千秋真一×野田恵
![]() 彼の唇と滑らかな指先が、自分の体の上をたどっていく。 くすぐったくて身を捩るけれど、彼はその愛撫をやめようとはしない。 逃れられないから笑うと、彼も一緒にくすくすと笑う。 まだ濡れたままの黒髪がシーツの海に飲み込まれていくと、やがて私は彼の腕の中で小さく声をあげ始める。 ふくらみの頂を、彼の舌が探っている。 シーツをめくると、熱に浮かされたような彼の視線に出会った。 「大人なのに……おっぱいが好きなんデスね……?」 そう聞いてみると、認めるのか、抗議したいのか、唇でより強くその果実をはんだ。 ……でも、知っている。 彼がシーツの海を泳ぎ、この双球にたどり着いたとき、宝物を見つけた子供のような顔をする事を。 柔らかさに頬擦りするとき、母に抱かれる子供の安心しきった顔にも似た表情をする事を。 体の中心に湧き上がる泉は、どれだけの時間彼の口腔に啜られ、舐め取られていったのか。 最早それを知る理性もなく。 もっともっととあおるように、彼の髪を梳き、指先を頭皮にたどらせる。 そして、一瞬、閃光に時間をさえぎられた。 焦点の定まらない視線は、目の前に迫る彼の瞳に手繰り寄せられ、見つめられるままに彼の半身が押し込まれると、私は甘美な痺れに背筋をそらせた。 喉奥からあられもなく声をあげ、しがみついては自ら体を揺らす。 彼は端正な顔を歪ませて、打ち込む体の動きに合わせて掠れた声を漏らす。 玉のように噴出した汗は顎を伝い、いくつも私に降りかかる。 その汗さえも愛しくて、愛しくて、舐め取ってしまいたいほどに……。 見つめると、見つめ返されて、目が離せない。 「なに……?」 「…先輩の……真一くんのその顔、やらしくって……好き…」 「おまえだって…すげーやらしい顔、してる……」 彼の体は。 陶器に似た滑らかさを持ち、快楽に甘い芳香を放つ。 気だるい甘さに酔っては、私は軽く眩暈を起こす。 終わりがないのではと思うほど、私は彼によって快楽の深みに連れて行かれ、天も地もない空間でエクスタシーの波にもまれては、前後不覚になりながら彼の名を呼ぶ。愛しいその名前を。 そして、彼のすべてに、私は何度でも小さな死を迎える。 そう、何度でも。 やがて、彼の体は大きく揺れ、彼もまた甘美なる死を迎え入れたのだと理解する。 私は抱きしめる。私の中ではじける迸り。弛緩した彼の体の愛しい重み。 彼のすべてを。彼の新たな息吹を。 おかえりなさい。 ここが、あなたの帰る場所。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |