「夢の中」〜S side〜
千秋真一×野田恵


ふと目が覚めて。
カーテンから漏れる朝の光りに目をしかめながら時計の針に視線を向けると。
6時40分。
そろそろ起きるか、と伸びをしたら右手に何か違和感を感じて。
見てみるとなぜかソフトボールが握られている。
なんでこんなモン持って寝てたんだろう。
考えてみてもよくわからないのでとりあえず床にポンと転がした。
その音に反応したのか。
むーと寝返りをうった彼女の毛布がめくれてしまい。
その白い肌が背中のあたりまで明るい日差しに晒される。
そこには昨夜の蜜事を鮮明に思い出させる印がいくつも刻まれていて。
赤くなりながらもあわてて毛布を掛け直す。
ついでに頬に掛かるその栗色の髪を掻き揚げると。
目の前には、スヤスヤと幸せそうに眠る子供のような顔。
きれいなカーブを作る整えられた眉に。
寝息に合わせて微かに震える長い睫。
ちょこんと備え付けられたような小さな鼻に。
ふっくらと赤く染まった唇。
普段は恥ずかしくてこうもまじまじと見つめることができないけれど。
こうしている時間はやっぱりくすぐったいような感じがして。
必要も無いのに照れて、一人笑う。
触れたくなってそっと指先をその頬に乗せると。
やわらかくて。
ぷにぷにとその感触を楽しみながら、軽く口付けを落とした。

「……せん、ぱい」

起こしてしまったかと思ったけれど。
どうやら彼女はまだ夢の中の住人のようで。
ヨシヨシと色素の薄い髪を撫でるとんー、とゆるゆる抱きついてきて。
また安らかな寝息が聞こえてきた。
貴女はどんな夢を見ているのだろう?
どんな夢でもきっとそこには中央にピアノが置かれていて。
すばらしい音色が奏でられているに違いない。
その傍らにはオレがいて、現と同じように耳を傾けているだろう。
そんなことを考えながら、彼女の背中に腕を回すと。

朝方、「裸エプロン、ステキでス〜」と恋人に変な妄想寝言を言われました。

クスクスと不気味な笑い声をたてながら幸せそうに眠る彼女に。
いったいどんな夢を見てるんだ! とかなりムカついたので。
その身体にこの間買っておいたヒラヒラエプロンを装着させて。
その様子にニヤリと笑いながら。
オヤスミとも一度キスをして。

オレは再び目を閉じた。

一緒に、貴女と甘い夢を見よう。
ふたり共にキラキラとした音の溢れる国の住人になって。

1時間後――。
プギャ―――ッ! なんでのだめこんなカッコしてんですか!?
おまえの趣味だろ? イヤー似合う似合う。アハハハッ!
ムキー! 先輩のおっぱい星人!!
変態女!!

くだらない言い争いをしつつも、再びシーツの海に沈みこむ恋人たちの姿があった。






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