にらめっこしましょ
千秋真一×野田恵


あのなぁ、勝負挑んできたってオレ様に勝てるワケないだろ!?
まあたまにはこんなコトも刺激的でいいかも、だけどな。

「にらめっこしましょ」

……遅い。
今日は打ち合わせで出掛けるって言ったら

「じゃあ晩ゴハンは外で食べまショ♪ そだ、近くの公園で待ち合わせでもしてー」

ウキュー、パリDE夕焼けデートですラブ〜、とかなんとかはしゃいでたクセに。
言い出したおまえが30分も遅刻するとはどーいうことだ!?
小さな公園のベンチに座って、時間つぶしに読みかけの本を手にしていたが。
そのページは一向に進まず、栞が挟まれたところを開いたまま。
冬のパリは日が短く、辺りは夕暮れというよりうす暗闇に近づいていき。
遊んでいた子供たちの声はすでに止み、この場所にいるのはもはやオレ一人だ。
寒ぃ、とマフラーをきつく締めなおしてもう一度時計をちらりと見やると。
ジャングルジムの向こうの方からやけにリズミカルな足音が聞こえてきて。
同時に「センパ〜イ!」と能天気なのだめの声が届いた。

「お待たせしまシタ」

そう言ってムキャッと笑うのだめの顔が。
なんだか少し(本当にほんの少しだけど)可愛く思えて。
不覚にも口元を緩めてしまいあわててコホンと咳をして誤魔化した。

「おせーよおまえ」

なるべく不機嫌そうな声で呟くように言うと。
ホントはもっと早くに来られる予定だったんですケド〜と口を尖らせて目を逸らす。

「ターニャに『男は待たせるくらいが丁度いい』って足止めされたんデス」

ターニャの奴……! 最近アパルトマンの住人がオレ達二人をからかって遊んでいる
フシがあり、オレはなんだか面白くなかった。
不愉快というわけではないけれど、なんとなく面映いというか、そーいう感じが。
面白くない。
黙り込んだオレの様子に何か勘違いしたらしいのだめが恐る恐る顔を覗き込んで。

「……あのぅ、やっぱり怒ってマス?」

ずるいよな、こーいうの。なんにも言えなくなるじゃねーか。

「いいよもう。ホラ、さっさと行くぞ!」

素っ気ない言葉とは裏腹に熱くなる頬を感じて、手元の本を急いで閉じ立ち上がる。
そのときしぱっと紙が擦れる乾いた音がして。
あ、と思ったときには人差し指の腹に赤いものが滲んでいた。

紙で指切るなんて久しぶりだな、とコートのポケットから
ハンカチを取り出そうとしたら。
不意に手を掴まれて、次の瞬間人差し指に生暖かい感触が広がり。
驚いて顔を上げるとオレの指を咥えたのだめがいて。
オレは金縛りにあったように動けなくなった。
ちろちろと傷口のあたりを往復する赤い舌の先や。
つつ、と血を弱々しく吸い上げる、ふっくらとした唇。
それらが妙に官能的で、背筋が粟立ち、赤面する。
思わずゴクリと唾を飲み込むと、上目遣いにこちらを見たのだめと視線がぶつかり。
その瞳が笑っているのに気が付いた。
こいつ、オレの反応を楽しんでやがるっ!
そーいうことならと空いた右手でのだめの腰を抱き寄せて。
耳に唇を寄せ、息を吹きかけてからぺろりと舐め上げた。

途端にびくりと身体をこわばらせるも、さらにねっとりとのだめの舌は指を這い。
逆にオレの口から溜息が漏れそうになる。
負けてたまるかとどうにか堪え、オレはその無防備な耳たぶを甘噛みした。
あ、と短くか細い声をあげ、のだめはその頬を上気させたが。
まだまだデスとその可愛い舌を指の股にまで侵食させ、吸い上げた。
んん、とオレは堪らず声を漏らし、その快楽に溺れそうになったけれど。
この勝負、男のプライドに賭けても負けるわけにはいかないと最後の手段に出た。
耳の内側から外にかけて唇と舌を這わせ。
巻かれたマフラーを外してそのまま首筋をなぞるように移動し。
鎖骨に辿りついてからその肌を少し強めに吸い、印を付ける。
ひゃん、という声とともに自由になった左手で腰から胸のあたりを撫で上げ。
右手でのだめの首を固定してから唇を合わせ舌を絡める。
その舌の動きに、先程の指責めを思い出して。

やばい、気持ちいい……!

オレの意識はどこかへ持っていかれそうになった。
初めはほんのお遊びのつもりだったのに、欲望はもはや止まりそうもなく。
コートの上からでも僅かにわかる先端を指先で転がしながら、
今すぐここで抱いてしまいたい衝動に駆られた。

いつのまにか夢中になってその柔らかな唇の感触を味わっていると。
のだめがトントンとオレの胸を叩いた。
それは息継ぎの下手な彼女が苦しいことを伝えるための合図で。
オレは名残惜しさにもう一度軽く舌を絡めた後、唇を離した。

「も、もうっ! しんいちくんのキスは熱烈すぎデス!!」

肩で息をしながら、真っ赤な顔をしてのだめが言った。

「しかも、あの手の動きは反則です!」

あれじゃ勝てるワケないじゃないですカ、と不満そうに頬を膨らませる。

「やっぱり勝負挑んでたのか。オレ様に勝とうなんて10年はえーよ」
「うるさいですヨッ! ふん、先輩のスケベ!!」

べーだっ、と舌を出して一人で歩き出したのだめの姿に。
あわてて後を追い、その腕を掴んで言った。

「ちょっと待て。どこに行く気だ?」
「どこって、ゴハン食べに行くんでショ?」

いや、まあそういう予定だったんだけど……。おまえあれだけ盛り上げといて
そのあと普通にメシって、そんなのアリかよ。
ぶちぶちと呟くオレに、おかしな先輩ですネーと無邪気に笑って。

「あっ! さては先輩、やらしーコト考えてましたネ? ムッツリ〜♪」

ニヤニヤしながら言いやがった。
鼻歌を歌いながらオレの腕をとってずんずんと歩くのだめに。
少し敗北を感じながらオレは心の中で堅く誓った。

今夜、必ずリベンジしてやる! 覚悟しとけよ!!






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