小さな死
千秋真一×野田恵


冷蔵庫から、ヴーヴ・クリコ のハーフボトルを取り出す。
ベッドの足下から潜り込んで、恋人の体にキスしながら上へとたどる。
くすぐったい、と声を上げても容赦はしない。
事の後の甘やかさを増した体を唇に感じながら、自分の髪をとかす指先にこちらも自然に微笑が漏れる。
そして、くすくすと笑う声に熱が帯びる頃、ようやく瞳が出会う。

「…もう。くすぐったいですヨ」
「ふふ」

ふくよかな胸の谷間に唇を寄せ、笑いながら音を立ててキスをした。

慎重にコルクを抜き、はしたなく瓶に口を付ける。
よく冷えたシャンパンは、熱を帯びた事後の身体に心地よくしみていく。
サイドテーブルにはフランボワーズ。
二粒とると、シャンパンを含んだ彼女の口に一粒を、もう一つを自分の口の中に放り込んだ。

「おいしー」

そう言うから、二口目を含んだ赤い唇に、もう一つフランボワーズをのせた。

シャンパンによる酔いなのか、あるいは未だ官能が体を支配されているのか。
目をつぶるのその瞬き、自分を見るその視線。一つ一つが緩慢で、妙に色を感じる。
自分だけに向けられる、自分だけが知るその色、艶。
自分の腕の中でだけひらく、花。
可憐な小花のようでいて、時に匂い立つようなあでやかな大輪にさえなる、花。
この体にのめり込んで。
今でもなお、その官能の果ては見えない。
深く底の見えない海の闇のような。それでいて抜ける青空の輝きのような。
何度でも触れたくて……何度でも求めてしまう。

口いっぱいにシャンパンを含み、彼女の口へ流し込む。
小さなおとがいに手を添え、口をすぼめて、一滴、二滴……。
やがて細い流れとなった金色の液体は、彼女の中へと吸い込まれていく。
かわいらしく喉を鳴らし、長い睫を震わせて。
また、フランボワーズを一粒。そして、さらに口づけて蓋をした。
熟成された果実の香りと、フレッシュな果汁が互いの口腔内で合わさる時、彼女は身をよじり、鼻を鳴らした。
うれしそうに、笑って。

「もっと?」
「……もっと!」
「おいしい?」
「……おいしい!」

何度かそれを繰り返して……。

彼女の唇からこぼれたシャンパンが、胸の谷間へ流れ落ちていく。
それをたどるように唇を寄せると、また、くすくすと笑い出した。
指先につまんだフランボワーズをふと、胸の頂のそれと並べてみる。

「……なあ、似てるぞ」
「ぎゃぼー!! ヒドイ!! ……そんなに、おっきくないと思うんですケドっ!」
「ふはは」
「意地悪!!」
「でも、甘いのは一緒だな……」

よりもっと甘い、その頂を口に含む。

「んっ……あん……ふふ……っん」
「オレは、こっちの方がおいしいな……」
「…もう……ばかぁ……あ」

魅惑的な果実を口にして、持て余した一粒は指と共に彼女の口へ押し込んだ。
やがて互いの熱を絡ませ、うねる官能の渦に引き込まれていく。

彼女の腕の中で。彼女の柔らかな胸に抱かれて。
……そして再び、小さな死を迎えるのだ。






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