千秋真一×野田恵
![]() 首筋を伝う舌に 初めのうちはくすぐったくて 身を捩じらせていた 腰に回った腕は そんな私の身体を逃げ場の無いように 追い詰めて 頭を支えていた左手が いつの間にか 背中に到達し ワンピースが 床に サラリ 落ちる この瞬間に見せる 彼の瞳の奥にある 影 が好き 覗き込むようにして そのまま 軽く 唇を合わせると すぐさま 飲み込まれてしまうのではないかと思う程の 深い 深い 口付けが 平衡感覚を失い そのまま二人して宙に身を投げ出せば 遠くからスプリングの軋む 音 やわらかに受け止められて やがて 同じ体温になる そのころには 辺りに響くのは密やかな笑い声ではなく 寄せては 返し 引いては 満ちる 熱 鳴き声 息 落ちる汗 涙 溢れる感情 秒針 心臓の 音 「んっ……ぁ、や……っ……!」 「……我慢、すん…な、声……聞かせて?」 目尻にうっすらと滲む水の玉に口を寄せ、優しく吸う。 うらはらに激しさを増す男の動きに、握り締めたシーツももはや効果はなく。 「んぁ、はっ……ふ、ぅん……っぁあ、ああっ!」 声が、漏れる。 額にぴたりと張り付いた髪をいとおしげに掻きあげる手は、かすかに震え。 そのまま一回り大きな手に包み込まれてしまった。 頭が重く、そのくせフワフワと浮かんでいくような感覚の中、繋いだ指先に力を込め。 その刻を声にならない声で伝える。 「あ……っ、も、も……だ、め……っんんっ!」 「オレ……も、いい……?」 叫び声を高らかに歌い上げようとその喉は開き、しかし全ては暗闇にかき消され。 せめて空を掴もうとその両腕は天に向かって伸び、しかし程なくマットの上に落ちた。 トクン トクン といつもより速いリズムで打つ鼓動を聞きながら 身体に残された熱がすうっと冷めていくのを感じるのが心地いい。 顔を寄せるその逞しい胸板に指を滑らせながら、恵はクスクスと笑った。 「何がおかしい?」 彼女の栗色の髪を梳いていた手を止め、真一は途端に表情を曇らせる。 「だって、のだめ明日早いからダメだって言ったのに」 「……イヤだったワケ?」 憮然とした声にますます笑い声を大きくしながら、恵は身体を起こし、彼の頭を挟む ように両手をついて、上から見下ろす姿勢をとる。 「イヤでした♪」 その挑発する色素の薄い瞳に、真一はニヤリと笑いながら彼女の右手首を掴み、 そのまま身体を引き寄せてゴロリとベッドの上を転がった。 「ウソつけ」 「ウソじゃないデス〜」 再び組み敷かれる形になってもいたずらっ子のような表情を変えずにうそぶく恵に、 真一もそうかそれならと彼女の両腕を彼女の頭の上で固定し、 空いた手で無防備なわき腹をくすぐる。 「わひゃっ!? ずずずずるいデスってばそんなうひゃひゃヤメテー」 「もう一度聞くぞー。イヤだった?」 ニヤニヤ笑いにムカつきながらもその容赦ない攻撃に恵は素直に降参した。 「あはっひっ、そ、そんなワケないじゃ……っない、ですかっ!」 「ふーん。じゃ、どーだった?」 「そ、んなコト、ギャハッ、わ、わかってるクセに――」 笑い声が息を呑む音に変わったのは、未だ何も纏わずにさらけ出された胸元に 真一の唇が寄せられたからだった。 「ああ。知ってるよ」 そう言って彼は冷めていた身体にもう一度熱をともす。 寄せては 返し 引いては 満ちる まるで夜の海のようだと、恵は遠のく意識の中で、思う。 甘い棘のある波にさらわれ、身体にいくつもの傷が付いて。 その完全に消えることのないささやかな痺れは、こんなにも私を翻弄する。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |