unconditional love
千秋真一×野田恵


「今日は外で待ち合わせして、レストランで食事しましょう!」

のだめが今日はどうしても、と言うのでそのつもりでいたものの、千秋はその約束を果たせなかった。
ウィルトールオーケストラと次回のコンサートのリハーサルをした後、エリーゼとの打ち合わせが急遽入ったのだった。
しかも、二つも。
幸い、待ち合わせをしていた店はわかっていたので遅れる旨は連絡できたが、その後のフォローは出来ず、結局の所待ち合わせ場所に着いたのは待ち合わせ時間を3時間も過ぎた頃だった。
やっぱり、怒ってるよな。
さすがの千秋もバツの悪い思いで、レストランを後にした。


アパルトマンの部屋の明かりを確認して、千秋はほっとした。
先ほどから電話をしていたのだが、のだめはいるのかいないのか、電話には出なかったから。
ドアを開け、小さく名前を呼んでみる。
返事はなく、代わりに静かな寝息が聞こえてきた。

寝てるのか……。

静かにドアを閉めてベッドに近づき、のだめの顔を覗き込む。
薄くメイクが施された顔で、静かに眠っている。
長い睫は軽くカールされていて、ピンクゴールドのアイシャドウが瞼にきらきらと光っている。
淡いチェリーレッドのグロスがのせられた唇は、ふっくらと艶やかだった。
一度、このグロスが似合ってると褒めたら、すごく嬉しそうにしてたっけ……。
それからずっとこれ使ってるよな、こいつ。
単純なヤツ。
千秋はその唇に軽く触れるだけのキスをして、「今日はゴメン」とつぶやいた。

「……ん……ぁ……せんぱい…………?」
「起こした?」
「んん……」

体を起こしながら、眠そうな目を擦ろうとするのだめの手を、千秋は掴んだ。

「あ、こするなよ。化粧が落ちる」

のだめは目をしぱしぱさせ、やっと焦点のあった目で千秋と視線を交わした。

「おかえりなさーい……遅かったですねー」
「…今日は悪かったな」
「いいんです。次の客演の打ち合わせだったんでしょ?仕方ないですヨー、それなら」
「今度、埋め合わせするよ。なんなら、明日でも……」

途端、のだめはあはは、と笑いはじめた。

「やっぱり先輩忘れてるー!あはは……明日じゃ、意味無いんですよ」
「……?」
「誕生日」
「え?」
「今日は、真一くんの誕生日ですヨ」

……忘れてた。

「それで『今日は絶対』って言ってたのか」
「そーですよ。おしゃれして、待ってたんです。ほら、見て見て!」

のだめはベッドから抜け出し、千秋の前でくるりとターンをして見せた。
フレンチスリーブ、ハイネックのクリーム色のニットに、ローウエスト、セミタイトのラップスカート。

「めずらしいな、ワンピースじゃないの……いいんじゃない、たまには」
「えへへ」

嬉しそうにのだめは笑って、千秋の隣に腰掛けた。
そして、サイドテーブルの自分のバッグの中から一つの包みを取り出す。

「プレゼントです。24歳、おめでとうございマス、真一くん♪」
「……サンキュ」

千秋は頬へのキスと共にたばこの箱ほどの大きさのプレゼントを受け取り、青いシルクのリボンをほどいた。
包みの中のシックなケースを開けると、中にあった物は……

「カフスか」

シルバーの、シンプルなカフリンクスだった。表面は鏡面仕上げになっていて、光をきらきらと反射する。
燕尾の袖口からこれがのぞけば、さぞおしゃれにうつるだろう。

「へえ……のだめにしては気が利くな。いいチョイスだ。……ありがとう」
「それだったら、一緒にステージに立てるでしょ?」
「ん?」
「のだめはまだ、先輩と一緒のステージには立てないけど……それだったら先輩と一緒にステージの上にいられるから」

少しだけ寂しそうに、のだめは微笑んだ。

のだめはまだ無名の、ただの学生。
既にデビューをすませ、各方面に名を轟かせはじめた千秋とは世間的な格はまるで違う。
それが今の二人の現実。
カフリンクスを裏返すと、小さくイニシャルが彫られている。
一つには『M to S』。もう片方には『LOVE』。

「のだめ、ピアノいっぱい頑張りますから、それまでそれで我慢しててください」
「うん……」

そのいじらしさが可愛くて可愛くて、静かに顔を近づけ千秋はのだめに唇を重ねた。
やさしく、やさしく、ゆっくりと。
そのキスは、官能を引き出す濃密なものではなく、慈しむような、あくまでも優しいキスだった。

……時々思う。
むしろ焦っているのは自分の方なのではないかと。
自分が優位に立っているつもりで、いつも出し抜かれているのは自分のような気がする。
いつもしっかり腕を広げてのだめを受け止める気持ちでいるのに、いつかそれを越えて旅立ってしまうのではないか。
……そんな不安に駆られる事がある。

一人の音楽家として、のだめを尊敬している。
類い希な表現力と表情豊かで色彩感のある音色は、ほかの誰にも真似の出来ない、のだめだけ、ただ一人のもの。
それは、音楽家としての、指揮者としての自分を十分に感嘆で満たしてくれる。
そしてまた、一人の女として自分の心を甘く満たしてくれる存在でもあり……
だからこそ、そんなのだめを愛した。
音楽が自分たちを繋げているのは分かり切った事で、覆しようがない。
けれど、それがいつか自分たちを分かつ理由となってしまったら……。

「焦らなくていいよ……いつまででも待つつもりだから……」

『焦らなくていい』……自分に言い聞かせるように、千秋は言葉にした。

「……はい」

はにかむように笑うのだめに、千秋はもう一度口づけた。
音楽が、自分たちを隔てることなくより強く結びつけてくれたらいい。
そうであると信じたい。

「綺麗だな、今日」

少し乱れた栗色の髪を優しく梳きながら、千秋はのだめを見つめる。

「ほんとですか?……先輩がそんな事言うなんて、明日絶対雪デスね!」
「ほんとだよ。連れて歩きたいな。……見せびらかしたい」

信じられないような千秋の言葉に、熱い視線に絡め取られて、のだめは身動きできない。
火が出るほど顔が紅くなって、何も言えなくなる。
千秋は腕時計をちらと見やり、立ち上がった。

「まだやってる店あるから、出かけよう」
「えっ、これからですか?」
「まだ10時だぞ。それに、俺、何も食ってない……」
「……のだめもデス」
「決まり。じゃ、支度しろー」
「はーい」

のだめは鏡の前に立つと、髪をブラシで梳かし、もう一度グロスを塗りなおした。
ロングブーツを履き、ソファにかけてあったアンサンブルのカーディガンとコートを身に着ける。
その様を、千秋は目を細めて見つめていた。
籠の中に入れて閉じ込めておけるような女じゃないのはわかってる。
首に縄つけておこうなんて気も、さらさらない。
ただ……。
ただ、この先ずっと自分の隣にのだめがいてくれればいい。
大きく羽ばたいていっても、その羽を休めるのは自分の隣であって欲しい。
そのためのベッドは用意しておくつもりだから…。

「何見てんですかー?…のだめ、変ですか?」

姿見の前で、くるりとまわり、後ろをチェックしている。

「変じゃないよ。……かわいい」
「かっ、かわいい〜〜?!?!」

むふぉーー!と奇声を発しながら赤面するのだめに、千秋自身もまた思わず口をついて出た言葉に我に返り、赤くなった。

「あー、えっと、…だから早くしろよ」

脈絡の無い言葉で取り繕ってのだめに背を向けると、玄関ドアを開けて外へ出た。
のだめは千秋を追いかけ、腕を絡ませて千秋の顔を覗き込む。

「今日の先輩、なーんか変ですネ」
「何がだよ」
「綺麗、だとか、かわいい、とか…」

訝しげに眉根を寄せ、唇を尖らせてのだめはまじまじと千秋の顔を見つめる。

「…人がせっかく褒めてやってんだ。ありがたく思えよ。滅多に無いんだからな!!」

ぶっきらぼうにそう言って、千秋はドアに鍵をかけた。

「……もしや……浮気しましたか?」
「はあ?!…何でそうなるんだ!!」
「恋人が急に優しくなったら、浮気したサインなんですよ…」
「……俺が浮気するような男だと思ってんのか、おまえ…」
「…別にしたっていいですヨ」
「え?!」

のだめの意外な言葉に驚いて、自分の腕にぶら下がるようにして隣を歩くのだめの顔を見下ろす。
街灯に照らされ、深い陰影を落としているその顔はまじめそのもので、前をじっと見据えていた。

「のだめ、先輩が別れたいって言っても別れませんし。誘惑してくる女がいたら殺しマス!!」
「ふーん。怖いな…」

「先輩がどこへ逃げようと、追っかけますから」

━━━━ばーか。追っかけてんのは、もう俺の方だ。

「ほんとですよ。どこへでも。どこまででも」

━━━━じゃあ、ずっと俺と一緒にいてくれ。

…そう言いかけて、千秋は言葉を飲み込んだ。

そして、そのかわりにのだめの唇へキスを落とす。
ふわん、と柔らかくのだめは微笑んで、甘えるように体を千秋に摺り寄せた。
ずっと一緒にいたいと願う思いはきっと二人とも同じものに違いなくて、でも、それを素直に言葉に出来できない千秋と、さらりと言ってのけてしまうのだめ。

「死ぬまで一緒ですからね、真一くん」

だから、千秋はこんなにもその一言に救われる。

熱い何かに胸をいっぱいにさせられて、千秋はやはり、言葉のかわりにのだめの小さな体を抱き寄せた。

「腹減ったー……」
「のだめも……」

しんしんと冷え込むパリの街に、二人並び、寄り添い、溶けていった。

空腹をいっぱいに満たして、二人は川沿いを歩きながら、酔った体を冷ます。
2月のパリの空気はまだ冷たかったけれど、それでも今日は割と暖かい。
ここは隠れたデートスポットのようになっていて、そこかしこで愛を囁き、寄り添う恋人たちの影が見える。

「あ、先輩、あそこ開いてマス!!」

石レンガの橋げたの脇にある木製のベンチに二人腰掛け、先ほど買ってきたテイクアウトのコーヒーをすする。

「『レストランで食事』って言うから、おまえが奢ってくれるのかと期待した俺がバカだったよ……」
「カフス代で使っちゃったんです……うきゅー、ゴメンナサイ」
「はいはい…ほら」

千秋はエスプレッソについてきたカレ・ド・ショコラをのだめに手渡した。

「だから、このコーヒーで勘弁してください」
「わかった……もういいよ」

のだめはショコラの包みを開け、二つに割ると、一つを自分の口へと放り込む。

「はい」
「ん」

もう片方は、千秋の口の中へと放り込んだ。

「綺麗デスね〜パリの街……」
「うん……」

ライティングされた世界遺産が川の向こう岸に見える。冬の澄んだ空気に煌めいて、それは夢のように美しい。
のだめは千秋の横にぴったりとくっついて、うっとりとその景色を見ている。

「なあ、のだめ」
「なんですか?」
「帰ったら、何かビアノ弾いて」
「いいですよー。リクエストは?もじゃもじゃ?」
「……それ以外で」

むきゃーー!とのだめは小さく叫んで、けち!!と言う声と共に千秋の頬に小さくキスをした。

「あのね、先輩。ピアノももちろん弾くんですけど……もう一つお楽しみがあるんデス」
「何……?」
「えっとね……」

のだめは千秋の手を取ると、スカートの上から自分の太股の上を這わせた。

「え?……何……?」
「わかりますか……?」
「……あ!」

太股の中間あたりにある布の重なった感触と、そこから上体へと伸びるバンド。

「こういうの好きでしょ、先輩……ぎゃはっ」

聞こえてたのか……。
先日、夜中にやっていた映画の中で、セクシーな女優がつけていたガーターベルト。

「いいなー、あれ……」と千秋が思わず言ってしまったのを、のだめはしっかりと聞いていたようだった。
「今日ののだめはセクシーですか?どうですかね?」
「……どうかな……つか、『ぎゃはっ』とか言ってたら台無しだよな」

ぎゃぼ……といいかけて、のだめは口をつぐむ。

「ちゃんとさっきみたいに褒めてくださいよ……意地悪」
「……じゃあ、こっち来て」

のだめに立つように促し、千秋は自分の片膝の上にのだめを座らせる。そして、ラップスカートを少しずつ開いた。
ストッキングに包まれた足が露わになり、千秋はスカートを押さえながら徐々にたくし上げる。

「や、やだ、先輩……こんなとこで……」
「……見るだけ……あ、黒」
「うもーー」

レースの縁取りが太股を飾り、夜目にも白い内股とのコントラストは千秋の感情を震わせるのに十分だった。
のだめがスカートをかき合わせるより早く、千秋は右手をその内股の間に滑り込ませた。

「ヤダ……ちょっと、先輩!」

温かく滑らかな肌に挟み込まれながら、ストッキングの縁のレースを指先でたどったり、はじいたりさせる。
のだめは左手でスカートの中で動く手を押さえようとするが、うまくいかない。右手は千秋の肩をしっかりと掴んでいた。
指の腹で押し込んだり、爪の先で軽くひっかいたりしながら、のだめの柔らかな部分を撫で回す。
のだめの吐息はあまやかな物になり、次第に膝が開いて、千秋はさらに奥へと指を進めた。
そして、レースの布地にたどり着く。

「やぁん……」

くすぐるように指を二、三度往復させると、くちゅり、と小さく音がする。

「のだめ、もう濡れてる……」

言わないで、とでも言いたげに、のだめはぶんぶんと首を横に振った。
その顔は林檎のように真っ赤で、瞳は潤み、もう官能を隠せない。
千秋はレースの上から強く指を押しつけては指を左右に震わせる。
指の強さと、レースのざらざらとした感触に包まれて、のだめの突起はぷっくりと膨らみを帯びてきた。

「せんぱ……や…だ……ぁん」

溢れる蜜はショーツを濡らすだけでなく、千秋の指までも濡らしていく。

「見るだけ、って……あぅ……言った、のに……」

ショーツの中に指を滑り込ませると、千秋の予想通りにそこは蜜で溢れかえっていた。
千秋の肩にもたれかかり、畳み掛けるような快感に体を縮こませているのだめを左手で抱きしめ、耳元でわざと低い声で囁く。

「のだめ、何考えてた……?ガーターベルトして、俺と食事して、その間いやらしい事考えてたんだろ……?」
「ちがっ……ああっ、違うもん……!」
「……あんまり声出すと、周りに気づかれるぞ……」

はっとして、のだめはぎゅっとつむっていた目を開けた。
ここは、外。冷たい風が髪を揺らす。
今、この近くに人の気配は感じないけれど、誰かに見られたら……。
蜜を含んだ襞を指先でねっとりとさすりあげ、敏感な突起には触れずに通り過ぎ、その上の薄い恥毛をわざとらしく撫る。
のだめは与えられる快楽に声を押し殺して、肩で息をし始めていた。

……正直なところ、ガーターベルトを身に付けた自分に対して、千秋が今夜激しく求めてくるだろう事は予想していた。
そう、期待もした。
けれど、こんな、外でこんなことをされてしまうなんて……。
頬を撫でる冷たい風。夜の外気の匂い。白く染まる吐息。
慣れないシチュエーションの中で、のだめはいつも以上に敏感に、その愛撫を感じ取ってしまう。

千秋の指はのだめの腰骨のあたりまで進み、両サイドのリボンをほどいた。
細いリボンをわざとゆっくりとひっぱる。
すると、ずる、ずるとのだめの足の付け根からはずれ、乱れたスカートの合わせからレーシーな黒いショーツが顔を出す。
その様を見て、のだめは観念したようにああ、と小さく吐息を漏らした。
濡れたショーツはコートのポケットにしまい、千秋は再び右手をのだめの足の付け根に差し入れた。
大きな手でのだめの小さなその部分を覆い、圧迫する。そして再び、指を動かしはじめた。
尖りきった突起を中心に指の腹で円を描く。時折押しつけては小刻みに震わせ、そしてまた蜜を塗りつけるように円を描く。
鋭い快楽に声を上げる事も出来ず、唇を噛んで我慢するのだめに、なおも囁く。

「ここ、いじられるの好きだろ……?」

指先を押し付けて包皮をむき、剥き出しの敏感な肉芽にたっぷりと蜜を塗りつけ、叩き込むようにはじく。
そして、指の間にはさんでゆっくりと上下にしごきあげた。
その途端、のだめは小さくあえぎ、ひくひくと腰を震わせた。

「……いっちゃった?……やらしいな……そんなに、ここいじられるのが好き?」

千秋は指を止めず、なおも執拗に肉芽に快楽を送り込む。

「いやっ……のだめ、ああん、そんなの、しりまセン……っ」

のだめは千秋の首に腕を回し、しがみついた。そして、千秋のコートの襟元に顔をうずめ、声を漏らすまいとしている。
千秋はそんなのだめにお構いなしに指を動かしつづけた。
熱く潤んだとろとろの入り口に中指と薬指をあてがい、幾重もの襞をくるくると撫でながら指を押し込んだ。

「あぁ…!!……ぁっ…あん…」

ゆっくりと出し入れをしながら、膣口をこねまわす。
溢れてとまらない蜜は千秋の指でかき混ぜられ、隠微な音となって湧き上がる。
それは静寂の野外に広く響き渡ってしまうのではないかと思うほど強くはっきりと耳に届いて、千秋さえも赤面させた。
既に、自分の欲望もごまかしがきかないほど固くなり始めている。

のだめが欲しい。
今、ここで、今、すぐにでも。

深く差し込まれた指はのだめの膣内の感じる部分を的確に捉え、器用な動きで押し込んだり、撫でたりを繰り返していた。
規則的に肩口でうめく声と同じリズムで、のだめの中は急速的に千秋の指を締め付け始める。

「俺の指をくわえ込んで…中がひくひくしてるぞ、のだめ……」
「だ…め……せんぱい…言っちゃ……ダメ…っ」

のだめは不意に顔をあげ、言葉を封じるかのように唇を千秋に押し付けた。
舌を勢いよく滑り込ませ、積極的に千秋の口腔を舐めまわす。舌を絡ませ、吸い、唾液を嚥下していく。
漏れ出ようとする吐息はその行き場を無くし、何度でものだめの鼻を甘く鳴らした。
その行為は千秋をさらに奮い立たせ、官能を引き出す。
唇を離すと、のだめは強く出し入れをし始めていた千秋の手を止めさせた。

「…入れて……!…お願い……真一くん…」

焦点の定まらない潤んだ瞳で見つめられ、薄がりに光る濡れた唇にそんな誘惑的な言葉を乗せられて、千秋は拒む理由が無い。

千秋はコートの前を開け、ベルトに手をかけた。
ジッパーをおろし、中から自身を取り出すと、押し込められていた欲望は跳ね上がって天を仰ぐ。
そして、ポケットから取り出したゴムを手早くつけた。
のだめは立ち上がり、スカートを大きく開いて千秋と向かい合うと、千秋の上にゆっくりと腰をおろしていく。

「はぁっ…ああ……」
「うっ……くっ……」

千秋の太い幹が入り込む、その圧倒的な圧迫感と痺れるような快感に、のだめは身震いし長い睫を小刻みに震わせた。

「……すげー…キツイ……」

のだめの容赦ない締め付けに、ぎりぎりのところで先に戦い始めたのは千秋のほうだった。
熱く、とろけそうな内壁がまとわり付き、ひねりあげられ、吸い込まれる。
あまりの気持ちよさに、突き上げ、擦り付けてしまいたいのに、ここが野外だということで強引な動きが取れない。
もどかしい動きは余計に官能を募らせていく。
また、のだめも強く脈打つ千秋が自分の中でびくびくと動く度、感じる部分を刺激され徐々に高みへと上らされていた。

「……せん、ぱい…どうしよう……」
「な…にが…?」
「外で…あっ、…して…るのに、すごく、気持ちいいんデス……どうしよう……」

お互いに少しずつ体を揺らしながら、共に登りつめようとしていく。

「のだめ…へんたい、なの……かな…あぁっ」

この状況に戸惑いながらもかわいらしく喘ぐのだめが愛しくて、丸いヒップに添えていた手にぐっと力がこもってしまう。

「大丈夫…俺も、一緒……変態だから…」

ぐりぐりと押し付けながら、千秋自身は腰を回すようにグラインドさせる。
もし、今、目の前を誰かが通りかかったら、近くに通行人がいたとしたら、上下前後にゆれる自分たちの影はとても不自然なものにうつるだろう。
コートで、スカートで肌が隠れていても、明らかにセックスしているものと取られるだろう。

でも、止められない……。

微かな背徳は、二人の快感をより強くさせて、いつもよりも早く、その頂上へと向かわせる。
差し込む街灯の明かりに照らされるお互いの顔を見つめあいながら、押し殺すように息を吐いてはキスを交わす。

「は…ああっ……真一くん…、真一くん、もぅ…だめぇ……」

悲鳴にも似た喘ぎを封じるように、千秋はのだめの唇を自分の唇で覆った。
のだめの体が大きく揺れたかと思うと、食いちぎられんばかりの締め付けがやってきて、千秋はそれに促されるままに白い欲望を暴発させた。


……それから、どうやって帰ってきたのかわからない。
転がるように部屋に入るなり、のだめを激しく求めたのだけはしっかりと覚えている。
キスをしながらコートを脱ぎ、ブーツがうまく脱げないのだめが転んだところで足首を掴んだ。
そのまま手元に引き寄せて、スカートをまくり上げ、ガーターベルトを身につけたその白い尻に舌を這わせた。
ショーツは脱がせてつけていないままで、左右に開くと滴るほどに蜜が溢れて、きらきらと光っていた。
こぼさぬように、その甘美な蜜を何度もすすり、舐め取った。
のだめは猫のように腰をしならせ、尻を高く上げて、自分を誘い込んだ。
望むまま、望まれるままにそこに自分を突き立て、強く、強く揺さぶった。

溶ける、と思った。
溶けてしまえばいいとも思った。
溶けて、一つになりたいと思った。

……こんなにも。
こんなにものだめを愛してる自分をどうにも出来ない。
のだめの望む事は何だってしてやりたいと思うのに、何一つできていやしない。
俺はのだめに、何をしてあげられる?

何度も名前を呼んで、何度でものだめを抱きしめ、千秋は眠りに落ちた。


頬を撫でる優しい感触に目を覚ますと、千秋はベッドの上でのだめの胸に抱かれていた。
ふんわりと暖かな眼差しで微笑まれて、何故だか心が落ち着いていくのを感じる。

「怖い夢でも見ましたか?……ずっと、のだめの名前呼んでましたよ、先輩」
「え……?」

千秋の黒い髪を梳き、形のいい鼻梁に唇を落とす。

「さ、もっと寝ましょ。のだめも、眠いデスよ…………」
「うん……」

千秋は素直に頷いて、のだめの暖かで柔らかい胸に頬をすり寄せた。真綿にくるまれるようなその感触は、千秋を眠りへと誘う。

「…ピアノ……のだめ、ピアノ、弾いて…………」
「わかってマスよー。……ふふ、甘えんぼですねー、真一くんは……」

ずっと、俺の隣で、ピアノを弾いて……
そう言いたくて、でもやっぱり言えなくて、千秋は深い深い眠りに落ちていった。






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