熱に効く薬
千秋真一×野田恵


「先輩、やっぱり熱がありますヨ……38度」

のだめが、俺にくわえさせた体温計の目盛りを読み取る。昔懐かしい、水銀式。
どうやら日本から持って来てたらしい。
いまどきデジタル体温計じゃねーのかよ、と毒づいてみたが、看病されている身では
いかんせん立場が弱い。

「俺、平熱低めだから…ちょっと熱出ただけでもツライいんだよな…」
「ダイジョブですよ。のだめが特製の雑炊、作ってあげますから。風邪に効くんデス」
「お前が……料理?よけい具合悪くなりそーだな…」
「そんな口きけるくらいなら、スグ治りますヨ。ちょっと待っててくださいねー」

そういって、のだめは寝室からぱたぱたと出ていった。
熱を出したのなんて久しぶりだ。
シュトレーゼマンの公演に付いて4か月回っていたとき、巨匠が風邪で倒れた。当時は
関係者の間でも風邪が流行っており、寝込んだスタッフもいたのだが、自分は大丈夫だった。
万一シュトレーゼマンが指揮できないときは、自分が振る。大きなチャンス。若手指揮者の
多くは、そういったチャンスを待ちながら、雑用や練習を重ねる。俺の場合も結局は、
正式デビューの前にそういう形でチャンスが巡って来たわけだが、そんなアクシデントを
待ちかまえていたわけではなくとも、やはり気を張っていたのだと言えるだろう。
それが、パリに戻ってきたら気が緩んでしまったようだ。
やはり、この変態女−−−のだめのそばにいられうから、だろうか。

……やばい、こんなこと考えてたら、また熱が上がる。

まだ、のだめが好きな自分というものに慣れない。
のだめがそばにいないと、会いたい、と思う。そばにいると、触れたい、と思う。
触れると、ひとつになりたいと思う。
そして、そう思う自分に驚き、あわてる。
いつもそうやって、ひとりで赤面してしまうのだ。
いつからだったのか、離れたくないと思ったのは。
のだめのピアノが聴けなくなるのが嫌だ−−−ただそれだけのために、のだめの実家へ
迎えに行った。それがいつの間にか、ピアノの音だけでなく、のだめ自身が、自分に
とってかけがえのないものになった。

……俺にとって、かけがえのないものって、音楽と……のだめ、か?

そんなことをつらつら考えていたら、のだめがトレイを持って入って来た。
…きっと俺いま、顔が赤いぞ。けど、まあ、熱のせいで赤いから、分からないか…。

「センパーイ、お待たせデース。野田家特製、ネギ味噌卵雑炊!静代(祖母)の自慢の
一品デスよ」
「へ、へえ、いい匂い……」
「静江はこれにイソギンチャクを入れるんデス」
「い……イソギンチャク!?食えンのか、そんなモン!?」
「福岡では食べるんですよー。のだめはあんまり好きじゃないですけど、静代の好物です」
「(やっぱり変態一家か…?)それ、おまえんちだけなんじゃねえの……?」
「ムキー、失礼ですねー、最近はあんまり見ませんけど、昔はフツーに魚屋にありましたよ!
これには入ってないんですから、いいから食べてくだサイ!」

ベッドに起き上がり、恐る恐るひとさじ、口にする。

「おいしい……」

でしょー、と喜ぶのだめ。無邪気な笑顔。

……ほんとは、キスしたいけど、風邪うつしちまうからな。今日は我慢、だ。

「はい、センパイ、くすり。ちゃんと飲んで、あったかくして、ゆっくり眠れば
明日には熱が下がってマスよ」

食べ終わると、水と薬がのったトレイが目の前に差し出された。母親みてーだな…
ちょっと苦笑い。ここは従っておくか。ありがたく、薬を飲み、メルシ、とつぶやく。
と。
いきなりのだめが、俺の唇に、キスを落とした。
ぽってりとした、柔らかな唇が、俺の唇をなぞる。ついばむように軽く、ごく軽く、
吸い付く。濃密なキス。
どのくらいの時間が経ったろう。おそらく、数十秒。
不意打ちのキスは、風邪で少々ぼうっとしていた俺の頭に、強烈な一撃となった。

「……うふ。お見舞いデス」
「……ばか、お前。風邪、うつるぞ。……せっかく俺が我慢してたのに」

だけど、こいつは笑うんだ。

「あれ?センパイ知ってるでしょ?のだめ、バカなんですヨ。風邪なんてひきません」

愛しい。

「じゃあのだめ帰りますから、ちゃんと寝てくださいね……ほへぇ!?」

俺は、立ち去ろうとしたのだめの腕をつかみ、強く引っ張った。
のだめは反動で俺の上に倒れ込んだので、それを抱き寄せる。

「帰るな」
「せ、センパイ?」
「………あのさ、汗かけば、すぐ熱下がるから……一番いいの、何か知ってる?」

…知りまセンよ、何か裏技があるんですカ?と、立ち上がろうともがくのだめの耳に、
軽くキスをしながら、囁いた。

「セックス」

唇をとらえた。

***

「シンイチくんの体、熱いデス……」

そう言うのだめの体も熱い。
お互いの体をまさぐるうちに、どれが自分の体で、どれがのだめの体なのか、
もう分からなくなってる。

「あ………」
「おまえのここの方が、熱いよ」

あたたかく湿ったその場所へ、そっと指を差し入れると、かんたんに吸い込まれた。
入れた指はそのままで、突起に触れると、中がピクンと反応するのがわかる。

「んっ……」
「…声、かわいい」
「……や………あ」

熱い、熱い吐息の下、途切れ途切れになりながら、のだめがささやいた。

「……先輩の、指って…いやらしい…」

のだめ、先輩の、ピアノを弾く指が、自分の体に触れてるって思うと、
それだけでなんか……ヘンなカンジになりマスよ…。そんなことを言う。

「…俺の指、そんなにいやらしい?」
「ハイ……ほかの人に見せたくないくらい」

指を止めずに、尋ねてみる。

「……ほかに俺のいやらしいところって、ある?」
「いやらしいっていうか、セクシーなところは……ん…目を閉じた表情とか…」
「目を?」
「ハイ…だからのだめ、キスの最中とか、あの……ときとか、途中でつい薄目あけて、
シンイチくんの顔見ちゃうんです……あ」

ーーーーーーえ。

「……あの、それ……すごく照れるんだけど…」
「あ、照れた表情もスキ…」
「……も、いい。黙れ」

俺は問答無用で唇をふさいた。

***

そろそろ、というところでのだめが尋ねてきた。

「……ほんとにダイジョブですか?疲れてませんカ?」

平気だよ、と答えようとして、ふと思い付きを口にしてみる。

「……そうだな…上になってくれる?」
「え…どうすればいいのか分からないデス」

のだめに自分の体を預け、抱きしめたまま横に転がって上下を入れ替えた。
上になったのだめは頼りなげな表情で、俺の目をのぞきこみながら、肘をついて
上半身を持ち上げる。
白い乳房が、俺の胸の上で存在を訴えている。両手で乳房をもみしだく。もう
さんざん味わった乳首を少し擦るだけで、のだめはまた敏感に反応して。
見上げると、ちょっと動くだけで、ぷるん、と揺れる胸、そして悩ましげに息を
吐きながら、眉をひそめる表情。……そそられる。

「この体勢、けっこう楽しいかも…」
「……のだめは恥ずかしいですヨ…ん」
「じゃあそのまま…ちょっと腰、浮かせて…」

俺は自分の下半身に手を添え、ちょうど俺の腰の上に座り込むような感じになっている、
のだめ自身にあてがった。

「ん……っ」

先刻の指と同様、いとも簡単にするりと入る。

「……やっぱ、中も、すげー熱い…」

ダメだ。やっぱり、このまま大人しくなんて終われっこない。

「汗、かかないと、な……」

のだめの背中に腕を回して抱きしめ、そのまま俺も起き上がり、つながったまま対面して
座る形になる。

「薄目、開けンなよ……」

***

「……悪かった。結局、風邪うつしちまったな…」

翌朝、俺は熱が下がったが、かわりにのだめが発熱してしまった。同じ、38度。
バカだから、という台詞に異様に説得力があったのに流された俺の負けか。
けれどのだめは案外元気そうで。

「うーん、のだめのは、風邪というよりは知恵熱じゃないかト……」
「知恵熱?」
「だって、上になっちゃったりとか、初めてのことイロイロしたから。先輩、
すごい技知ってるんですネー……ぶほっ!センパイ、ふきん投げ付けないでください〜!」

だから、照れた顔もスキだって言ってるのに〜。
俺は、赤面しているのを自覚しつつ、まだ何かつぶやいているのだめを尻目に、
部屋を出て行こうとした。
扉を閉める、その寸前。

「今日はここで寝てろ。……ピアノ弾いてやる。なにがいい?」
「ムキャー!じゃあ、ショパンお願いしマスー!」

やれやれ。いつも負けるのは、俺だ。






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