ』さんからの質問です」 千秋君。僕の忠告に反しての君のヨーロッパでの活躍、はっきり言って面白くないんだけ ど、まだまだヒヨッコの君が結婚だなんて、笑えるね。あははははははは。 まーせいぜいガンバッテね。君たちの結婚の失敗を祈る! 恵ちゃん。君とのコンチェルトはとても楽しかったよ。どうやら僕らは相性がいいみたい だね。今の生活に嫌気が差したら、僕のところにおいで。遊んであげるから。 ところで、君の首筋になんだか赤くなってる部分があるんだけど、蚊にでも刺されたのか な?ずいぶん大きな。今度その蚊をツブしに行ってあげるから、それまでにお願いして おいたほうがいいんじゃない? 「あんまりわかりやすいトコロを刺さないで」って。 今度は逆に、なぜか赤面する千秋の横で、のだめがあわてて首の方に手をやり。 「そーなんデスヨもうものすごくおっきな蚊に刺されちゃってもーカユくてカユくて。 ……蚊にはよく言い聞かせておきますカラ!!!」 「……若いっていいわね〜♪」 かをりの含み笑いで、またもや墓穴を掘ってしまったことを知るのだめであった。 「さくさくいきまショー。次は、『マーラー大好き』さんからの質問ですよ」 千秋くん、のだめちゃん、お疲れサマ☆ なかなか楽しいトークだったわよ〜。さらなる 盛り上がりに期待して、私からのとっておきな質問、届けるわ♪ 2年くらい前、千秋くんと競演したときのことなんだけど。その時のリハで、千秋くん遅 れてきたじゃない?何かあったのかしら、てずっと気になってたんだけど……。そうい えばあの時、前の休憩でフルートとコンバスのグラマーなおネエさんから質問受けてたっ け。で、その後トイレのほうに……って、あっ!!もしかして大人の、いえオトコの 事情ってヤツかしら!? あのツアー長かったし、その時のだめちゃんアメリカだったもんね。そりゃあ、ねぇ? 大変ねぇ、千秋くん。うぷぷ。 清良! お前もかーっ、と千秋はカメラに向かって声を荒げる。 「アレはほんとに打ち合わせが長引いただけなんだよっっ!!!」 ほんとデスか〜、と疑いの眼差しを向けるのだめに一撃食らわせて、千秋は続けた。 「峰だってな、絶対お前がいないときにやってんだよ! タンスの2段目の奥見てみろ!」 そこは峰のマル秘☆ビデオコレクションの隠し場所である。 「千秋くん、せめて恵ちゃんをオカズにして――」 「次!次いってください!!!」 次々に読まれる質問やメッセージは、すべて二人がよく知る音楽関係者からのものであっ た。もはやまともな内容ではないそれに真剣に回答する気力もなく、千秋とのだめはただ 黙々と目の前に空のカクテルグラスを積み上げていく。 「もー、もっとテンションあげて〜。次で最後なんだから〜」 最後、というかをりの言葉に二人はほっとしたように顔をあげた。しかし、最後に残され た紙に書かれたペンネームが読み上げられると、表情が一気に曇っていく。 「それでは、最後のメッセージです。『一番星☆がライジング』さんから」 よう千秋。いい気味だったぜ。俺のかわいい沙良からファーストキスを奪った報いだ! アレはいくら親友☆でも許せねぇ。ちったあ思い知ったか!? まぁでもこれで痛み分けってことで許してやるゼ。俺は心の広い男だからよ。 しかし、お前らもうちょっと番組の趣旨を理解しろよ。『新婚さん』だぜ?なんつーか こうもっと甘々な雰囲気をお茶の間に届けようっていうココロイキを見せてくれ! R☆Sの盛り上がりもかかってるんだから、ガツンと一発頼むぜセンセー!!! 瞬間、千秋の中で何かがぷちんとキレた。 のだめの腕を取り立ち上がらせ、顎に手を掛けるとそのまま強引に唇を合わせた。 スタジオの人間全員が、目の前で展開する熱いキスシーンに固まったが、その一瞬の 緊張も筒井かをりの大爆笑によって解かれる。 「これで満足か峰―っっ!!!」という千秋の絶叫と、のだめの「アヘ〜」という 声をバックに、番組の終了を告げる音楽がテレビに流れ始めた。 「あははっ。面白くてアッツアツのお二人でしたね〜。私も音楽家へのイメージが変わっ たわ。それでは皆さん、また来週〜」 こうして、二人の受難の一日は終わりを告げた。3月の公演は峰の野望どおり大盛況で、 ファンからの熱烈な要望により、記録的なロング・ランとなった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |