ambrosia
千秋真一×野田恵


「…先輩……のだめ、もうだめデス……」

千秋は、息も絶え絶えに身をよじって逃れようとするのだめの腕を捕えた。

「もう……許して……」
「ダーメ……もう一回……」

白い背中にキスの雨を降らせ、三度目をおねだりする。

「んもう……真一くんのばかあ……」
「のだめ……」
「やぁん……あっ……」

のだめ……

のだめ……


指先がシーツの隙間を泳ぐのに、求めた温もりに辿り着けない。

「ん〜〜……」

その苛立ちに瞼を開けると見慣れない天井が見えた。
そうだった……ここは旅先の滞在ホテル。
隣にのだめはいるはずもなく、千秋は独り目を覚ました。

「ん……」

ベッドの中で身じろぎすると、体の一部に圧迫感を感じる。

「ぉ……」

あんな夢を見たからだろうか。
ボクサーパンツの中で、自分自身が勃ち上がっているのがわかる。

……最近多いんだよな…朝勃ち。
そんなことを寝ぼけ頭でぼんやり考えながら、それが収まるのを待つ。
体を起こし、煙草に火を付けた。
やけにリアルな夢だった。…というよりも、演奏旅行に旅立つ前夜の出来事そのままだった。
長い旅行の後で数日間だけフランスへ戻り、再びこうやって別の土地へ来ている。
そのたった数日間の間で、二人は離れ離れの時間を取り戻すかのように求め合った。
…のだめとそういう仲になってからは、割とコンスタントに体を合わせている。
特にここ最近はのだめも行為を楽しみ、より深く悦びを感じるようになってきていて、以前より回数が増えた事は事実だ。

それまで、彩子と別れてからは3年近く御無沙汰していて、その間は処理しなければどうにも収まらない時にだけ自己処理してきた。
それは、男の生理として仕方のない事で、あくまでも、事務的に。
それだって回数が多かったわけじゃない。
時には音楽が精神の高ぶりを抑えてくれるとともに、体を浄化していってくれた。
彩子とのセックス…あるいはそれ以前の彼女とのセックスだって、目立って回数が多かったわけでもない。
セックスってこんなものなんだろう、と初めからさして感動もなかった。
相手によりもっと感じて欲しいという思いはあって、それなりに努力はしていたけれど、自分から一晩に何度も求める、なんて考えられないことだった。
だから、自分は淡白な方なんだと思っていた。
しかし、のだめの体は意外にも魅力的で、そばにいれば触れずにはいられず、触れれば求めずにはいられず、結果として何度でも……。
そういうサイクルの中で、一週間も離れていると体自体も寂しさを感じるのか、それは千秋の意と反して更に固さを主張してきていた。
それに、さっきからのだめの体が頭の中で浮かんでは消え、浮かんでは消え、離れない。
白い肌は吸い付くように滑らかで、官能を感じ始めると淡くピンク色に染まる。
ボリュームのあるバストはマシュマロのように柔らかいのに弾力に満ち、頂にはそこへの愛撫だけで登りつめてしまうほどに敏感な、小さな乳首。
「くびれがない」なんてからかった事もあったけれど、十分なカーブを描くウエスト。
隠れた性感帯である縦型の臍。無駄な肉のないしなやかな背中。
小振りな尻は引き締まって丸く、えくぼがかわいらしい。
暖かな内股、小さな膝小僧。

……何もかもが愛しい。
はっきり言って期待なんかしていなかったけど(胸以外は)……体の線が出ないワンピースの下に、あんな体を隠し持っていたなんて、まったく、反則ものだな。

「……うーん…………」

千秋の想像はのだめの一番奥の…薄い恥毛に囲まれた溶けるように熱い窪にまで及んで、さらに自分を追い立ててしまう。

あー…すげえ、したい……。

むらむらと沸き上がってしまう欲望をこのまま押さえ切れそうもなくて、千秋はベッドを抜け出しバスルームへ向かった。

熱いシャワーで体を洗い流した後で、千秋はバスタブの縁に腰掛けた。
自分ひとりしかいない、誰も入ってくるはずがないのに、バスルームの鍵はかけてある。
シャワーのカランは閉めず、低い位置にシャワーをかけたままで、湯気でけむる中千秋はボディーソープを手にした。
掌で温めてから自身を握り、ぬめりをまとわりつかせる。

「…んっ……」

先端に指を這わせると、ボディーソープのぬるみではない、自分のぬるみがにじみ始めていることがわかる。
のだめが口で自分を愛撫するとき、儀式のように先端に小さくくれるキスを思い出しながら、それを先端に塗りこめていく。
やがて柔らかな唇、温かな口腔へと含まれ、恥じらいながらも音を立てて舌を絡ませる姿を思い描く。
目をつぶると、口いっぱいに千秋自身を咥え、自分を見上げるのだめの視線とぶつかった気がした。
輪状にした指でくびれた部分をゆるゆると上下し、たっぷりと唾液を乗せたあの赤い舌で舐めまわされるのを意識する。
何も知らなかった、まっさらなのだめに教え込んだ、自分好みの、自分のためだけの、その所作。

「はっ…んっ……」

自分しか知らない、自分だけが知っている、のだめの柔らかな甘い体……。
強い優越感は、千秋の奥底にある密やかな妄想を引きずり出し、次第に脳裏に映し出していく。
そのスクリーンの中で……千秋のペニスははのだめの弾力ある胸の双丘にはさまれていた。
両手で持ち上げ、たぷんたぷんと波打つ胸の間で、緩やかに幹をこすられる。
硬く尖りきった乳首を両側から押し付けられたり、敏感な裏筋をなで上げていくことを想像しながら、
千秋はその硬い指先を自身のそそり勃つペニスに這わせた。

「ん…はぁ…んっ…ぅ…」

白い胸を上下させながら、のだめは硬く張り出した亀頭にぺろぺろと舌を伸ばしている。
なんて…、なんて、いやらしい……。
実際にはまださせたことのないその願望は、想像でありながらも的確に千秋を快楽の高みへと持ち上げていく。

せわしなく往復運動を繰り返す右手からは、いくつかの滴りが糸をひいて落ちていった。
にちゃにちゃとこすりたてる音と、喉から押し出される掠れた吐息が、エコーのかかるパスルーム内に響く。

「はぁ…ぁっ……ッ…」

終わりが近いのを予感すると、千秋は想像の中ののだめを引き寄せ、四つん這いで高く上げさせた秘所に一気にねじ込んだ。
と、同時に指の締めをきつくした。
きつい入り口の締まりに飲み込まれ、一瞬ふわっと緩んだ後で、嵐のような締め付けがやってくる。
…そんな、のだめの中を思い出す。
こちらからの愛撫に体全身を使って悦びを表す様は、千秋の雄としての自尊心を十分に満たす。
髪を振り乱し、歌うような嬌声は耳に心地よく、狂おしいほどに乱れては何度も自分の名前を呼ぶ。
しなやかな体にまとった肌はどこまでも甘い。
玉のように吹き出し、流れゆく汗さえ、甘露だ。
強く抱きしめたい体はここにはなく、欲しい温もりも腕の中になく、けれども体に刻まれた感覚が官能を激しく揺さぶる。
ぷにゅぷにゅに柔らかくて、ふわんと暖かくて、抱きしめたり、抱きしめられたりすると、
なんとも言えない甘い幸せが胸を満たして……。
あんな感覚は今までになかった。
身も、心も、こんなにも求めて苦しい。

「…のだ…め……のだめ……んっ…」

愛しい名前を口にすると、甘い痺れが背筋を駆け上った。
早く、会いたい。……早く、おまえを抱きたい。
右手の動きを一段と強めると、やがて射精感が押し寄せてきた。
腰を前後に揺れ動かさずにはいられず、打ち付けるような動きを繰り出しながら、千秋は躊躇することなく登りつめた。

「くっ…っああ…っっ…っ……」

たっぷりと吐き出された飛沫は大きく弧を描き、向かい合ったバスルームの壁にまで飛んだ。

「……っ……あ……っっ」

ひくひくと跳ねては二度、三度となおも強く吹きだし、流れる湯と渦になって排水溝へと消えていった。

すっかり、すべてをシャワーで洗い流し、千秋はパスローブ一枚でベッドへ腰掛けた。
半分残っていたエビアンを、喉を鳴らして一気に飲み干す。
柔らかなタオルで髪の雫を拭いながら、大きなため息をついた。
想像の中とはいえ、あんないやらしい痴態をのだめに取らせてしまった事に、自分の欲望の恥ずかしさを知る。

でもやっぱり、あの胸は反則だろ。
柔らかくて……あったかくて……。触っているだけで落ち着いて幸せな気分になれて……。
いや、一部、元気になるところもあるけど……

『Rrrrrrr Rrrrrrr Rrrrrrr』

不意に携帯が鳴る。
必要以上にびっくりとした千秋は、何かにその想像を覗かれたような気がして、誰もいないのに何故か部屋を見回してから電話に出た。

「おっはよーございマース!」
「……の、のだめか」
「先輩、元気にしてますかー?」
「えっ?……あっ、嗚呼、うん、なんとか……」
「寝起きでしたか?なんだか声が変ですネ……どうかしましたか?風邪?」
「ど、どうもしないけど……シャワー浴びてただけ……」

なんだか妙に焦ってしまい、しどろもどろになってしまう。
無邪気ないつも通りの声に、先ほどまでのだめを自慰の対象としていた事に多少の後悔を感じてしまう。
汚してしまった気がして。
いや、もう汚したのと同然のような事はいっぱいしてるけど。
……でも、ほかの女じゃ、きっともう満たされない。
想像の中ででも抱きたいのは、欲しいのはこの女、のだめただ一人だけだ。

のだめは明日の何時頃に空港に着くのかを聞くと、迎えに行きますね、と電話を切った。

「のだめ、今週すごく頑張ったからご褒美ください。先輩にいっぱいかわいがって欲しいデス……ギャハ!」

と、最後に言い残して。
かわいらしくおねだりしたつもりだろうが、逆効果だぞ、と千秋はクスリと笑った。

早く会いたい……。
明日になれば、会える。
そしたら、お望み通り、いっぱいかわいがってやろう。
胸の内側によみがえるのだめの笑顔に、心をひたひたと甘く暖かにさせられながら、千秋は再びベッドに潜り込んだ。
……胸に挟んで欲しいのは、前からずっと思ってる事だけど。
でも、そんな事言ったらまた、「おっぱい星人」とか言われそうだな……。
でも、しょうがないよな、好きなんだから……。
そんな事を考えながら、千秋はカーテン越しに差し込む陽にまどろんでいった。



━━━━━━━━━━━━━━━━終わり

am・bro・sia
1【ギリ神話】アンブロシア,神肴(しんこう):不老不死になれるという神々の食べ物・飲み物.
2非常に美味なもの,珍味佳肴(かこう).






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