休日の…(非エロ)
千秋真一×野田恵


どーしてこうも完璧! なんデスかね?
ココまでくると、なんだか可愛さ余って憎さナントカ、ってヤツですヨ。

「休日のヒトコマ」

2枚のカードの並べ替えに四苦八苦する中、チラリと先輩の顔を盗み見ると。
こちらの様子を見てニヤリと笑ってる。……余裕だ。

「おい、さっさと決めろ!」

手元に残る1枚だけのスペードのAをピラピラさせて、たかがババ抜きに何真剣に
なってんだ、と言わんばかりの顔。
その「たかがババ抜き」に一度も勝たせてくれないのは、どこの誰デスカ!
見事に11連敗中の私は少々イジケながらもジョーカーの位置を決めて。

「勝負デス!!」

すると先輩の右手は片方のカードに向かって伸びてきて、ピタリと止まり。
その瞳は私の反応を窺うように、キラリと光り。
私はぎゅっと目を瞑った。

「じゃ、コレだ」

ぴっ、と手の中からカードを抜かれた感触がした後、そろりと瞑った目をあけると。
手元に残ったのは、カズオ。
ムキャ――ッ!! という私の絶叫と先輩のアハハハハッという笑い声が部屋に響いた。

「おまえ、弱すぎ」

クックッと笑いながら先輩は私の頭をポンポンと撫で。
それでも悔しさから逃れられない私は「ひどいデス……」とうつむいた。

「かわいい彼女のために、1回くらい負けてあげようとか思わないんですカ!?」
「ばぁか。オレは誰が相手であっても容赦しねーんだよ」
「やっぱりカズオでス」

誰がカズオだ、と先輩は苦笑いしてから言った。

「だいたい、おまえがやろうって言い出したんじゃねーか」

だって、明日には先輩オランダに行っちゃうから。
なんとなくしんみりした雰囲気のリビングが、心地よくも、少し寂しくて。
だから楽しい感じにってわざわざプリごろ太のトランプ持ってきて。
笑って過ごせるように「ババ抜きしましょう♪」って言ったんです。

初めは「結構だ!」なんて言ってたのに。

「先輩が、強すぎるからいけないんですヨ!」

八つ当たりに近い発言をしたら、お前がわかり易すぎるんだと笑われた。

「ほら、いつまでもむくれてないで片付けろ。メシ作ってやるから」

そういえばお腹がきゅるきゅる鳴っている。
私は急いでトランプを片付けながら、キッチンへ向かう先輩の背中に声を掛けた。

「せんぱーい! 今日のゴハンは何ですか〜!?」

ゲンキンな奴、と笑いながらも先輩は教えてくれない。

「片付け終わったら、ピアノ弾いてよ。好きな曲でいいから」

フンフ〜ン、とキッチンから鼻歌が聞こえてきて。
私は首を傾げながらもなんとなく楽しい気分になり。
ラプソディ・イン・ブルーを弾き始めた。

「カレー、ですか?」
「ん、『正しいカレー』だ」

ニヤニヤしながら先輩が言うので、私はちょっとムッとした。
テーブルに並んだのは、サラダとスープと、そして『正しいカレー』。

「カレーならこないだのだめが作ったじゃナイですか!!」

あんなのカレーじゃなくてどこか別の星の未知なる物体だ! ポコリと頭を叩く。

「これくらいのもの作ってから『カレー』だと胸を張って言え」
「……それでもちゃんと食べたクセにー」

うるさいいーからさっさと食え、と先輩が顔を赤くしたので。
少しは反撃できたかな、と気分を良くする。
いただきマースとスプーンを口に運ぶと、やっぱりおいしい。

「なんで先輩はこんなになんでも上手にこなしちゃうんですか?」

ずるいデスヨ、と呟くと。
わけがわからないといったふうに少し眉間にしわを寄せて。

「おまえ……、もしかしてまださっきのトランプ根に持ってんの?」

違いますヨごちそうさまデシタ! そう言って再びピアノに向かう私の背中に。

「カレー、まだ鍋にいっぱい残ってるから。オレいない間に食べろよ」

届いた声が、も一度私の心を重くした。

繰り返し流れるピアノの音色はショパンの「別れの曲」。
とてつもなく直球ストライクすぎるのは自分でもよくわかっているけれど。
いつの間にか洗い物を終えてソファに座っている先輩の顔は。
困った顔をしつつも、笑いを堪えているようで。
やっぱり、ちょっとムッとした。

最後の1音をピアノが鳴らし終えると。
先輩がオイデオイデと手招きした。
頬を膨らませそっぽを向いても、私の身体は素直に彼の元へと歩いてゆき。
やがてすっぽりとその両腕に拘束された。

「なにむくれてんの?」
「先輩が完璧すぎるからですヨ!」

その言葉にぶっと噴出す。

「かわいくねーな。素直に寂しいって言ったら?」

憎まれ口をたたいても、背中を撫でるその手は優しくて、心地よくて。
ほうっと小さく溜息をついてから、素直に言った。

「さみし−、デス」

言ったらなんだかスッキリして、笑った。

しばらくそのままでいたけれど。時計の針はもう11時を過ぎていたから。

「……そろそろ、帰りマス」

名残惜しさに頬擦りしてから立ち上がった。
コートとかばんを手に持ってそれじゃオヤスミナサイと先輩を見ると。
なぜかキョトンとしてこっちを見てる。
不思議に思って首を傾げながら見つめ返すと。

「お、おまえの部屋、こたつでメチャクチャだろ」

「それに、あの、ヒーターつけてないから寒いだろうし」

「しょーがねーから、もう少しココにいても――」

ぶぷ――っと今度は私が噴出す番だ。途端に赤くなる先輩に抱きつきながら言った。

「かわいくないですネ−。素直に泊まっていったらって言えばいいのに♪」

やっぱり、先輩は可愛さ余りまくって120%オレ様って感じデス。






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